ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/07/15(木)22:15:50 No.823840317
僕と彼女は施設で出会った。 お互いストリートチルドレンで生ゴミを漁り泥水を啜る様な生活を送っていた所を大人に捕まり、色々な所を転々とした後にここの施設に連れて来られたのだった。 初めて見た彼女は痩せっぽちで、髪もボサボサ。正直男か女か分からない見た目だったけど、頭に生えた特徴的な長いウマ耳と汚れた尻尾でウマ娘なんだと分かった。僕も変わらない格好だったけど。 施設はちゃんと食事も配られたし定期的にお風呂にも入れられた。健康な身体じゃないと駄目だって周りの大人は良く言ってた。数ヶ月で僕らは標準的な子供の肉体になっていた。ここまでは盗み聞いていた教会のお話に出てきた天国みたいな場所だなぁと思っていた。 けど後ははっきり言って地獄だった。肥溜めみたいなストリートに戻りたいと願ったくらい。訓練。訓練。訓練。あんなに優しかった大人達は狂った様に僕らを罵倒し殴り忠誠を強要した。来る日も来る日も飽きずに僕らは蹴り転がされ泥に沈められ森に放り出された。1年も経てば沢山いた仲間は半分になっていた。
1 21/07/15(木)22:16:19 No.823840526
少し大きくなった身体。体術を叩き込まれナイフや銃火器の使い方を学び、来る日も来る日も戦闘訓練。また1年、仲間は半分になった。 また少し大きくなった僕らは、もう反抗やら脱走とやらは考える事は無くなった。黙って従うのが1番生き残る確率が高いのを身をもって知った。ようやく蹴り転がされることも無くなり、表社会での動き方、民衆への紛れ方、そしてターゲットの暗殺方法などを学んだ。そうやって僕らは子供から兵器になっていった。 ここからようやく彼女と話をする機会が出来てきた。それまでは訓練が厳しすぎて周りに気を使う事なんて出来なかったから。 「何、それ」 「え」 簡素な多段ベッドしかない僕らの部屋で、同室だった彼女が本を読んでいるのを初めて発見した。ここに来るまで文字が読めなかった僕らだったが、読み書きについても一般人と同じ様になるまで叩き込まれていた。でも、進んで何かを読もうとするヤツは居なかった。時間が有れば寝るのが鉄則だったから。
2 21/07/15(木)22:16:46 No.823840691
「え、えっと、その、え、えほん」 「えほん?」 「うん」 「えほんって、何」 分からなかった。本は知ってる。でもえほんは知らない。えほん。えほん。えほん。何だか病気に罹って酷くなった咳の様だ。 「こ、これ。えがかいてあるの」 「え」 「う、うん。こんな、の」 そうやって彼女はえほんを開いて中を見せてくれた。それは今まで見た事がないくらい色彩が多くて、目が痛いくらいだった。写真とは違う、本物じゃない、けど人とか家だと分かる、え。 「すごい」
3 21/07/15(木)22:17:08 No.823840853
思わず口をついて出たのは、初めての感嘆だった。 「だ、だよね!わたし、これ、すきなんだ」 「すき」 「うん、すき。おいしい、とか、あったかい、ににてる」 彼女の言う事は良く分からなかった。食べ物が美味しいのと、お湯が温かいのと、このえほんを見る事がどうして似ているのか。 でも、このえほんの色彩がすごいと思ったのは事実で。僕はえほんに興味がでた。よく見れば文字が書いてあった。 「これ、何が書いてあるの」 「え、こ、これはね。青いおはなの、えほんなんだ」 また分からない言葉だ。おはな。聞こうと思ったら彼女はえほんをめくって最初のページに戻した。僕が分からない事が分かった様だ。 「これが、おはな」
4 21/07/15(木)22:17:36 No.823841058
