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21/08/13(金)23:40:29 ・・・... のスレッド詳細

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21/08/13(金)23:40:29 No.834705462

・・・・ ユウリの安否が心配だったのは本当だった。 無事でいてほしいと。 病気ならちゃんと治って欲しいと。 そう願ったのは本心からだった。 だけど、 病室で横たわる彼女を見た時。 その、大きくなったお腹を見た時。 あたしの胸の中の何か、冷たく濁ったものが蠢いた。

1 21/08/13(金)23:40:44 No.834705567

・・・・ 「こうやって二人っきりで話すのは久しぶりだね」 「……うん」 ユウリの軽やかな声に対して、あたしの声は重く今にも沈み込みそうなものだ。 それに気づいているはずなのに、ユウリはあくまであたしに明るく声をかけ続ける。 「ホップ君相変わらずだね。もういい年した大人なのに昔と全然変わってない」 「……うん」 まるで、あたしから切り出すのを待っているかのように。 「そういえば昔ホップ君がね」 「ユウリ」 「……何?」 ユウリはどこか『待っていた』とでも言いたげに微笑む。 「どういう、事」 「見てわかるでしょ?」

2 21/08/13(金)23:41:00 No.834705693

だから、『何が?』とは返されなかった。 ユウリはわかっている。あたしが、何を問うているのか。 そしてその答えが、あたしの想像通りだという事を。 「ッ……!!」 お腹を撫でながら、勝ち誇るように笑うその姿にあたしの視界が真っ赤になる。 それでも、最低限の理性を働かせ、で握りしめた拳を振り上げる事はしなかった。 「ふふっ、怖い顔」 「あんたっ……!」 重ねられた挑発に、今度こそとなりかける。 だけど、 「やめてよ、赤ちゃんに悪いよ?」 そう言われてようやく、自分が身重だったという事を思いだす。 「ほら、座って。ホップ君が帰ってくるまでまだ時間あるからさ」

3 21/08/13(金)23:41:18 No.834705827

あたしは促されるまま病室に置かれた椅子にゆっくりと腰掛ける。 そして怒りを鎮めるため、考えを纏めるため大きく深呼吸をした。 「……なんで」 口から出たのはまたもや曖昧な問いかけ。 あたしは、どうしても『ハッキリと』それを言うのが怖かった。 そんな内心を見透かしたように、ユウリは楽しそうに笑う。 「好きな人の子供を産みたいってそんなにおかしい?」 「……」 「安心して。私の口からこの子の父親について言う事は絶対にないから」 無言に込めた真意をユウリはしっかりと理解する。 「私はただ、知って欲しかっただけ。私がこの子の母親であることを」 愛おしそうに自分の中で鼓動する命を撫でる。 ユウリのその表情は間違いなく、母親のそれだった。

4 21/08/13(金)23:41:34 No.834705960

「あなたと、ホップ君がそれを知っていてくれれば。私はそれでいいから」 『まぁ実際はダンデさん含め何人かは知ってるけどさ』と、ユウリは困ったように笑う。 あたしは――――何も、言葉にすることができない。 だって、だって。 ユウリの言葉が正しいのなら。 あたしの想像が正しいのなら。 ユウリのお腹の中で眠る子は。 『マリィちゃん――――あなたは、私にホップ君を売ったんだよ』 脳髄が揺さぶられる。 しまい込み、蓋をして、何重にも鍵をかけた記憶が一瞬で解かれる。

5 21/08/13(金)23:42:08 No.834706236

「……がう」 ちがう 違う 違うッ!!? あたしは、 あたしはホップを売ってなんかいないッ!!? あれは、あれはユウリがッ!! 「あんたが、あたしを騙してッ!?」 いつの間にか思考が口を通じて飛び出していた。 それに気づいた瞬間、あたしは蒼白になる。 「あ……ち、違っ……あたしは、あたしはただ……」 ただ……なんだ? 何を言っても言い訳でしかなく、取り繕うにはあまりにもユウリはあたしの『内』を知っている。 それでも、何かを言って誤魔化さないと。

