ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/07/23(金)00:20:56 No.826371113
「――エル、これを」 グラスワンダーから受け取ったマスクをエルコンドルパサーへと差しだした。 怪鳥を彷彿とさせる異国の仮面は、彼女が自ら手を伸ばし、着けることを待っている。 屋上を吹き抜ける風が袖を抜ける。 十一月を前にした夜の空気が、一足早い冬を告げた。 「アタシのマスク……これをかぶれば、もう一度……」 そう、彼女はもう一度エルコンドルパサーを名乗り、ターフに立つことが出来るだろう。 地に落ちた雛鳥が、自らを奮い立たせ、もう一度飛び立つように。 ――幾許かの空白があった。
1 21/07/23(金)00:21:26 No.826371299
「さあ――」 「――あの」 エルコンドルパサーが遮った。 どこか絞り出すような、怯えの混じった声。 「あの……トレーナーさん……」 指先を見れば震えており、汗が伝っている。 瞳は落ち着かず、この風のなか頬は熱を帯びていた。 「かぶせ――――」 俺は、彼女が言い終わるよりも速く、その仮面を着けていた。 頬を覆うクリームの香りに混じった汗の匂い。項に手を添えれば、大きな脈が指先を刺激した。
2 21/07/23(金)00:21:51 No.826371458
「――――」 エルコンドルパサーが、真っすぐにこちらを見る。 言葉は無い。 不要だと思ったから、こちらも口を閉じていた。 どれだけの間、こうしていたか分からない。 時間が許すのなら、ずっとこうしていたいとさえ思った。 きっと、エルコンドルパサーも――……。 「着けて、しまいましたか」
3 21/07/23(金)00:22:05 No.826371559
ふと声がした。 月夜によく似た冷えた声。 鋭い刃物にも似た視線を感じて、振り返る。 そこに一人、影さえ除けるグラスワンダーが佇んでいた。 「君は――」 「一歩、遅かったみたいですね」 笑っている。 グラスワンダーは、笑みを浮かべたまま不自然なほど動かない。 「どういう事、デス……?」 「――――」
4 21/07/23(金)00:22:24 No.826371680
一瞬、わずか一瞬だけ一瞥して、グラスワンダーは俺のほうへと視線を戻した。 まるでエルコンドルパサーのことなど、興味が無いように。 「――もう、グラスワンダーが"エルコンドルパサー"と話す事は出来ません、それだけです」 その言い方に違和感を覚える。 まるでそれは――エルコンドルパサーが、エルコンドルパサーでは無いような――ひどく歪な、言い回し。 「どうか、よい逢瀬を」 そういうと、彼女は背を向けた。 グラスワンダーが夜の闇へと吸い込まれる。
5 21/07/23(金)00:22:48 No.826371845
「グラス、待って――!」 エルコンドルパサーが呼び止めるものの、彼女は止まらない。 吹き抜ける風のように、消えてしまった。 ◆ それから一か月ほどが過ぎた。 グラスワンダーの言葉が、ずっと突き刺さったまま。 エルコンドルパサーは、ターフを走っている。 有馬記念に向けて、トレーニングが続いている。 ペースを上げなければならい。 そう考えていると、ふと――エルコンドルパサーと目が合った。
6 21/07/23(金)00:22:59 No.826371910
走っている途中なのに……? タイマーに目を落とせば、速くなったり、遅くなったり、どうも安定しない。 視線を上げれば――また、目が合った。 隣を走るウマ娘がペースを上げて、それに遅れてペースを上げる。 そうして数分と経たないうちに、エルコンドルパサーは走り終えた。 「エル……」 「トレーナー……っ! 息を荒らげたまま、まっすぐにこちらへと駆け寄ってくる。
7 21/07/23(金)00:23:20 No.826372078
「どうでしたか……!?」 「い、いや……」 ここは正直に伝えるべきか、あるいは――。 ――エルが、まっすぐに、こちらを見ている。 一瞬、グラスワンダーの言葉が過る。 まさか――、彼女はまだエルコンドルパサーの筈だ。 俺は正直に伝えることにした。 「タイムが安定しない……トレーニングに集中できてないんじゃないか……?」 「そう……デスよね、ごめんなさい」
8 21/07/23(金)00:23:48 No.826372275
エルは俯いて、マスクを濡らす。 「最近、ちょっよヘンで……」 「いいよ、大丈夫。ゆっくり調子を取り戻せばいい」 ――俺はターフへと戻るエルコンドルパサーを見送った。
9 21/07/23(金)00:24:01 No.826372349
◆ その夜、屋上にエルコンドルパサーが居た。 今度は勝手に消えた訳じゃない。彼女から来て欲しい、とメッセージがあった。 「エル――」 その手に、マスクが握られていた。 吹き抜ける風が知らない香りを伝える。 グラスワンダーの言葉を思い出した。
10 21/07/23(金)00:25:48 No.826373120
おわり
11 21/07/23(金)00:26:15 No.826373303
ifルート来たな……
12 21/07/23(金)00:27:56 No.826373919
マスクを着けてしまったことで大事なものを失ったエル来たか
13 21/07/23(金)00:28:41 No.826374143
破滅に向かい突き進む運命...
