21/07/16(金)23:03:02 人生っ... のスレッド詳細
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21/07/16(金)23:03:02 No.824188351
人生ってのは何が起こるかとんと分からねえ。 ちょっと前まで普通にできていたことが、ある日突然できなくなっちまう。 こういう時はその理由を探るしかねえ。 けど、その理由が見つけられなかったら…一体どうすりゃあいい? 誰か教えてくれ。 オレっちは、どうやったら昔のようにあの子と―
1 21/07/16(金)23:03:31 No.824188574
1. 穏やかな波が港に打ち寄せる。 地平線の向こうには入道雲が見えているが、空を見上げりゃギンギンに照りつくお天道様と青々とした空だけが広がってる。のどかなアローラらしい天気だ。 のどかじゃねえのは、今この港に集合している連中くらいのもんだろう。 「そろそろかな?」 「ま、まだ…船は見えませんね。」 マオさんたちキャプテン連中やククイ博士が海を眺めながら、船が来るのを今か今かと待ちきれない様子だ。 世話しねえなぁ。ほっといってもやってくんだからゆっくり待ってりゃ良いのによう。 「……………」(そわそわそわそわ) fu166953.jpg 「…サン。」 「あんだよ?」 「少し落ち着け。」 博士に苦笑されながらそんなことを言われる。 あん?
2 21/07/16(金)23:04:08 No.824188877
「何言ってんだよ、さっきから静かに待ってるじゃねえか。」 「…自覚ないんだね。」 マオさん達からも変な視線を向けられる。あんだよ一体みんなして…。 「!おっ!あれじゃない?」 と、マオさんが叫ぶ。 指さされた方角をみると、まだ豆粒だが確かに船が見える。 「おー、ようやく見えたじゃねえか。」 あの中にお客さんが乗ってるんだな。と、そう認識した矢先、急に心臓が痛みだす。痛いていうか、どんどん心拍数が上がってるような…。 あんだぁ…?昨夜からどうもおかしい…。お客さんのことを考えると、妙に具合が悪くなりやがる。 毎日お客さんのことばっか考えてたし、プレゼント選びなんて慣れないことしたから変にストレスが溜まっちまってんのかな? …まあ、さっさとプレゼントを渡しちまえば元に戻んだろう。渡しちまえばさ。 船が港に着岸し、船から人影が降りてくる。 よお!と声を掛けようと顔を上…… fu166954.jpg 「お久しぶりです。」
3 21/07/16(金)23:05:09 No.824189326
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
4 21/07/16(金)23:05:24 No.824189421
2. 甲板から降りてくるムーンちゃんは、元々可愛かったけど、大人っぽさに磨きがかかった気がする。 「皆さんお迎えありがとうございます。」 礼儀正しくペコリと頭をさげるこの女の子をみて、思わず抱き着きにいっちゃう。 「アローラ!会いたかったよーっ!」 抱き着かれたムーンちゃんは、あはは…と苦笑しつつも少し嬉しそう。 「ムーンおかえり。帰って来てくれてぼくも嬉しいよ。色々助けてもらいたいこともあるからね…。今日はバタバタだろうが、明日はゆっくり休むと良い。歓迎会の予定は明後日のままで大丈夫かな?」 「ありがとうございます。歓迎会なんて良いのに…。」 「何言ってるの!せっかく帰ってきたんだからさ!あたしの料理もいっぱい振る舞うよー!」 「それは楽しみです。」 照れくさそうに笑うムーンちゃんを見て、俄然こちらもやる気が出てきた。 「さて、新居までの荷物運びはあいつに任せてあるから。頼んだぞサン!……サン?」 「?運び屋さん?」 振り返ってみると、ギョッとしたようなポーズのまま微動だにしないサンくんが突っ立っていた。
