21/07/28(水)00:44:31 9月上旬... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1627400671652.png 21/07/28(水)00:44:31 No.828344601
9月上旬。新潟競バ場。 第10レース、佐渡ステークス。 芝2000m、右回り。天候は晴れ、バ場は良。 ウマ娘9人が参加したこのレース、スリゼローレルは三着だった。 「お疲れ様」 レースが終わり、控え室に戻ってきたスリゼローレルを、ベテラントレーナーは優しく出迎えた。最終コーナー手前で六番手だったスリゼローレルは、直線に向くと懸命に加速した。上がり三ハロンのタイムはウマ娘随一だったが、逃げているウマ娘を捉えきれず、どうにか表彰台を確保した結果に終わった。 「あの・・・」 「何?」 スリゼローレルの瞳が揺れていた。川底にたゆたう桜の花びらが、さながら空気を求めるように。 「次は・・・勝ちたいです」 口をついて出てきたのは強い言葉。諦めない意思をもった、その語気に、 「その調子よ」 と、ベテラントレーナーは穏やかに頷く。まだ、これからだ、とウマ娘とトレーナーは思う。 セントライト記念まであと2週間ほど。菊花賞を目指す二人の意思は強く、何ら諦める様子など見当たらないようだった。
1 21/07/28(水)00:45:04 No.828344779
佐渡ステークスが終わり、熱気が冷めていく観客席にて。 「残念でしたね」 そう新人トレーナーは呟いた。隣にいるのは担当ウマ娘のマーベラスサンデー。スリゼローレルの応援のため、新潟まで足を伸ばしたが、結果は残念なものだった。 「トレーナーさん」 「何ですか、マーベラスサンデーさん」 ターフを眺めていたマーベラスサンデーの瞳が、トレーナーの方に向けられた。 「アタシ、練習したい☆」 「へ?」 「早く帰って、トレーニングしたい☆」 レースを見終わったマーベラスサンデーの瞳が凜々と輝いている。 どうやらこのレース、応援したウマ娘が三着で終わったものの、彼女の心には新たな闘志が宿るいい刺激になったようである。 「そうですね!」 そしてトレーナーである彼女にも。
2 21/07/28(水)00:45:23 No.828344880
「早く行こ☆」 「わかりました、わかりましたって!だから引っ張らないでくださいよ!」 マーベラスサンデーがトレーナーの腕を引き、二人は出口に向かって歩き出す。 力強いウマ娘に引きづられながらも、若きトレーナーの顔は笑顔に満ちていた。 スリゼローレルとベテラントレーナーに挨拶をすると、彼女たちは早々に新潟駅に向かう。 「「あ」」 レンタカーを返すため、新潟駅のすぐそばに着くと、不意にぽつりぽつりと雨が降り出した。 「良かったですね、もう少しで雨に降られる所でした」 「うん☆マーベラスなラッキーだね☆」 何気ない会話を交しながら、二人は新幹線に乗り込み、東京を目指す。 新幹線の中で他愛のない会話を交す二人を余所に、新幹線の窓の外では夕立の雷雨が荒れ響いていた。
3 21/07/28(水)00:45:45 No.828345026
翌日、月曜日。朝 6時。 太陽が雲に覆われ、夏の残り香の生ぬるい風が吹く、そんな朝。 「おっはよー☆トレーナーさん☆」 「おはようございます、マーベラスサンデーさん」 トレーナー室にて二人は挨拶を交す。 そして 「早速朝練はじめようよ☆」 「はい、わかりました!」 会話もそこそこに二人は練習場に向かった。 二人の心には昨日の佐渡ステークスを観戦した想いが未だに余韻として残り続けていた。 それは、彼女、マーベラスサンデーのメイクデビューが9月下旬に控えているからかもしれない。 トレセン学園に入学してはや半年。遂に彼女もターフに立つ時が、すぐそこまで迫っていた。 生まれて初めてのレースが、あと2週間後に控えていることもあるのだろう、二人の心根にはやる気が満ちあふれているようである。
4 21/07/28(水)00:46:08 No.828345146
