21/07/30(金)01:36:22 10月上... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1627576582823.png 21/07/30(金)01:36:22 No.829048702
10月上旬。 マーベラスサンデーが疝痛を起こし、病院に運び込まれたその夜、彼女のトレーナーが病院から帰るころには時計の針は午前4時を回っていた。トレーナー寮に戻った頃にはすでには空は薄白い青さを帯び始めてた。朝の訪れを感じさせる空。新聞配達のスーパーカブのエンジン音が響く以外の音がしない街中。晴天になることを予感させる空気のさわやかさとは裏腹に、彼女の気持ちは非常に重いものだった。 車を停め、自室に戻ると、体中からどっと疲れがあふれだしてくる。 (少しだけ、休もう…) そう思い彼女はベッドに着の身着のまま横たわり、ゆっくりと目を閉じた。重苦しい心境とは裏腹に、体は正直に柔らかな布団の感触を楽しむように、体中を包み込んでいく。そして彼女の意思も、泥に吸い込まれるように、深い深い闇に落ちていくのだった。それを自覚しながらも、この睡魔はまずいと理解しながらも、彼女はその魔力にあらがえずにいた。
1 21/07/30(金)01:36:51 No.829048812
はっとし、彼女は目を覚ます。少し横になるつもりがすっかり寝てしまったことに気づき、慌てて時計を見る。そこに刺された時間を見て、彼女は安堵した。朝7時を示していた。 「よかった…」 昼まで寝てしまったかと思った、と心をなでおろし、この部屋にいるのはまずい、と彼女は立ち上がる。そしてすぐさま顔を洗い、化粧を整えると、彼女の職場に向かって車を走らせる。自分の担当のいないトレセン学園に向かって。 その日一日、彼女には激務が襲い掛かった。 トレセン学園への報告、マーベラスサンデーへの保護者への連絡、今後の処置に関する打合せ、病院からの連絡と各所への伝達対応対応等々。 緊急時というのもあり、報告書の作成と提出は後回しにしてもいいと、秋川理事長が気を回してくれたのは幸いだった。また、トレーナー本人が負担した金銭的な清算も、多忙のためままならないことも加味し、何かあったら学園側に支払いを立てるように病院側に伝えなさいとも言ってくれた。その厚情に感謝する反面、それ以上に緊張することが一つ残っていた。保護者との面会である。
2 21/07/30(金)01:37:31 No.829048959
同日、夕刻。 「疝痛を起こしたのですね、あの子は」 トレーナーの目の前にいる、スーツ姿の男がそう言った。 トレセン学園応接室にて。スーツ姿のマーベラスサンデーの父親、そして白い女性ものスーツを纏った母親。 トレーナーは、彼らと向かい合い、今朝マーベラスサンデーに起こったことを二人の保護者に、自分の言葉で説明をした。それはたどたどしく、時におなじ言葉を何度も繰り返すところがあったものの、時間列と経緯、そして彼女の一生懸命さは伝わる、そんな報告だった。 「それで、あの子と面会は出来るのですか?」 「いえ、まだ治療中でできないとのことです。ただ、お医者様が経過をお伝えしたいと仰っています」 「分かりました。それでは病院に向かいたいのですが、ご案内いただけますか」 「は、はい。わかりました」
3 21/07/30(金)01:37:56 No.829049029
短い会話を経て、トレーナーは自分の車で。両親はレンタカーで。三人は病院に向かい、医師の説明を受けた。 腸捻転の恐れはないこと。ただ食事はしばらくできないので、点滴による栄養補給になること。容体が安定するまで面会はできないこと。そして入院になること。その説明を、両親の2人は淡々と聞いていた。 「ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」 医師に深々と父親は頭を下げると、そこで会話は終わり、三人は診療室を後にした。 病院の控室にて 「トレーナーさん。ありがとうございました。私どもはこれにて失礼します。あの子と面会ができるようになりましたらご連絡をお願いします」 そう父親は言い、軽く会釈して病院を去ろうとした。 あまりにもあっさりとしすぎた対応だった。トレセン学園にて面会した時から、この父親は語気を荒げることは一切なく、ただ報告に耳を傾け、時おり質問をしながらも、必要以上の追及をしなかった。まるで、ただ事実を確認する作業のようだった。
4 21/07/30(金)01:38:39 No.829049183
