虹裏img歴史資料館

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21/08/07(土)02:38:23 「久し... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1628271503781.jpg 21/08/07(土)02:38:23 No.831995841

「久しぶり、というほどでもないけど…また此処に立てるとは思ってみなかったなぁ」 生徒達が走る学園コースの芝上で、兄さんは大きく深呼吸すると生き生きと広がる緑の絨毯を嬉し気に眺めました。そこでは誰が走っているのでしょう、私でしょうか、それとも。 「しかし、ネイチャさんが何処の療養所に行ったかサブトレーナーだった兄さんにも秘密だなんて、思いもよりませんでした」 「今のネイチャの担当は桐生院さんとこだし、俺は病人で、世の中はこの騒ぎだしなぁ。仕方ないさ。誰か知ってればいいけどなぁ」 少しだけ落胆のため息を吐いたものの、すぐに明るい笑顔を兄さんは見せてくれました。 「でも、またイクノさんの走りを生で見られるな」 「私も兄さんからまた直接指導を受けることができます。期待していますよ、トレーナー」 「まぁどんと泥船に乗った気持ちで任せておきなさい」

1 21/08/07(土)02:38:55 No.831995948

私が苦笑するのに合わせて悪戯っぽい顔をする兄さんに、心の中で私たらしと呟きながら改めて握手をする。 数か月休養期間の中で、基礎から作り上げてデータを取り、さらに実戦へと移ることになります。フェーズ2です。これからが世間に付けられている鉄の女という二つ名の面目躍如という所でしょうか。 「よーーーーーう!」 そうしていると、ふとコースの向こうから声が聞こえてきてマヤノトップガンさんのトレーナーが、手を振ってこちらに走ってきました。そのまま相撲でもせんとばかりに手を広げてきたので、兄さんは脚を前に出すと抱き着こうとしてきた人の顔面にむぎゅうとめり込ませます。 「あだっ! おい、数か月ぶりの悪友の再会だってのにハグもなしかよ」 「男とやるシュミはないもんでね」 「そりゃあ気が合うな。実は俺が抱き着きたかったのはイクノちゃんの…冗談だから歯をガチンガチンさせないでマヤノさん」 その背中から、じっとりとした目線で自分のトレーナーさんを見るマヤノトップガンさんも顔を出してきて、兄さんを見ると可愛らしい笑顔で手を振りました。

2 21/08/07(土)02:40:15 No.831996171

「ずっと顔見ねぇと思ったら、入院してたって聞いて驚いたぜ。どうして知らせてくれなかったんだよ」 「男に見舞いされてもなぁ」 「そりゃそうだが…イクノが一人でレースに出なきゃいけないぐらい体悪かったのか? それに、ネイチャ、あの子にはお前が一番に駆けつけるとばかり…思ってたんだが。その、弟さんのことは…」 「……あぁ」 「あぁって、お前…」 話から逃げるようにコースへと視線をずらした兄さんに、マヤノさんのトレーナーは口を噤んで苦々しげに目を逸らしました。自分が入り込んではいけない場所に気づいたのでしょう、兄さんだってネイチャさんと同じぐらいに、それ以上にその心に傷を負っているに違いないのです。 「トレーナーちゃん…」 そしてその二人から何かを感じ取ったのでしょう、マヤノさんが同じように耳を後ろに伏せて顔を向けていたので大人二人は慌てて、私達に笑顔を見せました。

3 21/08/07(土)02:40:29 No.831996202

「よう、マヤノさん。数か月見ないうちに背ぇ伸びた?」 「うん…うん! だってトレーナーちゃん、デートに誘ってほしけりゃ身長二十センチ伸ばして来いっていうんだもん。だから色んなことやって、昨日みたら三センチも伸びてたの! 凄いでしょ~!」 「はぁ!? おまっ今年測定したばっかなのに、いつの間にそんなに伸びたんだよ…」 「成長期だもんなぁ。イクノさんは背は伸びたっけ?」 「ヒミツです。それよりもネイチャさんの療養所の場所は何処かご存じありませんか?」 あんなに遠かった貴方の顔が、背伸びをすれば唇に届くようになりましたよ。なんて、そうそういえるはずはなく、はぐらかしも兼ねて顔が広いマヤノトレーナーさんに尋ねると、彼は腕を組んで顔を傾げました。 「いや、俺も知らんな…キングヘイローのトレーナーや桐生院さん達は知ってるようだが…教えてくれるかどうか…会いたいのか?」

4 21/08/07(土)02:41:05 No.831996302

「まぁ、な。会って謝らなくちゃいけないことが沢山ある」 「それよりも、一つ抱きしめでもして話を聞いてやった方がいいと…あ、ごめん…」 「なぜ私に謝るのですか?」 ただ視線を向けていただけなのに。そんなに私の目は鋭かったのでしょうか、メガネが大きいからかもしれません。えぇ、きっとそうでしょう。 「まぁとにかく、聞くんなら桐生院さんの方が確率は高いだろうな。お前がサブトレーナーだったのも知ってるだろうし。あ、でも今日はチームみんなで焼肉とか言ってたな」 「んじゃあ、明日以降か。じゃあ暇なら、久しぶりのイクノさんの練習にマヤノちゃん手伝ってくれると助かるなぁ…報酬はコイツとのデートで」 「ホント!? やるやる! マヤちん、テイクオーフ!」 「はぁあ!?」