14 21/07/23(金)00:28:43 No.826374157
マスクを投げ捨てて一心同体になったエルコンドルパサーさんが他を圧倒するのも良いと思いますわ!
15 21/07/23(金)00:30:45 No.826374880
これもう共依存まっしぐらでは……
16 21/07/23(金)00:31:49 No.826375231
そこにいるのはただの女なんだなって
17 21/07/23(金)00:34:17 No.826376088
うーん外付けのエンジン...
18 21/07/23(金)00:34:33 No.826376176
ああ俺がマスク着けたわけじゃなかったのか
19 21/07/23(金)00:38:11 No.826377535
>そこにいるのはただの女なんだなって 53点
20 21/07/23(金)00:39:43 No.826378073
本編では正直、トレーナーが着けてやって「2人ならまた最強を目指せる!」って流れだと思ってたから 自分で着けなさい、って展開に結構驚いた記憶があるな…
21 21/07/23(金)00:45:45 No.826380256
ウマ娘はみんな健康的で困る トレーナーが健全すぎるという方が正しいが
22 21/07/23(金)00:48:09 No.826381091
このエルは次第にトレーナーの気を引くために無意識に負け始めそう
23 21/07/23(金)00:49:44 No.826381602
得たものか失ったものより大きくなる事を願うしかない
24 21/07/23(金)00:49:59 No.826381691
こっちのルートでも割とうまくやれそうに思うけどグラス的にアウトなのもわかる
25 21/07/23(金)00:51:05 No.826382059
あのシーンで横槍が入らなかったら 着けてやらないトレーナーがいるだろうか…?
26 21/07/23(金)00:52:42 No.826382614
>あのシーンで横槍が入らなかったら >着けてやらないトレーナーがいるだろうか…? 松岡修造とか?
27 21/07/23(金)00:54:20 No.826383170
>>あのシーンで横槍が入らなかったら >>着けてやらないトレーナーがいるだろうか…? >松岡修造とか? まぁアンタほどのアスリートがそう言うなら…
28 21/07/23(金)00:57:33 No.826384141
多分こっちでもそれなりの成績を収める事になるんだろうけど一生グラスには勝てないんだよね
29 21/07/23(金)01:01:09 No.826385130
元アスリートのトレーナーならたぶん着けてあげないルートは取れそうだけど純粋なトレーナーだとどうなんだろうな… あそこで断れるのは中々いなさそう
30 21/07/23(金)01:06:21 No.826386490
二人にはいっぱいえっちして欲しい
31 21/07/23(金)01:07:14 No.826386705
>多分こっちでもそれなりの成績を収める事になるんだろうけど一生グラスには勝てないんだよね そんな決めつけになんの意味がある
32 21/07/23(金)01:08:42 No.826387078
正直2人で共依存して欲しい…
33 21/07/23(金)01:21:50 No.826390290
一心同体の精神で逆にパワーアップする可能性もあるし……