虹裏img歴史資料館

1 21/08/18(水)23:00:21 No.836618182

「3ヵ月ぶりってのは普通久しぶりですよ」 言われてみればそうだ。 と、言いたい所だがビートの相手はめんどくさいので3か月空いた所で『この間』扱いだ。 それを言ったところでこいつは気にもしないだろうから一々言わないが。 「ポプラさんは元気？」 「相変わらずです。今はイッシュ地方でいろんな劇を見ていますよ。脚本が毎週のように届いてきて大変です。あのバアさんすぐ感想求めてくるんですよ」 ビートが所属するアラベスクジムの前ジムリーダーポプラさんは100歳を超える高齢ながら未だ元気だ。 ビートがジムリーダーに就任したと同時に一線を退き、今は世界中を飛び回り様々な舞台に触れて舞台脚本を書き続けている。 そして自身が主宰を務める劇団でその舞台を披露するというわけだ。 ちなみにポプラさんは私たちにもちょくちょく連絡を取ってきて、その度に地方のお土産を贈ってくれるので大変ありがたく思っている。 「元気なら何より。ポプラさんにはお世話になりっぱなしだもの」 「あのバアさんがくたばる時が来るのか僕には甚だ疑問ですけどね」 「もう、まだそんなこと言って。もういい年した大人なんだから」

2 21/08/18(水)23:00:39 No.836618314

どうもビートはポプラさんには素直になれないようだ。 まぁビートの過去を考えると素直になれというのも難しいのかもしれないが。 ……まぁポプラさんを嫌っているどころか信頼しているというのは態度で十分わかるが。 そう考えるとなんだかおかしくてつい小さく笑ってしまう。 「ふん……それにしても、幼い子供をワイルドエリアで遊ばせる親なんて聞いたことありませんよ」 どうやら笑われた事を不満に思ったらしい。 ビートは不満げな声を隠しもせず話を変えてくる。 「しょうがないでしょ。ムゲンダイナを遊ばせられるのここぐらいしかないんだから」 あくまで目的はムゲンダイナのストレス発散。 だというのに、毎回我が子たちはついてきてしまう。 「ムゲンダイナに怯えて野生のポケモンたちは近づいてこないから。今この辺り一帯は自然豊かな広場ってわけ」 それに、ザシアンとザマゼンタもいる。 万が一の事はまずないだろう。

3 21/08/18(水)23:00:49 No.836618385

「はた迷惑な一家ですね……」 それについては申し訳ないとは思っているが、あの巨体を街の中で遊ばせるわけにもいかないので許してもらいたい。 元々、ムゲンダイナもザシアン達も1000年以上前からガラルにいるのだからワイルドエリアのポケモンたちよりも先住者みたいなものだろう。 「それで？ガラルの誇るチャンピオンさんがこんな真昼間に人妻のとこに来て何の用？」 「人聞きの悪い事言わないでください。……それに、チャンピオンなんて誇らしげに言えるものじゃありませんよ」 「謙遜」 「……不在となった玉座を掠め取っただけです」 「その争奪戦、私もいたんだけど？」 ユウリ亡き後、だれがチャンピオンになるかはだいぶ紛糾した。 先代チャンピオンであるダンデが戻るべきだ。 現時点での戦績が最も良い者がなるべきだ。 あれこれと意見が交わされたが結局、『現時点でジムリーダーとなっているもの全員でのトーナメント』という形でまとまり、 その結果勝者となったのが隣にいるビートというわけだ。

4 21/08/18(水)23:01:11 No.836618537

「ダンデさんが参加してないのでは真っ当に勝ち取ったなんて言えませんよ」 「お義兄さんはバトルタワーの運営と後進の育成に力を入れてるからね。少なくともあの時は一選手として上に立つつもりはなかったから」 ちなみに私の兄、ネズにも参加の依頼が来たようだが、同じく『もう引退した身』として断っている。 「だから……僕はただ、預かってるだけですよ。いつか、王冠と玉座に相応しい人が現れるまで」 「……」 その言葉を肯定も否定もしない。 チャンピオンの、一番強い者の最大の役目はいつか現れる『自分より強い人』にその道を譲る事だというのは、ある意味真理だから。 私もまた、今はジムリーダーとしてみんなを背負っているが、いつか私より強い悪タイプのトレーナーが現れればこの立場を譲る事になるのだろう。 ……もっとも、今はまだそんな人は現れていない以上ジムリーダーをやめるつもりはさらさらないが。 ただ、ビートが今の自分の立場に納得してないのはユウリを倒せなかった事でも、争奪戦にダンデさんが参加しなかった事だけでもなく。 もう一つ、理由がある。