5 21/07/16(金)23:05:38 No.824189516
「どうしたの?」 「……へっ?あ、いや、お客さん久しぶり!ははは。」 妙にぎこちないサンくん。久々にムーンちゃんに会って緊張してるのかな?でもそんなキャラだっけ…? 「サン、ムーンの引っ越しの荷物運搬頼んだぞ。」 「あ、そうそう。荷物はどこにあるんだい?カキさんたちと運んじまうからさ。」 早速ムーンちゃんの指示に従いながら、積荷を始める運び屋一行。あ、これはサンくん忘れてるな? (ちょんちょん)「サンくん、ホラ、渡さなきゃ。」 「んん?………あ、そっか。」 一度ライドウェアを解いて、カバンの中から件のものをガサゴソ探し始める。 どこかぼんやり気味だけど、大丈夫かな…? 例のものをカバンから取り出すと、一呼吸置いてからくるりと振り返って「……はいコレ。」と包みをムーンちゃんに手渡した。
6 21/07/16(金)23:05:55 No.824189623
「…これって…」 「無料(ただ)だよ。」 「いやそうじゃなくて…。もしかして、」 「そう!あたし達からのプレゼントだよー!ねえねえ早速開けてみてよ。」 数日前、サンくんが必死に選んだムーンちゃんへのみんなからのプレゼント。 それは、花飾りのついた白い帽子に決まった。 「お客さん暗いしこういうの気に入るかは分かんねえけどさ…。」 いきなりド失礼な発言をかますサンくん。 それをガン無視しつつ、不思議そうな表情で帽子を眺めるムーンちゃん。 「…や、やっぱり気に食わなかったかい……?」 「いえ、運び屋さんのチョイスがこんな真っ当なものになるとは思わなかったから。」 こっちもこっちで失礼なことを言う。気持ちは分かるけどね!
7 21/07/16(金)23:06:06 No.824189693
「あたしとスイレンも一緒に選んだんだよ。」 それを聞いて、なるほど、と得心が言った様子。 「けど、帽子って決めたのはサンくんだよ!ほらほら、選んだ理由も説明してあげて。」 「え?ああ、それは………なんでだっけ?」 ズッコケるあたしたち。 「アローラはシンオウと違って暑いから、しばらく住むなら日差しを遮られる帽子が良いんじゃないかって、サンくんが提案したんでしょ…。」 「あ!そうそう…。初めて会ったときも変な帽子被ってたしな。」 だから一言余計だよ!
8 21/07/16(金)23:06:17 No.824189770
「皆さんありがとうございます。大切に使いますね。」 サンくんの発言を再びスルーしつつ、みんなにお礼を言って帽子を身につけるムーンちゃん。 「うんうん、似合ってる!ね、サンくん。」 「…………へ?…あ、うん。」 『サンだけじゃ選べなかっただろうし、マオとスイレンに感謝しとくロト。』 「あんだとぉこのポンコツ!再会早々生意気なクチ聞きやがって。」 「まあまあ、運び屋さんも選んでくれてありがとうね。」 「へ、へへ…どういたしまして。」 「暗いわたしでも変な帽子よりは似合ってるかしら?」 あぅ…とタジタジになるサンくんをなじるようにつくり笑いを浮かべるムーンちゃん。あ、しっかり聞いてたんだ。 なんにせよ喜んでくれて良かった良かった。サンくんも頑張って考えた甲斐があったね! と、その当人の様子がどうもおかしい。失言は元からとして、どこかうわの空というか、心ここにあらずというか…。ふーむ…。
9 21/07/16(金)23:06:27 No.824189854
