ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/07/29(木)02:19:24 No.828721277
「失礼します」 「おぉ、イクノちゃん。学生は休みの日だってのにご苦労だねぇ、あの兄ちゃん今寝ちゃってるみたいだよ」 「もうお昼だというのに。また夜更かしを?」 「うん、消灯されてもベッドで明かりつけて、いろいろやってたよ。ありゃ一体何だい?」 「研究…でしょうか」 顔の上に疑問符を浮かべたおじさま達に微笑んで、カーテンをゆっくり開くと静かに寝息を立てる兄さんの姿が目に映りました。 ベッドの上には私が頼まれて運んできた資料や乱雑に書かれたメモが散らばっていて、手から零れ落ちている携帯の画面には過去の様々なウマ娘たちのレースが流されています。 全ては兄弟で考えたネイチャさんの走法を完成させるための、もといそのためにまずそれを私に落としこんでデータを取るための研究なのでした。
1 21/07/29(木)02:20:06 No.828721371
兄さんの体は食事制限もなくなったほどにすっかり元気になっていて、寝ていても苦しそうではないのことがこの上なく嬉しく感じられます。 「兄さん…もうお昼ですよ。起きないと…」 「う…ん…ネイ、チャ…」 乱れた髪をそっと横に撫でながら語りかけると、その口からは私の大切な友人の名前がでてきました。 思わず手を止めてしまうと、彼は何度もその名前をとぎれとぎれに口にします。 きっと私が何をしても彼の心にはネイチャさんがいるのでしょう。そう思うと少しだけ黒い感情が湧き出てきて、私はそれを上塗りするように彼の頬にそっと口づけをしてから眠りこけた人の肩を揺らしました。 「兄さん、いい加減に起きてください」 「ん…んあ…イクノさん…おはよう…」 「もうこんにちわの時間ですよ。また夜遅くまで活動していたようですね、入院が伸びてしまいますよ」
2 21/07/29(木)02:20:51 No.828721505
私の言葉に兄さんはいつものように悪戯っぽく微笑むと、枕元に置いていた紐でくくられている紙の束を見せてきました。 「これは?」 「もう夜更かししなくてもよくなったって証拠。第一段階終了! これからイクノさんとのトレーニングで理論と実際のデータのずれを見ながら修正していって詰めていって、形にしていく」 紙には様々なスケッチと共に、色んな数式や理論で埋め尽くされていて、その一つ一つがネイチャさんと私の為だけに用意されているようでした。 「これを…この一か月二か月の短期間で?」 「弟ならもっと分かりやすく、上手くやれたんだろうけど。俺は弟のように天才じゃないんで、小学校ぶりに根性で頑張りましたよ。それと、もう一つニュース」 私が育成理論に見入っていると、兄さんはあまり見せない柔らかく大人しい笑顔を見せました。
3 21/07/29(木)02:21:31 No.828721640
「退院だってさ」 「本当ですか! いつ!」 「明後日、ホントは先週ぐらいからできるかもって話は合ったけど。昨日ぐらいの検査でもう全く元気!ってことで」 「兄さん…!」 思わず彼の胸に飛び込むと、その手が私の頭を優しく撫でていきます。もう一度、兄さんと学園へ。元気になった兄さんと。それだけで思わず涙がでてきそうでした。 「おっとっと…イクノには苦労かけっぱなしだったな。これからもかけてしまう。けど、もう心配だけはさせない、約束だ」 「苦労なんて、そんな…でも、約束ですよ…もう、病気になんかならないでくださいね」
4 21/07/29(木)02:22:24 No.828721789
「バカだから風邪は引けないかねぇ。それよりも此処までやってくれたイクノさんには何かお礼をしないとな、何がいい?」 「では、お出かけを。あっ…」 兄さんの言葉に思わずすぐに顔を上げてしまって、浮かれた顔を見せてしまっただろう自分が恥ずかしくなり、少し頬を染めてしまいました。 「承知いたしました。っと、その前にネイチャにも会わなきゃな。会ってくれるか分かんないけど…」 「……そうですね」 顔を染めた血が引いていくのを感じながら、私はただ頷きました。 人が胸の中にいるときに他人の女性を名前を口にすることはタブーとなるのでしょうが、しかしネイチャさんは私も気になるところです。彼女の傷ついた心には彼の存在は不可欠のように思えます。 だが肝心のネイチャさんがこの人を受け入れるかと考えれば、それは…。
5 21/07/29(木)02:23:44 No.828722006