5 21/08/18(水)23:01:30 No.836618659

「……ホップ君は、まだ復帰する気はないんですか」 未だ遊び回る私の息子たちを見てビートは寂しそうにつぶやく。 「……ホップはもう、戦わない」 これを言うのも何度目だろう。 ビートがちょくちょく私の元へ現れるのはこの質問をするためなのだと、言われなくてもわかる。 「……わかるでしょ？ホップにとって、ユウリはライバルで、目標で――――ポケモンバトルをする理由だった」 共に旅に出て何度も何度も戦い、遂には共に夢の舞台に立った。 二人は親友で、ライバルで。 そんな相手がチャンピオンとして君臨してる。 ホップが戦う理由はそれで充分だった。 だから、 「あたしじゃ、ホップが戦う理由になれなかった」

6 21/08/18(水)23:01:44 No.836618744

学者として頑張ってる。 忙しいときでも家族サービスを忘れない。 あの人は、私にとって愛する夫で、子供たちにとっては大好きなパパで。 私たちの事を心から愛してくれている。 だけど――――あの人は、トレーナーとしてのあたしを求めてくれなかった。 「だから、もう諦めな。ホップにとってチャンピオンはもう、家族の幸せより求めるものじゃないんだから」 「……そうですか」 ビートの言葉には驚きも悲しみもなかった。 ただ、寂しそうだった。 きっと、わかっていたのだろう。 それでも、諦められないのだろう。 色々あったけど、ビートとホップは友達なのだから。 女の私じゃ理解できない男の友情がそこにはあったのだろう。

7 21/08/18(水)23:01:58 No.836618831

「なら、もうここに用はありませんね」 「勝手に来ておいて腹立つ言い草……」 「……最後に一つだけ聞かせてください」 「何？」 「……あの子、リップさんの親は……誰なんですか？」 「……ビート」 私は、今日初めてビートに振り向いた。 相変わらずもじゃっとした天パを頭に乗せて、不敵を絵にかいたような面構え。 そいつが、真剣な顔で私を見つめている。 だから私も、真剣に答える。 「ホープもリップも私とホップの子供。私がお腹を痛めて産んだ、大切な家族」

8 21/08/18(水)23:02:11 No.836618912

「……ですね。今の、聞かなかった事にしてください」 ビートは大きくため息をつき、肩をすくめる。 「悪いと思うなら今度あの子たちにケーキでも買ってあげて」 「そうさせてもらいます」 「あ！！ビートだ！！」 「マジで！？ビートきてんの！？」 ようやくひと段落ついたとき、リップとホープの大声が届いてきた。 どうやらお腹が減ったようだ。 二人は慌ててポケモンたちから降りると、こちらへと駆け寄ってくるのが見える。 「さんをつけなさいさんを」 「ビートおじさん！！」 「ビートのおっさん！！」 「『さん』だけで良いんですよ『さん』だけで！！」

9 21/08/18(水)23:02:23 No.836618987

子供たちに囲まれキャッキャとあちこち引っ張られるビートの姿にチャンピオンの威厳も何もなかった。 「あなた達はどういう教育してるんですか」 不満たらたらな様子のビートに私はふんと胸を張って答える。 「のびのびした教育がうちのモットーだから」

10 <a href="mailto:s">21/08/18(水)23:03:46</a> [s] No.836619523

なんかあぷ小に繋がらないので前回までのは今回は無しで また明日 追記で、ファースト泥棒猫書いた時はまだ雪原のDLCが来る前だったのでそのまま出していませんでしたが、 王。はユウリの死後雪原に帰りました マリィとの関係については思うところがあるものの「人の子の営みの中にはそういうこともある」といった感じで咎める気は無かった感じです

11 21/08/18(水)23:04:09 No.836619699

王は人の心が分かる…

12 <a href="mailto:s">21/08/18(水)23:05:11</a> [s] No.836620101

>あれこれと意見が交わされたが結局、『現時点でジムリーダーとなっているもの全員でのトーナメント』という形でまとまり、 ここミスです 正しくは 『現時点でジムリーダーとなっているもの及びそれに準ずる実力と認められた者全員でのトーナメント』という形でまとまり です 訂正しておきます

13 21/08/18(水)23:08:26 No.836621464

メリーバットエンドまで力をためているように見える

14 21/08/18(水)23:08:31 No.836621493

ビートあざといなこいつ…

15 21/08/18(水)23:18:46 No.836625865

>「あたしじゃ、ホップが戦う理由になれなかった」 ここ辛い

16 21/08/18(水)23:39:41 No.836635095

一番わかってるライバルで親友だったからな 一方通行だったとしても…