21/07/27(火)02:02:16 その日... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1627318936964.png 21/07/27(火)02:02:16 No.828008602
その日、マーベラスサンデーが授業を終え練習場に向かうと、いつもと違う活気に満ちていることに、彼女はすぐに気がついた。ある一人のウマ娘の回りにサクラバクシンオーを始め、普段練習するウマ娘達が集まっている。 不思議そうに彼女がその輪に近づいていくと、中心にいたのは初めて見るウマ娘がそこにいた。 長い栃栗色の髪解け。透き通るような絹糸のような肌。背が高く足が長い、どこか痩せているようにも見えるその身体。ふと彼女の顔がマーベラスサンデーの方に向く。マーベラスサンデーが見たのは夏の清流を思わせる、透き通るような水色の瞳。その瞳の奥には桜の花びらのようなハイライトが輝いている。 「ええと、あなたは・・・」 彼女も見慣れないウマ娘に少し途惑い気味に言葉を漏らすと 「はい!!!彼女はマーベラスサンデーさんです!!!ローレルさんが入院している間、私達と練習をしていました!!!」 と解説するのはサクラバクシンオー。
1 21/07/27(火)02:02:35 No.828008644
「そうなんですね、バクシンオーさん」 と、彼女はにこやかに微笑み 「はじめまして、スリゼローレルといいます。しばらく入院していたんですが、今日から練習に復帰することになりました。よろしくお願いしますね」 すこし首を傾け、優しげに彼女はマーベラスサンデーに微笑んだ。 当のマーベラスサンデーはその言葉を、ただ大きな瞳を見開いて聞いていた。普段の彼女らしくない、妙な静けさが彼女に漂っている。 「あの・・・」 あまりに反応がないことに、息を詰まらせたように、困ったようにスリゼローレルは視線を泳がせた。他のウマ娘も、視線を交し、妙な沈黙が漂っている。 そんな中 「はーい!今日の練習を始めますよー!」 手を叩きながら、声をかけてきた女性がいる。サクラバクシンオーをはじめ、多数のウマ娘を指導するベテラントレーナーだった。 慌てて整列するウマ娘達。先ほどの活気はどこへやら。ウマ娘達の間に、練習に対する緊張感が溢れる。そして練習へ挑む真剣な表情でそれぞれの顔が彩られていた。
2 21/07/27(火)02:03:18 No.828008757
練習に打ち込み始めるウマ娘達。マーベラスサンデーもそれに混じり練習に励んでいる。 しかしただ一人、皆に交じらず、ぽつんと一人、練習をするウマ娘がいた。スリゼローレルである。 「まだ、本調子じゃないみたいですね」 そういうのは若きマーベラスサンデーのトレーナー。 「まぁ、久しぶりの練習なのよね、あの子」 それに合わせるようにベテラントレーナーが呟いた。 スリゼローレルの様子を見ると、足の感覚を確認しながら、ゆっくりと無理をせずトレーニングに取り組んでいるようだった。休養開けの練習初日で、いきなり飛ばすようなことは流石にできないようである。 その様子を遠くから見ているウマ娘がいた。マーベラスサンデーである。 大きな金色の瞳が、ただ何も言わず、何も語らず、健気にトレーニングに取り組むウマ娘をただただその瞳の光の中に捉えていた。 「マーベラスさん?」 そう他のウマ娘が声を掛けてくるが、彼女は気づかない。 「マーベラスさん!」 「え?」
3 21/07/27(火)02:03:31 No.828008788
ようやく声に気づいたマーベラスサンデーが振り向くと 「次、貴方の番よ」 と、あきれたようにターフを指さした。 スリゼローレルを見ているうちに、自分の走る順番になっていることにすっかり気づけなかった彼女である。 「あ、ごめんね☆」 そういつもの調子を取り戻すと、コースに入り、いつものように勢いよく駆け出すマーベラスサンデー。 その足は力強く、ターフを切り進める。まるで、それは何かを示すように。誰かに誇るような走り方だった。
4 21/07/27(火)02:04:07 No.828008881
7月下旬。 スリゼローレルが復帰して1週間が経った。依然として彼女は自分のペースで練習をし、その内容はどこか控えめなものとなっていた。 「今日は併せウマをしたいと思います」 そう、ベテラントレーナーが告げ、ウマ娘達がそれぞれ二人組になり始める。 そんな中でスリゼローレルは途惑っていた。 (併せウマなんて・・・) と、弱音じみた声を脳裏に響かせる。 病気からの療養開けで、全然走れない自分と組んでくれるウマ娘なんて居るはずない。そう彼女は思い込み、途惑いと、喉に綿を詰まらせたような苦しさを抱えていた。そんな中である。 「ローレル先輩☆」 話しかけてきたウマ娘がいる。
5 21/07/27(火)02:04:42 No.828008978
