虹裏img歴史資料館

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21/08/14(土)21:20:06 夕陽が... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1628943606445.png 21/08/14(土)21:20:06 No.835052633

夕陽が射し込むトレーナー室。私はトレーナーさんの謝罪にミミを貸さず、首を振り続けていました。 「いーえ!私は諦めません!トレーナーさんを!お待ちし続けます!!」 腕を組みもう一度ぷいっと首を振りました。このやり取りを、幾度となく繰り返しています…。 学園近くの神社で毎年催される夏祭り。このお祭りは夏合宿後の開催日程のため、多くのトレセン学園生も楽しみにしているお祭りです。 この後ライスさん、ブルボンさん、そして私。加えて、それぞれのトレーナーさん方が現地に集まり皆でお祭りを楽しむ予定でした。ですが私のトレーナーさんだけが… 「……きっと間に合わない。俺の事は忘れてこの後を楽しく過ごしてほしい。本当に申し訳ない…」 いくら食い下がったところで話が進まない事は薄々分かり始めていました。もはや諦めざるを得ず、俯きながらハイと小さくお返事をします。肩を落とし、トレーナーさんを残してトボトボとお部屋から立ち去りました。 ……これ以上ここに居続けるのは、約束を守れなかったことを悔やみ悲しんでいるトレーナーさんを更に苦しめ続けるように思えたからです。

1 21/08/14(土)21:20:36 No.835052882

「?…どこかで…バクシンオーさんの声が…」 夏祭り会場まであと僅かの距離で隣を歩くライスさんが悩んでいます。ミホノブルボン、支援行動を開始。集音モードへと移行します。 「…2時の方向、神社参道入口・鳥居付近より音声検出。バクシンオーさんの声紋と一致。結論、ライスさんの推察は適切と判断します」 「じ…じゃあ…バクシンオーさんたち…もう来てる…のかな……」 『そこの青シャツのお方ーッ!参道中央を歩いては、ご帰宅される方の迷惑になりますよーッ!左端を歩きましょうーーッ!!ピピーッ!』 推定値100dBに迫る咆哮及び警笛音を確認。発生地点を目視。警笛を用い人員誘導中のバクシンオーさんを発見。……状況不明。類似事例検索、該当無し。 「……ば…バクシンオーさんだ…!」 「はい。浴衣姿は初見のためデータにありませんが、あれはバクシンオーさんです。しかし状況が分かりません」

2 21/08/14(土)21:21:03 No.835053087

ライスさんと会話していたところ、誘導灯を携えた男性が私達に接近、話し掛けてきました。 「…すみません、あのウマ娘さんのお知り合いですか?…あの方、突然現れて誘導を指揮し始めて…なんとか止められないでしょうか…。こう大声で続けられちゃ近隣住民からも苦情が…」 会話の間にもバクシンオーさんは叫び続け、誘導員と思しき方はその都度悲鳴を上げています。 『ピピーッ!こらーッ!そこのウマ娘さん方ーッ!立ち止まっていては通行の妨げに………おや?ライスさんにブルボンさんではありませんか!!!』 バクシンオーさんが私達の存在を認識。通行人の視線が一斉に私達に集まりました。 ライスさんは極度の緊張状態で声を発する事が出来ない模様。 ……私はバクシンオーさんに会釈した後、誘導員の方からの依頼事項を伝達するため前方へと歩み出ました。

3 21/08/14(土)21:21:26 No.835053262

ライスさん、ブルボンさんとの合流後、私達はヒトケの無い神社の境内の端へと移動。私はそこでトレーナーさんがお仕事で来れなくなった事を伝えました。 「…トレーナーさんは来れません。私の来週のレース申請がどこかで止まっていて……トラブルに巻き込まれたようなのです」 「………ライスが一緒に待合わせしたからだ…バクシンオーさん…そのきれいな薄桜色の浴衣、見せたがってたのに…」 ライスさんのせいではありません……しゃがみこみ、膝を抱いた私は、この後何をすればいいのかがわからなくなっていました。 「確認です。バクシンオーさんは先ほど何をされていたのですか」 「…トレーナーさんは現在もお仕事に勤しんでいます……ならば私も学級委員長としてお祭りの秩序を守ることにバクシンすべく…人員整理、歩行路のカクホを…」 「双方の因果関係が確認できません。理解不能。それはバクシンオーさんのマスターのご指示によるものですか」 「違います…トレーナーさんの指示では………。あの…スミマセン、おふたりなら…こんな時、どうされますか」

