虹裏img歴史資料館

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21/08/16(月)19:26:47  風邪... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1629109607601.png 21/08/16(月)19:26:47 No.835829190

 風邪を引いた。頭が回らないこの感覚はいつ以来だろうか。照明を落として布団に包まり窓から射し込む陽の光を見ると途端に外界と隔絶された気分になる。 「あー……。」 不安だ。  そう思う。成人してから数年、大学を卒業してから更に数年。20代も半ばに差し掛かった年齢になり子供からも脱却してきたかとの自己認識も少し改めねばならなさそうだった。それはそれとして── 「トレーニング……大丈夫かな。」 熱はある、身体もだるい、頭も回っていない……でもトレーナーとしての自分は働け、時間を無駄にするなと囃し立てる。焦っても仕方がないのは重々承知してはいるのだがこのまま寝ていていいものだろうかという掛かりが不安すらも塗り潰す。  そうして気持ちだけが先走る時間が過ぎていく。窓からの光は角度を増して朱に近づきつつある様な時間にインターホンが鳴る。

1 21/08/16(月)19:27:14 No.835829357

「……?」 「あはは……大丈夫かなー、と。」 「ああ、パーマーか……って、え?」 重い身体を引き釣りつつ扉を開けるとジャージ姿にビニール袋を提げた担当ウマ娘が居た。 「お腹減ってると思いまして。」 そう言ってビニール袋──おそらくは近場のスーパーで使われている物を眼前へ持ち上げる。チラと見えた中身にはうどんやレトルトのお粥、桃缶等が入っておりどうやらパーマーは── 「お邪魔します。」 「えっ……。」 看病にきたようであった。  結局、そのまま部屋に入られてしまえば無理矢理外に放り出す、というような手段は取れない訳で 「そのまま寝ててねー。あ、そうだ、うどんとお粥どっちがいい?」 一応どっちでも作れるよー。とは決して広くは無いキッチンに立つパーマーの談。

2 21/08/16(月)19:27:29 No.835829446

 いやいいよ自分でやれるから、そう口に出そうになるもそれを見越したかのように 「トレーナーが一番キツいんだろうからこういう時くらいは頼って欲しいかな?」 なんて言ってくる。 「……おう。」 返す言葉を封じられてそう答えるとパーマーはこちらに顔を向けて 「ん、よろしい。もう少しでできるから待っててね。」 微笑みながら語りかけるのだった。まるで子の看病をする母親の様に。 そう思ってしまったのは多分、熱のせいだ。

3 21/08/16(月)19:27:53 No.835829598

「できたよー。熱いから気をつけてね。」 レース情報誌や競バ新聞に混じって解熱剤やスポーツドリンクが雑に置かれた机に湯気の立つ丼が乗せられる。 「……ありがとう。」 座椅子に座って箸を持つと先程まで感じなかった空腹感がむくむくと己の中で肥大化していく。 「うどん、くたくたになるまで煮たけど大丈夫だよね?」 かきたまうどんだろうか、色が薄めの出汁と白い麺、黄色い卵がなんとも食欲をそそる。 「うん……いただきます。」 ちゅるちゅるとうどんを啜る。コシ、という概念からはかけ離れたほどに柔らかく煮られたうどんは固形物の入っていない胃袋に優しく送り込まれていく。ここが胃か、と普段意識しない内臓の箇所に思考を向けつつ箸を進める。出汁や卵、薄く切られた葱も全て身体が欲しているような錯覚に囚われつつもゆっくり、ゆっくりと食べ進めたのだった。  そうして普段の倍以上の時間をかけて食べて終えると身体の底から力が湧いてきた様に感じる。

4 21/08/16(月)19:28:13 No.835829724

「ごちそうさま。美味しかったよ。」 謝意を述べると対面の彼女ははにかんで立ち上がり 「お口にあって何よりです。じゃ、桃缶開けるけど……食べるよね?」 デザートの用意を始めるのだった。風邪と言えば、と言わんかのように。 「うん、いただくよ。」 そしてそれを断る理由も拒否するような状態でもなく、魅力的な誘いに乗る事にするのだった。

