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21/07/28(水)21:28:02  かつ... のスレッド詳細

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21/07/28(水)21:28:02 No.828611589

 かつての上官曰く、鬼神は一撃でティラントーの重装甲を破ると聞く。  同僚曰く、鬼神の剣を受けたが最後、残りの腕が頭と腕を切り裂くという。  騎操鍛冶師曰く、鬼神の戦術級魔法はティラントーの装甲を突き破り、それが絶えることなく放たれるという。  構文技師曰く、鬼神は空を単独で飛び回り一度見つけられれば、ティラントーがどこまで逃げても追いかけてくるという。  他隊の騎操士曰く、鬼神の剣は幻晶騎士を噛み砕くらしい。  補給部隊曰く、それは馬のような旅団級魔獣を従え現れるという。  同僚の日誌曰く、鬼神の拳は火を噴き幻晶騎士の装甲を溶かすという。

1 21/07/28(水)21:28:41 No.828611943

 小型の飛空船のようなものに乗り、銃装剣を構え突っ込んでくる堂々とした黄金の鬼神。空間という盾は速度と法撃の前には無意味。メラニーはその威容に塔の騎士の気高さを重ねる。  傲り、騎士を名乗りながらも弱者を苦しめ続けた自らを裁く相応しい相手だ。 「我が重剣の前に沈め黒騎士ぃぃいいい!!」  まともに操縦ができない。操縦桿を握る手に力が入らない。腕も、足も、張り付けられたかのように動かない。まるで四方八方から何者かに掴まれているかのようだ。操縦席の隅の闇が、嘲笑う。 (お前も何もできずに俺たちみたいに死ぬんだよ、臆病メラニー!)  全身から血を流し目を爛々と輝かせる同期の幻影が、自分をあざ笑っている。 「やっぱり怖いッスぅうううう!?」  鬼神が大きく横薙ぎの動きを見せた瞬間、贖罪よりも恐怖が勝った。即座にメラニーは鬼神へと法撃を開始する。突っ込んでくる相手であれば、確実に命中させられる。  左の背面武装の火炎が装甲にぶち当たるが、目立った傷もない。ならば狙うは銃装剣。術式が展開し右の背面武装より火炎が飛び出す。近距離で爆炎に包まれた鬼神へ、重棍を投げつける。

2 21/07/28(水)21:29:25 No.828612326

 爆炎より、銃装剣が覗く。爆炎を受け、投げつけた重棍を吹き飛ばしながら、メラニーのティラントーの胴へと一撃を加えた。 「ぐあぁぁぁっ!?」  ティラントーは後方へと自ら跳んだ。爆炎と重棍で勢いを削がれた剣は、装甲こそ歪めるがティラントーに大きな損害は与えられなかった。  無論そんな一撃を与えられれば操縦室はたまったものではないが。一撃を加えた鬼面は再び宙へと帰る。 「皆、生きてるッスか?」 「生きては居るが、正直なところ太刀打ちできる自信はありません!」 「まだやれるっ!」 「盾が間に合わないっ、長くは持たないっ!」

3 21/07/28(水)21:29:40 No.828612450

眼球水晶が捕らえた周囲の様子にそこまでの絶望はない。先に鬼神に一撃を与えられた機体も戦闘は続行可能なようだ。  メラニーは失望した。敵は鬼神ではない。鬼神の姿を模した何かだ。多少強いが、自分を罰する正義ではない。気高く、美しく、強い騎士は正しい裁きを与える筈だ。だが与えられなかった。メラニーの考える理想の騎士、レスヴァント・ヴィードには程遠い。 「獲物を追い詰め格下を弄ぶお前なんかに、差し出す命はないッス!」  それでもそのすばしっこさは確実にティラントーの脅威で別のティラントーの背後へと回った。  側面ががら空きだ。仲間と鬼面の距離、先ほど襲われた時の接近速度から、敵の来るだろう位置を予測し右の背面武装から法撃する。炎の塊は鬼面の居た空間に少し遅れて炸裂する。 「観測射撃ヨシっス!」  続く左の背面武装は、仲間に襲い掛かろうとする鬼面の側面に火炎の華を咲かせる。 「被害ナシっスか!?」  高速で火炎を抜けた鬼面に目立った外傷はない。爆風と熱から早々に抜けだされ、十分な威力が与えられないようだ。だがメラニーにはそこまで思い至らずやたら頑丈だと評価する。

