虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/07/24(土)20:29:29 この物... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

21/07/24(土)20:29:29 No.827080189

この物語は幕引きから始まる。 The end of sky. The day is DOOM of DREAM. 終わりを目の当たりにした私はいかに行動し、何事もなく無事に最後の日を迎えるか。 今この世界には空しかない。大地はみな割れ、崩れ去った。わずかな切れ端がわずかな人々の命をぎりぎりで繋ぎ止めている。 本日の天気は全国的に赤。夕方とも朝焼けとも違う血のような赤が、雲の間からギラギラと照り付けている。さて。 どうしてこうなったんだっけ。 私の名前はセイウンスカイ。そこらへんにどこでもいる、普通のウマ娘。強いて特異な事柄を挙げるとすれば、この終末において生き残っていることくらいだろう。でもそこに至る経緯がさっぱり思い出せない。ただ一人、生き物の消えた海辺にたたずんでいる。海の色も空を反射して真っ赤に染まっている。これじゃあ釣り糸を垂らす気にもなれない。

1 21/07/24(土)20:29:55 No.827080377

「…またか」 私が感づいて今いる場所から離れると同時に、狙いすましたように地面が裂ける。崩れ、岩は砂になる。こうしてまた我々の生存圏は少し減っていく。出鱈目な天変地異。それが今起こっている終末の形だ。現実的なものからは程遠いけれど、神話に語られているそれと比べると唐突すぎる。リアルとアンリアルの間にある光景が、かえってそれを現実らしいと認識させる。 パラダイス・ロスト。人は地球という楽園を失い、逃げ場もなく滅びる。殆ど海と空に囲まれた今の世界は、私にとっては天国のようなものかもしれないけど。まあ、それはさておき。今の私に必要なのは記憶の回復だ。なぜか今がこの世界の終わりだということ以外、何も思い出せない。映画の途中で眠ってしまい、目を覚ましたらエンディング目前だったかのような。 とりあえず現在地を知りたい。ここは地球のどこに当たった部分なのだろう。後ろを見れば浅瀬が無限に広がっている。前を見れば荒波が人を食わんとしている。…うん、とりあえず後ろに進むしかない。

2 21/07/24(土)20:30:17 No.827080543

靴が濡れるのも構わず浅瀬に足を進める。水底にあったのは草原のようで、足に触れると少しくすぐったい。やれやれ、セイちゃんは海に身体を投げ出す趣味はないんだけどな。それは確か…そう、そうだ。私はそこから忘れていた。トレーナーさんが、私にはいた。トゥインクル・シリーズをともに駆け抜ける担当ウマ娘とトレーナーの関係。それすら忘れていた。ならばほかにも致命的なことを忘れているかもしれないし、それ抜きでここにいる私は果たして本当の私といえるのだろうか。人格形成に大きな差が生まれないだろうか。 「なーんて、この状況なら関係ない。だから忘れた。そういうことかも」  世界の終末において、ターフを走る技術が何の役に立とうか。日々のサボりのほうがよっぽどサバイバルに生かせそうだ。だから生き延びるために記憶を捨てて、そのおかげで生き延びているとしたら。私がトレーナーさんのことを思い出したのは死に至る病に近いかもしれない。

3 21/07/24(土)20:30:44 No.827080724

 とはいえ、このまま何事もなく生きていくことができるとして。記憶もなにもない状態で、世界の最後の一人になれるとして。それはそんなに面白そうにも思えなかった。だから私は、この記憶を忘れないようにする。トレーナーさんのことを、最初の記憶の手がかりとする。あるいは私が元に戻れば、この世界も元に戻るかも。穴や亀裂だらけの大地が私の記憶とそっくりだ。そうだとしたら、なおさら前に進まねばならない。世界を救うなんて大層なお題目には慣れていないが、たまには私にもそういう大仕事があるということかもしれない。…少し大げさすぎるような気もするが。  大きく目の前に広がるのは、赤い水面と赤い空。どこまでも広がっていて、破滅の果てにあるものはこんなにも美しいのかと感動してしまう。まさに筆舌に尽くしがたい。滲む赤と染まる赤のコントラスト。風の音だけが無造作に歌う空間座標。私の足音はそこで踊るように跳ね、引っかかった水がまた別の音を立てている。なんて贅沢なソリチュードだろう。 「でも、前に進まなきゃね」