4 21/08/14(土)21:22:00 No.835053510

"どうか楽しく過ごしてほしい"。 トレーナーさんの言葉を振り返ります。ライスさん、ブルボンさんと一緒に見て回るお祭りはきっと楽しいでしょう。しかし、私にはもうお祭りを楽しむ気力が湧きませんでした。 「私ならば本日就寝までの行動全てを映像記録に残し、後日マスターと一緒に鑑賞。当日の疑似体験を試みます」 「ラ…ライスは…たぶん…出店の食べものをリュックいっぱいに買って…お仕事を頑張ってるお兄さまに届けに…いくよ…!」 パァッと光が差し、道が開けた気がしました。私は勢いよく立ち上がり、ライスさんとブルボンさんの手をギュっと握り言いました。 「私のなすべき事が分かりましたッ!あのッ!共にお祭りを楽しんで頂けないでしょうか!!!」 「当初よりその想定です。その上で友人:バクシンオーさんからの明確なオーダー『共にお祭りを楽しむ』を受理。ミホノブルボン、委細承知しました」 「うん…ライスも……楽しむ…!」 私はニコリと笑い、ペコリとお礼をいたしました。 「ありがとうございます!では!いざ、お祭りに!バクシンいたしましょうッ!!」

5 21/08/14(土)21:22:25 No.835053686

… 校舎屋内の灯りもまばらとなった夜のトレセン学園。私は、校舎入口前まで駆け戻っていました。 顔を上げ、見慣れた場所にある窓を探します。学園が暗闇に包まれている中、寂し気にぽつんと灯りが付いているお部屋がありました。 トレーナーさん。 私は校舎に入り、暗い廊下を駆け抜けトレーナー室を一直線に目指します。 トレーナー室のドアが見えたので私は飛びつきます。浴衣のため足がもたつくのもここまでです。何回叩いたか定かでないノックと同時にドアを開けました。 「トレーナーさんッ!学級委員長サクラバクシンオーがただいま戻りましたよーッ!!!」 明るいお部屋の光に少し目が眩みそうになりましたが、すぐに執務机に座ったトレーナーさんを見つけます。トレーナーさんは私を見て口をぽかんと開けていました。

6 21/08/14(土)21:23:07 No.835054009

「お祭りは……」 トレーナーさんは私を見つめたまま、それだけを口にしました。私はニコリと笑いかけ、お部屋に入ります。 「ハイッ!皆さんと、楽しんで参りましたッ!」 「…でも、まだ集合時刻から1時間も経って無いけど…」 「ええッ!ですから、バクシン致しましたッ!とっても!とーっても!楽しんで参りましたよッ!少しお時間はありますかトレーナーさんッ!こちらがその証拠ですッ!ご覧くださいッ!!!」 私は浴衣の袂からスマホを取り出すと、トレーナーさんに差し出しました。写真が格納されたアルバムを開きます。 皆さんと笑顔で写っている合流時の写真。 ブルボンさんと私が金魚すくいをしている写真。 ライスさんと私が一緒にりんごあめを食べている写真。 ほかにも色々な写真をお見せしました。私は、場面場面の状況を逐一説明します。トレーナーさんは驚いた表情でそのひとつひとつを見ていきました。