4 21/07/28(水)21:30:51 No.828613058

「全機、法撃準備ぃぃっ!!!」  そして、隊長のティラントーのメイスで迎え撃ちその動きを一瞬止めた。  強くもなく、ジャロウデクの残党狩りをする姿に気高さは見えず、メラニーには無様に見えた。もう恐怖は欠片もない。 「法撃放てぇぇっ!!!!!!!」 「ウチを誑かしやがって!!! 死んで詫びるッス!!!!!!」  動きが止まればこっちのものだ。走って法撃しても十分に命中させられる。盾を捨て、殺意を持って、わずか数メートルの距離から法撃を叩き込んだ。

5 21/07/28(水)21:31:58 No.828613602

===  鬼面に逃げられたがメラニーはとても気分が良かった。 メラニーにとってイシルの中隊は居心地が良かった。皆敗戦敗走で一度は心が折れた負け犬なのだ。誰も自分を臆病者と罵れない。メラニーは絶えず微笑み、柔らかに声をかける。心を弱らせた人間を放っておくのは、幻晶騎士という力を持つ強者にあるまじき態度であるとメラニーは信じている。  中隊の結束は即席部隊にしては良い方だ。イシルがティラントーで鬼神を模した幻晶騎士通称鬼面を撃退して彼女への尊敬の念も高まった。 メラニーも偉ぶらず律儀で強いイシルに好意を抱いている。もしもイシルがレスヴァント・ウィードに搭乗していたら喜んで殺されるだろう。  それでもティラントーにだけは殺されたくはない。ティラントーはメラニーを力に酔わせた悪魔だ。そして悪魔と契約したゆえにジャロウデクはその取り立てを受けているのだ。

6 21/07/28(水)21:32:31 No.828613841

 拡声器越しに歌声を上げるイシルへ、メラニーは語り掛ける。 「隊長、それ何の歌っすか?」 「ティラントー行進曲19番」 「何て?」 「ティラントー行進曲19番ティラントーと荒野よ。ディンガー伯爵が作ったティラントー行進曲19番よ」  メラニーは意味が解らなかった。イシルにとってはメラニーが何を困惑しているのか解らない。 「これは足場が悪い場所で進軍するティラントーの為に作られた歌で、前ディンガー中隊はずーっとこの歌と、行進曲2番敵地を行進するティラントーばっかり歌ってて……」 「黒顎騎士団ってそんなの歌ってるんスか?」 「ううん、うちの中隊だけだよ。ディンガー伯爵が歌って、それに続いて皆で歌うの」  メラニーはどう応えるべきか迷う。音楽の素養もないが、曲に無理やり歌詞を載せているような気がする。独特で全く聞いたことが無い曲調に、時々思い出したようにカエルのうめき声にしか聞こえない歌詞も混じる。イシルの歌声を褒めたいが、とても褒める気持ちにはなれない。

7 21/07/28(水)21:33:02 No.828614097

「そういや、今後軍の最高司令官って誰になるんスか?」  メラニー声を無理やり明るくして話題を変えた。 「カルリトス王子やカタリーナ王女も軍事に明るいとは思えないしね。そういったジャロウデク護国の将たる人物の保護も私たちの仕事よ。タクール砦に優秀な指揮官がいればそれを連れ帰ることになるかもしれないし。あ、ガシャガシャするやつ練習しておく?」 「ガシャガシャ?」  「式典で盾とか重棍とかを地面に打ち付けるやつ。あれちゃんと練習しないと、ちょっと美しくない。新しい将軍を称える時とかにやりたいなーと思うんだけど」 「あとで稽古をお願いするッス……」 「でも楽しみね、どんな人間が建て直すのかしら、その手腕、指揮、きっと美しいわ。ちょっと楽しみかも」