「じゃ、タイム計っててね☆」 「分かってますよ」 そう会話を交し、マーベラスサンデーはターフの上を走り出す。芝2000m。メイクデビュー予定のレースと同じ距離。朝早く身体も起きたてのはずだったが、マーベラスサンデーの走りはキレに満ちている。すぐにコースを一周し、 「どうだった?」 とトレーナーに笑顔で声を掛ける。そしてタイムを確認すると早々に 「もう1本☆」 とすぐに走り出す。 すこしは休憩してほしいなぁ、と思いながらも、トレーナーはターフを駆けるウマ娘を見ていた。その思いとは裏腹に、彼女の顔も笑顔に満ちている。 目の前で自分の担当するウマ娘が、高いモチベーションを保ち、初めてのレースに向けて真摯に挑もうとしている。 彼女に取って、目の前の光景は、半年前には考えられなかったことだった。担当のウマ娘がつかず、右往左往する日々。本当にトレーナーとして仕事が出来るのか、不安で仕方なかった日々。 それがどうだ、今の状況は。嘘のように最高の日々を送っていると、ついつい湧き上がる想いを噛みしめる新人トレーナー。
5 21/07/28(水)00:46:31 No.828345298
そんな中 「やってるわね」 練習場に姿を現したのは、ベテラントレーナーと、サクラバクシンオー、そしてスリゼローレルだった。 「おはようございます!」 「はい、おはよう」 二人のトレーナーは挨拶を早々に交すと、ターフを駆けるマーベラスサンデーに眼を移す。 「おおっ!やりますね!!!マーベラスサンデーさん!!!」 その走りっぷりを見て、尻尾を振って瞳を輝かすサクラバクシンオー。日々着々と実力をつけているのを、彼女も感じ取っているようである。 「トレーナーさん、私も走りたいです」 そう眼に力を入れてベテラントレーナーに話すのはスリゼローレル。昨日のレースの疲れもどこへやらといった顔つきを見て 「はいはい。あの子が走り終わったら考えましょうか」 とベテラントレーナーは、諭すように話しかけた。
6 21/07/28(水)00:47:01 No.828345482
マーベラスサンデーが一周して戻ってくると 「あ☆委員長・先輩、そして大トレーナーさん☆おはようございます☆☆☆」 疲れを全く見せない笑顔で三人に手を振った。 「マーベラスサンデーさん、そろそろ休憩にしませんか?」 「えー!?」 「さっきからずっと走りっぱなしじゃないですか」 「あと1本!あと1本だけ!!!」 少しかかり気味ではないだろうか。そう思わされるほどにマーベラスサンデーの表情は走る喜びに満ちあふれている。 困ったように笑う新人トレーナーを余所に、マーベラスサンデーはまだ走りたいという想いを全身で表現するかのように、ぴょんぴょんとはねる。 新人トレーナーが振り向き、ベテラントレーナーの顔を見ると 「あと1本だけ、いいんじゃない?」 と声を掛けられた。
7 21/07/28(水)00:49:20 No.828346277
その左右に居るサクラバクシンオーが走たそうに鼻息を荒くし、スリゼローレルが険しい真剣な顔でターフを見つめるのに気が引けたが 「じゃ、これで一旦休憩ね」 と、新人トレーナーは、少しかがんでマーベラスサンデーに話しかける。 「マーベラース☆☆☆」 その声に彼女は叫び、喜びをいっぱいに、両手を天にかかげた。天に伸びた空にある雲は、より厚くなり、太陽は徐々に分厚い雲に隠れはじめていた。
8 21/07/28(水)00:49:45 No.828346402
「じゃ、最後の1本。位置について・・・」 新人トレーナーの声に、身体を低くし 「よーい・・・」 眼を輝かせ 「どん!」 風が舞う。勢いよくマーベラスサンデーが走り出した。 第一コーナーに向かって、勢いよく突っ込んでいくマーベラスサンデー。内側に体重を掛け、足をためながらコーナーを抜けていく。 「だいぶ様になってきたわね」 と、声を掛けるベテラントレーナーに 「ありがとうございます!」 と、新人トレーナーは笑顔で返した。 「これなら、メイクデビューもそんなに苦労しないと思うわよ」 そのベテラントレーナーの言葉に 「本当ですか!」 眼を輝かせる新人トレーナー。
9 21/07/28(水)00:50:20 No.828346646
「えぇ、私が保証するわ」 優しい微笑みを携え、ベテラントレーナーは目尻を細める。その言葉に思わず、新人トレーナーは右手を強く握りしめた。 あと少しでメイクデビュー。もうすぐ自分のウマ娘がターフを駆ける。その期待が、興奮が、ときめきが彼女の心に満ちあふれる。 そして、当のウマ娘が走るターフに視線を戻した、その時だった。 「あれ・・・?」 トレーナーの視界にマーベラスサンデーが捉えられる。彼女はターフの上にいる。しかし、走っていない。向こう正面のストレートで、ラチに手を掛け、立ち止まっている。 (あれ、何してるんだろ) ただ立ち尽くすマーベラスサンデーの姿を見て、彼女はそう思った。立ち止まった意味を、理解できないまま。