7 21/08/14(土)21:23:43 No.835054308

「このように!お祭りを楽しんで参りましたッ!!」 「……………本当だ…どれも楽しそうだな…よかった…」 ぽかんとしていたトレーナーさんは徐々に笑顔を取り戻し、画面に表示された写真一枚一枚を見ていきます。 「でも何でここへ?楽しんでた途中だろう…」 「ハイ!その点についてですが!!!」 片腕に提げた袋から、ガサゴソガサゴソ。中身を取り出します。お好み焼き3パック、焼きそば3パック、フランクフルト3本、ラムネ3本……手当たり次第買った出店の食べ物を執務机の上に並べます。 「こちら、おシゴト中のトレーナーさんへの、模範的オミヤゲの数々ですッ!!!あッ!焼きそばとお好み焼きがちょっとパックから飛び出てますが……!まぁ、ご愛嬌というやつですねッ!ハッハッハ!全てトレーナーさんへのオミヤゲです!どうぞご賞味くださいッ!!!」 「……ありがとう…なんかすごいことに…」 トレーナーさんは執務机の上に所狭しとずらり並べられた食べ物を眺めながら言いました。

8 21/08/14(土)21:24:17 No.835054608

「トレーナーさんが一生懸命頑張ってくださっているのです!私だけお祭りを楽しむわけにはいきませんからねッ!優等生としてトウゼンの行いですッ!」 「……本当に申し訳ない。みんなにも悪いことをしたよ」 「ご安心を!トレーナーさんは巻き込まれたのだと私からも説明済みです!ブルボンさんもライスさんも各々のトレーナーさん方も、私を笑顔で送り出してくださいましたッ!これもひとえに私とトレーナーさんの人徳があってこそですッ!」 私は喋り通しで少し喉が渇いたため、冷蔵庫の中にいつも置いてある麦茶のペットボトルを取り出しました。トレーナーさん!麦茶を頂きますね!あッ!自分で注ぎますのでどうぞお構いなくッ! 「…おぉ…ご自由にどうぞ……あと……」 マグカップに麦茶を注ぎつつ私はトレーナーさんにお返事をします。 「ハイ。なんでしょうかトレーナーさん。ゴクゴクゴク…」 「その、夕方この部屋を出て行った後に浴衣に着替えたんだな。今更だけど、似合ってるよ」 「ちょわーーっ!!!」 私も忘れていたため思わず麦茶を吹き出しそうになりつつ声を上げました。

9 21/08/14(土)21:24:45 No.835054805

「そうです!忘れてました!!この夏に着れるよう、母上が送ってくださったのですッ!着付はフラワーさんにして頂いたのですよッ!いかがでしょうか!!」 私はお部屋の中央に進み出て、いかがですか!と、くるくると回ってみせます。トレーナーさんは、デザインも色合いも大人な感じなのにかわいらしさもあっていい浴衣だと、イメージにぴったりでとても似合っていると、次々に褒めてくださいました。 「ええ、そうでしょうとも!そうでしょうともッ!!……えヘヘへ…」 フラワーさんと母上、そして私をお褒めいただいているようで、私はとても嬉しくなりました。 直後、トレーナーさんのことを見返すのがなんだかこそばゆく感じてしまい、次第に体もムズムズとしてきました。 私は、どうぞおシゴトも進めてください!と言い、トレーナーさんが座る執務机の後ろへ逃げるようにサッと回りました。 壁の時計をチラッと見て寮の門限を確認します。 私は門限の時間ぎりぎりまでこのお部屋に居ようと思いました。

10 21/08/14(土)21:25:15 No.835055039

ふと執務机を座る側から見ると、ノートパソコンの隣に写真立てがあることに気付きました。 それは……メイクデビュー勝利のトロフィーを抱えている私と…その隣に立つトレーナーさん。2年前、レース場での勝利後に記念で撮った写真でした。 「こ、これッ!懐かしい写真ですね!どうされたのですか!!」 「撮影した次の日から執務机の上に置いてるよ」 「えッ!今の今まで気づきませんでした……」 「…よく仕事の合間に見ては元気を貰ってるよ。懐かしくなるよな」 私は写真立てを手に取り、2年前の私とトレーナーさんを見つめます。 …ふたりとも笑顔でした。写真の中の私はエッヘンと胸を張り、満足そうな顔をしています。トレーナーさんも、いつもの穏やかな優しい表情を見せています。 ……トレーナーさんは2年間、いつもこのお部屋でこの写真を見てくれていたのですね。