8 21/07/28(水)21:34:03 No.828614643

 タクール砦の姿が地平線の向こうに見え始める。クシェペルカの『一番盾要塞』程ではないが強固な要塞だ。近辺の他の要塞を支える要である。 ティラントー内部にはゆったりとした歌声が響く。無人の荒野を進む。その堂々とした姿は凱旋とも見える。ロカール諸国連合を破り、クシェペルカの一番楯要塞を攻略した後のようだ。その時の沈黙といったら、ジャロウデクとティラントーを讃える荘厳なものだった。 「うんうん、良い。とても良いわ。でもこんな気持ちの時だったかも、本物の鬼神に会ったのは」  徐々に見え始めるタクール砦の全貌、黒く美しい巨大な城門。かつて在ったディンガー領の城を思わせるその姿に、イシルの目を涙が伝う。

9 21/07/28(水)21:35:08 No.828615221

===  半年前のクシェペルカ南東のある領地。勢力的には西部に属している。  ミーシャンのティラントーはイカルガを相手にして木端微塵になったが、頑丈が取り柄のドワーフは生きて、あろうことか自力でここまで戻った。  ミーシャン・リールはジャロウデク出身のドワーフの騎操鍛冶師であり、ミナス・ディンガー伯爵の側近である。彼女は騎操士としての才能も持つが、政治はまるで理解できなかった。  ミナスが私財を投じてこの地を良く治めようとしたのは、ただミナスが根っからのお人好しだからだと信じていた。  そしてミナスが死した今、生き残ってしまったミーシャンはこの領土の発展と守護に命を懸けるつもりだった。 「てめぇ、戦中だからって盗みを働いていいわけねえだろうがっ、メシは恵んでやるからアタイんところで働けっ小泥棒!」  市中を見回っている最中に盗人をとっ捕まえ、肩に担ぎ、無理やりに自分の工房へと引っ張っていく。自らの所属する工房では、護国の騎士たちを作り上げていた。

10 21/07/28(水)21:36:49 No.828616136

「ティラントーの残骸? から、レーヴァンティアを作るんだ、作るんだよ、何の因果だろうねぇ。ティラントーは良い機体なんだ。とても紳士なんだよ解るかい?」  盗人が何かしら文句を言うが聞くつもりは最初からない。頑丈そうだ。思ったより頭が悪くても幻晶甲冑で蒸れるのが辛いから小間使いでもさせようと考えていた。 「あ゛?」  工房に戻る際中、ミーシャンの目には多量の幻晶騎士の部品が詰まれた馬車が目に入る。今日届く部品はもう全て届いているはずだった。追加の部品が届いたにしても、こんな中途半端なところで止まっているのはおかしい。 「見慣れない馬車だな」  ミーシャンは盗人を放り出し馬車の荷台へと乗り込む。 「こりゃあ魔力転換炉に、源素供給器、魔導演算機っておい、こんなモンどこに運ぶつもりだい!? 事と次第によっちゃあ一発ぶんなぐってやんなきゃね!」  それから数日後、ミーシャンはイレブンフラッグスへと入国していた。

11 <a href="mailto:s">21/07/28(水)21:38:02</a> [s] No.828616861

イシルは頑丈な砦に辿り着き、ミーシャンは無事イレブンフラッグスにたどりつきましたとさ めでたしめでたし

12 21/07/28(水)21:43:12 No.828619639

偽物と判った途端鬼面呼びになるのとかいいね…

13 21/07/28(水)21:43:53 No.828620020

ティラントー行進ってさあ

14 21/07/28(水)21:49:02 No.828622686

>偽物と判った途端鬼面呼びになるのとかいいね… イカルガじゃないからね鬼の面しかないからね…… この世界の鬼って何を示すか気になる あとパンダがいるのかめっちゃ気になる >ティラントー行進ってさあ ティラントーは集団行動得意だからね行進曲の一つや二つあるよね

15 21/07/28(水)21:58:36 No.828627664

ティラントーは大航空時代には重すぎる気がするけどポテンシャルはあるんだよなぁ 今後出番あるかな

16 21/07/28(水)22:05:09 No.828631432

アンキュローサ!

17 21/07/28(水)22:09:52 No.828633834

>アンキュローサ! 単騎型は略奪に向かないからお空編では無理だよなぁ 今後エーテルリアクターが宇宙対応の濃エーテル前提でサプライヤーokとかでれば!

18 21/07/28(水)22:18:23 No.828638296

スパロボで宇宙行けるのかな

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