虹裏img歴史資料館

1 21/07/26(月)02:01:56 No.827656957

出会いは選抜レース、芝長距離戦。 ……彼女に芝を走る力はない、誰もがそう確信出来る散々たる有様だった。 長距離に耐えられない様な心肺機能ではないのだろう、1着で通過したウマ娘と比較しても呼吸の乱れは少なく見える。 だが足運びが余りにも芝に向いたものではない。 無造作に力強い足運びは彼女の魅力だが硬い芝の上でその足運びを続けられるほど彼女の脚は強くない様に見えた。

2 21/07/26(月)02:04:13 No.827657372

「ダート中距離でそこそこの成績を出せれば上々といったところか…」 　 彼女の適性はダートだ。 それでも一流になんとか指をかけられるかと言ったところではある。 今回のレースが長距離戦だった以上中距離の適性はまた改めて図る必要もあるだろう、それでも彼女の走りは人を惹きつける妙な魅力があったし、それを伸ばしてみたいと考える自分もいて…つい声をかけてしまったのだ。 　 「一緒にトゥインクルシリーズに挑戦する気は無いかい？」 　 気楽で、気さくに、なんの気負いもなく声をかけてしまったのだ。 彼女は弾かれた様にこちらを振り向いた、その顔のことは今でも思い出す。 ひどく困憊して、憔悴して、思い詰めた表情をしている、目元の隈は濃く、目尻は赤く、しかし顔全体は青ざめている。思わず声を失った。 「よろしくお願いします！」 そう言って呆気に取られた私の手を取りその場でトレーナー契約は結ばれた。

3 21/07/26(月)02:05:07 No.827657537

後日、トレーナー室に彼女を呼び出し今後の展望を話し合おうという場で彼女は一つの質問をしてきた。 「私は…私はターフで走れますか！？」 ああ、この子は何という質問をするのだろう… そんなことは自分自身が一番よくわかっているだろう、そんなことをきいても返ってくる答えなど一つに決まっているのに。 諦めさせるべきだ、それが大人として…そしてこのトレセン学園に所属するトレーナーの責任のはずだ、ダートの長距離に絞って海外に目を向ける手もある。

4 21/07/26(月)02:05:32 No.827657605

だが… 「……地獄を見る覚悟はあるか？」 自分でも思いもしない言葉が口をついて出ていた。 今なら彼女に感じた魅力の正体が分かる。 アレは自らの命を削る覚悟をしたものだけが放つ輝きだ。 自ら地獄を歩む覚悟を決めた者だけが放つ死の輝きだ。 きっと私が何を言ったところで彼女は走り続ける…ならば… 彼女のトレーナーとなるのなら私も地獄を見るべきなのだとその時になって覚悟したのだ。

5 21/07/26(月)02:06:25 No.827657769

それからの日々はまさに地獄と呼ぶに相応しいものだった。 あらゆる敗北から目を逸らすことは許されない、適正の見合うレースに逃げることも許されない。 彼女の走りと敗因を何処までも観察して分析して改善して再び敗北する。 勝てる様になるまでコレを何度でも繰り返す。 理事長からは正気を疑われ、たづなさんからは無茶を詰問され、ファンからは剃刀の入った封筒が送り付けられる。 「トレーナーさん…私…」 「大丈夫だマイティ…キミはキミが走りたい道を走ればいい…そのための方法は必ず俺が探してみせるから」 彼女はますます思い詰める様になっていた。 自分が地獄を見るよりも俺に地獄を見せることに罪悪感が募っていく日々、だがそれでも、彼女の意思は折れていない。 俺が彼女を手放しても彼女はこの地獄を走り続けてしまうのだろう。 ならば…彼女の背を押してしまった私が何故ここでリタイア出来るだろうか？ 「ああ大丈夫だマイティ、絶対に…約束する」

6 21/07/26(月)02:06:48 No.827657829

二年目になると視力の衰えを感じ始めていた。 原因は分かりきっている真夜中までビデオを見過ぎているのだ。 医者からはこんな若さでこんなペースで視力が落ちたやつは初めて見ると呆れられてしまった。 お陰でメガネと目薬が手放せなくなってしまったがコレも仕方のない代償だろう。 「トレーナーさん私のために…」 「いや、マイティのせいじゃ無いさ…単に俺の不養生だな…お前はしっかり体調管理しろよ？」 さて、この視力もとりあえず彼女の三年間を支え切るまでは持って欲しいところだが。