11 21/08/14(土)21:25:58 No.835055376

「…トレーナーさん!後でお写真を撮りましょう!今日はたくさんの写真を撮りました!しかし!最優秀模範的パートナーである私達の分は、まだ1枚もありません!」 「こ、ここで?」 トレーナーさんはお部屋をぐるりと見渡して苦笑いで言いました。 「ええ!このお部屋で!!」 「わかった。……あともう少しで終わりそうなんだ。少しだけ待っててくれないか……ごめんな」 「気に病む必要はございません!なぜなら私は模範的学級委員長サクラバクシンオーですからね!学級委員長は、時には待つ事も求められます!トレーナーさんのコトも、いつまでもお待ちしていますよッ!!!」 「…うん。今日のお土産も、お祭りに行ってみんなと楽しんできてくれたのも……ありがとう。今度何かお礼をするよ」 優等生の私へのご褒美という事ですね!楽しみにしています!私は笑顔を見せてお返事をしました。トレーナーさんも、写真の中と同じ優しい表情を見せて、おシゴトに戻りました。

12 21/08/14(土)21:26:36 No.835055714

…トレーナーさんのお仕事は無事終わりました。止まっていたレース申請の問題箇所も明確になり、関係の無いトレーナーさんは無事解放されたとのことです。 「終わったよ。こんなに遅くなって本当にすまない。じゃあ写真を撮ろうか………どう撮るかな」 「お疲れ様でした、トレーナーさん!」 私はソファから立ち上がり、写真立てを手に持ってトレーナーさんの方へと駆け寄りました。 私は改めて写真を見返します。笑顔で並ぶ出会って間もないあの日のふたり。過去の情景の中で、レースで勝利したことを、そしてお互いが出逢えたことを喜び、幸せそうに笑っている私たちがいました。私は、目の前に立つトレーナーさんの顔を見上げます。 「お写真ですが、この2年前と同じようにしたいです!ふたり並んで……撮りたいです」 トレーナーさんは私の顔を見て、そうしようと優しく応えてくれました。 ……今日、このお部屋で、もう一度トレーナーさんとお会いできて私はとても嬉しかったです。……トレーナーさんは…どう思ったでしょうか。私が戻ってきて嬉しいと、そう思っていただけていたら、私は……

13 <a href="mailto:s">21/08/14(土)21:27:30</a> [s] No.835056206

オワリ 浴衣を着る委員長を書きました

14 21/08/14(土)21:30:49 No.835057790

良い友人に恵まれてるな…

15 21/08/14(土)21:31:35 No.835058138

等身大の女の子な委員長いい…

16 21/08/14(土)21:36:17 No.835060341

>「私ならば本日就寝までの行動全てを映像記録に残し ちょっと待ってそれお風呂も入ってない?

17 21/08/14(土)21:36:27 No.835060401

元気だけど乙女してるバクちゃんいい…また書いてほしいですね…

18 21/08/14(土)21:37:15 No.835060713

友人たちのナイスアシストが嬉しい

19 21/08/14(土)21:38:15 No.835061136

ちょっと涙腺がゆるんでしまった良い

20 21/08/14(土)21:42:35 No.835062896

くそっこの委員長めちゃくちゃかわいいぞ

21 21/08/14(土)21:44:57 No.835063881

模範的な学級委員長はトレーナーさんに褒めてもらわないと調子が出ないからな…

22 21/08/14(土)21:52:26 No.835066969

からっとしっとり爽やかが全部入ってて脳が揺さぶられた…

23 21/08/14(土)22:05:24 No.835072511

このブルボンなんだかとても心強いな…

24 画像ファイル名:1628947003692.png 21/08/14(土)22:16:43 No.835077852

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

25 21/08/14(土)22:17:20 No.835078127

ウワーッ!赤字で!

26 <a href="mailto:s">21/08/14(土)22:18:44</a> [s] No.835078818

>1628947003692.png ありがとうございます…ありがとう…とてもいい委員長を…いつも…

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