21/08/13(金)22:14:34 前回ま... のスレッド詳細
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21/08/13(金)22:14:34 No.834654877
前回までです sp93422.txt
1 21/08/13(金)22:14:56 No.834655161
新幹線で数時間の旅で、そこに辿り着いた。 F県K市─あの黒服の男の手掛かりがあるかもしれない場所に、エアグルーヴとナリタブライアンの2人は降り立った。 「ふあ…やっと着いたか。待ちかねたぞ。」 「ブライアン、新幹線に乗って早々に寝ていただろう。何が待ちかねただ。」 「フン…会長のせいだ。会長が『前に読んでそれなりに面白かったから、移動中にでも読めばいい』と渡してきた本が全くもってつまらんかったからな…」 ナリタブライアンが鞄からごそりと分厚い本たちを取り出す。 『精神の有り方とその調和』『心と身体─ウマ娘の心理学』『事故名鑑 ウマ娘の接触事故編』『ウマ娘とヒト 文明の歴史を紐解く』 …確かに、ナリタブライアンにはお気に召しそうにあるまいな、とエアグルーヴは内心思った。 「なんでも、会長が入れ替わりの原因を探している時に読んでいた本らしいが…まるで内容が分からん。」 「ブライアンにはもっと単純…いや、読みやすい本が良いだろうな…。」
2 21/08/13(金)22:15:14 No.834655376
「はーっ…しかし、まさか翌日に現地へ行かされるとは思ってなかったぞ。」 「会長も内心焦られておられるのだろう。あの黒服の男に先手を打つためには躊躇などしていられない。」 「だからと言って、『感謝祭の事件の根本原因追及のための調査』などとでっちあげて、私達がF県に行くことの大義名分を用意するのはやり過ぎだろう。」 「まあ…はっきり言って『根本原因追及のための調査』なんて生徒会の活動の範疇を超えているからな。だが、これを無理やり通した辺り会長も海千山千と言ったところか。 どちらにせよ長い間ここには留まれん。とにかく、この男を探すとしよう。」 エアグルーヴの手には、昨日検索した地方のウマ娘の”本当の”トレーナーの顔写真があった。例の黒服の男とどのような関係があるかを調査するため、2人はまずデータベースに記録された男の住所へ向かうことにした。 ~~~ 「…ここか。その本当のトレーナーとやらの住まいは。」
3 21/08/13(金)22:15:31 No.834655538
住所通りの場所には、年季の入った集合住宅が建っていた。 ひび割れたコンクリートの壁に植物のツタが張り付き、錆びた鉄の階段で1階と2階が分けられていた。その階段を昇り、奥まで進むと、例の男の名前が郵便箱のネームプレート入れに差し込まれた部屋があった。 エアグルーヴがインターホンを鳴らす。人間を凌ぐ膂力を持つウマ娘とはいえ、見知らぬ人の─もしかしたら、自分たちと敵対するかもしれない人間の住まいのインターホンを鳴らすことに、抵抗が無かったわけではない。だが、ここまで来て帰る訳にも行かなかったのだ。 インターホンを鳴らして暫く経つ。中からは気配が何も感じられなかった。 「留守か…?」 「まあ昼間だからな、この県のトレセン学園にでも行っているのかもしれない。」 「ふむ…ん?」 ふと、郵便箱から僅かにはみ出る紙に目が留まる。そっと引き出すと、数枚の紙がまとめて飛び出してきた。 「…どうやら、この男の金銭状況は余り良くないみたいだな。」 飛び出た紙類のほとんどは、督促状だった。ここにあるものだけを計算しても、大小合わせて数百万の借金があるようだった。
4 21/08/13(金)22:15:56 No.834655780
そして、唯一督促状ではない紙を取り上げると、エアグルーヴとナリタブライアンは顔をしかめた。 「…ふむ。大体この男の居場所が分かったぞ。」 「ああ。だが全くろくでもない奴だな、こいつは…。」 ~~~ 【パチンコ店】 「クソッ!あの演出で外れるんじゃねえよ!!この詐欺師がよォ!!!」 台に叩き付ける拳の音も、この店内の騒音にかき消されてしまう。ひりついた拳の痛みは、なおも男をギャンブルへと駆り立てた。 「はぁっ、もう一回だ!クソッ、クソッ!!今日は限界までいってやる!!」 「阿呆め、なぜ胴元に台を支配される勝負でそこまで熱くなれるか理解できん。」
5 21/08/13(金)22:16:19 No.834656002
血の昇った頭にわっと冷水をかけられたかのように、その言葉を聞いて一瞬で目が醒める。思わず振り向くと、そこには一人の女性─いや、ウマ娘が立っていた。 「…誰、あんた?」 「貴様に聞きたいことがある。が…ここは煩くてかなわん。外に出るぞ。」 「はぁ?ちょっ、おい!!まだ玉が…おいって!!離せ!!!」 ウマ娘の腕力にかなう訳もなく、男はウマ娘に引きずられ店の外に消えていった。 ~~~ 「…で?あんた誰だ?俺に何の用?」 男はこれ見よがしに不機嫌そうに煙草に火をつける。吐き出した煙に、そのウマ娘が眉をひそめた。
