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21/08/09(月)21:44:06 No.833129843
前回までです sp93361.txt
1 21/08/09(月)21:44:28 No.833129993
「号外、号外でーす!」 天皇賞・春の翌日、号外を掴んで手渡す声が街中に響く。号外には大きく見出しが表示されていた。 『巨星墜つ 前年度覇者メジロマックイーン敗れる』 『”魔帝”トウカイテイオー 前人未到の無敗クラシック三冠・春シニア三冠に王手』 『ウイニングライブで宣言 宝塚記念でついに”皇帝”シンボリルドルフと直接対決か』 この内容はトレセン学園でも生徒たちの間で大きな話題になっていた。
2 21/08/09(月)21:44:50 No.833130128
「凄い…テイオーちゃん、まさかマックイーンちゃんに勝つなんて…。」 「宝塚記念に勝ったら、無敗でGⅠ6勝ってこと!?」 「うーん、でも会長がもし出てきたら流石にテイオーちゃんでも負けるんじゃない…?」 「会長なんて、感謝祭で八百長してたじゃん…そんなのに負けるわけない!」 「ちょっと…!あんた、いい加減にしなさいよ!あんなの雑誌で勝手に書かれてただけじゃない!」 「何よ!写真だってあったじゃん!!」 「ふ、二人とも…やめなよ…!」 そして─当然生徒会にもこの話題は届いていた。
3 21/08/09(月)21:45:03 No.833130222
~~~ 【生徒会室】 「…申し訳ありません。」 エアグルーヴが、生徒会長席に座るハルウララ─シンボリルドルフへ深々と頭を下げる。少しして、顔を上げた。 横には、ナリタブライアンがその様子を座りながら見ていた。 「私が、テイオーに誤解させた件をもっと早く報告していれば…こんなことには…」 「どうして会長に報告しなかったんだ?」 「…それ、は…。」 「会長がテイオーに入れこんでいたことを知っていたからこそ、自分のミスを隠そうとしていたんじゃないのか?」 「ッ…!!」
4 21/08/09(月)21:45:22 No.833130335
図星を突かれたエアグルーヴが顔を歪める。と、ハルウララが手を上げた。 「ブライアン、もういい…。エアグルーヴは彼女なりに私を気遣ってこその行動だったはずだ…。」 そう言ったハルウララの表情も、酷く落ち込んでいる様子だった。目からは生気が失せ、顔が少し青白く見えるほどだった。 「おい…会長、今の状況が分かっているのか?昨日のテイオーの宣言は、あれは遠回しなアンタへの批判だ。要するに、『八百長をする会長なんてありえない、だから引き摺り落して自分が次の会長になる』って言ってるんだぞ。」 「……まさか、テイオーがあんな雑誌の与太話を信じるとは思っていなかったが…。」 「だから、それが見通しが甘いってことだよ…!第一、テイオーが持つアンタへの憧れは並大抵じゃない。だからこそ、それが反転した時の憎悪も半端じゃないんだ。」 「テイオーが……私に、憎悪を……。」 ハルウララが俯き、ぎゅっと縮こまる。ここまで気を落としている様子は、ナリタブライアンもエアグルーヴも初めて見る光景だった。 その時、生徒会室の扉がノックされる。外から聞こえた声は、まだ中等部ほどの幼いものだった。
5 21/08/09(月)21:45:36 No.833130420
「あのっ、すいません!今教室で、生徒同士で暴動が起こってて…!誰か止めてもらえませんかっ…!!」 ふーっ、とため息をついたナリタブライアンが頭をぼりぼりと掻くと、席から立ち上がる。 「全く…ここのところ生徒間での衝突が起こり過ぎだ…!さっさとどうにかしないと、学園内で分断が起きるぞ。…いや、既に起こっている、が正しいか…。」 扉を開け、ナリタブライアンが対応の為に部屋を後にする。残ったハルウララ、エアグルーヴ、そして─ずっと部屋の隅で話を聞いていたシンボリルドルフ─ハルウララの3人は、誰も何も言い出せずにいた。 最初に沈黙を破ったのは、シンボリルドルフだった。 「…ねえ、るどるふちゃん。ウララ、ていおーちゃんとけんかしちゃって…それで…」 「分かってる…大丈夫だ。全て私の注意不足だ。もっと皆に気を配っていれば…」 「ううん、そんなことないよ…それに、ていおーちゃんはるどるふちゃんが、かんしゃさいでずるしたって…でも、それってただしくないもん!」 「…ウララ…。」
6 21/08/09(月)21:45:59 No.833130571