7 21/07/26(月)02:07:20 No.827657897

三年目の4月、遂に理事長に呼び出されてしまった。 「無謀ッ！これ以上キミの方針を看過することはできない！！」 「……でしょうね」 「わかっていて何故こんなことを！？下手をすれば彼女の競技人生に関わるんですよ！」 「彼女がターフを望みました、それが全てです」 「……狂気の沙汰だ」 「理事長、貴女は全てのウマ娘が輝けるレースの創設を謳いました。マイティにとってそこは芝の上なんです…例え本人の適性が砂の上であったとしても」 「…今月だ」 「…はい」 「今月の春の天皇賞、ここで勝利できないにしてもなんらかの兆しが見て取れなかったならば」 「分かっています」 「「全ての責任を持ってハーフマイティの担当トレーナーを解任してもらう！（辞めさせていただきます）」」 「二言は無いな！」 「はい」 「では具体的な目標は…掲示板…いえ、3着以内とさせて頂きます。当然ですが怪我等にはくれぐれも気をつけて下さいね」

8 21/07/26(月)02:07:37 No.827657948

一礼をして理事長室を後にすると扉の向こうにはマイティが立ち尽くしていた。 「トレーナーさん…」 「失敗したら…俺は刺されるかもしれないな」 「…そんな！」 「キミの適性を無視して何の成果もあげられず挙句は三年目の途中で解約…ファンからしてみればどんな無責任なやつだって話しだ」 「そんなことはありません！！」 その時、マイティの瞳に今までとは違う意思が宿るのを見た。 「証明してみせます…トレーナーさんは無責任なんかじゃ無いって！何も無駄なんかじゃ無いって！間違ってなんか無いって！！」

9 21/07/26(月)02:08:28 No.827658079

月末　京都レース場 ここまでの道のりの成否を占う大一番。天皇賞（春） 「……まいったな」 覚悟はしていたが錚々たる顔ぶれである。 スペシャルウィーク、セイウンスカイ、マチカネフクキタル、キンイロリョテイ、メジロの令嬢も二人ばかり顔を見せている。 このメンバーの中で3着に食い込まなければ… 「いや、あいつが一番不安なはずだ…俺が励ましてやらないとな」 そう自分に言い聞かせて控室の扉を開く。 「おい、マイティ…」 久々に言葉を失った。 彼女の中で何かが燃えている…そう錯覚させるほどの陽炎を思わせる熱が部屋全体にこもっている。 「お前…」 「絶対に…約束しますから」 「死んでも3着にはねじ込んできます」

10 21/07/26(月)02:08:55 No.827658164

彼女のその陽炎の如き気迫は遂に奇跡を起こしてみせた。 全てのウマ娘が彼女に視線を奪われる。 集中を掻き乱し誰もがペースを狂わされる。 ついこの間までこのメンバーに競り合える様な力はなかったはずのウマ娘がよりにもよって先頭集団で競り合っている！！ 混乱、困惑、猜疑。 破滅的逃げの予感に力を温存しようと速度を緩める！ だが、そうではない。 気迫こそ死を覚悟で放たれるそれであっても彼女のペースは正常を保っている！

11 21/07/26(月)02:09:29 No.827658263

いち早くそれに気付き速度を戻したのはセイウンスカイ。 続いてスペシャルウィークがさらに速度を上げてマイティを突き放しにかかる！ 続いてメジロの令嬢が続こうとするが。 マイティがさらに加速した。 もともと力強さを売りにしていた彼女の脚、それを芝でも負担をかけることなく生かす走りを身につけたならば。 加速力として彼女の武器になる！ 1着　スペシャルウィーク 2着　セイウンスカイ 3着　ハーフマイティ 「……成った！！」

12 21/07/26(月)02:10:40 No.827658436

慌ててレースを終えた彼女に近づくと駆け寄ってきた彼女に思いきり抱きしめられた。 「良かった…良かったよぉ～！！」 「よく頑張ったなマイティ」 「コレでコレからもトレーナーさんがトレーナーさんなんですよね！？」 「ああ、コレからも一緒だ」 それを聞いてさらにマイティが号泣する。

13 21/07/26(月)02:10:59 No.827658497

「私、本当は怖くって！」 「うん」 「でも芝を走れないことよりも本当はもっと…トレーナーさんと別れるのが怖くって！！」 「そうか」 「良かった…本当によかった！！！」 「大丈夫だ、お前はちゃんと走れる子だから…」 「私、有馬で勝ちます…そしてずっとトレーナーさんの隣で胸を張っていられるウマ娘になります！！」 「そうか…俺もそれが出来るトレーナーにならないとな」 「絶対ですよ！！」 「ああ…約束だ…俺たちは何があっても…ずっと一緒だ」 気づけば私も泣いていた。 涙で目が霞んだ。