6 21/08/13(金)22:16:43 No.834656286
「私は中央トレセン学園生徒会、エアグルーヴだ。」 「ふーん中央…中央!?しかも生徒会…え、まさかあの”女帝”『エアグルーヴ』か!?」 「…私もそれなりに有名みたいだな。」 「そりゃあんた、トレセン学園のエアグルーヴったら有名も有名だぜ。もしかして後ろにいるのも生徒会か?」 「…同じく、生徒会副会長のナリタブライアンだ。」 「な、ナリタブライアン…!マジか、本物かよ!?」 「騒ぐな騒々しい…。」 「あ、ああすまねぇ。…で、その2人が俺に何の用なんだ?」 「この男について、何か知っていることがあるか?」 エアグルーヴがスマートフォンを突き出す。そこには、テイオートレーナーを強請る黒服の男の顔を拡大したものが表示されていた。 スマートフォンの画面をまじまじと見た男が、あっと目を見開く。 「あ~この人ね!ああ、ああ、知っているぜ。この人には助けられたからなぁ。」
7 21/08/13(金)22:17:02 No.834656494
「助けられる…?どういうことだ?」 「うーん、何年前かな…ある日、この人が俺の家まで来てな。なんでも俺が担当しているウマ娘に見惚れたらしく、自分がどうしても担当したいって言ってきたんだ。」 「なに…?他人の担当ウマ娘を取ろうとしたって事か?」 「まあそういうことだ。無論、一方的にトレーナー契約は解除できないし、そもそもそいつとパートナー解約しちまったら俺の仕事がなくなっちまう。だから最初はダメだっつったんだ。」 「ふむ…当然の話だな。」 「ああ、でもこの人も相当食い下がって来てな。ウマ娘の方にはこっちで説得させるし、担当トレーナー名義は俺のままで、実際にトレーナーとして業務だけをさせてほしいって言ってきたんだ。しかも、トレーナーをさせてくれている間は、月に10万俺の口座に金を振り込むっていうんだ。」 「…!? トレーナーを代わりにやる上に、月に10万も…!?」 「すげえだろ?もちろん、トレーナー名義は俺だから、担当のウマ娘がレースに勝った時の賞与は俺に振り込まれる訳で、結果的にこの人には全く儲けがでない訳だ。」 「それで、貴様はその男に実質的なトレーナーの権利を渡したという事か?」
8 21/08/13(金)22:17:19 No.834656671
「まあな。俺、結構借金あったし、正直その日暮らしも苦しかったから二つ返事でOKしたよ。」 「…貴様、そのウマ娘が今どんな状況になっているのか知っているのか?」 「へ? …あー、そういやいつの間にか気にしなくなってたわ。今何やってんのかは知らねーが、まあそれなりに走ってんじゃないのか? 俺が知ってるのはこれくらいだ。なあ、そろそろ店内に戻っていいか?」 自分の担当ウマ娘よりも店内のパチンコ台の方を心配するこの男に心底辟易としたエアグルーヴは、きっと男を睨みつける。 「…もういい。そして貴様もトレーナーを辞めた方がいい。その様子では担当が可哀想だからな。」 「はぁっ?勝手に店の外まで引きずり出してきた癖に言いたい放題言いやがって…。」 それだけ言うと、男は煙草を消して足早に店内に入っていった。 「…全く、とんだクズだったな。」 端で話を聞いていたナリタブライアンがようやく口を開く。ずっと黙って話を聞いてはいたが、エアグルーヴと同じく不快な表情をしていた。
9 21/08/13(金)22:17:40 No.834656904
「ああ。だが、あの男の話を聞く限り、黒服の男は金を使って実質的なトレーナーとして動いていたみたいだな。しかも公的なトレーナー名義はあの男なのだから、自分の存在が表に出ることもない。よく考えられている。」 「問題は、なぜそこまでして黒服の男はあの地方のウマ娘のトレーナーになりたがったか、だな。」 「…正直に言えば、感謝祭の走りを見る限りそこまで才能に溢れていたわけでもない。大金を払ってでもあのウマ娘に近づいたのは、何かもっと別の目的があったに違いない。」 「しかし…どうする?ここで手掛かりは途切れちまったぞ。」 「うむ…だが、手掛かりもなしに帰ることは許されん。どうする…。」 顎に手を添え、エアグルーヴは考える。 何か手掛かりはないか、思考を巡らせる。と、ふとあることに気付いた。 「…そういえば、あのウマ娘もF県の出身なのか。」 「そうだな。中央のトレセン学園は全国から多くのウマ娘もトレーナーもやってくる。だが、そうでない奴らは近場のトレセン学園に通うことになるだろうな。」 「ならば、あのウマ娘の実家もこの近くにあるはずだ。もしかしたら、何か情報が残っているかもしれん。」
10 21/08/13(金)22:18:05 No.834657174