〇 メジロ家のお金持ち具合を舐めていたというか、敷地の中にトレーニング施設どころか此処まで立派に芝コースがあるあんて想像もつかなかった。 そしてそこでメジロ家のウマ娘たちとトレーニングすることになるとは、それこそ思ってみなかった。 「次、直線スパート二回! 六十秒以内1」 「はいっ!」 「は、はい…!」 しかもライアン先輩のトレーナーさんのトレーニングはかなりハードで、基礎トレーニングだけでも身体を追い詰めてくるような練習法だ。ライアン先輩のスタミナの秘訣がやっとわかった気がする。 一通り終わったころにはもう息もやっとというくらいスタミナ使いきって、芝の上で座り込んでしまっていた。
6 21/07/29(木)02:24:06 No.828722046
「ふむ、途中で根を上げるか立ち止まるかと思ったが…よく基礎ができている」 「でしょ! 夏合宿の時からこの基礎の高さは私でも分かるぐらいでしたから!」 そうしていると、汗を輝かせてライアン先輩とトレーナーさんが近くまで寄ってくる。 「ら、ライアン先輩…すっごい、元気…ですね…」 「はは、トレーナーさんのしごきには慣れるからね!」 「しごきじゃない、ライアンに合わせた効率的なトレーニングだ」 悪戯っぽく笑うラ先輩にトレーナーさんは眉をキュッと絞ると、アタシにドリンクを渡してくれた。
7 21/07/29(木)02:24:30 No.828722120
「だがライアンの過負荷トレーニングについてこれるウマ娘は珍しい。基礎練って練り込まれてる、桐生院さんの言う通り、このままスタミナを中心的に育てるのがよさそうだな」 「あ、ありがとうございます…」 「褒めたわけじゃない、事実を言ったまでだ」 「あたしのトレーナーさんって照れ屋だからそう言ってるだけで、本当は褒めてあいてっ」 「余計なことをいうな。次はマックイーンとの併走だ、準備はいいか?」 ライアンさんにデコピンをしたトレーナーさんは、ラチの外で見ていたマックイーンとそのトレーナーに顔を向けた。 「もちろんですわ。よろしくお願いしますね、ネイチャさん!」 「あ、一応脚質も見てみたいので、お嬢様は一定のペースでおねげぇします。ネイチャさんは一回それを追い抜く形で好きに走っちみてくださいだ」
8 21/07/29(木)02:25:01 No.828722203
一回見るだけで分かるものなのだろうかと疑問が浮かんだけど、すぐに頭の隅にしまい込む。トレセン学園のトレーナー達はウマ娘と同じく、一言二言で言い表せるようなヒトは少ないのだ。 それにマックイーンが選んだトレーナーがただの平凡な人間とは思えない。バニーガールになってたし。 「最初はアップのように、気楽に参りましょう」 そういってマックイーンとの併走が始まった。 そしてテイオーと同じくレベルの差というものをすぐに思い知らされる。一定のペースといっていたけど、かなりの速度が出ていて、合わせるのに精いっぱいになってしまう。 追い抜くといっても、追い抜けるかさえ怪しい。アタシはアタシのトレーナーさんの走り方があったからテイオーレベルにも並べていただけ、地の走力になるとここまでの差があることを改めて思い知らされる。 兄貴の走り方じゃないと到底抜けやしないだろう。テイオーの時のように、テイオー… 「え?」 ふと、ぐにゃりと踏み込んだ脚の裏から変な感触がして、思わず視線を向ける。
9 21/07/29(木)02:25:32 No.828722279
何もない、ただの芝だ。だけど、脚が地面を踏みつけるごとにその感触はどんどんリアルになってくる、この感触は、この何かを踏み砕いたような音は。 「――――うっぷ」 胃から吐き気がこみあげてきて、思わず脚が緩んで転がるようにして芝の上で座り込む。止まったというのに感触が足から離れない。 「おぇっ……ぇぇ……」 ついに耐え切れずに、胃の中をぶちまける。頭がボーっとして、そのまま倒れ込む。 トレーナー達の大声が、遠くから聞こえてきた。
10 21/07/29(木)02:26:08 [s] No.828722372
隔日になってしまいましたし遅くなったし長くなったしでおわびもしようがありませんが全てはスリーゴッデスが悪いので私は一つも悪くありませんですだ
11 21/07/29(木)02:27:32 No.828722620
やっぱりトラウマになったか…フクキタルの過呼吸を思い出すな…
12 21/07/29(木)02:28:06 No.828722715
トラウマになってる…そりゃそうだよな
13 21/07/29(木)02:29:37 No.828722986
頼りになる人がたくさんいるのが救いかもな…
14 21/07/29(木)02:32:15 No.828723416
しっかり踏んだ時のこと覚えてしまってるからな…
15 21/07/29(木)02:32:16 No.828723420
そうだネイチャ、お前が壊した
16 21/07/29(木)02:33:58 No.828723688
タッチと違ってネイチャの横に誰も残らないのひどいよね
