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21/08/11(水)01:40:24 3月上旬... のスレッド詳細

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21/08/11(水)01:40:24 No.833567753

3月上旬、阪神競バ場。 土曜日、第11レース。G2、阪神大賞典。芝3000m。 天候は晴、バ場は良。 レースは既に三分の二を過ぎ佳境に差し掛かろうとしていた。2000mを2分7秒。比較的スローペースに進むことになった今回のレース。向こう正面に入ってもバ群は固まり、大きな差は生まれてはいない。 誰もが様子を見ているそんな雰囲気の中、第三コーナーに差し掛かったその時、レースはターニングポイントを迎えた。 『さぁ!マヤノトップガン!ロングスパートをかけていく!』 四番手につけていたマヤノトップガンが第三コーナーで加速し始めたのだ。 (いっくよー!!!)

1 21/08/11(水)01:40:42 No.833567852

曲線のソムリエというのは彼女のことを指すのだろう。外から前のウマ娘を捲り、内に内に体重をかけ、コーナーにも拘わらず、足に速度を乗せていく。 『マヤノトップガン!ここでリードを広げていく感じです!有マ記念と同じような戦法を取るのか!?』 去年の有マ記念、マヤノトップガンは見事な先行逃げ切り勝ちを遂げ、グランプリウマ娘の栄冠を手にした。今回の阪神大賞典でもそれを再現するかのような鋭い逃げ足を見せる彼女である。このまま、差を広げて逃げ切るかと思われた、その時だった。 『それに続くのはナリタブライアン!』 マヤノトップガンをぴったりとマークし上がってきたのはナリタブライアン。 (やらせんッ!) 彼女の後ろに控え、いや先頭に立つ彼女を突き刺さんばかりに、彼女もキレのいいコーナリングを見せる。

2 21/08/11(水)01:40:56 No.833567924

曲線のプロフェッサーとでも言えばいいのだろうか。外差し準備を整えるように、マヤノトップガンの外に彼女は位置取りをする。昨年の有マ記念で彼女は4着だった。体調不良を押して出たレースであっただけに、精彩を欠いた結果となったのだが、その結果は彼女に激しい闘志を蘇らせた。絶対に二度とは負けない。三冠バの誇りにかけて、同じ相手には二度と負けない。その強い信条が走りに現れるかのように、彼女の脚は冴えわたっていく。 『一気にマヤノトップガン先頭!!!その外にはナリタブライアン!!!この2人が並んで駆けていく阪神競バ場!!!』 大きな歓声が2人を迎えた。興奮した歓喜の渦に、恐れをなすこともなく、不必要な興奮を覚えることもなく。 変幻自在のトップガンとシャドーロールの怪物は、400m先のゴール版を目指して、すべてを出し尽くそうとしていた。

3 21/08/11(水)01:41:16 No.833568021

『マヤノトップガン!!!ナリタブライアン!!!2人が完全に並んでいる!!!これは完全にマッチレースになるのか!?』 直線になっても足色が衰えることは全くない。マヤノトップガンは一陣の風となり、それに並びたてるのは全身全霊のナリタブライアン。 『後ろからはフェーズパレス!オギノリアルクイーン!必死に追いすがる!!!』 後続バがそれに必死に追いすがっていた。しかしその差は開く一方。 勿論彼女たちも全力なのだ。しかし、目の前の2人との差はどこまでも開いていく。 『さぁ2人が必死に身体を合わして!!!先頭は内からはマヤノトップガン!!!外からはナリタブライアン!!!お互い一歩も先頭を譲らない!!!どちらが最後の輝きを見せるのか!!?』 (マヤが…マヤが勝つんだ!!!) (絶対に!絶対にお前には負けない!!!) お互い体力のすべてを、根性のすべてを振り絞りなおも加速する。

4 21/08/11(水)01:41:38 No.833568143

『マヤノトップガン!!!ナリタブライアン!!!2人が依然並んでいる!!!並んでいる!!!』 それは200mを切っても変わらない。お互い譲ることを知らない、意地と意地のぶつかり合い。 全力全開の互角の攻防に大歓声を上げる観客たち。 しかしそんな大きな声も、10万人以上の大声援も、彼女たちには聞こえていなかった。 彼女たちの世界には2人しかいなかった。2人だけのターフを一心不乱に駆け、そして 『そして並んだままゴールイーーーーーン!!!!!』 死闘という名の2人のワルツは、ここに終わりを迎えたのだった。

5 21/08/11(水)01:41:57 No.833568232

控室にて。 「よく頑張ったな、マヤ」 トレーナーは大粒の涙を流す、マヤノトップガンの肩にやさしく手を置いた。 「うぅぅ~~~~…」 嗚咽とともに涙を流す彼女。 今回のレース、マヤノトップガンは二着でレースを終えた。一着のナリタブライアンとの差はアタマ。そして後続とは9馬身以上という、文字通り2人だけのレースだった。 「何だ、一着が欲しかったのか?」 腰に手をやり首を傾けるトレーナーに 「マヤね…、マヤ頑張ったんだよッ!あと少しだったのに…。あともうちょっとだったのに…」 依然として悔しさをぬぐい切れないマヤノトップガン。 そんな彼女に 「何言ってるんだ」 と、トレーナーは話しかけると、その場に片膝をついた。