10 21/07/28(水)00:50:47 No.828346800
そしてそれにベテラントレーナーも気づく、その途端 「バクシンオー!!!ローレル!!!」 険しい顔になり、二人のウマ娘を力強く呼びつけた。 その刹那、新人トレーナーの横を二人のウマ娘が駆けていく。全力で走り始めた二人のウマ娘の姿を、あっけに取られたかのように、新人トレーナーは見ていた。 そして、二人がたどり着いた場所。それは向こう正面。マーベラスサンデーがいる場所。 マーベラスサンデーに何か話しかけたかと思うと、二人は彼女の左右に回り、両肩を抱える。 (え・・・何してるの・・・) 新人トレーナーはその様子をただ見ていた。何が起こったかを理解できないまま。 「貴方」 うしろから厳かな声でベテラントレーナーの声がした。 振り向くと、今まで見たことのないような厳しい顔をした、妙齢の女性の姿があった。
11 21/07/28(水)00:51:23 No.828346972
「貴方、ウマ娘の医者に伝手はある?」 「え・・・」 「どうなの?」 突然の強い語気に押され、どうにか返事をする新人トレーナー。 「あ、ありません・・・」 すると、彼女に話しかけることなく、彼女は携帯電話を取りだし、どこかにメールを打ち始めた。 そうこうしているうちに、サクラバクシンオーとスリゼローレルに両肩を抱えられ、マーベラスサンデーが戻ってきた。 「マーベラス・・・サンデー・・・さん?」 トレーナーの目の前に写った彼女の姿。身体中に汗をかき、顔にいつもの元気がない。そして何より、右膝が震え、腫れ上がりはじめている。 「下ろしますよ、ゆっくり腰をつけて下さい」 そうサクラバクシンオーが声を掛け、マーベラスサンデーはターフの上に腰を下ろされた。 「ど、どうしたの!?どうしたの!?」 ようやく事の重大さに気づいた新人トレーナーが慌てふためき、マーベラスサンデーに向かい合う。 「なんか、なんかね・・・右の脚・・・力が入らなくて・・・」 顔面蒼白になりながら、どうにかマーベラスサンデーは声を出した。
12 21/07/28(水)00:51:48 No.828347099
「えぇ・・・」 困惑しうろたえ始めるトレーナーを余所に、ベテラントレーナーはその様子を見て、どこかに電話を掛ける。 「どうすれば・・・どうすればいいの・・・」 と、マーベラスサンデーを恐怖と怯えの色を持つ瞳で見つめたまま、呆然とするトレーナーに対し 「貴方、お医者を手配したわ。早く連れてってあげなさい」 と、電話の終わったベテラントレーナーが話しかけた。 「あ、あの・・・わた・・・わたし・・・」 「しっかりしなさい!!!」 その一喝に、トレーナーの背筋が張りつめる。 「早く車を回して。彼女たちにこの子は運ばせるから」 そう言われ、ようやく新人トレーナーは走り出した。
13 21/07/28(水)00:52:59 No.828347482
そこからは新人トレーナーは何も覚えていない。 気づくと車を走らせ、ベテラントレーナーに教えられた医者に向かい、診察を受けていた。 「骨折です。右膝が折れています」 そしてようやく意識がはっきりとするころ、診療室にて、彼女と彼女のウマ娘は、その身に起こった事を知らされる。 「大凡、全治2ヶ月といった所でしょうね」 その言葉が掛けられた瞬間、2ヶ月という時間の長さを、二人とも認識できずにいた。 すぐそこまで迫っていたメイクデビューが、泡となって消えていく瞬間だった。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する fu198079.txt
14 21/07/28(水)00:55:09 No.828348175
筆早くない!?
15 21/07/28(水)01:05:26 No.828351216
スピードSS スタミナSS
16 21/07/28(水)01:42:43 No.828360044
いきなりお辛い…
17 21/07/28(水)01:45:15 No.828360533
新人ってこんなもんだよなって思うとアプリトレーナーは良くやってるな
18 21/07/28(水)01:52:55 No.828362057
書くの早いけどもう大筋書き上がってたりするのかしら