ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/08/16(月)23:33:20 No.835930947
ずっと、何かが欠けている。 心の内側。たぶん真ん中あたり。 ほんの小さな穴がある。 でも、大丈夫。 みんなが。家族が愛してくれるから。 家族を愛しているから。 だから、こんなの気にならない。 きっといつか、大人になる途中でこんなの埋まって、忘れてしまう。 世界には楽しいことがいっぱいあるはずだから。 それを探していればきっと、この穴は埋まってしまうから。 だから、大丈夫。 きっと、大丈夫。 なのに。 気になってしまう。 この小さな小さな穴が。
1 21/08/16(月)23:33:35 No.835931046
・・・・・ 「ママー!早くいこー!」 リップは朝っぱらから窓がひび割れそうなほどの大声で叫ぶ。 「うるさいなーもっと静かに喋れよ」 それに不満を表すのがホープ。 双子なのになんとも対象的だと会う人によく言われる兄妹だ。 「ほら、ホープ。あんまり嫌味っぽく言わない。リップはリップでパパの事を考えなさい」 「「はーい」」 だけど、こうやって息の合った返事をする辺り、やはり兄妹だなと実感する。 マリィはそんな二人をどこか呆れたように、微笑ましそうに眺めるとまだテーブルに座る俺に振り向く。 「それじゃあ行ってくるね。あなたは今日大学よね?」 「ああ。これ飲んだら出るよ」 まだ半ばまでコーヒーの残ったカップを掲げる。 「そう。遅くなるなら連絡してね?」 「わかってる」
2 21/08/16(月)23:33:48 No.835931137
あれから、10年が過ぎた。 ユウリが亡くなって、俺たちが二人の子供の親になって。 もう、10年も経った。 ユウリの葬儀の事は、正直よく覚えていない。 親友として弔辞を読んだはずなのだが、あの時はもう何もかも辛くて、ユウリと過ごした思い出が懐かしくて。 それを書きなぐって兄貴やソニアになんとか文章の体裁を整えてもらったらしい。 マリィはマリィでまだ生まれたばかりの子供二人を同時に面倒見なくてはいけなくてその時の記憶はあいまいだそうだ。 ただ、結果としてユウリはこの世から去り、生前の約束通りオレたちは彼女の娘―――リップを引き取った。
3 21/08/16(月)23:34:02 No.835931226
世間にはユウリが妊娠していたことは未だ隠されている。 当然、その子供であるリップの事もだ。 リップの戸籍関係は事情を知っている兄貴になんとかしてもらった。 正確には、ユウリが生前自分の死後の事を考えて兄貴に相談をしていたらしい。 だから息子のホープと娘のリップ。二人は双子の兄妹として。俺とマリィの子供として。 10年間育ててきた。
4 21/08/16(月)23:34:15 No.835931305
ユウリは子供だけでなく、多額の貯金も遺していた。 俺とマリィに渡すように。二人の自由に使って。と遺言を添えて。 当然それはリップのために使ってほしいという意味だと捉え、俺たちは今日まで一円たりともその金に手を触れていない。 マリィはジムリーダーとして順調だし俺も今や大学の講師として安定した収入が入る立場になったのも幸いだった。 そして何よりも、二人の子供が今日まで大きな怪我も病気もなく、元気に育っている。 それが、それこそが何よりもの幸福だ。 「それじゃあ、行ってきますあなた」 俺の思考を遮るように、マリィの声が届く。 どうやら準備が整ったようだ。 今日は3人でワイルドエリアに遊びに行くらしい。 一般的にワイルドエリアは危険な場所で、家族でピクニックなんて持ってのほかなのだが、うちの場合はちょっと事情が違う。
5 21/08/16(月)23:34:27 No.835931403
