虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/07/15(木)23:42:05 前回ま... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1626360125956.png 21/07/15(木)23:42:05 No.823874678

前回までです sp92570.txt

1 21/07/15(木)23:42:24 No.823874861

【数年前】 暖かい風が吹く。春─あらゆるものが始まる季節。そして、それはトレセン学園も例外ではない。 「トレーナーさん!外周終わりました!」 1人のウマ娘が、息を切らしながら自分のトレーナーの元へ駆け寄る。呼吸こそ荒いが、その表情は微笑みに綻んでいた。 「速いですね。さすが入学試験トップ…と言ったところでしょうか。」 「あはは、やめてくださいよ!私、ただ走るのが好きなだけなんですって!」 笑顔で応えるウマ娘に、トレーナーはタオルと水筒を渡す。トレーナーもふふっと笑い、練習メニューを書き記したバインダーに目を落とす。

2 21/07/15(木)23:42:37 No.823874951

「次は腿上げ10本を10セットです。あまり無理はしてはいけませんよ。」 「大丈夫ですって!じゃっ、いってきまーす!」 水分補給もそこそこに、ウマ娘は次のトレーニングに移るため、グラウンドへ駆け出して行った。その後ろ姿をトレーナーはただ見つめていた。 (センスは抜群、しかも素直で吸収力も頭一つ抜けている…これは、クラシック三冠も夢ではありませんね。) 無意識のうちに自身の首にかかるペンダントを握りしめる。吊られている飾りには、自身の家紋が彫られていた。 (…まだ経験も浅い私に、こんな才能のある子を回して貰えたのは…それだけ私が期待されているということ。 なればこそ、その思いを裏切るわけにはいかない…!) 強く握りしめた手の平に、ペンダントの家紋の後が薄らと残っていた。

3 21/07/15(木)23:42:57 No.823875079

〜〜〜 【1年後】 『新星現る!クラシック一冠目、皐月賞を制す!』 大仰な見出しの新聞を読むトレーナー。そこには、自分の担当するウマ娘の勇姿が写し出されていた。 「ちょっとトレーナーさん!?それもう1週間前の記事でしょ!?もーっ、恥ずかしいからトレーナー室で読むのやめてって言ってるでしょー!」 ばさり、と新聞を取り上げられ視界が開く。そこには頬を膨らませた愛バがこちらを睨みつけていた。

4 21/07/15(木)23:43:15 No.823875209

「…すいません。何分私も初めて経験ですから、嬉しいんですよ。」 「はは…真顔でそれ言われても説得力無いって…。それで、今日も自主トレーニングでいいのかな?トレーナーさん?」 「ええ…私のようは若輩者が皐月賞バを育て上げたという噂が広がって、講演会や執筆の依頼が舞い込んできまして…。」 「……。」 瞬間、俯いてわずかな沈黙が続いたかと思うと、ウマ娘はトレーナーに少し小さな声で呟いた。 「ねえ…トレーナーさんの今一番大事なものってなに…?」 「それは当然あなたです。あなたのような才能に溢れた子を担当出来るトレーナーは一握りです。であれば、私の使命はあなたの為に全身全霊であなたをサポートすることですから。」 「…………そっか。うん、だよね!ははっ!…それじゃ、トレーニング行ってくるね。」 ウマ娘がタオルと水筒を掴んで、そのままトレーナー室を後にした。トレーナーは椅子に座ったまま回り、デスクのパソコンに次の講義の台本を書き始めた。