「でもね、いまのていおーちゃんじゃ、きっとおはなしをきいてくれないから…だから…ウララ、たからづかきねんで、ていおーちゃんにかつよっ!」 「なっ…!?ほ、本気か!?」 「ほんきだもん!もしていおーちゃんにかったら、『こんなにつよいるどるふちゃんがずるなんてするわけないー!』っておもってくれるはずだもん!!」 「いや、しかし…!」 「…いえ、会長。確かにウララの言う通りです。」 2人のやり取りにエアグルーヴが口を出す。 「エアグルーヴ…!」 「どちらにせよ、今の状況ではテイオーに何を言っても逆効果でしょう。それに、今のテイオーは…その…会長への、強い憎悪の感情に囚われています。テイオーの目を覚ますには、宝塚記念でテイオーに勝利する他無いでしょう。」 「しかし、それは…!」 「ええ。今の会長はウララの身体。ですから、ウララに勝ってもらうしかありません。」 「無理に決まっている!まだメイクデビューもしていない子と、クラシック三冠のテイオーが勝負になる訳が…!」
7 21/08/09(月)21:46:18 No.833130697
「そこは何とかするしかありません。幸い、身体は”皇帝”シンボリルドルフですから、トレーニングと作戦を駆使し、どうにか勝負の出来る状態に…。」 「駄目だ!これは私の問題だ!!ウララを巻き込むなんて、そんな…!」 ハルウララは机をたたき、立ち上がってエアグルーヴを睨みつける。その瞳には、不安、心配、困惑、動揺、様々な感情が綯い交ぜになっていた。抑えきれぬ感情で手を震わせていると、そっとその上から別の手が重なる。はっとしたハルウララが振り向くと、シンボリルドルフがじっと目を見つめながら目を合わせた。 「るどるふちゃん。ウララ、がんばるよ。すっごくすっごくがんばる。ぜったいかつよ。」 「…………ウララ。」 その眼差しの前に、ハルウララは何も言えなくなってしまった。エアグルーヴがぱん、と手を叩く。 「よし、そうと決まれば今日からトレーニングだ。宝塚記念までもう2か月もない。」 「うん!ウララ、がんばるーっ!!」 張り切るシンボリルドルフ。だが、それを見るハルウララの表情は曇ったままであった。
8 21/08/09(月)21:46:51 No.833130908
~~~ 【廊下】 「チッ…面倒な事だ…。」 悪態をつきながらナリタブライアンが生徒会室に戻る。どうにか暴動を抑えたものの、その原因となった2人のウマ娘はついぞ和解することは出来なかった。 (…最近は学園内の雰囲気が常に悪い。ピリピリしていて居心地が悪い事この上ない。生徒同士は常に些細なことでいがみ合い、小さな衝突が絶えなくなっている。いや、今はまだこの程度だろうが…このままじゃ、いつか大きな事件でも起きちまうぞ…。) 学園内の不和の原因。ナリタブライアンはそれに気づいていた。 生徒会長─シンボリルドルフへの信頼の失墜。 今まではシンボリルドルフの実力と強烈なカリスマが生徒を一つにまとめ上げることにより、学園は秩序を保ち続けていた。だが、それは逆に言えばシンボリルドルフという支えを失ったときに、生徒同士の心がバラバラになっていくことを示している。事実、学園内衝突のほとんどは生徒会長支持派と反生徒会長派の2つによるものだった。
9 21/08/09(月)21:47:13 No.833131054
更に、昨日の事もあってかトウカイテイオーが新生徒会長になればいい、と主張する者まで現れ始める始末である。このままではトレセン学園が内部から崩壊するのは時間の問題だった。 (クソッ…元はと言えばあの感謝祭から全部狂い始めたのか…。あの地方のウマ娘による嘘の供述のせいで…!) しかし、嘘だと言おうにもあちらは写真という一見決定的なものまで揃えていた。そのためこちらの供述にはまるで説得力もない。 だが、逆にあそこまで完全に準備された証拠に、ナリタブライアンは何か用意周到な、作為的な意思を感じ取っていた。 思案に暮れながら廊下の曲がり角に差し掛かった時、その奥から聞き覚えのある声がした。咄嗟に身を隠し、そっとその声の方を角越しに覗く。 「…昼間にはかけてこないでください……いえ、そういうわけでは……今日、ですか……分かりました。ですから、あのテイオーの写真は……はい……はい、では、放課後に………。」 声の主はトウカイテイオーのトレーナーだった。どうやら電話をしているらしかったが、ナリタブライアンはある部分が引っかかった。
10 21/08/09(月)21:47:31 No.833131176
(テイオーの写真…?それにあの反応、まるで借金の取り立てにあっているかのような、抑圧的な反応だ…。) テイオートレーナーが電話を切ると、ため息をついて廊下を歩いていった。だが、その足取りが重いように見えたのは、気のせいとは思えなかった。 (…放課後、とか言っていたな。ふむ…。) ~~~ 【放課後】 「…本気かい、ルドルフ?」 生徒会の仕事を早く切り上げてやってきたトレーニング用のトラック。そこで、ジャージ姿のシンボリルドルフを見て、シンボリルドルフのトレーナーは問いかける。 「多分あのテイオーの挑発が原因なんだろうが…真に受ける事ないだろう?それに、幼児退行をしている今のルドルフじゃあ、とてもじゃないがレースを走りきれるとは思えない。」