「ああ。行ってらっしゃい。ザシアン、ザマゼンタ。それにムゲンダイナ。ちゃんと3人を頼んだぞ」 ユウリの死後、遺されたポケモンたちはアニキやジムリーダーたちで相談の上引き取る事になった。 ただ、ユウリが手持ちとして使っていた6匹と、ザシアン、ムゲンダイナは俺たちが引き取ることにした。 ザシアンは元々まどろみの森に棲んでいたし俺の元にいるザマゼンタと一緒に森に帰す事も考えたが、二匹は俺たちの元へ残ることを選んでくれた。 どうやらホープとリップの事が心配らしくザマゼンタはホープの、ザシアンはリップの手持ちとして二人の面倒を見てくれている。 もっとも、手持ちとは言うものの二人はまだバッジも何もないから言うことを聞いているというよりは、子供のわがままに付き合ってくれているといった感じだが。 まぁ1000年以上生きている二匹からすれば俺やマリィも子供扱いなのだろうが。
6 21/08/16(月)23:34:41 No.835931500
そんなわけで手持ちに残った二匹だが、ムゲンダイナの扱いに関しては当時だいぶ考えた。 なんといってもあのサイズだ。 餌を食べさせるのに外に出すのすら一苦労する。 なので、アニキがバトルタワーで育てる事も検討されたが、当のムゲンダイナがそれを拒否した。 どうにも俺たちの元へいたいらしく、ならばとそれを受け入れたのだが。 やはりずっとモンスターボールの中にいては可哀想なので今日のように俺かマリィの手が空いてるときはワイルドエリアに連れて行って遊ばせる。 (流石に街中であの巨体を遊ばせるのは無理があった)という感じの日課になっている。 気分的にはデカいワンパチを散歩させているような感じだろうか。 というわけで今日はマリィが二人と3匹を連れてワイルドエリアにピクニックというわけだ。 「「行ってきまーす!」」 マリィに続き、二人の子供の声が玄関から響いてくる。 それに返事を返すと、わいわいと楽しそうな声と共に扉が閉まる音がした。
7 21/08/16(月)23:34:59 No.835931630
俺一人になった家で、カップに残った最後のコーヒーを飲み干し、大きく息を吐く。 「もうすぐ2人の誕生日か……」 どう祝うか、プレゼントは何にするか。 それはちゃんと考えてある。 そして。 「……リップにはちゃんと本当の母親の事を伝えないと」 娘にとって大切で、残酷な事実を伝える覚悟も、俺は決めないといけない。
8 21/08/16(月)23:36:15 No.835932192
前回までの fu255189.txt 書いてから言うのもなんですけどムゲンダイナって餌食べるんですかね? また明日
9 21/08/16(月)23:42:12 No.835934815
でもムーちゃんも喜んでカレー食べてるし…
10 21/08/16(月)23:45:17 No.835936209
幸せそうな良いご家庭じゃないですか
11 21/08/16(月)23:47:38 No.835937249
時限爆弾の液晶に小説をつづるんじゃない
12 21/08/17(火)00:19:50 No.835950473
どうしていつも深夜に爆弾を投下するんですか
13 21/08/17(火)00:21:13 No.835951013
危なかった…寝る前にログ見なかったら気付かない所だった…
14 21/08/17(火)00:23:01 No.835951667
頼むから安らかに眠っててくだち…
15 21/08/17(火)00:24:45 [s] No.835952242
夜10時ぐらいにスレ立てる方が良いんかな…
16 21/08/17(火)00:24:59 No.835952319
不穏だけどまだ平和だ…
17 21/08/17(火)00:25:48 No.835952586
9時~10時は人が多い気がする あと1時から明け方くらいは長く残るから結果的にレス多くなる
18 21/08/17(火)00:27:29 [s] No.835953193
>9時~10時は人が多い気がする >あと1時から明け方くらいは長く残るから結果的にレス多くなる なるほど じゃあ明日は10時ぐらいにスレ立てますね
19 21/08/17(火)00:31:16 No.835954491
どんな結末になるか楽しみにしてるガァ