4 21/07/24(土)20:31:15 No.827080949

 とりあえずの目標、トレーナーさん。あなたを見つけることが生きがいだと言ってみれば、少しロマンチックかもしれない。一歩、一歩。一歩ずつ、徐々に浅瀬を駆けてゆく。いくら走っても景色は変わらない。長距離には自信があったが、ここまで変わらないとくじけてしまいそうだ。太陽すらどこにあるかわからない空。雲の動きを読んで、自分が進んでいるのを実感するしかない。心を込めて歩んで、思考の進みを以って時間を判断するしかない。  不思議と体に疲れは感じず、何百メートルも、何キロメートルもずっと足を進めていられた。崩壊した空は時間の流れを告げず、体内時計も腹の虫一つ鳴らさない。つまりは私が走った時間はゼロに等しい。走ることがウマ娘の本能とすれば、永遠に駆けていられるここは本当に天国のような場所といえる。

5 21/07/24(土)20:31:32 No.827081088

ああ、だから。今私は。たとえこの世界に一人だろうと。たとえ誰のことも思い出せなかろうと。たとえ近いうちにこの大地とともに終わりを迎えようと。たとえ。そう思おうとした私の脳裏に、トレーナーさんの存在がよぎる。…やはり思い出してしまった以上、知り合いの安否は気になるというものだ。仕方ない。もう少しだけ、幸せはお預けだ。  そうして、長い間歩いて。ここに時間の概念があったなら、何日経っていただろうというくらいの間。歩いて、走って。休むことなく足を動かして。ようやく私の前に、景色の変化が訪れた。 「…うわー、すっごい」  そう感嘆が漏れてしまう。でも、そうとしか言えない。そこにあったのは、天まで伸びる光の帯。辺り一帯数十メートルの水面を白く照らし、あの赤い空までも貫く最果ての光柱。遠く、遠く。聳え立ち、君臨する。この世界の真理がそこにあるようにすら思える。現実離れしたライトラインが、確かに目の前に、手が届きそうなほどに。だから、私がそこに手を伸ばしたのは必然に近いのだ。でも光でしかないそれは私の手を飲み込み、掴むことはできない。

6 21/07/24(土)20:31:46 No.827081186

 瞬間、閃光する。光の柱が文字通り光速で肥大化し、私の全身を包み込む。やわらかい熱が肢体に染み込む。視界は赤から白へと転換し、まばゆさで目が焼かれそうになる。思わず目を閉じると、瞼の裏に浮かんだものは。まぎれもなく、あなたのシルエットだった。 光が収まり、私はそれを感じ取って恐る恐る目を開く。赤い空は再びやってきていたが、辺りの風景は見違えていた。目の前にあるのは巨大な岩山。おまけにそれを越えなければならないとばかりに周りは崖に覆われている。やれやれ、いくらウマ娘だからと言って丸腰で山を登れというのか。でも不思議と面倒くさがりのはずの私はやる気に満ちていた。 「待っててよね、トレーナーさん」

7 21/07/24(土)20:32:02 No.827081306

先ほど目を閉じたときのサブリミナル。幾時ぶりにみた人の形だろうか。根拠としてはあまりにも弱いが、先ほどの光はトレーナーさんのほうへ導いてくれている気がした。だから進もう。この破滅の中に於いて、生きる導はそれだけなのだから。絶望的な限界状況。けれど、私の歩みは光に満ちている。あるいはこの道の先にあなたがいるとは限らない。それでも、前へと行ける。岩山のふもとに手をかけると、ごつごつした痛みが軽く指を襲う。足を懸ければ膝がこすれる。全くなんで勝負服なんだか。 一つとして希望の見えない世界。私は一人取り残されて、みなあの世に行ってしまっている。それなのに寂しがり屋のセイウンスカイは、愚かにも微かに覚えている人の姿を探し続けている。 山道のない道のりはすぐ私を血まみれにしたし、痛みに慣れるまでは一メートル登るのに大変な時間がかかる。でも頂上が見える世界なだけ、先ほどよりは楽かもしれない。そう思うことにして、ひとつ、ひとつ。出っ張った岩をつかんでいく。 「…うおっとぉ!?」