6 21/08/11(水)01:42:16 No.833568340

そして 「俺には今日のレース、一着が二人いたように見えたんだけどな」 と言い、涙で目をはらすマヤノトップガンを見上げ、にっこり笑う。 そしてその右手は彼女の頭に載せられ、そのままトレーナーは彼女をやさしく抱き寄せた。 「よく頑張ったな、マヤ」 マヤの鼻孔をくすぐったのは、シトラスの香水の匂い。柑橘類のベッドに心が沈んでいくように、穏やかに心が落ち着いていく。 「うん…!」 いつの間にか、彼女の涙は止まっていた。次は勝とう。次のレースは優勝しよう。強い決意が彼女の心に根付き始める。自然とマヤノトップガンも、その小さな両手を、トレーナーの背中に回していた。

7 21/08/11(水)01:42:31 No.833568440

そんな最中だった。 控室をノックする音がした。 その音にトレーナーとマヤノトップガンはお互いに離れると、その場に立ち上がる。 「いいか、マヤ」 と確認したトレーナーに対して 「うんッ!」 涙で濡れた目をこすり、にっこりと笑うマヤノトップガン。 この切換の速さが彼女の持ち味だ、と再確認したトレーナーは、ぽんぽんと頭に手をやり 「はーい、どうぞ!」 と、ノックした主に声をかける。 ゆっくりとドアが開かれ、そこに現れた者の姿を見て 「あ!」 と、マヤノトップガンは目を見開き、歓迎の声を上げるのだった。

8 21/08/11(水)01:46:51 No.833569589

翌日。 3月上旬、中山競バ場。 日曜日、第11レース。G2、中山記念。芝1800m。 天候は晴、バ場は良。 レースは最終局面、第四コーナーの出口を迎えていた。 『皐月賞ウマ娘ジュラルミン!後方から2人目から3人目!ちょっと苦しいぞジュラルミン!最内から抜け出してくることができるのかどうか!?』 ジュラルミンは前のウマ娘を見て非常に苛立っていた。目の前が壁になり、自慢のスピードを出し切ることができていなかったからだ。 (遅い!遅すぎる!!!早くその場をどいてくれ!!!) せっつくように足色を輝かせ始めるジュラルミン。 最後の直線で全部差し切ってやる、そう心にカミソリのような鋭さを持ち、目の前のバ群をにらみつける。

9 21/08/11(水)01:47:11 No.833569673

『さぁ先頭はレールアゲイン!レールアゲイン!』 しかしバ群はバラけず、そのまま直線に差し掛かるウマ娘たちである。 依然として後方の位置取りとなっているジュラルミン。自慢のスピードが出せないのは、問題は彼女が内側を走り、目の前に壁が出来てしまっている事が大きい。なおかつウマ娘が広がっているため、外から回り込むにもロスが大きいようである。 (くっそ…こうなったらァ!!!) 全体を見たジュラルミンは、逆に最内側を通り、ぐいぐいと無理やりコースをこじ開けるようにトルクをかけて走り始める。 『ジュラルミン抜け出すことができるのか!?残り200mを切った!!!」』 (こんんおぉぉぉぉぉおおおお!!!!) 力任せのコース取り。自慢のトルクで無理やりルートをこじ開けるジュラルミン。

10 21/08/11(水)01:47:44 No.833569823

力任せのコース取り。自慢のトルクで無理やりルートをこじ開けるジュラルミン。 そして 『ジュラルミンが来ている!!!ジュラルミンが来ている!!!』 それが身を結んだ。ついに最内側からジュラルミンは先頭に立つ。 (よっし!このまま…!!!) このまま自慢の末脚を繰り出し、一着でレースを終える。そう彼女が確信を持ち、前傾姿勢をとったその時だった。 『外からスリゼローレル!!!スリゼローレル!!!スリゼローレルも来ているぞ!!!』 大外から飛んできたウマ娘がいることに気づいたのは。 そしてその足色が尋常でないことに気づいたのは。 『ジュラルミン!!!スリゼローレル!!!ジュラルミン!!!スリゼローレル!!!』

11 21/08/11(水)01:48:38 No.833570076

ジュラルミンはその名を初めて意識した。 背の高く足の細長いウマ娘の繰り出す末脚が、遥か彼方まで伸びでいくものだと。 (こんなところで!こんなところでぇえぇぇえ!!!) 自分は皐月賞ウマ娘だ。今日の距離は芝1800mだ。誰にも負けるはずのない距離だ。そう彼女は自信を持っている。 しかし、外を並走するウマ娘を追い抜くことができない。いくら足を繰り出しても並走するのが精いっぱい。 その時、彼女は気づいてしまった。追い抜くつもりでなくなっていることに。必死に先頭のウマ娘縋ろうとしていることに。 「何なんだ…!」 ゴール手前100m。ついに彼女の口から言葉が零れ落ちる。 「何なんだお前はよぉ!!!!!」 心の底から叫び出た言葉をよそに、彼女は前だけを見て走る。 彼女の瞳は前を向き、その耳は何も聞こえていないようだった。

