虹裏img歴史資料館

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21/08/15(日)23:34:05 ・・・... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1629038045400.png 21/08/15(日)23:34:05 No.835578599

・・・・・ 「私ね、この子を産んだら死んじゃうから」 「なーに言ってんだよ」 あまりにも唐突で、あまりにも酷い言葉にオレは冗談めかした返事を返す。 「死ぬって……そう言う事、言うな。いくら冗談でも。いくらユウリの事だとしても。そんなの、怒るぞ」 そう口にして、唇が震えている事に気づく。 オレの、じゃなくて。ユウリの唇が。 「……ホップ君」 「ユウリ」 制止する。 だけど、ユウリはその震えた唇を開いてしまう。 「頭の中にね。腫瘍があるんだって」 トントンと、おどけるように脳天と突く。 隣にいるマリィは、驚きで固まったまま何も言えそうにない。

1 21/08/15(日)23:34:19 No.835578701

「見つかりにくい場所だったらしくて、治すには難しい手術しかないんだって」 「なら」 「でも、治すにはこの子を諦めないといけない」 『それだけは、嫌だ』と。 ユウリは言い切る。 その気持ちがわからないわけではない。 だけど、だけどだ。 オレは。 「オレは、」 「マリィちゃん」 言おうとした先を、ユウリは拒絶する。 突然話を振られたマリィは『え』と小さく驚いた。 「マリィちゃんならさ、わかるでしょ?」 慈しむように包み込むようにお腹を撫でる。

2 21/08/15(日)23:34:43 No.835578885

「この子を宿した時、私絶対に産むって誓ったの。ううん……私はこの子を産むって決まったの」 まるで運命だというように。 「命と命なら私は大事な方を選ぶ。だから、私はこの子を産む」 ユウリの天秤はいともたやすく自分を切り捨てた。 「私が生きてこの子を育てられるのならそれが一番に決まってる。……だけど、何も決めないままこの子が一人になる事だけは避けたい」 ユウリはオレを真っ直ぐ見つめる。 「私がこの子を託せるとしたら、この世で一番信頼しているホップ君と、そのホップ君を見初めたマリィちゃんしかいないの」 オレもマリィも何も言えない。 いきなりすぎる。 重要で、重大すぎる。 「急な話で、無理言ってるのはわかってる。断ってくれても勿論構わない」 結婚したばかりで、子供だってもうすぐ生まれるオレ達にこんな、こんな重い選択をさせようというのか。 「……お願い、します」 そんなの――――断れるわけ、ないだろう。

3 21/08/15(日)23:35:18 No.835579179

「……わかった」 絞り出すような声だった。 オレはユウリの手を取る。 「……ごめんね」 「違う」 嫌だからじゃない。 これは、オレがしないといけない事なんだ。 「お前の頼み。確かに引き受ける。……でも、死ぬのが決まってるみたいに言うのはやめろ」 「……うん、ごめんね」 「謝って欲しいんじゃない。ただ……生きようとしてくれ。この子のためにも」 親がいればそれだけで子供は幸せだ。なんて事を言うつもりはない。 だけどユウリの子供なら話は別だ。 この子の親が、ユウリがいれば。 きっとこの子の前途は明るいはずだ。 だから、ユウリは生きないといけない。

4 21/08/15(日)23:35:34 No.835579330

「お前は、お前だけは絶対に生きる事を諦めないでくれ」 「……ほんと、変わらないなぁホップ君は」 呆れたように。だけど、嬉しそうにユウリは微笑む。 「子供のままか?」 「ううん、ホップ君は昔からカッコいいって事」 「だろ?」 「……ふふっ」 タイミングを合わせたようにお互い笑いあう。 それは、ジムチャレンジに挑む前。 ユウリと初めて会った時から変わらない、オレたちのなんて事のない日常の一幕。 「それにね、別に死ぬと決まったわけじゃないから。この子を元気に産んで、そしたら手術して!それで二人とも無事退院!って可能性はあるからさ!」 笑顔のままユウリは力強く語る。 「だから……信じて?」 「ああ!もちろんだ!!」

5 21/08/15(日)23:35:55 No.835579491

大丈夫。 きっと大丈夫だ。 なにも疑わずオレはそう信じる。 隣で微笑むマリィも同じ気持ちだろう。 ユウリは凄いやつだ。 頑張って頑張って、ガラルの誇るチャンピオンになって。 オレとマリィの親友で。 オレたちがそうであろうとするように、ユウリも幸せになるんだ。 だから、きっと大丈夫だ。 世界は、そんなに残酷じゃないんだから。

6 21/08/15(日)23:36:06 No.835579581

・・・・・ それから一ヵ月。 オレは毎日のようにユウリの元へ通った。 マリィはユウリの入院する病院の、同じ病室で出産に備える事にした。 子供の名前、 将来。 習い事。 ファッション。 他にもいろいろ。 まだ生まれてもいないこの子たちからすれば大きなお世話だろうが、それでも。 親として沢山の事を考えておいてあげたかった。 好き嫌いの無い子だといいな、とか。 元気ならそれでいい、とか。

7 21/08/15(日)23:36:23 No.835579710

そうやってオレ達は大切な時間を重ねていき、 マリィとユウリは、まるで示し合わせたかのように同じ時間に陣痛を起こし、 出産した。 元気な男の子と、女の子だった。 マリィとユウリは。 勿論オレも。 赤ちゃんを抱いて泣いて、笑った。 これならきっと、ユウリも大丈夫だって。 根拠も無いのに確信した。

8 21/08/15(日)23:36:45 No.835579884

一週間後、ユウリは息を引き取った。

9 <a href="mailto:s">21/08/15(日)23:37:49</a> [s] No.835580369

前回までの fu252208.txt 前作前々作 fu252209.txt 死人はもう出ません また明日

10 21/08/15(日)23:38:53 No.835580892

おもいよ…

11 21/08/15(日)23:39:18 No.835581080

呪いが…

12 21/08/15(日)23:39:53 No.835581360

呪い…

13 21/08/15(日)23:52:12 No.835587066

泥棒猫きたな…

14 <a href="mailto:おきみやげ">21/08/15(日)23:56:16</a> [おきみやげ] No.835588944

おきみやげ

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