「ねえねえカキ。」 「なんだ?」 「………ってできる?」 「まあ大丈夫だが。」 よし。 「サンくん、荷物はカキたちが運搬してくれるらしいから、ムーンちゃんを引っ越し先まで運んであげてよ。」 そうふたりを説得して、先に出発してもらった。 「なあマオ、どうしてわざわざ別行動にしたんだ?」 荷物搬送を任されたカキが訪ねてくる。 「サンくんがね、なんだかムーンちゃんの前だとぎこちなかったから、もしかして一対一で話したいことでもあるのかなって。」 「確かに、彼女と一番関係が深い相手だろうしな。」 ふたりがアッチの世界にいた半年間何があったかは、あたし達も詳しくは知らない。ただ、ククイ博士もわざわざサンくんをプレゼント係に指名したり、何か考えがあるみたいだし。 意図はよく分かんないけど、とにかく頑張れサンくん! さて、あたしも明後日の料理の下拵えをはじめないと。
10 21/07/16(金)23:06:44 No.824189983
3. お客さんをケンタロスの後ろ座席に乗せて、港を出発した。 初めて会ったとき以来かな、お客さんを乗せるのは。懐かしいう反面、あの時とは決定的に違うことがある。 …なんで、こんなに緊張してんだ? その上、さっきからずーっとアタマがぼーっとしてやがる。 特に、船から降りてきたお客さんを一目見た瞬間、頭の中真っ白になっちまったというか… お客さんて、あんなキレイな子だったっけ…? そんな感情が、ずっと頭の中を渦巻いてる。何故かえらいべっぴんさんに見えたんだよな…。 まあ最近お客さんのことばっか考えてたし、実はお金持ちのお嬢様だって聞いたし、多分いつもよりばいあす?ってのがかかってんのかもしれねえ。 多分会話してる内にいつも通りに戻んだろ。なんせ“あの”お客さんだからな。今なら背中越しに会話すりゃあ良いからさっきよか緊張しない…はずだし。 と、早速何か話題を振ろうと思うけど、全然思いつかねえ…。 前はどんな会話してたっけ…?あれ?えっと……あれ?え~~~っと………
11 21/07/16(金)23:06:54 No.824190049
「…今日は良い天気ですね。」 何故か敬語になっちまった。 「この帽子のおかげで助かってるわ。ありがと。」 お、お客さんから感謝された…へへ…。じゃねえや、会話会話…。 「そ、それ気に入ってくれたかい?」 「わたしにはちょっと派手な気もするけど…大事に使うね。でも、運び屋さんがこんなに考えてプレゼント選んでくれるなんて…ごめんなさい、ちょっと意外だった。」 「そ、そりゃあお客さんへのプレゼントだし…あったしまえだよ。」 「通話ではあんなに嫌がってたのにね。」 ギクッと困惑する背中を見てクスクスと笑いやがる。 ちくしょう…なんなんだ…。全然上手くしゃべれねえし、向こうからはからかわれるし、心臓が痛いくらいバクバクいってんのに…どうしてこんなに楽しいんだ? これまでだって散々しゃべってきたはずなのに、今は心がめちゃくちゃウキウキしてきやがる。 訳が分かんねえ…。
12 21/07/16(金)23:07:04 No.824190124
一旦落ち着け。結局なんだ、オレっちは何に緊張してるんだ? お客さんが妙にべっぴんさんに見えたからか?けどお客さんはなんていうか怖いし、暗いし、お淑やかさとかもねえし。オレっちのタイプじゃないと思うんだよなあ。 あいやでも、心広いし優しいしアタマ良いし凄いし、悪い子じゃあねえんだけど。 ……もしお客さんがもっとお淑やかさな女の子だったら…。
13 21/07/16(金)23:07:20 No.824190231