8 21/07/24(土)20:32:17 No.827081421

がりっ。手を懸けた岩が崩れ、私はたちまちバランスを崩す。山の中腹から麓まで体を何度も打ち付けながら転がり落ちた。…いたた。よく考えると死んでもおかしくないと思ったが、身体からは血が流れるのみで。まるで世界が私に進めと言っているようだ。負けられない。ここで止まれば、本当に何もかもが終わってしまうのだから。  何度も何度も繰り返す。地に落ちればそれをばねにして、もう一度血まみれの手をひっかける。手を懸ける場所がなければ爪で削り取り、無理やりくぼみを作り出す。私は負けず嫌いなのだと、だれもいない時くらい認めてやろう。この姿をトレーナーさんに見られたら、笑われてしまうかもしれないが。笑ってくれるなら上々だ。すべての夢が壊れたこの終末で、二人で笑い合えるなら。ほかには誰もいないなら、私たちは世界で一番幸せだとも。   「はぁ…。もう、すこし…!」

9 21/07/24(土)20:32:31 No.827081529

 少しずつ、空気が肌寒くなってくる。酸素が薄くなってくる。この苦しさは進んだ証。だから、未来は解き放たれている。私の脚はこの時のためにあったのかもしれない。私の闘争心はこの時のためにあったのかもしれない。あなたと出会ったのは、立ち止まらないためだったのかもしれない。 「…よいしょ」 「なーんだ、」 「誰もいないじゃん」 頂上にたどり着く。そこは殺風景で、わかりきっていたようにトレーナーさんはいない。ひとつ違ったのは、平べったかった赤い空に奥行きが見えたこと。雲と赤のハザマから、別の色が見える。 「にゃはは、青空だ」  私の色だ。まだこの世界は終わっていない。そう感じる。そう信じる。だから、あなたもどこかにいる。 これはきっと、私があなたを見つけるまでの物語。

10 21/07/24(土)20:32:56 No.827081712

アポカリプスカイは七月中に短期集中連載予定です

11 21/07/24(土)20:42:00 No.827085724

お…おう… 続きを読まないとなんとも判断つかないわ…

12 21/07/24(土)20:45:44 No.827087541

セイちゃんはどうなるのか…そもそもどんな状況なのか… 続きが気になりすぎる

13 21/07/24(土)20:48:36 No.827089067

幼年期の終わりのラスト付近みたいな…

14 21/07/24(土)20:49:57 No.827089715

連載しますと言われても…

15 21/07/24(土)20:50:51 No.827090170

>がりっ。手を懸けた岩が崩れ、私はたちまちバランスを崩す。山の中腹から麓まで体を何度も打ち付けながら転がり落ちた。 めっちゃ落ちるやん…

16 21/07/24(土)20:52:42 No.827091010

ハーメルン辺りに投げたら?

17 21/07/24(土)20:53:54 No.827091618

アポカリプスカイ好きだよ

18 21/07/24(土)20:54:08 No.827091745

ポストアポカリプスカイも似合いそうだ

19 21/07/24(土)21:04:01 No.827096478

ぶっちゃけタイトルだけ先行で書き始めて思ったより長くなりそうだったから途中で切ったんだけど切らない方が良かったかもしれないごめんね…

20 21/07/24(土)21:05:03 No.827096993

書き上がってるなら一気に貼っちゃったほうがいいぞ

21 21/07/24(土)21:05:32 No.827097247

文章的にはかなり引き込まれたのでお待ちしております

22 21/07/24(土)21:05:35 No.827097277

本来匿名掲示板で続き物は下策よ

23 21/07/24(土)21:06:13 No.827097658

長篇でも一回で貼っちゃうか切るなら切る毎に起承転結つけて単話で見れるようにした方がいいよ

24 21/07/24(土)21:07:28 No.827098177

書ききったものをなんとなくで切り分けただけだとしたら 申し訳ないけど次も読みたいなと思えるような引っ掛かりはなかったよ…

25 21/07/24(土)21:11:44 No.827100457

「」イチャ逃げるもん! こいつは説教してもいいやつ認定されてるもん!!

26 21/07/24(土)21:17:21 No.827103454

imgはルール無用だろ

27 21/07/24(土)21:20:17 No.827105061

ぶっちゃけ現時点だとつまんないので続きあるならあんまり間隔空けないでやった方がいいと思う

28 21/07/24(土)21:21:03 No.827105428

続き物でちゃんと感想ついてるのもあるけどね現行だとネイチャのとかカフェのとか 既に全部書き上がってるなら小分けにする意味もないと思うけど

29 21/07/24(土)21:25:21 No.827107575

シリーズ物で3作目くらいの映画のOP前までのシーンみたいに感じた 続きがあるなら早く読んでみたい

↑Top