21/08/15(日)19:09:09 あるう... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1629022149260.png 21/08/15(日)19:09:09 No.835434594
あるうららかな春の日であった。 小烏丸は二階の窓辺に腰掛けて、淹れてもらった紅茶を傾けていた。 熱かった紅茶もちびちびと飲むうちに温くなっていて、菓子も持ってくるべきだったかのうと思っていたら、 「まる…」 勝手に部屋の戸を開けて入ってきたものがいた。 そんな呼び方をするのは一人だけなので、 小烏丸は振り向いた。 「なんじゃ、今日はまるっちと呼ばないのか?」 「まるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 いきなり後ろから飛び付いて来たので、小烏丸は危うく自分も紅茶も窓縁から落っことすところであった。
1 21/08/15(日)19:10:09 No.835435105
「なっ!なんじゃ金!」 「ひぃぃん、まるぅぅぅ…」 豪奢な山吹色の髪と頭を彼女の背中にぐしぐしと押し付けながら金地螺鈿毛抜形太刀──長いので普段らでぃーと自称している──はぐずぐずと泣いていたが、やがて口を開いた。 「主君が酷いのじゃ…」 「なんじゃ?」 こやつが泣くのを見るのは久しぶりじゃな、と驚きを伴いつつも、小烏丸は聞いた。まあ、大方お金がしつこくしすぎて邪険にされたのかのぅ、と考えていたら、 「主君が、わしの瓜を破ったのじゃ…」 紅茶を含んでいたら間違いなく吹き出していたであろう。 破瓜、つまりはそういうことである。 「あっ、主がじゃと!?」 晩生というよりは清廉潔白、巫剣を大事にする主がよりによって金に手を出すとは。
2 21/08/15(日)19:10:50 No.835435501
いやさ思えば不思議でもない。何しろ最近は椒林が扇情的な衣裳を次次に配って、巫剣も大方は喜んで着ているのだ。そんな女達に囲まれた若き主の心情たるや。 最後の藁なる例えもある。強靭無比の背骨であっても、限界まで重荷が加われば、最後の負荷が一本の藁だろうとへし折れるものだ。普段ないわーと思っていた女であっても、機が合えば手を出してしまうのが男というもの。…お金は黙っていれば美人じゃしのぅ。乳もわしより…いくらかは…でかいし。 「じゃがのう、言いたくはないがお主のことじゃ、どうせ、軽率なことをして主をその気にさせてしまったのではないのか?」 「ひ、ひどいのじゃ、まる…」 涙目で見上げながら言うお金が、普段とは調子が違いすぎて、小烏丸は目を丸くした。とはいえ、本当に手籠めにされたのであれば、確かに言い過ぎである。すまん、とまるも金にたいしては珍しく素直に謝ってやった。
3 21/08/15(日)19:11:30 No.835435889
「ただぁ、主君が、ちゃいな服を着たまま戦うなってあんまり言うからぁ、わしはちゃんと角度とか気を付けてるしぃ、禍憑は見ても消しちゃうから問題ないって言ったの…」 「…うむ…」 あの旗袍か…確かに切れ込みが際どいというか、もう結んでないふんどしみたいなものじゃな。初めて見た時そう言ってお金をむくれさせたのを思い出した。前と後ろに布を垂らしただけのあれでは、腰回りがさぞ目の毒であろう。 「それでも、何度も言うからあーしもちょーっと頭に来てぇ…」 言葉が普段の調子に戻ってきた。 「前垂れをめくって言ってやったの、『あーしは毛が濃いから、大事な所は見えませーん』って」 最後の藁どころではない。緋墨の踏みつけくらいはあった。
4 21/08/15(日)19:12:25 No.835436361