彼女が指差したのは、えの中の青い部分。カクカクしていて、でも植物だと分かる緑の葉。僕はそこで森でのサバイバル訓練で似たような物を見た事を思い出した。 「花、か」 「そう、お花。このお花はね、バラっていうんだ」 バラ。知らない固有名詞。花にも種類がある事は知っていた。食べれる物、食べられない物。でもバラは見た事が無くて、初めて知った。 「バラは、食べられるの」 「え、えっと、ど、どうなんだろ。ホンモノは、わたしも見たことない、から」 彼女も見た事が無いのか。バラ、バラ、バラ。訓練中に見た歩兵には恐ろしい相手のヘリコプターの飛行音みたいな響き。えほんにかかれている青いバラも、回転するヘリの翼みたい。ちょっと嫌い、かも。
5 21/07/15(木)22:18:00 No.823841220
「青いバラはね、とっても珍しいんだって」 「そうなの。普通は」 「赤とか白とかみたい。青いバラは、珍しいからこううんの象徴なんだって」 「こううん?」 「あ、え、えっとね。こううんていうのは……」 こうやって彼女と僕の交流は始まった。えほん、絵本を介して。僕は知らない事への単純な興味から。彼女は恐らく絵本仲間が増えた事への喜びから。消灯までの少しの時間、僕らは硬い多段ベッドの上で声を潜めながら並んで絵本を読む事が日課になっていった。
6 21/07/15(木)22:18:20 No.823841353
兵士としての訓練もようやく終わり、施設を出て僕らは任務に就くことになった。残った仲間はもう両の手で数えるほどに減っていた。偽装家族として街に溶け込み、ターゲットを暗殺する任務。そして仲間とはこれでバラバラになる。もちろん彼女とも。 そう思っていたのだったが、僕と彼女は同じ任務に就く事になったのだった。幸運にも。髪の色が同じだったからだろうか。 トラックの荷台に載せられて数時間。貨物列車に乗り込んで夜を越した。止まる駅々で仲間はどんどんと減っていき、最後は僕と彼女だけになった。 「寒いね」 「うん、寒い」 夜は隙間から入ってくる風が寒くて二人寄り添う様に寝た。彼女は温かかった。
7 21/07/15(木)22:18:45 No.823841513
ようやく二人降ろされた駅は少し閑散とした(後で知った話だけど首都からほど近い郊外の)駅だった。僕らは大人達に連れられて駅から出て、通りをひたすらに歩いた。人通りは少なく、時折すれ違う人は皆俯いていた。灰色の空が酷く似合っている古い街だった。 着いたのは所々モルタルが剥がれて煉瓦が剥き出しになった古いアパート。追い立てられる様に僕らは二階の一室に入る。そこには二人、いや一人の人間と、一人のウマ娘が居た。 「この子達がそうです。よろしくお願いします。“エージェント”」 「確かに。だが、使えるのかね?」 「訓練では二人共成績は上位です。何よりあの訓練所で生き残った事が何よりの証拠でしょう」 大人達の一人と、中に居た人間の男の方が会話を交わす。内容は僕達の事。 「わかった、受け取ろう」 「ありがとうございます。”我々の手に秩序を“」 「”我々の手に秩序を“」 左胸を押さえて彼らが交わしたのは初めて聞く文。“我々の手に秩序を”。何処かその言葉はべっとりとしていて、まるで訓練中に死んだ仲間の血の様だった。
8 21/07/15(木)22:19:05 No.823841636
恐らく挨拶なのであろう定型の言葉を交わした後、僕らを連れてきた大人達は扉の向こうに消えていった。つまり、此処が僕達の任務場所。此処に居る二人が僕らの”家族“。対応が分からず僕は施設と同じ様に最初から取っていた直立不動の格好のまま命令を待った。彼女も同じ様にしている。 二人は大人達が出て行った後、何事も無かったかの様に、男はパイプを吹かしながら新聞を読み、ウマ娘はキッチンに向かい料理を開始した。その後二人はウマ娘の作った料理を僕らの目の前で無言で取り、代わる代わる風呂に入り、そして夜になり別々の部屋へ寝に行った。 そして朝になり彼らは起きてきて朝食を取り、昨日と同じ様に室内で過ごし、昼食を取り、外出して、戻ってきた。いつまで経っても命令は来なかった。でも僕らは直立不動の姿勢を止めなかった。