その態度は、一切トレーナーを責めたりしないその振る舞いが、却ってトレーナーを不安にさせた。そしてそれが 「あ、あの!」 ついトレーナーから言葉が出る源となった。 「どうしました?」 「…怒らないんですか、私のこと」 「どうしてですか?」 「その…大事な娘さんを…、こんなことにしてしまって…」 うつむいてか細い言葉で話すトレーナーを見て、父親は軽く息を吐いた。 「疝痛はあなたの怠慢で起こったのですか?」 「…いいえ」 「それであれば、あなたやトレセン学園さんを責める理由がありません。それと、話を伺う限り、あなたも学園の寮の方も、同室の子…ナイスネイチャさん、でしたか。皆さんが早めの対応をしていただけたので、経過が必要以上に悪くならなかった。そう私は認識しています」 淡々と語られるその言葉を、トレーナーは黙って聞いていた。 「ですから感謝こそすれ、的外れな恨みを申し上げる故はありませんよ」
5 21/07/30(金)01:39:37 No.829049404
その言葉に、どこか彼女は救われた気がした。 「ありがとう…ございます」 「いえ」 そういい、去ろうとした父親だったが 「それと、一つ」 と何かを付け加えるように彼は振り向いた。 少し身を張り、トレーナーは父親の顔を見た。 「あの子は…昔から身体の弱い子でした。自分の意志でこの学園を選びましたが、全寮制と伺い、少々不安でした。友達ができるのか、いい学園生活を送れるのか、と」 一旦言葉を区切った父親。その顔はほんの少しだけ微笑んだようにトレーナーには見えた。 「ですが、今日お邪魔して安心しました。私の心配していたような事実はなさそうだ、そう思いました」 その時、ようやくトレーナーは気づいた。マーベラスサンデーには、以前も恐らくこういうことがあったのだ、と。だから目の前の父親は、必要以上に冷静で、感情的にならないようにしているのだ、と。
6 21/07/30(金)01:40:19 No.829049559
「ですからトレーナーさん」 「はい」 「今後とも、娘をよろしくお願いします」 そう父親は言い、若い若い女性トレーナーに頭を下げた。 トレーナーもそれに合わせて頭を下げる。 トレーナーは病院の出口まで2人を見送る。軽く会釈をして、2人はその場を後にした。 (強いな…人の親って…) 2人の印象を脳裏に思い浮かべ、ぼんやりと頭を巡らすトレーナー。 ふと足元を見ると何かが光っているのに気が付いた。 「ネクタイピン…」 それは父親がしていたネクタイピンだった。会釈した時に偶々落ちたのだろう。 トレーナーはそれを拾うと、病院の外に出て、駐車場を目指した。先ほど別れたばかりだ。まだ父親に届けられるかもしれない。 確か黒色のヴィッツを借りてたな、と記憶を巡らし、駐車場を見渡す彼女。 「あ!」 彼女の記憶は当たっていた。黒いヴィッツのそばに、先ほどまで面会していた2人がいる。何やらしゃべっているようで、まだ車には乗り込んでいない。
7 21/07/30(金)01:41:17 No.829049766
その方向に向かって彼女は駆け足気味に彼女は歩き出した。そして、ネクタイピンを渡そうと、2人に近寄ろうとしたその時だった。 「だから言ったんです!私はこんな学校反対だって!!!」 聞こえてきたのは女性の声だった。面会しているときも、医師の説明を受けているときも、ずっと黙っていた、マーベラスサンデーの母親の声だった。 「そう言うなよ。4人で決めただろ?俺と、お前と、あの子と、おばあちゃんと。あの子の好きにさせてあげようって」 「でも…でも…!!!」 母親は泣いていた。大粒の涙を流していた。 その姿を見て、トレーナーはとっさに、近くの木の陰に身を隠す。 「身体が弱かったあの子が、自分でレースに出たいって言ったんだ。応援してあげようって、そういう約束だっただろ」 「わかってます…!でも、骨折までして…疝痛まで起こして…」 悲壮な語気が駐車場に広がる。トレーナーの胸に針を刺し、心臓を強く握りしめる。 「こんな事になるなら…普通の学校に通ってくれればよかったのに…」 力なく語られる、母親の言葉。父親は彼女の肩に手をやり、ゆっくりと胸に引き寄せた。
8 21/07/30(金)01:42:21 No.829049991
「今日は帰ろう」 そう一言言うと、母親の嗚咽を受け止めるように、背中をやさしくたたいた。 しばらくして黒色のヴィッツは走り出し、病院を後にする。 トレーナーは何もできないまま、ただ落し物のネクタイピンを握りしめていた。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する fu203672.txt
9 21/07/30(金)01:52:24 No.829052080
>文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する おい待てェ 失礼するんじゃねぇ 今後のストーリーを色々考えて書いてくれなきゃ困るだろうが
10 21/07/30(金)01:59:42 No.829053510
マーベラスなハッピーエンドを書くまで待ってるからな