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21/08/11(水)02:46:23 明かり... のスレッド詳細

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21/08/11(水)02:46:23 No.833582476

明かりもない寝室の窓際で、まん丸い月から淡い光がそれを見つめるアタシを窓越しに照らしていた。 アタシの記事が出てから一週間が経って、背の高い時計があと数時間で十二月に入ることを知らせている。 マックイーンのトレーナーさん達、桐生院トレーナーさんさえもアタシがアリマ記念の出走バに選ばれることを確信しているようだ。だけど、アタシ自身は今もってなお、答えを出せていない。 走りたいとは思わない。好き勝手に担ぎ上げられて、好き放題に言われて、それで頑張れなんて言われてもこれっぽっちも心には響かない。 響くわけがない、アタシ達はただの消費されるだけの娯楽ではない。 だけど、走りたくないかというとそうだと言えない心がある。それはアタシのウマ娘としての本能なのか、それとも兄貴の夢のためなのか。何かがアタシから未練がましく離れない。 アタシはそれを捨てたいのか、それとも……。 「ネイチャさん、いらっしゃいますか?」 そうしていると、ドアがノックされた音が聞こえて続けてマックイーンの声が聞こえてきた。

1 21/08/11(水)02:46:41 No.833582533

ドアノブを回して開けてみれば、メジロ家のお嬢様はパジャマを着て、手にはバスケットを持っている。 明日は学校が休みだったから、こちらに泊まりに来ていて一緒に夕食も食べたのだが、言い忘れていた用でもあったのだろうか。 「入ってもよろしいでしょうか?」 「あ、うん。どうぞ…」 居候の身でどうぞというのもなんとなく変かなと思いつつ、一歩下がってマックイーンを招き入れると、彼女は真っ暗な部屋を見渡した。 「あら、もうお休みになられるところでしたの?」 「や、なんていうか月を見て考え事をしてたっていうか、そういうの似合わないけど…」

2 21/08/11(水)02:46:54 No.833582576

「うふふ、風情が合って良いと思いますわ。寒い日の月は空気が澄んで綺麗に見えると言いますから。ご一緒にしても?」 「え? 月見を?」 「はい。中秋の名月のお団子というわけではございませんが、おつまみはありますから」 そういって、バスケットにかけられていた布を外すとそこには様々なお菓子と水筒に、ティーカップが入っていた。イチゴが乗ったパイに、カリカリのビスケットに、バウムクーヘン、美味しそうだけど、だけど…これはこの時間にはとっても不味いものではなかろうか! 「えっと、大丈夫なんでしょうか…これけっこうそのーカロリーとか…」 「あら、でしたら私一人で頂きますけど」 「いただきます」 あぁ、いけないと思いながらも断れない。しかし乙女にとってこの誘惑にはとても抗えない。

3 21/08/11(水)02:47:21 No.833582652

そうだ、マックイーンが一人で食べちゃうとカロリー凄いことになっちゃうから。それを助けるために仕方なく手を伸ばすのだ。そういう事にしよう。 二人で椅子と机を移動させて窓際で、明かりもつけずまた月明かりの中で、二人でこっそりとお菓子を手に取る。アタシが選んだのはブルーベリーの小さな一口パイだった。 口に含むとサクリという小気味の良い音と共に香ばしい生地の匂いが口に広がって、その次に柔らかな感触と共にブルーベリーの爽やかな甘さと香りがふんわりと生地と調和して、飲み込んでも口内で幸せが残っている。 「幸せぇ……」 「うぅ~ん、美味しい…‥! トレーナーさんまた腕を上げましたわね」 「えっ、これマックイーンのトレーナーさんが作ったの!?」 「ええ、もともと大家族の台所係だったようで料理が得意なんですの。私のシェフが技術を教えるとすいすいと吸収してしまったようで、今ではこんなスイーツまでも…しかもカロリーは最低限! それでも月に一回ですけど…」 「マジか! あっ、もう一つ貰っていい?」 「あっ、そのアップルパイは私が狙っていたものですわ!」