「マーベラス、サンデーさん」 彼女の名を、スリゼローレルは口にした。 「一緒に走りません?」 「えっと・・・」 尚途惑うスリゼローレルに対して、マーベラスサンデーはにっこり笑い、彼女の両手を握った。 「ふぇ!?」 驚くスリゼローレルを完全に無視して 「一緒にがんばろー☆」 と、マーベラスサンデーは元気よく手をぶんぶんと振る。 「あらあら・・・」 その様子を見て少し満足そうに呟いたのはベテラントレーナーだった。 「す、すみません、うちの子が・・・」 と慌てた様子で止めようとする新人トレーナーだったが 「ううん、いいのよ」 とベテラントレーナーがそれを制した。
6 21/07/27(火)02:05:26 No.828009104
「いいのよ、これで」 と言う彼女の視線の先には、病弱で遠慮がちで、練習に打ち込めていなかったウマ娘が、年下のウマ娘に翻弄される愉快な姿がただ写っていた。 8月上旬になった。 7月下旬、スリゼローレルにマーベラスサンデーが併せウマの相手を名乗り出て以降、二人はよく一緒に練習するようになっていた。それはベテラントレーナーにとって好ましい変化だった。実のところ、スリゼローレルはクラシッククラスのまっただ中にある。確かに身体の調子が好ましくなく、皐月賞には出られず、日本ダービーでは直前で球節炎にかかり入院。しかし最後の一冠、菊花賞が残っているのだ。 この年、皐月賞と日本ダービーの戴冠を得たのは、シャドーロールの怪物こと、ナリタブライアンだった。彼女には三冠かかる重要なレースである一方、他のウマ娘からすると、最後の最後に一泡吹かせたい、一矢報える最後の機会が菊花賞だった。 そしてベテラントレーナーは信じていた。スリゼローレルの実力を。潜在能力を。
7 21/07/27(火)02:06:14 No.828009231
だからこそ、次のトライアルレース、セントライト記念で優先出走権を得て、菊の舞台であの怪物と戦って欲しい。それが彼女の願いでもあり、期待の裏返しでもある。 9月下旬に行われるセントライト記念からすると、この8月の追い切りこそが一番大事な時期であるのは言うまでも無い。怪我の恐怖から前向きな練習が出来ていなかったスリゼローレルが、ようやく前向きさを取り戻そうとしている。 それは、新人トレーナーが連れてきた、「マーベラスな世界にしたい」と語る、どこか不思議なウマ娘のおかげであったと、ベテラントレーナーは感じていた。 だからだろう。この日、ベテラントレーナーは、マーベラスサンデーに初めてお願いをしたのだ。
8 21/07/27(火)02:06:35 No.828009302
併せウマが始まる前のこと。 「マーベラスサンデーさん」 ベテラントレーナーはマーベラスサンデーに話しかけた。 「はい☆」 と応える彼女に対し、 「今日の併せウマなんだけど、全力で走ってくれないかしら」 ベテラントレーナはそう笑顔で彼女に話しかけた。 しかし 「え?」 マーベラスサンデーは途惑いの声をあげた。 ベテラントレーナーから語られるその言葉は、一見まっとうな意味合いに取れる。練習は全力を出し切ってこそ成長出来る。それは彼女にも分かっている。 しかし、この併せウマにおいては、その選択は非常に残酷な提案だと、彼女は気づいていた。すぐに気づかざるを得なかった。 「あの子のためなのよ」 続けざまにそう語られる言葉には強い意志が乗っていた。
9 21/07/27(火)02:06:55 No.828009355
何も返事が出来ず、ただ立ち尽くすマーベラスサンデーに 「お願いね」 と言い、ベテラントレーナーは去って行く。 そんな中 「マベちゃーん!」 後ろから話しかけてきた明るい声。 びくっと身を震わせて振り向いた先には、等身の高いフランス人形のようなウマ娘、スリゼローレルが立っていた。 「今日もよろしくね、マベちゃん」 そうにこやかに笑う彼女の顔を、マーベラスサンデーは何も言わずただ見つめていた。 「どうしたの?」 そう不思議そうに話しかけるスリゼローレルに対して 「・・・ううん☆何でも無いよ☆今日も一緒にがんばろー☆」 と、いつもの調子で話しかけるのだった。
10 21/07/27(火)02:07:20 No.828009420
芝2200m、右回り。 「よーい・・・どん!」 合図役のウマ娘の声とともに駆け出す二人のウマ娘。 マーベラスサンデーとスリゼローレルの併せウマが始まった。 先頭に立ったのはスリゼローレル。そしてその後ろにマーベラスサンデーがつける。長い直線を経て第一コーナーに向かい、おおよそ2バ身差くらいだろうか、二人はそこまでの差をつけず走り抜けていく。 第二コーナーを抜け向こう正面に差しかかっても、二人の差は変わらない。 そんな中、マーベラスサンデーは、ベテラントレーナーに言われた言葉を思い出していた。 「全力で走ってくれないかしら」 その言葉を脳内で噛みしめるように思い出す。 目の前を見ると、真剣な表情で先行するスリゼローレルの姿があった。その顔は前だけを見て、少しでも速くなるよう、必死に足を急がせているように、彼女には見えた。 少しだけマーベラスサンデーは、スリゼローレルの姿を見るのを止めた。 向こう正面のストレートが終わり、第三コーナーに差し掛かる頃、マーベラスサンデーは少しだけスピードを上げる。