「…まさか、そこに行くってんじゃないだろうな?」 「行くに決まっているだろう!すぐに向かうぞ!」 見慣れぬ土地であちこちを散策し、少なからず疲労が溜まっていたナリタブライアンは、エアグルーヴの行動力につくづく感心し、同時にあきれ返った。 先を駆けるエアグルーヴの後ろ姿に渋々ついていくナリタブライアンの足取りは重かった。 ~~~ ハルウララ─シンボリルドルフに連絡し、地方のウマ娘の住所を得たエアグルーヴとナリタブライアンはその場所に辿り着いた。 「…本当に、ここで合っているのか?」 「ああ、そのはずだが…」
11 21/08/13(金)22:18:19 No.834657344
だが、辿り着いた場所はどう見ても誰かが住んでいるとは思えないような家だった。 手入れのされていない花壇に荒れた庭、掃除のされていない玄関や窓がその物寂しさを一層強めていた。 「とにかく、中に入ってみるしかない。何かがあるかもしないからな。」 インターホンを押す。しかし、呼び鈴が鳴る音も聞こえず。人気も感じられないままだった。どうやら留守というより、ずっと前から誰も住んでいないようだった。 「そんな…どういうことなんだ?」 「おい、とりあえず中に入れればいいんだろ。こっちから入るぞ。」 声の方を見ると、鍵のかかっていない窓を開いているナリタブライアンがいた。 「貴様…それは不法侵入だろう!?」 「そんなこと言ってられないんだろ。それに誰もいなきゃ問題ないだろう。」
12 21/08/13(金)22:18:33 No.834657498
そう言うと、ナリタブライアンが土足のまま窓から内側に入り込んでいった。絶句したエアグルーヴだったが、他に方法もない。仕方なく、エアグルーヴも靴を脱いで家の中に入る。 外の様子とは一転し、中は小綺麗に整えられていた。とはいえ、床に埃が溜まっており、やはりしばらくの間人が住んでいる形跡はなかった。 「全く…さっさと調べを済ませなければ…。」 廊下を進み、扉を開く。鏡台と机が残っており、誰かの部屋だったようだ。 エアグルーヴが鏡台の引き出しを開けると、中にノートが一冊残っていた。表紙には小さく「日記」とだけ書いてあった。 他人の日記を読むことへの抵抗はあったものの、これも調査の為と心を鬼にしてページをめくる。 毎日の他愛もない内容が取りとめもなく書き留められたものであり、これと言った情報も書かれていない。他人の日記を盗み読む罪悪感も募り、読むのを止めようとした瞬間。最後のページに掛かれていた内容が目に飛び込んだ。
13 21/08/13(金)22:18:51 No.834657701
『○月×日 あの人が来た。あの日の過ちを償う日が、ついに来たんだ。 明日、東京へ行くことになった。正直、あの人が私を許してくれるのか分からない。 でも私は、自分の行いに向き合わなければいけない。でなければ、あの子に顔向けも出来ない。 』 「これは…!?」 この日記をあのウマ娘の物だと思い込んでいたが、内容を見る限りどうやらこの日記の主はウマ娘の親の様だ。そしておそらく、『あの人』とは…。 「おい、エアグルーヴ!こっちに来てくれ!」 ナリタブライアンの呼びかける声を聞き、日記を鞄の中に入れてそちらへ向かう。 リビングから聞こえた声の場所を見ると、出しっぱなしのノートパソコンをナリタブライアンが叩いていた。
14 21/08/13(金)22:19:08 No.834657903
ナリタブライアンの呼びかける声を聞き、日記を鞄の中に入れてそちらへ向かう。 リビングから聞こえた声の場所を見ると、出しっぱなしのノートパソコンをナリタブライアンが叩いていた。 「ブラウザの最新履歴を見ていたんだ。何か情報があるかと気になってな。そうしたら、東京行きへの切符の値段や新幹線の時刻表を調べていたんだ。どうやらここにいた奴は、東京へ向かったらしい。」 「…やはり、東京に何かがあるのか。」 「やはり?何か手掛かりがあったのか?」 「詳しくは帰りの新幹線で話す。急いで東京へ戻るぞ!」 エアグルーヴの中に胸騒ぎが起こる。 自分の知らない所で、何か取り返しがつかないことが起こり始めている予感がした。
15 21/08/13(金)22:19:23 No.834658060
~~~ 【同時刻 東京】 つうと汗がハルウララ─シンボリルドルフの頬を伝う。息をひそめ、耳をピンと立てる。 (ウララ…ダメだ!そんな条件を飲んではいけない…!!) そして、シンボリルドルフ─ハルウララの前で、妖しい老人がにやりと笑った。 「それでは、シンボリルドルフ─あなたのこれからの人生、400億で買い上げましょう。」
16 <a href="mailto:s">21/08/13(金)22:19:38</a> [s] No.834658224
次回に続く
17 21/08/13(金)22:29:19 No.834664407
畳み始めたのかな 続き楽しみにしてる
18 21/08/13(金)22:35:09 No.834667967
ウララinルドルフは仕方無いとはいえ色々な思惑に巻き込まれ続けて大変だな…元に戻った時メンタル系ステータスめっちゃ伸びてそう