5 21/07/15(木)23:43:31 No.823875319

~~~ 【数時間後】 「ふむ…こんなところですかね。」 出来上がった台本を2度見直し、誤字脱字のチェックを終える。ふと外を見ると、もう既に夕焼けが空を燃やしていた。 「…はて。そろそろ報告の為にあの子が帰ってきてもおかしくないはずなのですが。」 とはいえ、担当ウマ娘はしっかりした性格で自己管理も完璧であり、だからこそトレーナーも自主トレーニングを任せてしまっていた。 椅子から立ち上がり、トレーナー室を出る。彼女がトレーニングをしているであろうグラウンドに向かっていった。 ~~~ 少しして、グラウンドに辿り着く。しかし、周りに他のウマ娘はいるものの、担当のウマ娘の姿は一向に見えなかった。

6 21/07/15(木)23:43:42 No.823875401

「もし、そこの君。私の担当のウマ娘を見ませんでしたか?」 「え?けっこー前に校舎の方に戻っていってたよ?」 「…なんですって?」 瞬間、嫌な予感が脳裏を過る。担当ウマ娘は、トレーニング帰りに寄り道するような性格でもなかった。なのに、自分の元へは戻ってきていない。 自然と駆け足で校舎の周りを探し回る。慣れない走りに足が痛むが、それでも止まることはなかった。やがて、体育館裏に回り込む。普段人気の少ない所だったが、グラウンドから校舎に戻るならここが近道だった。であれば、そこを探さずにはいられなかった。 果たして、そこで担当ウマ娘が見つかった。─ずたずたになった足と共に。 「うっ、は、あ、なんだっ…これは…!!」 「とれーなーさん…いたいよー…こわいよー…いたいー…」 うわごとの様に呻くウマ娘は、コンクリートの地面に転がっていた。どうやら走っているところを何かに躓いて転けてしまったようだった。 その足は足首を起点に曲がってはいけない方向に捻られ、白い何かが肉を突き破っていた。どろどろと血が白いコンクリートを嫌に鮮やかに染めていた。

7 21/07/15(木)23:43:58 No.823875526

「うっ、げ、ええ…っ!!」 トレーナーは初めて見る光景に、耐えられず胃の中のものを吐き出してしまった。患部を、ウマ娘を直視できない。ただ大声でえづくことしかできなかった。 「なんだあこんなところで…ってうわっ!や、やべえぞ!!誰か!!救急車を!!!」 結局、そこを通りかかった別のトレーナーが来るまで、そのトレーナーは何もすることができなかった。トレーナー学校で学んだはずの「もし担当ウマ娘が怪我を負ったら」の単元で学んだことは、その時の彼にとっては何の役にも立たなかった。 「おい!!お前こいつのトレーナーか!?救急車は!?…バカ野郎、なにずっと吐いてんだ!!まずは救急車だろうが!!こいつはお前より苦しんでるんだぞ!!!」 通りかかりのトレーナーからの声も理解できず、ただただ目の前の現実が受け入れられなかった。

8 21/07/15(木)23:44:18 No.823875675

もし、自分が彼女のトレーニングに付き合っていたら、近道だからといってこんな不安定な場所は通らせなかっただろう。 もし、自分が彼女の身体の調子を見ていれば、最近足の筋肉が固まって足の怪我を起こしやすいと気付いていただろう。 もし…もし…。 いくつもの「if」が泡沫の様に脳に浮かんでは消え、また浮かんでいた。トレーナーは、そこから一歩も動くことができなかった。 ~~~ 【ウマ娘搬送後、トレーナーの実家にて】 「このたわけがぁ!!貴様の無能さ加減にはほとほと愛想が尽きるわ!!」 がしゃあんと音を立てて、投げられたガラスの灰皿が床に散らばった。トレーナーの顔の横をわずかに横切って飛んでったそれを投げた張本人にして、トレーナーの家を支配する家長─トレーナーの父が、ぜえぜえと息を荒しながら怒号を飛ばしていた。

9 21/07/15(木)23:45:42 No.823876212

「貴様のような愚図にせっかくの素質バをあてがってやったというのに、皐月賞に勝った程度で舞い上がりおって!挙句の果てに目を離していたウマ娘がケガでもう走れんじゃと!?重ね重ね我が家の名に泥を塗りつけおって!!」 罵倒の言葉が降り注がれ、トレーナーは拳を握りしめる。口汚い父の言葉だったが、何もかも正しいだけにトレーナーに弁明の隙は存在しなかった。 「…父さん。私は…。」 「黙れい!貴様にはもはや自由に喋る権利すら残っておらんわ!」 ぴしゃりと叩きつけられる言葉に、全身が跳ねる。トレーナーの父が鼻息を荒く、顎に蓄えた髭を弄りながら部屋をうろうろと歩き回っていた。禿げ上がった脳天が乱反射する光が、ぴたりと止まった父の動きに合わせて1つの光に戻る。

10 21/07/15(木)23:46:03 No.823876346

「フン…とりあえず貴様は一月ほど家に閉じこもっておれい。そのうちまたウマを見つけるまで外に出るでないぞ。」 「…は?と、父さん…私はまだトレーナーをやってもいいのですか…!?」 「たわけ!我が家の長男が何もせずにおればそれこそ恥じゃ!それに、もうあのウマは復帰は出来ん。あそこまで酷く骨折しておれば、普通の生活すら営めるかどうかの瀬戸際じゃろうて。 さっさとあのウマとはパートナーを解約させねばならん!ウマなんぞ幾らでもおるでな、直ぐに新しいのを見つけねば…。」 「なっ…父さん!それはあまりにも…!自分のウマ娘の面倒も見切れぬ私が言うのも筋違いなのは重々承知しております!なれど、トレーナーがウマ娘を道具の様に扱うなど許されることではありません!」 「くだらぬ!貴様のような高尚な戯言を言うだけの無能が今回のような事故を引き起こすのじゃ!理想を語る前にまともな育成の一つでもしてみせい!!」 目の前にいる父だったはずの何かが語る言葉が、理解できなかった。 自分にかけられていた期待は、自分の後ろの本尊たる父親への畏怖でしかなかったのだ。

11 21/07/15(木)23:46:21 No.823876464

「…私には、父さんの話は理解できません!私は…私にとっての担当は、あの子だけなのです!!」 「貴様…儂の言う事が聞けんと言うことか?…それならば、どこへでも行くがよい。ただし、二度とこの家の敷居を跨ぐことは許さん!!」 「ッ…!誰が、こんな家に戻ってくるか!!!」 トレーナーは、気付けば家を飛び出していた。家紋の掘られたペンダントを手でちぎり、床に投げ捨て、その足が向かう先は彼女がいる病院だった。 「私は…あの子のトレーナーだッ…!!」 ~~~ 【深夜 ウマ娘の入院する病室】 月が煌々と照らす夜、ウマ娘はベッドの上で虚ろに身を任せていた。 これからの明るいはずった未来が、一瞬で砕け散ったことに対する絶望。そして、どれだけ治療しても普通に歩くことすら困難であるという現実。 彼女の瞳から光を奪い取るには十分だった。

12 21/07/15(木)23:46:38 No.823876558

コン、と窓から音がした。ウマ娘は、少しだけ窓を向いてカーテンを開けた。 「…もう寝ているかと思いましたが、運が良かったようですね。」 そこには、汗まみれのトレーナーが居た。どうやってかは知らないが、とにかく鍵が閉まっているはずの正門をどうにか乗り越え、病院の中庭にまでやってきたようだった。 「ああ、えっと…足の様子ですが、少し悪いようですね。でも心配ありません。私に任せてください。ダービー…は難しいかも知れませんが、きっと菊花賞までには…」 「トレーナー。」 ウマ娘の酷く冷えた声が、トレーナーの喋りと止めた。担当ウマ娘はゆっくりとトレーナーの方を振り向いて、トレーナーと目を合わせた。 「なんで…私を見つけた時に、すぐ助けてくれなかったの?」 「あ、あれは…」 「なんで、私の足を見た時に目を逸らしたの?なんで?私が一番大事なんじゃなかったの?」

13 21/07/15(木)23:47:00 No.823876719

深淵の瞳孔がトレーナーを視界から外さないまま、ウマ娘はさらに繰り返した。 「なんで?ねえ、なんで私を一人にしたの?なんで?」 「…それは…すみませんでした。でも、私はあなたを─」 「ねえトレーナー。トレーナーの家ってさ、厳しいんだよね。三冠なんて取って当たり前、って感じだよね。その為に私の担当をしてたんだよね。自分で言うのも何だけど、結構優秀” だった”し。」 「ッ!ち、違う!そんなことは!」 「違わないよッ!!!あのときもッ!!!私の才能だとか、トレーナーの使命とか!!それってさぁ、そんな大事かな!?私だって勝ちたいよッ!!!でも、それは私が1着を取って、一緒に頑張ってきたトレーナーの笑顔を見て、一緒に笑いたかったからッ!!!!でもトレーナーは私の笑顔なんて見てなかった!!!!見てるのは、私の身長、体重、筋力、タイム、そして─着順だけでしょ…?私じゃなくて…私の数字だけが大事だったんでしょ…?あなたの目には…私が本当に映っていたの…?」

14 21/07/15(木)23:47:17 No.823876814

吐き出されたウマ娘の本心は、余りにも触れがたい程の、しかしながらただ孤独であり続けた悲しい程の切れ味を持ってしてトレーナーの心に食い込んだ。 トレーナーは、ただ何も言う事が出来なかった。 「…あは、大声出したからかな、沢山の足音がこっちに向かって来てるのが聞こえるよ…。ねえ、あなたが私から目を逸らし続けたように…私ももう、あなたを見たくないよ。二度と私の前に姿を現さないで…お願い。」 それだけを言うと、静かにカーテンが閉められた。 「…私は…自分が忌み嫌う父さんのような価値観に、知らないままなっていたっていうのか…?それが原因であの子が…あの子の足が…未来が…明日が…すべてが…そんな…そんな……あああ…あああああああああああ!!!!!!!!!!!」 トレーナーの絶叫は、ただ闇夜に吸い込まれていくだけだった。

15 21/07/15(木)23:47:37 No.823876982