「そりゃあそれでなんか違うか!ハハハ。」 「何が?」 「いや~お客さんがお淑やかだったらって、」 (ギュ~) イテテテテテテ!わき腹を抉るようにつままれる。 「どういう意味かしら?」 「あいや今のは褒めてるんであって」 「それのどこが誉め言葉よ。」 と更につねってくるイテテテ。めんごめんご! 「まったく…。今のを言い換えるなら『運び屋さんてデリカシーのなさ以外はステキね』って言われているようなも「えっ!?そんな風に思ってくれてんのか!!」 オレっちの応答に何故かケンタロスから転げ落ちそうになるお客さん。 「おいおいしっかり乗ってなきゃアブねえぞ。」 「…もう良いわ。」 呆れ気味の声でため息をつかれる。やべ。何か話題替えねえと……おっ?そういや少しずつ自然体で話せるようになってきたぞ!うんうん、やっぱお客さんはちょっとおっかねえくらいじゃねえとな。
14 21/07/16(金)23:07:42 No.824190373
「そんで、お客さん今回は何しに戻ってきたんだい?」 オレっちの問いかけにまたもや転げおちそうになるお客さん。 「はあ…ルミザーネさんとネクロズマの回復、それが今回わたしの戻ってきた理由よ。」 呆れ半分の声で説明してくれる。そりゃあ遊びに来たわけじゃあねえよな。 「ルミザーネといやあ、リーリエたちは今カントーへ行っちまったんだよな。お客さんに会えないの残念がってたぜ。」 グラジオも向こうに行ってばっかだし、平和になったとはいえ、みんな色々やるべきことがあんだよな。
15 21/07/16(金)23:07:55 No.824190463
「カントーで何かいい手掛かりが見つかると良いんだけど…。」 「バーネット博士もついてってるし、きっと大丈夫だよ。それと、ネクロズマってこたあウルトラ調査隊(アイツら)と一緒に何かすんのかい?」 あんまり好きじゃねえんだよなぁ連中…。 「そうね、ミリンさんとの共同研究になりそうね。」 「お客さん、あのミリンて姉ちゃんと仲悪くなかったっけ?」 「確かにあまり得意ではないけど…でも、研究の面では色々学べることが多いはず。それに、新しい知識や発見が増えればネクロズマだけでなくもっとたくさんの人やポケモンを救えるかもしれない。だから今回の共同研究はお互いにメリットだと思うの。」 お客さんの表情はこっちからは見えねえ。けど、どんな顔して語ってるかは想像がつく。
16 21/07/16(金)23:08:29 No.824190691
この子はイケすかねぇ相手だろうと、悪い奴だろうと、目的のためなら仲良くできる。それはオレっちには真似できねえし、したくもねえ。 だけど、その根っこにあんのは、誰かを助けたいっていう優しさなんだよな。 「…お客さんはやっぱりスゲェや。」 「な、なによ急に…。運び屋さんだって、カキさんをパートナーに元スカル団の従業員を雇いはじめたんでしょ?ポケリゾート建設費を稼ぐために毎日頑張ってるって博士が言ってたよ、凄いじゃない。」 「そ、そうかな?えへへ…。」 お客さんから褒められて、思わず振り返っちまう。 「!まえッ!前ッ!!」 fu166972.jpg 「へ?なにガッッ…!」 正面を向き直した瞬間、鈍い音とともに額からアタマ全体へ激痛が走る。 あんだぁ……?
17 21/07/16(金)23:08:43 No.824190782
4. 「…大丈夫?」 目を覚ますと、お客さんの顔がオレっちを真上から覗き込んでいた。 後頭部はちょっと柔らかくて温かい何かの上に置かれている。 どうやら、ポケモン同士のバトル中の流れ弾に被弾したらしい。運転中に余所見しちゃいけねえな…。 「すまねえお客さん。」 「まったくよ。帰ってきて早々これだもの…。」 飽きれ顔でオレっちの鼻をつまむ。 「もっと自分の身体を労わりなさい。」 「すいましぇん…。」 「かるい脳震盪みたいだからしばらく安静にしてなさい。おでこの怪我はもう傷薬を塗ったから大丈夫よ。」 「…へへへ。」 何がおかしいの?と怪訝な表情で質問される。いや、オレっちにもよく分かんねえ。けど、久々にお客さんに治療してもらったことがなんだか凄く嬉しかったんだ。 なんでだろうな…?無料(ただ)だからかな?