17 21/07/29(木)02:35:49 No.828723966
上兄あの夢の中でネイチャのこと好きだって認めて弟に後託されたけどイクノのこともあるしネイチャは下兄引きずってるしでどうなるのか…
18 21/07/29(木)02:36:28 No.828724058
>タッチと違ってネイチャの横に誰も残らないのひどいよね まだ分からないし…
19 21/07/29(木)02:39:19 No.828724501
ネイチャの兄貴達は一卵性双生児で顔そっくりだし上兄貴は弟の味覚になってるしで厄ネタはまだまだどんどんあるさらにテイトレ達の方で厄ネタでさらにどんだ
20 21/07/29(木)02:39:42 No.828724557
>>タッチと違ってネイチャの横に誰も残らないのひどいよね >まだ分からないし… ここから上兄来るほうが全員辛いと思うんですけど
21 21/07/29(木)02:40:25 No.828724656
ほ…ほらフクも途中えらいことになったし…
22 21/07/29(木)02:41:18 No.828724797
接触がトラウマになりすぎてウマ込みに入ったらその場でパニック起こしそうだ
23 21/07/29(木)02:41:58 No.828724898
忘れそうになるが上兄貴の心臓は下兄貴のものだしそれを選んだのはネイチャだからな…ぶっちゃげ辛すぎる俺には耐えられない
24 21/07/29(木)02:42:05 No.828724914
ショック療法しかないな…マックイーンの後ろ走るとか…
25 21/07/29(木)02:43:37 No.828725128
フクは3女神にひたすら下り坂を転がされて ネイチャは何度も3女神に上げてから下げられてる感 どちらがつらいとかではなくどっちもひどい仕打ち受けてる
26 21/07/29(木)02:44:16 No.828725213
del
27 21/07/29(木)02:45:05 No.828725301
いつもう一回上がるんだろ
28 21/07/29(木)02:45:14 No.828725321
正直引退してもおかしくねーよ
29 21/07/29(木)02:46:38 No.828725546
>正直引退してもおかしくねーよ まだ走ろうとするの格好いいかもしれん
30 21/07/29(木)02:54:40 No.828726539
心という器は...
31 21/07/29(木)02:55:18 No.828726601
瓶底…お前は今どこで戦っている…
32 21/07/29(木)02:59:37 No.828727066
お前なら大丈夫って非常に無責任な言葉だと思うの
33 21/07/29(木)03:04:58 No.828727632
諦めなくて当たり前というのがどれほど辛いか…
34 21/07/29(木)03:10:46 No.828728244
トラウマの症状が発覚したここに上兄が投げ込まれるのか…
35 21/07/29(木)03:11:46 No.828728343
上兄貴との合流や諦めも恨みもないテイオーとの再開があれば それにいっぱいの友人たちやトレーナーたちがいる 不幸は果てしないけれどそれでも支えてくれる人たちがネイチャには大勢いる
36 21/07/29(木)03:13:21 No.828728538
言い方はアレだけど死んでてよかったな… 俺の指導のせいでテイオーが怪我した上にネイチャはトラウマ負った…とかならなくて…
37 21/07/29(木)03:18:26 No.828729088
時間は確かに傷を薄めてはくれるが完全に癒してくれるわけではない なら尋常の方法では駄目だ 駄目なんだ
38 21/07/29(木)03:46:31 No.828731257
だからって傷口が塞がってないうちから劇薬塗り込む奴があるかよ!?
39 21/07/29(木)03:46:57 No.828731287
恥ずかしい話ショックやトラウマで吐く女の子に興奮する
40 21/07/29(木)04:03:49 No.828732223
これ克服するのはテイオー本人に復帰してもらえないとダメなんじゃ…
41 21/07/29(木)04:08:34 No.828732492
曇らせればいいとか思ってそう
42 21/07/29(木)06:12:07 No.828737572
一番気になるのはルドルフトレーナーの行動
43 21/07/29(木)06:17:11 No.828737816
先週見つけてフクロスゲームから一気に読んだよ 地獄と救いと地獄を立て続けに摂取してオワーッってなってる…でもこの感情揺さぶられる感じが堪らない… いい作品をありがとう 今後とも応援してる