ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/08/08(日)08:18:26 No.832448139
明けの明星。麗しのヴィーナス。その傲慢なまでの輝きは、まったくもってあのテイエムオペラオーに近い。夜空に最初に浮かぶ一番星より目立ってしまうんだから、まったくもって憎たらしい。 「ベガ、どうしたの」 「ああ、トレーナーさん。何かありましたか」 「いやいや、私じゃなくてあなたでしょう。そんな憎らしげに夜空を見上げるベガなんて初めて見たよ」 別にあの人のことが憎いというわけではないのだが。いや少し対抗心はあるかもしれない。 「貴女には関係ない」 「むー、そうやってつっけんどんに。せっかく可愛いのに」 私のトレーナーさんはそういうことを真顔で言うから質が悪い。その後にケラケラ嘘のバレた子供のように笑うのも質が悪い。
1 21/08/08(日)08:18:44 No.832448188
「…それより、そろそろ考えてくれました？トレーナー解約の件」 「結論は伝えたはずだけど」 「考える、というのは解約するまでに決まってるでしょ」 「バカらしいことを」 一気に険悪になる。ダービーのしばらく後、私は長期療養に入った。まだ続いている。永遠に続くかもしれない。だから、貴女には縛られてほしくない。 それを直に言えないのは、私の弱さだ。 「私はあなたのトレーナー」 「私のトレーナーは貴女でしょうけど、私にはもうトレーナーは必要ないかもしれないのよ」 …はあ。堂々巡りの気晴らしに、空を見上げても。まだ浮かぶのは明星だけで。あのオペラオーのトレーナーなら、こんな苦悩はしなくて済んだかもしれないのに。どうして貴女は、私のトレーナーなのだろう。 「じゃあ、どうするわけ？一人で寂しく生きてくの？」 「…別に」
2 21/08/08(日)08:18:58 No.832448232
別にいいじゃないか。契約が切れたなら、それでしまいだ。私たちにはもう縁はなくて、後は野となれ山となれ。 「…契約した時のことをもう一度思い出す必要がありそうね、ベガ」 「…覚えてるわよ」 流石に忘れるわけがない。 私が一人、孤高に走るのを美徳と嘯いていた頃。私と貴女は出会った。 貴女はとりあえずダービーまで、と言って。私もそれに了承した。ビジネスライクなそれは、それ以上でもそれ以下でもない。そのはずだ。 「そう、そのとりあえずって部分よ」 「ダービーまで、よりそっちですか？」 「もちろん。歳上の言うことは聞くものよ」 「学生に向けて指導者が言う論理としては、些か弱そうですが」
3 21/08/08(日)08:19:17 No.832448287
こう言った口喧嘩は実は初めてではない。しょっちゅうだ。だから私はもうすでにこの時点でなんとなく諦めているのかも。いい意味で。 「いつだったか言ったよね、私をお姉様と呼びなさいと」 「そう言ったらそうなるわけではないですけどね」 これだ。私たちがやっているのは大凡姉妹喧嘩で、この繋がりが私たちを強くしてきた。 「そーやってあんたはいっつもお姉ちゃんに歯向かうよねえ」 「姉になってもらった覚えはないけど」 こうやって、こうやって。いつしか最初の理由も忘れて、心と心が通じていく。 「あー、じゃあ契約解除しよっかな！しーちゃおっかな！」 「…本気じゃないよね？」 こうなったらもうお手上げだ。私は見事に姉の手玉に取られてしまう。
4 21/08/08(日)08:19:37 No.832448348
「…ベガは私の姉妹だと、それくらい大事に思ってるのはほんとだよ」 「…トレーナーさん」 「…ふふ！でもさ。私には走れないし、貴女にしかできないことがたくさんある。だから、まだ貴女を支えたい。支えることしかできないなら」 「そんなこと、ないよ。…いっつも頑張ってるよ。私のリハビリだって、たくさん考えてくれたし。…だからさ」 「泣かないでよ、お姉ちゃん」 いつのまにか、泣いていた。互いに、互いに。抱き合って、涙を拭きあって。今だけ本当の姉妹のように。いや、今からずっと。そうであってもいい気がした。 明星と一番星が、二つ横並び。 「あれが今日の一番星？」 「あれは金星です。地球の姉妹星とも呼ばれています」 「へーえ、姉妹星。いいねえ、姉妹って。…ねえねえ、もう一回お姉ちゃんって呼んでよ」 「…やだけど」 「…だと思った。お姉ちゃんはなんでもお見通しだよ」 「…知らない」
5 21/08/08(日)08:19:48 No.832448381
あのうるさいほどの光が、この母なる大地の姉妹とは。全くもって信じられない。オペラオーに喩えたのは間違いだったかな。 ああ、でも。私は貴女に焦がれている。純粋な輝きが、一番星とはまるで違うその黄金が。 今日も貴女に引き摺られるように導かれる。 そして、それは。貴女からの私も、そうであるなら嬉しい。 私を姉と慕わせることに、仄暗い悦びは確かにある。自ずから輝く恒星のようには、私は決してなれないから。照り返しによる偽りの輝き。ああ、私の本質は暗い岩塊。海に憧れ陸に憧れ命の輝きに憧れて。空っぽの黄金惑星。 私には、手が届きそうで届かなかったもの。どうして尾がないのか何度も尋ねた。どうして走れないのか何度も問うた。答えはなく、ただ運命の巡り合わせに沈黙する。 だから私は、確かに貴女に焦がれている。暗く、深く。黒く。蠢くのみ。それを金の衣で包んで、一番星のそばを纏うのだ。 ねえ、もっと輝いて。
6 21/08/08(日)08:24:52 No.832449207
もしかして曜日で続いてる？
7 21/08/08(日)08:26:09 No.832449434
>もしかして曜日で続いてる？ 一応テーマは曜日の惑星で組んであります… 月。Moon.あなたの一番そばにいる星。 火。Mars.あなたに一番似ている星。 水。Mercury.あなたの一番幼い星。 木。Jupiter.あなたの一番大きな星。 金。Venus.あなたに一番焦がれる星。 土。Saturn.あなたの一番目を引く星。 日。Sun.あなたの一番を疑わない星。
8 21/08/08(日)08:36:56 No.832451548
今とりあえず出てるの全部見てきたけど全部好き
9 21/08/08(日)08:51:21 No.832455127
ワイも好き
10 21/08/08(日)09:24:58 No.832464289
好きだから続き書いてほしい…！ まとめて出してほしいいいい！！