9 21/07/15(木)22:19:26 No.823841773
「合格だ。席に着け」 夕食の準備が整った時、ようやく男は声を出した。命令だった。僕らは強張った身体を無理矢理動かしてウマ娘が指差す席に座った。 「私は貴様らの“父親”。そして彼女が“母親”だ。資料は後で渡す。食事を取れ」 そうして僕らは“家族”になった。 与えられた役割は、彼女が“姉”で、僕が“弟”。正直歳は変わらないと思っていたのだが、彼女の方が成長が早く背が高かったからだ。少しだけ、悔しかった。
10 21/07/15(木)22:21:16 No.823842485
終わり。 昼くらいに天啓を受けたので黒い刺客、暗殺者ライスシャワーです。絵「」の素晴らしい名画をスレ画に使わせて頂きました。 多分続くかも。
11 21/07/15(木)22:21:44 No.823842671
続きキボンヌしようと思ってたら来た 嬉しい...
12 21/07/15(木)22:27:24 No.823844991
これは怪文書でいいのか…?
13 21/07/15(木)22:29:20 No.823845730
>分からなかった。本は知ってる。でもえほんは知らない。えほん。えほん。えほん。何だか病気に罹って酷くなった咳の様だ。 ここの表現好きだよ
14 21/07/15(木)22:29:36 No.823845819
>これは怪文書でいいのか…? トレセンとかは後半出てくる予定
15 21/07/15(木)22:35:44 No.823848319
絵「」です ありがとう…ありがとう… クソ雑な絵をスレ絵に採用して貰えて感謝しかない…
16 21/07/15(木)22:36:57 No.823848787
元同級生のウマ娘に再会する怪文書からの着想です。
17 21/07/15(木)22:38:24 No.823849391
>絵「」です >ありがとう…ありがとう… >クソ雑な絵をスレ絵に採用して貰えて感謝しかない… 勝手に使用してすみません… あまりに綺麗な名画と概念だったので爆発しました…
18 21/07/15(木)22:39:57 No.823850007
なんでカタログでヘル兄ぃに見えたんだろう…
19 21/07/15(木)22:41:56 No.823850811
>元同級生のウマ娘に再会する怪文書からの着想です。 その題材からどうしてこうなったすぎる……
20 21/07/15(木)22:42:53 No.823851155
まさか的場師?
21 21/07/15(木)22:44:00 No.823851603
>まさか的場師? 流石にそこは否定します 畏れ多すぎる…
22 21/07/15(木)22:49:41 No.823853976
本文とはそぐわないですが手描きです…
23 21/07/15(木)22:51:12 No.823854568
>本文とはそぐわないですが手描きです… ありがとうございます…!ありがとうございます…!
24 21/07/15(木)22:54:17 No.823855795
>1626356981328.png あのこれ スレ画と同じ構図…
25 21/07/15(木)22:58:30 No.823857449
>本文とはそぐわないですが手描きです… あんなに一緒だったのに 夕暮れはもう違う色
26 21/07/15(木)23:02:53 No.823859160
https://youtu.be/03qBqP2I4p8
27 21/07/15(木)23:04:19 No.823859708
>>1626356981328.png >あのこれ >スレ画と同じ構図… 絵「」です そうです
28 21/07/15(木)23:11:18 No.823862390
>絵「」です >そうです よくあるお辛いやつじゃないですかやだー!
29 21/07/15(木)23:13:38 No.823863256
絵「」ですが今後も応援してます!絵は見ていたら随時提供します!!