14 21/07/26(月)02:12:11 No.827658686

鴨葱ハーフマイティでした 有馬記念編？ 展望が全く思いつかないので書けませんでした！！ ﾀｽｹﾃ…

15 21/07/26(月)02:14:12 No.827658986

ラストの目のかすみって本当に涙のせい？

16 21/07/26(月)02:15:46 No.827659225

https://db.sp.netkeiba.com//race/199906050809 このメンツにマイティで勝たないといけないのか… 無理じゃない？

17 21/07/26(月)02:16:02 No.827659269

オイ待てェ 鴨葱ぴょいしてねえじゃねえか

18 21/07/26(月)02:18:49 No.827659696

>オイ待てェ >鴨葱ぴょいしてねえじゃねえか 最終目標も達成していないのにひょいするわけにはいかないので失礼する…

19 21/07/26(月)02:23:54 No.827660445

マイティの男性観はバキバキに破壊されてるし何があっても一緒宣言までしてるからどのみち責任は取らないといけないしでゴールしちゃってもいいんじゃない？

20 21/07/26(月)02:28:18 No.827661082

>このメンツにマイティで勝たないといけないのか… >無理じゃない？ 勝てば無理じゃなくなる

21 21/07/26(月)02:29:15 No.827661202

>［憧れへの進撃］ハーフマイティ >チア服 >固有二つ名　中途半端から憧れへ >条件　有馬記念を一番人気で勝利 >芝G/ダートB >短距離D/マイルC/中距離C/長距離B >スピードG+/スタミナG+/パワーF/根性G+/賢さG+ >補正　パワー20% スタミナ10% >逃げC/先行B/差しF/追い込みF >固有スキル　just look at me！ >中盤に競り合うと気迫で全てのウマ娘の注意を集めて速度を落とさせる ちなみにコレがマイティのステータスだ！ 春天3着でも快挙だよ！！

22 21/07/26(月)02:48:29 No.827663462

視力が落ちても職場から叱責されても剃刀を送りつけられても自分の為に地獄に飛び込んでくれる大人の男を思春期の少女にシューッ！

23 21/07/26(月)02:59:54 No.827664565

うーん…これは狂気

24 21/07/26(月)03:15:21 No.827666186

天皇賞に出馬させられるくらいには実績があり熱狂的ファンまでついている程度には仕上げてきている筈なのに理事長とたづなさん当たりがきつくないっすかね…むしろ守る立場なのでは？

25 21/07/26(月)03:23:10 No.827666953

>天皇賞に出馬させられるくらいには実績があり熱狂的ファンまでついている程度には仕上げてきている筈なのに理事長とたづなさん当たりがきつくないっすかね…むしろ守る立場なのでは？ 一歩間違えれば重大な事故につながりかねないって認識なのかもしれない

26 21/07/26(月)03:29:52 No.827667597

本来の適性外とはいえモブクラスを本人の希望に沿って第一線のネームドと戦えるレベルに引き上げる手腕のトレーナーを世論の声に迎合して追い詰め放逐するような学園なら担当ごと移籍した方がいいように思う

27 21/07/26(月)03:44:18 No.827668712

>本来の適性外とはいえモブクラスを本人の希望に沿って第一線のネームドと戦えるレベルに引き上げる手腕のトレーナーを世論の声に迎合して追い詰め放逐するような学園なら担当ごと移籍した方がいいように思う とはいえ三年目に春天3着以内はまぁないとはいえない目標設定だし目標達成できなかったら担当契約解除もアプリ通りなので…

28 21/07/26(月)03:55:11 No.827669499

>とはいえ三年目に春天3着以内はまぁないとはいえない目標設定だし目標達成できなかったら担当契約解除もアプリ通りなので… いやあれはゲーム上の課題であってまだ終わったわけではないと続くし契約解除ではないと思う それに5位以内3位以内や1位を取るが出てくるけどそれ未達でクビになってたら殆どが消えることに…

29 21/07/26(月)03:59:36 No.827669786

トレセン学園が地獄になるよね…

30 21/07/26(月)04:03:34 No.827670066

細かいことはともかくとして熱意は伝わった

31 21/07/26(月)04:16:57 No.827670856

常にトレーナー不足というのが公式だったか妄想だったか思い出しているが 仮にこんな事で配置転換すっ飛ばしてクビないしはパワーハラスメントしてるならなるべくしてなってるなと