12 21/08/11(水)01:49:03 No.833570176

そして 『スリゼローレル!!!スリゼローレルです!!!』 スリゼローレルはゴール版を駆け抜けた。二着のジュラルミンとの差は1と1/4バ身差。見事なまでの完勝だった。 『なんとレースは一年一か月ぶり!!!怒涛の末脚!!!その根性は底知れずの実力者!!!』 興奮した実況の声が、中山競バ場に響き渡る。観衆たちが雄たけびを上げる。 そんな観客席に向かって手を振る彼女。その顔はどこか穏やかで、そして大樹のように落ち着き払ったものだった。 この1年。それは苦難の道のりだった。医師には競技能力喪失と判定された大怪我。 それを乗り越えるのには、心身ともに尋常ならざる苦しみを背負い、這いずるように前を向くしかなかった。 それでも彼女は諦めなかった。どんなに身体が満足に動かせなくとも、先の見えないリハビリに希望を失いそうになっても。絶対に前に進むことから逃げなかった。 『今年の中山記念!!!一年一か月ぶりのスリゼローレルが制しました!!!』 桜の花がつぼみから花開くこの時期、スリゼローレルは完全復活を遂げた。

13 21/08/11(水)01:49:31 No.833570285

控室にて。 「優勝おめでとう、ローレル」 「ありがとうございます。トレーナーさん」 トレーナーから語られた言葉に、にっこりと笑い、汗をタオルで拭うスリゼローレル。 「どう?一年一ヶ月ぶりのレースは。そして初めてのG2レースの勝利は」 そう問うトレーナーだったが、一番驚いているのは実はトレーナー本人だった。 レースでは自分のウマ娘を信じてやまない彼女である。しかし今回ばかりは少々事情が異なっていた。 一年以上レースに出ていない病弱なウマ娘を送り出すによって、彼女が一番に考えたのは『無事に帰ってきてほしい』それだけだった。それがどうだ、まさかの復帰初戦のG2レースで勝利。さらに皐月賞ウマ娘に完勝。無事に帰ってくるどころか大金星をひっさげ帰ってきたのだ。

14 21/08/11(水)01:49:44 No.833570332

「どう、なんでしょうね」 一方で、スリゼローレルの表情は打って変わって穏やかなものだった。 「なんか…あんまり実感がありません。ちゃんと走れたって気持ちはあるんですけど」 そう微笑みかける彼女の表情には激しい歓びも、歓喜の涙の色も一切なかった。 まだ勝ったという実感が薄いのだろう、トレーナーが思った瞬間。彼女の携帯のラインに着信音が響いた。 「あ、そろそろ来るみたい」 ラインの画面を見て、そうトレーナーはスリゼローレルに話しかける。 それは誰かが控室に訪れることを意味していた。 そしてそれは 「久しぶり!」 そうスリゼローレルが笑顔で話しかけるほど、親しい者の姿だった。

15 21/08/11(水)01:50:51 No.833570633

同日、夕刻。東京環状線にて。 水色のポルテが、東京都府中市を目指して走っている。 「すごいね、ローレル先輩」 そう助手席に座るウマ娘が声を掛けた。 「そうですね」 トレーナーはそれに微笑み同意する。 「昨日のマヤちんもすごかった」 「はい、二着でしたけど…限りなく一着に近い二着でしたね」 夕日の景色を浴びながら、高速道路を走る車の中で、マーベラスサンデーとそのトレーナーは、ここ2日間のレースを振り返っていた。菊花賞で競うはずだったグランプリウマ娘、マヤノトップガンの惜敗。再起不能と言われたスリゼローレルの復活劇。

16 21/08/11(水)01:51:45 No.833570853

「ねぇ、トレーナーちゃん」 「何ですか、マベちゃん」 マーベラスサンデーは、レースで得た力強い思いをそのままに 「アタシもあんなマーベラスなレースがしてみたいな☆」 と、トレーナーににっこり笑いかけた。 「出来ますよ、マベちゃんなら」 トレーナーも優しく微笑み、彼女の瞳に輝く一等星に視線を送る。 次のレースは1ヶ月後。阪神競バ場の明石特別。 その思いを二人は胸にし、赤く焼けつくような夕日に染まる世界の中、家路につくのだった。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する fu237953.txt

17 21/08/11(水)01:53:20 No.833571207

いよいよか…

18 21/08/11(水)01:56:17 No.833571933

マベちん頑張れ...

19 21/08/11(水)01:57:42 No.833572271

おい待てェ レース描写もキャラも熱くてとても好き

20 21/08/11(水)02:51:51 No.833583542

未実装のウマも細かく描写してくれるから興味湧いてきて調べるきっかけになる

21 21/08/11(水)03:16:30 No.833587376

過去ログ漁った ここからが本番なのに凄い密度…

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