5 21/08/16(月)19:28:41 No.835829927

「開けただけだけど……風邪と言えばこれ、と思う訳です。」 皿に乗せられた桃の蜜煮は幼い頃を思い出す色艶で口の中に唾液が溜まっていくのを否応無しに実感されられた。 「だな。……いや、懐かしいな。」 これまで風邪なんて滅多に引かなかったからさ、実は結構御馳走なんだよ。……自分でも饒舌になるのは甘物が生物にとっては麻薬のような代物なのだろう、という事からだった。 「あはは!じゃ、ノスタルジックな気持ちに浸りながら召し上がれ。」 「パーマーも食べていいぞ?」 「こういうのは風邪を引いた人が全部食べる物じゃん?だからさ、うん……気にしないで?」  頬杖をついたパーマーに促されて桃を口に含む。 桃の香りと甘さが溶け出したシロップがまず舌に着地する。次に歯が柔らかい桃を噛み千切り柔らかな食感が顎を通して伝わり、断面からは桃の果汁が先のシロップと混ざり合って喉の奥へ運ばれ、細かく噛み砕かれた桃と混ざり合って食道へと落ちていく。それらは体温によってたおやかな熱を帯びて行き胃に到達した。

6 21/08/16(月)19:29:02 No.835830053

 そんな動作を繰り返しているとあっという間に皿に載せられた桃は姿を消しており、僅かに残ったシロップが照明を反射してキラリキラリと輝いて見えるのだった。 「じゃ、私は片付けしたら帰るから薬飲んで寝ててね?」 夕餉を終え、一息ついているとそう切り出される。外を見れば日は地平線に半分程姿を隠しており直に夜になる時刻であった。 「明日俺がやるからいいよ。」 「それは駄目。」 短く言われた言葉には確固たる意志が込められており、絶対に譲らないと言外に告げてくる。そして駄目押しとばかりに追撃が来るのだ。 「これで明日も熱下がらなかったら私も困るし。」 「うぐっ……。」

7 21/08/16(月)19:29:17 No.835830145

それを言われると弱い、と思っていた言葉をピンポイントで出されてしまい、呻くことしかできずにいると 「だから、寝てよ。また明日、頑張れるようにさ。」 そう促される。  仕方ないか、そんな事を考えて布団に横になる。するとやはり、と言えばいいのだろう、空腹が満たされたせいか急に眠気が襲ってきた。身体の芯から出る熱が布団に籠もりポカポカしてくるのを感じながらゆっくりと瞼が落ちる。不思議と先程まで感じていた様な不安は何処かへ行ってしまっているのには終ぞ気付くことはないまま意識は夢へと誘われていった。

8 21/08/16(月)19:29:58 No.835830385

 暫くすると歌が頭に響く。 ねんねんころりよ おころりよ 坊やはよい子だ ねんねしな  そんな歌が。──母親の声ではないが不思議と落ち着く声でそんな子守歌が。 「おやすみ、トレーナー。いい夢見てね。」

9 <a href="mailto:s">21/08/16(月)19:31:14</a> [s] No.835830827

トレーナーも担当に看病されたくなるときだってある

10 21/08/16(月)19:31:54 No.835831088

これは…母性

11 21/08/16(月)19:32:54 No.835831457

パーマーママ…

12 21/08/16(月)19:35:19 No.835832356

もし何かが違えばパーマーの爆逃げが大トリだったのだろうか

13 21/08/16(月)19:37:45 No.835833217

パーマーいい...

14 21/08/16(月)19:42:18 No.835834783

トレーナーへ割と軽いノリで看病しに行きそうなウマ娘ステークス発走です

15 21/08/16(月)20:02:10 No.835842450

弱ってるときにこれはやばい うどん美味しそう

16 21/08/16(月)20:03:41 No.835843081

こんなん惚れてまうやろ…

17 21/08/16(月)20:16:50 No.835848609

はいはーいナイスネイチャでーす

18 21/08/16(月)20:18:42 No.835849363

ワクチンの副反応で寝込んでる時になんてものをお出ししてくれたんだ……

19 21/08/16(月)20:25:29 No.835852159

>はいはーいナイスネイチャでーす ネイチャとかタマはこういうシチュだと強すぎるから…

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