18 21/07/16(金)23:08:54 No.824190850
寝心地の良い枕に頭を乗せてると、思考がクリアになってきた気がする。さっきの衝撃で緊張感も吹き飛んじまったのかな? 「アローラにはいつまでいるんだい?」 「はっきりとは分からないけど、早くて半年、長くて数年はかかるかも。」 「そっか、そいつは大変だな。」 「運び屋さんはまだ貯金かかりそう?」 「まあね。1億円じゃまだまだ足りねえし、大人になるまでには貯めきるつもりさ。」 「…あんまり無茶はしないでね。」 そう言ってオレっちのおでこを撫でる。すると、なんだか温かくて、心地よい気分になってきた。 あまりにも心地よくて、そのまま寝ちまいそうになる。けど、いまは仕事の最中だ。いつまでも甘えるわけにはいかね……そうだよ、アタマ真っ白になった衝撃で色々スッとんじまってたが、お客さんに恩返しをする―そう誓ったじゃねえかよ。 だってのに…気付けばこうやってお客さんに甘えてることが情けなくって、お客さんの顔を直視できずに寝返りをうつ。 と、目の前にお客さんの膝が見えた。
19 21/07/16(金)23:09:09 No.824190964
「…うおおおッ!?」 思わず飛び起きる。枕だと思ってたものは、お客さんの……。 「だ、大丈夫…?」 オレっちの反応にビックリした様子のお客さん。 「あ、ああ!もう大丈夫ヘーキヘーキ!!ささっ、早く行こうぜ!」 せっかくクリアになったアタマは、一瞬にして混乱状態に陥ってしまった。 そして、膝枕の感触がいつまでも後頭部にこびりついて離れねえ…。 そんな調子で宿に到着すると、カキさん達がオレっち達より先に着いて家ん中に入れず待ちぼうけていた。 ごめん…。
20 21/07/16(金)23:09:24 No.824191069
5. 「よし、荷解きはこんなもんかな?」 お天道様が真っ赤になる頃、一通りの引っ越し作業が終わった。 「最後まで手伝ってくれてありがとうございました。」 へへへ、今日はたくさんお客さんにお礼を言われた気がする。まあ荷ほどきの最中さんざん怒られたけど…。 「おっし、今日はここまで!お疲れっしたー!」 カキさんたちに解散指示を出して、今日の仕事も完了。 「おう、お疲れ様。これからメシでも行くか?」 「悪い、ちょっとだけやってくことあるからさ、先帰ってておくれよ。」 無理するなよ、と言い残してカキさんたちは帰っていった。さてと…。 「お客さん、まだちょっと手伝うよ、サービス残業ってやつだ。」 「そう?余剰金は払うわよ。」 「いや良いんだって。」 こっちが好んで残ったわけだからな。
21 21/07/16(金)23:10:11 No.824191397
ひとつ、お客さんに聞いておきたいことがあるんだ。もう一度膝枕をして……じゃねえ!今は忘れろ! …プレゼント選びのとき、オレっちにとってお客さんはどんな存在か、をずっと考えていた。 じゃあ、お客さんはオレっちのことどう思ってんだろう…? 一度は考えるのを止めた疑問だったが、今日再会して、色々話をして、その答えがどうしても気になって仕方なくなっちまった。 何より、目の前に本人がいる。いまなら、答えを知ることができる。 「なあお客さん。」 お皿を食器棚に並べながら、何の気なしに話しかけてみる。 「なに?」 「お………」 聞こうとした瞬間、今までとは違う痛みが胸の辺りを走り、声を出そうとすると、まるで喉元を締め付けてくるみてえな苦しみが襲ってきた。 「…………いや、何でもねえ。」 「?そう。」 あんだ…?頭では聞きてえって思ってんのに、口を開こうとする度に身体が拒絶反応を示しやがる。何をビビってんだ…?答えを聞くのが、怖いのか?それって…。 まあいいや、お客さんはアローラにいるんだし、またいつでも―― 本当にそうか?