11 21/07/27(火)02:07:57 No.828009521
そして綺麗なライン取りでスリゼローレルの横に付け、併走するように走って行く。 スリゼローレルはそれを見て、少し焦ったようにスピードを上げた。コーナーは本来トップスビードが殺される場所である。ライン取りと体重移動が肝要になる局面であるが、そこまで気にするほど、彼女には余裕がないように思えた。 何故ならばマーベラスサンデーとの差が全く開かないからだ。 体力を消耗させ、無理にスピードをあげたつもりが、全く項を奏してない。その焦りを抱えたまま、第四コーナーを抜けていくスリゼローレル。 そして最後のホームストレッチが、二人の前に開けてきた、その時だった。 「え!?」 驚き声を上げたのはスリゼローレルだった。 コーナーを抜けた途端マーベラスサンデーがとんでもない勢いで加速し駆け始める。 必死にそれを追うスリゼローレル。しかしその差はどんどんと開いていく。 (嘘・・・、嘘・・・!) どんどんと小さくなっていくマーベラスサンデーの後ろ姿。絶望の悲しみが押し寄せ、それが彼女の心を強く揺れ動かす。 足を必死に動かしても、前を向いて顎を引こうとしても、その差は全く縮まらなかった。
12 21/07/27(火)02:08:44 No.828009657
マーベラスサンデーが、ゴールを駆け抜け、大きなどよめきが起こる。 スリゼローレルとのバ身差は10バ身差だった。 練習が終わり、それぞれが寮へ帰り始める時間帯。 「今日はありがとね、マベちゃん」 いつものようにやさしい調子で、スリゼローレルはマーベラスサンデーに話しかけた。 「・・・うん☆先輩、また明日ね☆」 マーベラスサンデーはそう挨拶する最中 「マーベラスサンデーさーん!帰りますよー!!!」 と彼女のトレーナーに呼ばれ 「はーい☆」 と、夕日の中に掛けて行く。 夕日の中に消えていくマーベラスサンデーの姿をいつまでも眺めるスリゼローレル。 気づくとオレンジ色に彩られたターフの上には、彼女一人が立ち尽くしていた。
13 21/07/27(火)02:09:22 No.828009770
そんな中 「お疲れ様」 と、彼女の後ろから話しかけてきたのはベテラントレーナーだった。 「はい」 と、短く返した彼女の顔は、どこかうつむきがちである。 「どうしたの?」 優しく語りかけるベテラントレーナーに 「・・・やしいです」 消えいりそうな声でスリゼローレルは声を掃き出す。 「なぁに?」 わざとだろうか、聞こえないような振りをして、ベテラントレーナーは再度問いかける。 その刹那だった。スリゼローレルの顔が正面を向く。 ベテラントレーナーの視界に入ってきたのは、涙と鼻水で歪みきった、麗しさのかけらもないウマ娘の姿だった。
14 21/07/27(火)02:10:20 No.828009933
「くやしいです!!!」 大声で、鼻声をにじませたその声で、彼女は心に刺さった悔恨の槍を引き抜くように、掃き出すように叫ぶ。 「くやしぃ・・・くやいぃ・・・うぅ・・・うぁぁぁあぁぁぁあ・・・!!!」 そして膝をつき、その場に泣き崩れた。 一つ下のウマ娘に完敗した悔しさに。復帰しても怪我を怖がり練習に打ち込めなかった自分の弱さに。ありとあらゆる後悔を、現状のふがいなさを、彼女は涙という滴で洗い流すことを望むように、ただただ泣き続ける。 そんな姿を見て、ベテラントレーナーは膝をつき、彼女を抱き留めた。 そして 「ようやく素直になれたわね」 と声をかけると、スリゼローレルの頭を優しくなでるのだった。 夕日が沈む空には、宵の明星が静かに登り始めていた。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する fu195699.txt
15 21/07/27(火)02:18:24 No.828011113
おい待てェ、失礼するんじゃねェ 今更だけどそこ偽名使う必要ある?
16 21/07/27(火)02:21:35 No.828011620
スリゼでピンと来る人はそう居ないと思う
17 21/07/27(火)02:38:50 No.828014140
書き込みをした人によって削除されました
18 21/07/27(火)02:39:47 No.828014262
アニメではきちんとぼかしてたので許可とれてないウマ娘は多少ぼかそうとカフェの頃から思いはじめました なのでちょっと興味沸いた人は原作調べて貰って感づいていただければそれでいいかなって… 分かりづらくてすみません
19 21/07/27(火)05:39:26 No.828026807
たぶんこの馬かなと経歴見てみたら 陣営から大事にされその愛に応える不死鳥のような馬でカッコいい