11 21/08/09(月)21:47:51 No.833131334
「でもっ、ていおーちゃんにかたなきゃ…ずっとていおーちゃんはかんちがいしたままだもん!」 「勘違い?…それって、あの感謝祭の事件の事か?まさか、テイオーが真に受けているはずは…」 同じくジャージ姿のエアグルーヴがシンボリルドルフの背後から現れる。 「いえ、トレーナー。そのまさか…なのです。原因は…私にあるのですが…」 「なんだって?」 「誤解を解こうにも、今のテイオーには我々の声は届きません。あるとすれば…」 「…宝塚記念に勝つしかない、ってか。ふーむ…そういう理屈かどうかはわからんが…。」 「それに、こちらを見てください。」 エアグルーヴが差し出したのはスマートフォンだった。その画面には、電子掲示板が表示されていた。 「なに…『シンボリルドルフを宝塚記念に引きずり出して万座の前で叩き潰そうぜ』…って、なんだこれ!?」
12 21/08/09(月)21:48:07 No.833131444
「ご存じの通り、宝塚記念はファン投票で出走できるウマ娘が決まります。そこを逆手にとって、各掲示板で会長に組織票を投じ強制的に出走させようとする動きが発生しています。」 「どっちにせよ、宝塚記念には出場せざるを得ないってことか…。」 ルドルフトレーナーは顎に手を置き考える仕草を取る。暫くして、やっと口を開いた。 「……分かった。だが、もし出走が無理だと俺が判断したら、すぐに参加を取り下げる。それでいいな?」 「うんっ!がんばるよっ!!」 「はは…元気なのは何よりだ。よし、それじゃあ準備体操をしたらすぐにトレーニングを始めるぞ!」 エアグルーヴがふと空を見上げる。真っ赤な太陽に染められたオレンジの空が目を晦ませた。 (……それにしても、ブライアンめ。『用事がある』とだけ言い残して先に帰りおって…。)
13 21/08/09(月)21:48:26 No.833131587
~~~ 【公園】 少しずつ空が暗くなり始める頃、テイオートレーナーが入り口から公園内部に入る。きょろきょろと周りを見渡しながら、ゆっくりと公園の奥まで進んでいった。 「おいおい、挙動不審過ぎるだろう?不審者かと思うぜ?」 びくり、と声に反応する。だが、それはその声が唐突に自分へ投げかけられたことだけが原因ではなかった。ゆっくり声の方へ身体を向けると、そこには黒服の男が立っていた。 「……約束通り、来ましたよ。」 「クク…見りゃあ分かる。電話には言いつけ通り3コール以内で出るし、お前も中々素直だな?」 「黙れ…!あの写真さえなければ貴様など…!」 「おい、勝手に喋るんじゃねえよ。主導権は常にこっちにあることを忘れるな。」
14 21/08/09(月)21:48:41 No.833131697
ぐっ、と歯を食いしばるテイオートレーナーを見て、黒服の男はにやりと不敵な笑みを浮かべる。 (……なんだ?テイオートレーナーと…あの黒服の男は何者だ?) そして─テイオートレーナーの後を付けてきたナリタブライアンが、公園の入り口に隠れながら2人のやり取りを見ていた。 「さあ、これからもっともっと俺の為に動いてもらうぜ…お前にも、トウカイテイオーにもな。」 闇が満ち夜になる。その闇に混ざるように、黒服の男の悪意は蠢き始めた。
15 21/08/09(月)21:48:51 [s] No.833131776
次回に続く
16 21/08/09(月)21:50:26 No.833132449
楽しみにしてたぜ
17 21/08/09(月)21:53:36 No.833133763
なんとか解決の糸口が見えてきた感じか…? これ何割まで進んだんです?
18 21/08/09(月)21:57:34 No.833135372
来てたか 毎度続きが気になる
19 21/08/09(月)21:57:37 [s] No.833135398
>なんとか解決の糸口が見えてきた感じか…? >これ何割まで進んだんです? あの…非常に言いづらいんですけど…だいたい半分行ったかどうかという感じです… その代わりじゃないですが完結まではプロット出来ているので最後まで必ず書きとおします。
20 21/08/09(月)21:58:35 No.833135834
ちゃんとプロット立てて書いてるの力の入れ方がすごいな… 期待してる
21 21/08/09(月)21:59:44 No.833136310
そんなに読んでいいのか!?
22 21/08/09(月)22:20:46 No.833145621
半分!?