22 21/07/16(金)23:10:27 No.824191496
アローラにいれば、本当にいつでも会えるのか…? リーリエとバーネット博士は遠く行っちまったし、グラジオだってウルトラスペースに入り浸ってる。 みんな自分のやることがあって、だから最近は中々会うことができねえ。 お客さんも目的があって帰ってきたし、オレっちにもやらなきゃいけねえことがある。 ただお互いアローラにいるってだけで、本当にこれからもお客さんに会えんのか?前みたいに一緒に行動したりすんのか? 今までやれてたことが、急にできなくなった。今日はそんなことを立て続けに感じた一日だった。 このまま答えを聞くのをビビっていちゃあ、できねえことが増えてく一方じゃねえのか? だったら―
23 21/07/16(金)23:10:48 No.824191634
「大体できたわね。こんな時間まで手伝ってくれてありがとうね運び屋さん。後はわたしがやっておくから。」 「……なあ、ちょっと聞きてえんだけどさ、」 全身がひどく汗ばむのを堪えながら、言葉を喉の奥から無理矢理引きずり出す。 「お客さんとオレっちってさ…」 「……。」 「…ど、どういう、関係…っていえば良いんだ?」 ようやく口に出せた問いかけに、お客さんはどう答えて―
24 21/07/16(金)23:11:00 No.824191734
「業者と顧客。」 ……いやまあそうだけど。 「もしくは、協力関係ってことかしら。」 …なんかよく分かんねえけど、多分間違いじゃねえんだろうけど… 「そうなんだけどさ、そうじゃなくてもっとこう……友達とかそういう…。」 「ん~…友達ではないしね。」 えっ、違うのか…!?まあ確かに…博士みたいなダチって感じでもねえけどさ。 「まあなんでも良いじゃない。」 こっちが必死に悩んでいたことをバッサリと斬り捨てる。 ちょっと、いや結構ショックだった。…だってさ、てことはさ、お客さんからみるオレっちってそんな程度の存在でしかねえって話で…。
25 21/07/16(金)23:11:18 No.824191861
「だって、これからつくっていけばいいんだから。」 「…え?」 「あの頃とはお互い状況も違うし、また一緒にいるんだし、ね?」 「………。」 いまの関係性がよく分からねえんなら、これからつくっていけばいい。 それが、お客さんがオレっちに示してくれた答えだった。 じゃあお客さんはこれからもオレっちと……。 「さてと、わたしは衣類の整理とかに戻るね。」 「あ、ああ。サンキューなお客さん。」 「おやすみなさい。」 パタンと扉が閉められた。
26 21/07/16(金)23:11:31 No.824191934
もう大分暗くなった夜空を眺めながら、自分家に向かって歩きはじめる。 今夜も、月の光があったかい。 「………。」 数百メートルくらい歩いたところで、くるっと方向転換して元来た道を逆走する。 もう一回玄関前に立って、家の中にいるお客さんに全力で声をかける。 「お、お客さん!!」 すると、驚いた様子のお客さんが玄関の扉を開けて顔を出した。 「どうしたの…?」 「あ、あのさ………、明日からも…よろしくな!」 数秒の沈黙が流れた後、きょとんとしていたお客さんがニッコリ笑って、 「ええ、こちらこそ。よろしくね!」 そう答えると、手を振りながら家の中へ入っていった。 「……へ…へへっ…へへへへ…。」 これからも会える。これからも会って良いんだ。 その事実が、今日一日の疲れも、緊張も、不安も、全部吹き飛ばしてくれた。
27 21/07/16(金)23:11:41 No.824192002
この先、オレっちとお客さんがどういう関係になってくのか どんな関係になりたいのか その答えを、この時はまだ持っていなかった。 ただただ、また一緒にいられるってだけで、バカみてえに心は弾んでいた。 お月さんに手を伸ばしながら、照らして帰り道を、意気揚々と帰っていくのだった。 つづく
28 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:11:52</a> [s] No.824192064
以上です
29 21/07/16(金)23:13:50 No.824192871
お疲れ様です サンが悩むのは金の事しか考えていなかった今までから凄く成長してるんだろうなと思いました
30 21/07/16(金)23:19:23 No.824194989
>「だって、これからつくっていけばいいんだから。」 >「…え?」 >「あの頃とはお互い状況も違うし、また一緒にいるんだし、ね?」 >「………。」 ここ好き ムーンの方が色々と先に進んでる感じがして
31 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:21:42</a> [s] No.824195907
挿絵です 前回の続きですが書いてる感じまだまだ続きそうです
32 21/07/16(金)23:23:14 No.824196540