「…お主、下着は履いとらんのか?」 「え?ちょっと前までみんな履いてなかったでしょぉ~?男の子みたいにブラブラするのもないし~、毛の形くらいは整えてるけど~。そうしたらぁ…」 そこで思い出したのか、赤く腫れた目元にぐずっと涙が浮かんだ。 「主君が怖い顔になって、『もう駄目だ』とか『許さないからな、らでぃー』って言って押し倒して来たのじゃ…」 そこで言葉を切ったお金はぽやんとした表情で虚空を見つめている。その時のことを思い出してでもいるのだろうが、小烏丸は言葉も無かった。 「それで、一晩中…その、ひどいことされて、…主君が寝てたから逃げて来たじゃ」 小烏丸は遠い目をしていた。色々な感情が去来する。だが、これだけはやっておかねばならなかった。 「お金」 「うん」 「この馬鹿者!!」 頭に手刀を叩きつけた。
5 21/08/15(日)19:12:55 No.835436613
「いったぁー!!な、何をする!?」 「肌を見せるだけで男というものは発情するのに、毛まで見せればそうもなるわ!皆、主殿の理性に甘えすぎではと常々思っておったが、真逆お主が最初に手を出されるとはのう!馬鹿者、馬鹿者、馬鹿者ッッ!」 「痛い痛い、痛いぞ!やめんかまる!」 「やめぬわ!」 「わーん!まるのほうが馬鹿者じゃ!」 しばらく取っ組み合いをしたのち、疲れた二人は並んで座っていた。体育座りであった。放心気味の小烏丸は、黙ってお金の愚痴ともつかぬ話を聞いている。 「…それで、わしは思わず言うたのよ。『1200年も守ってきたのに、破られてしもうた…』と。そしたら主君はなんと言うたと思う?すごい怖い顔をして言うのじゃ。『俺以外の誰に破らせるつもりだったんだ』って、…酷くないかの?でも、主君にのしかかられるとのぅ、爪先まで痺れてまるで力が入らぬのじゃ…じゃからつい『主殿じゃ、主殿に捧げるために守ってきたのじゃ…』って言うてしもうた…なんとも酷いと思わぬか、まるよ」 「惚気に聞こえるぞ」 「むっ」
6 21/08/15(日)19:13:23 No.835436847
言葉に詰まったあと、ぎゃいぎゃいと抗議を吠えたてる金は、照れたような桃色の、つやつやした顔色をしていて、つい小烏丸は思うのであった。 「怒ってはおらぬな、おぬし」 「えっ、あっ、いや、怒ってるしー?女の子の大切なものを~?あんなムードもなく奪ったんだからぁ~…」 「どちらかというと、主の方が自責の念に苛まれておるのではないか?」 「えっ?あっ…あーくんなら…そうかも…でもぉ~…」 「行ってやれ。お主も悪かったのじゃから、精々慰めてやるのじゃ」 しっしっと追いやったのは、胸の内に嫉妬があったからかもしれぬ。
7 21/08/15(日)19:13:59 No.835437158
弟が友人とくっついた姉の気持ちがこんな風であろうか。側で主の成長を見てきたが、筆下ろしまで見届けることになるとはのぅ、と小烏丸は嘆息した。 ぱたんと閉まった戸を横目で見つつ、小烏丸は思った以上に疲れている自分を自覚する。手を当てた胸のなかには、主から貰った水晶がある。 …いっそ、わらわも破ってもらうか? 自嘲のつもりが思った以上に笑い飛ばせない一言であるのに気付き、まるは自分を見つめ直すように、とっくに冷めた、紅茶の赤い水面を見つめるのであった。
8 <a href="mailto:s">21/08/15(日)19:16:15</a> [s] No.835438494
ばあちゃんのお話が一つくらいあってもいいと思っていたのにらでぃーちゃんで書いてしまったが許してくれるだろうか許してくれるねありがとうグッドお手入れ
9 21/08/15(日)19:18:36 No.835439762
ざんなま見てたから気付かない所だったよ
10 21/08/15(日)19:19:43 No.835440361
20時からと思っていた俺を笑ってくれ…
11 21/08/15(日)19:32:04 No.835446537
らでぃーちゃんいいよね…
12 21/08/15(日)19:48:18 No.835454621
むっ!
13 21/08/15(日)19:48:34 No.835454752
いいねえ…