5 21/08/07(土)02:41:32 No.831996379

顎が外れんばかりに口を開けた兄さんの友人にみんなで笑うと、なんだか本当に兄さんは戻ってきたんだという実感がわいてきて、暖かいものが心に染み込んできます。しかしそのために犠牲となった、選ばせてしまった、弟さんとネイチャさんに、少しだけ心が痛むのでした。 「すいません、今お話しいいでしょうか~」 その時でした、後ろから声がかかったと思うと、手帳とペンを持った男の人が立っていました。見るからに雑誌などの記者であり、許可を受けたとは思えません。 「トレーナーちゃん、あの人ワッペン持ってない!」 「あぁ、迷惑記者野郎だ。たづなさんに連絡して、警備員さんに連れってもらわなや」 何より入園を許可された者が付けるはずのワッペンもありません。 マヤノさんの指摘に兄さん達も、にこやかな顔を引き締めて男の方を見ました。 「貴方、ネイチャさんのトレーナーさんのお兄さんですよねぇ」

6 21/08/07(土)02:42:03 No.831996489

「すいません、此処は関係者以外立ち入り禁止なんですよ。看板見えませんでした?」 「いやぁ、少しお話を聞かせてもらうだけでいいんですよ。ネイチャさんのと関係といいますか」 「すいませんが、俺も退院ばっかりで体調が悪いんですよ。後日また来てくれませんかね、次は許可取ってくれると助かります。もう練習ですんで」 「弟さん、ネイチャさんのレース会場に向かおうとしていた時の事故のようで。初の重賞勝利って時に、悲しかったでしょうねぇ。お兄さんは弟さんの跡を引き継ぐ気はあるんですか?」 記者から背を向けようとした兄さんの脚が止まって、その顔は月の無い夜のように感情の一つも出ていませんでした。代わりにマヤノトレーナーさんの額には青筋が浮かんで、大股で記者の方へと距離を詰めていきます。 「そんなに言うんならインタビュー受けやろうじゃねぇか、ただし相手は警備員で、そのあとすぐに警察からアンタがインタビュー受けることになるがな。マヤノ、イクノちょっとコースをゆっくり走ってこい、たづなさんの手を煩わすまでもねぇ」

7 21/08/07(土)02:42:22 No.831996541

「ま、待ってくださいよ。別に、ネイチャさんのネガティブキャンペーンしようってんじゃないんだ。ぎゃ、逆だよ…」 長身の彼の迫力のある姿に、慌てた記者さんがそういうと懐から雑誌を一つ取り出しました。 「どういうことだ?」兄さんがマヤノさんのトレーナーを手を抑えてそう言いました。。 「こ、言葉通りさ…み、みんな逆なんだよ…こ、これ見てくださいよ…」 男から雑誌を見て、兄さんは思わず持った場所から握りつぶしてしましました。そこの表紙にはナイスネイチャさんがしかし、題名は「悲劇のウマ娘、亡きトレーナーとの絆」と書かれていて、批判の文字は一つもありません。 「なんだこれは…」 「今日出たばかりさ。これだけじゃない、有名人や芸能人だってナイスネイチャに好意的なコメントを出してるし、批判していたコメンテーター、評論家、どこも手のひら返しを始めてる…」

8 21/08/07(土)02:42:59 No.831996649

「ふざけんな。まだたった数週間だぞ、評価が変わるどころか十万のファンを怒らせるだけだろうが、バカにしてんのか」 「か、変わりますよ。い、今のネイチャさんの事態だって燃え広がらせたのはファンですがね、火種はみなメディアが作ったんだ。その逆だって、必ず効果はあります…私だってね、恥知らずとは思いますが是からこのネタは必ず売れるから此処にきたんです…」 媚びる、というよりは少しばかり同情を交えた記者の笑みに私達はただ唖然とするしかありませんでした。 そんな簡単に人々が変われば誰だって苦労しないはずですし、ネイチャさんが療養する羽目にもならなかったはずです。 ですがそう思っていた数週間後には、私達はありえないものを目にすることになるのでした

9 <a href="mailto:s">21/08/07(土)02:43:32</a> [s] No.831996744

日が空きましたし遅くなりましたし長くなりましたがスリーゴッデスが悪いので私は悪くありません本当です許してくださいフォーギブミー

10 21/08/07(土)02:45:14 No.831997006

うん…?世論がネイチャを支持しそうなのにこの不穏さは…?

11 21/08/07(土)02:50:16 No.831997911

そう簡単に世論が変わるかと言いたいがこういう悲劇のとか本当は!とかは世間は弱いからな…

12 21/08/07(土)02:54:48 No.831998690

神輿にされてる…

13 21/08/07(土)02:55:19 No.831998776

悲劇のヒロインに祭り上げられたらそれはそれでめんどくさいことになりそうだなあ

14 21/08/07(土)02:55:50 No.831998860

つまり下兄貴の夢にさよならして一歩踏み出そうとするネイチャに次は周りが死んだ兄の夢のために頑張れと諦めさせてくれないわけか…

15 21/08/07(土)02:57:40 No.831999180

記者も記者で簡単に変わる世間にうんざりしてそうな感じだな…

16 21/08/07(土)03:10:47 No.832001122

オイオイオイまだ落とす気だわアイツ

17 21/08/07(土)03:32:10 No.832003551

メディアは勝手だなぁ...

18 21/08/07(土)03:35:08 No.832003848

マヤトレが相変わらず良い兄ちゃんですき

19 21/08/07(土)03:42:49 No.832004501

かなり意外だけど説得力のある展開で引き込まれた もともと叩いてた理由がふわっとしてるのに叩き一色な報道してたのもそうだし死別エピソードで世論がころりと変わったり今後は報道が擁護一色になるのはとてもリアリティがあると思う 次も楽しみにしてる

20 21/08/07(土)03:56:35 No.832005831

ドナー元バレるんじゃねえかな…

21 21/08/07(土)04:14:39 No.832007220

マスゴミはプライバシーだの法律無視で捏造脚色誇張なんでも垂れ流すからなぁ

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