4 21/08/11(水)02:47:41 No.833582715

二人だけの部屋の中で、菓子とそれに水筒に入っていた紅茶と共に賑やかに笑い合う。近況報告をしたり、お互いの友人―といってもマックイーンはゴルシの事を友人と認めようとすると何とも言えない顔をして唸ったけど―を話題にしたりと、話しているうちに時間は過ぎてお菓子も紅茶もいつの間にか空になっていた。 月なんて一回も見なかった。正に花より団子だ。 「うふふ! こうやって学友とお泊り会というのでしょうか、こんなお喋りをしたのは初めてです」 「アタシも……あーいや、たまにヘリオスたちから連れてこられてたなこんな女子会」 「ネイチャさんは交流関係が広いのですね。あら、もうこんな時間。もう寝ないと明日に響きますわね。最後にお一つだけ」 近くの時計を目を細めて見つめて、マックイーンはバスケットと共に席を立った。そしてそっと半分だけ顔を月光で薄明かりで染めながらアタシをじっと見た。 「アリマ記念、どうするおつもりですか?」 「……分かんない。迷ってる……というよりかは、走りたくないのに、脚は疼いてる。トラウマ出来ちゃって、まだちゃんと走れるかさえわからないのに……ホントはこれを聞きに来たの?」

5 21/08/11(水)02:48:10 No.833582831

「半分は、もう半分はただネイチャさんと会話を交わしたかっただけですわ。ネイチャさん、これは私の我儘です」 そういうと、マックイーンはそっと指を一本こちらの目の前に伸ばした。 「私は貴方と走りたい。貴方の状況を良く知る者だとしても、あの舞台で競い合いたい」 「アタシと…? なんでマックイーンが、アタシなんかと…?」 「それは謙遜ですか、卑下ですか。それとも、貴方の目にはまだトウカイテイオーしか映っていませんか?」 その言葉に、心がぶるっと震えて指の奥にいるマックイーンを見つめる。月に雲が流れて、顔を照らしていた光がなくなってもなお、その目はじっとアタシを見つめているのが分かるくらい意思で輝いているようだった。 「私では不満ですか?」 「そういうわけじゃ、ない…」

6 21/08/11(水)02:50:40 No.833583310

「菊花賞の事故が起きる前、私は現場で貴方達の走りを見せてもらっていました。あの執念と意思の削り合い、思わず脚が震えましたわ。テイオーと肩を並べた貴方にも」 マックイーンの雰囲気ががらりと変わって、まるで捕食者のような威圧感を醸し出し始めて、それを感じたアタシの耳がぴくぴくと動き始めた。 「ネイチャさんを心配する心も支えたいという気持ちも、当然あります。貴方の気持ちを裏切ることかもしれないと思っていてもなお、あの日貴方が私と同じ舞台に立てると思った時から」 興奮を抑えているのか、それともアタシにこれを伝えることに辛さを感じているのか分からない吐息が間に挟まった。 「貴方を打ち負かしたい。という気持ちが抑えきれないのです」 これがメジロマックイーンの、レースに対する姿。普段と正反対な、あまりにも激しい闘争心と、尊大ともとれる勝利への執念。 テイオーといるときにも感じたアタシに最も足りていない、向かい風に立つ獅子のような、誇りという形。

7 21/08/11(水)02:51:00 No.833583368

「これが私の本能だとしたら、とても難儀な…普段の姿は女優のようなものなのでしょうね」 月明かりが戻ってくる頃には、もうマックイーンは元の淑女に戻っていて優しい笑みを浮かべていた。 「ごめんなさい。貴方の気持ちも考えず最後にこんなお話を…でもネイチャさん、これは私の本心でもあるのです。…お休みなさい」 そう言って、アタシが止める間もなくマックイーンは静かに一礼すると、部屋から出て行ってしまった。 足跡が遠ざかっていくのを感じて、やっとアタシは汗まみれの顔を下げて、ゆっくりと呼吸ができた。 ふと、脚を見ると細かく震えている。 だけど、恐怖からじゃないのは私も理解できた。 これは恐怖じゃない。これは…

8 <a href="mailto:s">21/08/11(水)02:51:43</a> [s] No.833583513

めっちゃ遅くなりましたし長くなりましたが全てはスリーゴッデスの仕業であり自分には一つも非などないかもしれません許してください

9 21/08/11(水)02:56:41 No.833584347

闘争心マシマシのマックイーン良い…

10 21/08/11(水)02:58:18 No.833584619

ライスに対してのおせっかいと似たようなものかしら

11 21/08/11(水)03:01:14 No.833585151

ライバル心バリバリな原作のマックイーン要素かしら…

12 21/08/11(水)03:06:51 No.833586049

武者震いがするのぅ!

13 21/08/11(水)03:15:02 No.833587169

自分が負けることなど露ほども考えていない傲慢さよ

14 21/08/11(水)03:16:14 No.833587341

マックイーンもネイチャもかっこいいし熱い

15 21/08/11(水)03:30:40 No.833589196

ちょっと原案マックイーン入ってる? かっこいい...

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