6 21/08/13(金)23:42:20 No.834706329

そう悪あがきをしようとするあたしに、ユウリはふっと微笑む。 「……うん、そうだね。私があなた達を騙した」 「え……」 「マリィちゃんは悪くないよ。悪いのは、私」 祈るように、許すようにその手を組み、あたしの言葉を肯定する。 「だから、もうそんな風に悩まなくていい。全部私が悪かったんだから」 そして小さく頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。 「マリィちゃん――――ごめんね」 惑い狂っていた心に今度は別の理由で惑いが生まれる。 「なんで……」 ユウリがあたしに謝るなんて、思っていなかった。 だって、だってあたしはユウリを騙して、大切な人を奪ったから。 「……入院して、色々思うところがあってね」 どこか恥ずかしそうに目を逸らす。

7 21/08/13(金)23:42:34 No.834706446

本当にそれだけ? それだけの理由で、あたしを許すというのか。 「そうそう、言い忘れてたけど――――結婚おめでとう。マリィちゃん」 混乱するあたしをよそに、ユウリはその表情を朗らかな笑顔に切り替える。 「……うん、ありがとう」 「式は挙げたの?」 「……ホップ、あんたの事ずっと心配してた。『あいつならきっと大丈夫だ』って口では言ってても、ずっと心配してた」 当然だ。ホップにとってユウリは大切な人なんだから。 そのユウリの状況が何一つわからなくなったのに、大丈夫なわけがない。 「そんな状況なのに、式なんて挙げられない。ホップの大切な親友を呼べない式なんて意味ないから」 だから、お互い式の話はしないようにした。 そうこうしているうちに、あたしの妊娠がわかって、今度はそっちにかかりきりになって。 そして今朝ユウリの所在が分かって文字通り飛んできたのだから。

8 21/08/13(金)23:42:54 No.834706618

「……そっか。ごめんね」 「……よか」 一言。 あたしが言えたのはそれだけだった。 「……あのさ、マリィちゃん。一つお願いしてもいい?」 「何?」 「昔さ、タイムカプセル埋めたでしょ?」 「……そんなの、あったね」 ずいぶん昔、あたし達が初めてジムチャレンジに挑戦して、ユウリがチャンピオンになった年。 二人でタイムカプセルを埋めた。 「大切なものを詰めてスパイクタウンのそばに埋めて。大人になったら掘り返そうって」 「うんうん、思い出した」 中身に何を詰めたか、なんて正直覚えていないが子供の時の事だ。 たぶん大したものは入っていないのだろう。

9 21/08/13(金)23:43:06 No.834706707

「……それ、もうすぐ掘り出す日なんだ」 「そう、だっけ?」 「そうだよ」 記憶に残っているのは『大人になったら』掘り返すという曖昧かつ適当な指定だったが、どうやら昔のあたし達はしっかりと掘り返す日を決めていたらしい。 「それでさ、マリィちゃんお願いしてもいい?」 そう言われるも、あたしは首をかしげてしまう。 「二人で行けばよか。なんであたしだけ?」 「……私は、行けないから」 それがどういう意味なのかとあたしが尋ねようとした瞬間。 病室の扉が勢いよく開いた。 「ただいま!!とりあえず適当に買ってきたぞ!!」 入ってきたのは息を切らしながら中身の入ったビニール袋を提げたホップだった。 「ありがとうホップ君」 「おう!」

10 21/08/13(金)23:43:17 No.834706783

ユウリはホップから袋を受け取ると、嬉しそうに中身のペットボトルをサイドテーブルに並べていく。 「ふむふむ流石ホップ君。言わなくても私好みのやつ買ってきてくれたね」 「やっぱりそれが良かったか」 「ホップ、汗ダラダラ。ちゃんとふかんと」 あたしはハンドタオルでホップの額の汗を拭う。 急がなくて良いと言っていたのに全速力でお買い物を務めてきた夫の姿に呆れ半分微笑ましさ半分といったところだろうか。 あたしはテーブルから適当に取った飲み物をホップの頬に押し付ける。 「ほら、あんたも冷たいうちに飲みな」 「ん?ああ、ありがとう」 余程喉が渇いていたのだろう、ホップはキャップを開けると勢いよく中身を飲み干す。 いい年して威勢が良くて、気遣いが出来るのに子供のようで。 その姿は昔のまま、あたしが出会った時のままだった。 だけど、