>1626445302977.png 狼狽えっぷりがムーンとの関係のデカさみたいでいいですね
33 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:27:21</a> [s] No.824198099
挿絵です 本音を言うとまーーーーー絵が表現したいものに全然届かないので既に心折れそうです
34 21/07/16(金)23:31:20 No.824199632
絵は地道にやるしかなさそうだね…
35 21/07/16(金)23:32:42 No.824200131
>1626445641318.png 地味にドストライクそうだねムーンの服装
36 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:33:48</a> [s] No.824200516
>サンが悩むのは金の事しか考えていなかった今までから凄く成長してるんだろうなと思いました 1億円貯金という喫緊の課題を達成した直後の時期設定なので、色々本編と違う運び屋を描いてみたいなというのがきっかけです そのためキャラ崩壊が酷いですが「運び屋が本気で恋をしたらどうなるか」がテーマなのでそこはご愛敬ということでで…
37 21/07/16(金)23:37:10 No.824201805
書き込みをした人によって削除されました
38 21/07/16(金)23:39:25 No.824202578
>絵は地道にやるしかなさそうだね… それしかないですよね >fu166954.jpg これも自分の可能な限り可愛く描いたつもりですがどうすればもっと可愛くなるのかどなたかご助言を頂ければ…
39 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:41:39</a> [s] No.824203377
挿絵です
40 21/07/16(金)23:42:17 No.824203603
挿絵はデフォの手書きjsで描いてるんですか?
41 21/07/16(金)23:44:08 No.824204274
とりあえずデッサンとか気にせずに書いてみたらいいんじゃないかな >1626446499612.png これだって太ももになる円柱二つにスカートのヒラヒラだけで十分膝枕に見えるし
42 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:44:43</a> [s] No.824204482
>挿絵はデフォの手書きjsで描いてるんですか? はい え?なんか他にあるんです??
43 21/07/16(金)23:45:58 No.824204865
>はい >え?なんか他にあるんです?? ふたば大物倉庫にはっちゃんキャンバスという手書きツールが 描いた手書きは保存して好きな時にスレに貼れるので時間をかけて挿絵描けます
44 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:47:21</a> [s] No.824205373
>とりあえずデッサンとか気にせずに書いてみたらいいんじゃないかな >>1626446499612.png >これだって太ももになる円柱二つにスカートのヒラヒラだけで十分膝枕に見えるし ありがとうございます! 手書きは意外となんとか誤魔化せるんですがこれを >fu166954.jpg みたいに清書すると色々粗が浮かび上がってしまいまして…練習あるのみか
45 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:50:20</a> [s] No.824206295
>ふたば大物倉庫にはっちゃんキャンバスという手書きツールが >描いた手書きは保存して好きな時にスレに貼れるので時間をかけて挿絵描けます 知らなかったそんなの… ありがとうございます次の感想スレとかで活用してみます! >描いた手書きは保存して
46 21/07/16(金)23:52:17 No.824206939
むしろそれ無しで今日みたいにスレ落ちるまでに10枚以上も手描きしてたのか…
47 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:55:02</a> [s] No.824207814
挿絵です >むしろそれ無しで今日みたいにスレ落ちるまでに10枚以上も手描きしてたのか… なのでいつも時間勝負でした
48 21/07/16(金)23:56:22 No.824208228
>1626447302492.png 恋すると人って変わるね…
49 <a href="mailto:s">21/07/16(金)23:59:54</a> [s] No.824209337
今日は色々相談乗って貰ってありがとうございました 来週も続きになります 次回はククイ視点
50 21/07/17(土)00:00:12 No.824209458
ククイ博士!?