~~~ 【現在】 「…あの時、一生分の後悔はしたはずだったのに…!」 あの日の様に、汗だくでスーツを汚すトウカイテイオーのトレーナーが、行方をくらましたトウカイテイオーを探し回っていた。 町中で彼女が行きそうなところはもう既に全て2回通り探し回った後だった。 「…くそ…もう二度と目を逸らさないと決めたはずだったのに…!!」 「ほお、それじゃあ二度と逸らせないようにこんな写真は如何かな?」 背後から聞こえた声に反応し、思わずばっと振り返る。闇夜に紛れて黒服の男が現れた。 「ククク…さあ、取引の時間だ。」

16 <a href="mailto:s">21/07/15(木)23:47:47</a> [s] No.823877051

次回に続く

17 21/07/15(木)23:56:54 No.823880706

おつらい…

18 21/07/16(金)00:28:09 No.823892442

まとめて読めば辛い展開が続いても一瞬だけど連載で追ってると辛い!早く解決して まあ面白いからいいけど

19 21/07/16(金)00:30:02 No.823893043

育成を続けるうちにステータスとか着順とかだけ見るようになるのはまあ…分かるよ… ALLスキップ入れてるとずっと勝てなかったシナリオレースで勝ったのに一瞬で飛んでしまいよる

20 21/07/16(金)00:32:32 No.823893907

最後は悪者が法に裁かれてハッピーエンドで終わるって信じてるからね!

21 21/07/16(金)00:33:51 No.823894358

スレ画とほぼ関係ないけど引き込まれる回想だった

↑Top