11 21/08/13(金)23:43:43 No.834706975

『ホップ君相変わらずだね。もういい年した大人なのに昔と全然変わってない』 ユウリは、あたしよりもずっと前からホップを知っている。 時間というどうしようもない格差に唇を噛みしめそうになるのは、いくら何でも八つ当たりだろう。 わかっているが――――胸が、痛い。 それを顔に出さないよう、表情筋に力を入れる。 「そういえばマリィちゃん、予定日はいつなの?」 お医者さんから聞いた予定日を答えるとユウリは大仰に驚いた。 「え!?来月じゃん!?というか、私と同じ!!」 「そんな事あるんだなぁ」 ホップの言葉にあたしも頷き――――その意味に気づく。 同じ予定日。 それは、つまり。

12 21/08/13(金)23:43:59 No.834707082

「あのね、今日は二人にお願いがあって呼んだの」 暗く淀み始めた思考が浅瀬へと釣り上げられる。 ユウリはいつの間にかベッドに腰掛けるように足を下ろし、あたし達に向き合っていた。 「色々考えたんだけどね、やっぱり二人に頼むのが一番だって」 「何?頼みたい事があるん?」 ユウリは深く頷く。 「ホップ君、マリィちゃん。……二人に、この子の事を頼みたいの」 ユウリは中にいる子供を抱きしめるように両手をお腹に添える。 「頼むって、どういう事だ?」 ホップが心配そうに尋ねる。 ユウリはまっすぐあたし達の目を見て、 ハッキリと告げた。 「私ね、この子を産んだら死んじゃうから」

13 <a href="mailto:s">21/08/13(金)23:45:08</a> [s] No.834707592

前回までの fu246023.txt 前作前々作 fu246021.txt 続きはたぶん明後日です

14 21/08/13(金)23:46:10 No.834708014

おそろしい続ききたな…

15 21/08/13(金)23:48:39 No.834709062

これも一応仲直りと言っていいのだろうか

16 21/08/13(金)23:51:17 No.834710124

マリィが悪い意味で変わってない…

17 21/08/13(金)23:53:45 No.834711160

泥棒猫の続きが来るとは…

18 21/08/14(土)00:03:29 No.834715190

人死には出ない筈じゃ…

19 21/08/14(土)00:03:45 No.834715313

こわいよ…

20 <a href="mailto:s">21/08/14(土)00:05:00</a> [s] No.834715793

>人死には出ない筈じゃ… それは前作までの話です

21 21/08/14(土)00:05:03 No.834715820

し、死んでる…

22 21/08/14(土)00:07:18 No.834716718

泥棒猫はさぁ…無敵の人?

23 21/08/14(土)00:07:49 No.834716914

こ…こわい…

24 21/08/14(土)00:09:51 No.834717700

振られる事すら出来なかった女は怖いな…

25 21/08/14(土)00:10:25 No.834717886

タイムカプセルが恐ろしい伏線にしか見えないんですけど…

26 <a href="mailto:s">21/08/14(土)00:12:03</a> [s] No.834718510

言い忘れてた 今回の泥棒猫は前作書いた時にほかの方が書いてくれた後日談?に感動したのでそのオマージュみたいな感じです タイムカプセルのやつですね

27 21/08/14(土)00:12:48 No.834718813

やっぱり…タイムカプセルでそんな気がしたんだ…

28 21/08/14(土)00:13:17 No.834718994

昼ドラでもここまでやらねえぞ!

29 21/08/14(土)00:14:23 No.834719455

タイムカプセルのあれはひどい仕掛けすぎた

30 21/08/14(土)00:16:02 No.834720084

もしもしアーマーガア?ちょっと飛びすぎじゃない?

31 21/08/14(土)00:19:02 No.834721283

もはやガアも瀕死だと思う…

32 21/08/14(土)00:20:06 No.834721684

ホップのモンスターボールの中で知らないうちに瀕死になってそう

33 21/08/14(土)00:22:36 No.834722709

寝る前にすごいもの見ちゃった…

34 21/08/14(土)00:29:18 No.834725470

子供に罪はないから…

35 21/08/14(土)00:33:26 No.834726997

助けてビート…

36 21/08/14(土)00:34:45 No.834727473

全部知ったらビートくんの胃が爆発しそう

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