21/07/12(月)17:30:50 初期カ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1626078650833.png 21/07/12(月)17:30:50 No.822791824
初期カフェ弥生賞まで fu155564.txt 弥生賞後 私たちの道のりはまだ始まったばかりだ。ようやくオープニングが終わるところなのだ。開幕戦を終え、ライバルとなるべき相手を見つけた。だからまだ走る理由はある。そうであるべきだ。そうでなくてはいけない。 「…ここは」 白い天井。身体に力が入らず、状況を把握できない。私は弥生賞でアグネスタキオンに負けて、それで。 「ここは、病院だよ。…カフェは控え室で倒れてて。運んできた」 「…それは、申し訳ありませんでした。ありがとうございます」 「…申し訳ないのはこっちのほうさ」 「…」 「医者は過労だって言ってた。働きすぎたんだ。頑張りすぎてたんだ。俺が止めるべきだった」 否定の言葉を発するほどの元気もなかった。頭にも身体にも血が足りない。喰らう獲物を失って、みすぼらしく飢えている。
1 21/07/12(月)17:31:09 No.822791906
「…だからさ、カフェ。これで終わりにしよう」 「それは、どういう」 「君には大事な仕事がある。今まで培った生活がある。俺とのよくわからない約束なんかに惑わされず、レースは辞めよう」 「…!」 「それが、俺からできる最後の指導だ」 なんで。どうして。答えの分かり切っている問いは、口から出て行こうとしない。 「…じゃあ、これで。さよならだ」 私の沈黙を肯定と受け取って。君は病室から独りで出ていった。 「ねえ」 「連れて、行ってよ」 一つとして、言葉は届かない。
2 21/07/12(月)17:31:23 No.822791957
それから。病室に来たのは、共演していた俳優だとか、マネージャーだとか。そういう人たちばかりで、レースと私の縁は途切れてしまったようだった。でも、忘れられない。血を求める感覚は、私の中で強く強く。そんなある日のことだった。 「…こんにちは、カフェ」 「…あなたですか、アグネスタキオン」 本当に求めている人ではなかったけれど。あの世界と私がまだ繋がっている気がして、少し嬉しかった。 「…今度の皐月賞だけど」 「…出れません。出ません。私は走れない」 「そんなことは知っているよ。だからお見舞いに来たんじゃないか」 クククっと、アグネスタキオンは笑う。けれどその深層に、愉快そうな感情は見えなかった。 「残念だったなどと言うつもりはないよ。そういったお節介は聞き飽きているだろうしねえ…」 「要件は。皐月賞に何か」 「私は皐月賞に出る」 「…ああ、そんなことですか」
3 21/07/12(月)17:31:36 No.822792010
分かり切ったことだった。弥生賞を勝っておいて出ない選択肢もあるまい。そして彼女がその後のダービー、菊花賞を勝ち取るのさえ。分かり切ったことだ。けれど。 「君には見てほしい。できれば君のトレーナーにも…と思ったのだが。居ないようだね」 その口ぶりは真剣なもので。まるで、できたばかりの硝子細工を触るかのように。壊れかけの硝子細工を愛おしむように。そんな印象を与えた。 「…わかりました。トレーナーさんも呼んでおきます。まだ連絡はできますから」 「…何かあったのかい」 「…これは私の問題です」 私が耐えられなかったから。弱き獣には何の権利もないのだ。 「…ふゥん。それなら今すぐ呼んでくれるかな。君の問題だと言うのなら、トレーナー君は何の問題もなく元気にしているのだろう?きっと暇をもてあましているに違いない」 「…その通りですね。お任せを」 手荷物の中から一つの携帯電話を取り出す。 「流石女優だねぇ。連絡用とプライベート用で通信機器を分けてあるのか」
4 21/07/12(月)17:31:52 No.822792076
「…これは」 「これは?」 「…いえ」 これは、君専用の電話。君の番号だけが閉じ込められた優しい牢獄。だけど今はもう、飛び去ってしまった。 「…もしもし」 「…お久しぶりです。マンハッタンカフェです」 「久しぶり」 心臓が熱くなる。再び血が流れ出すような。 「…今度の皐月賞。一緒に見ませんか」 「…いいのか」 いいも悪いもない。 「…続きは、その日に」 私が生きていくのには、君が必要なのだ。
5 21/07/12(月)17:32:08 No.822792146
「…そろそろです」 「…タキオンが君に言ったんだったな。皐月賞を見てくれと」 久々に君と話せるだけで、嬉しい。彼女には感謝しなくては。 「各ウマ娘、スタートしました!断然人気のアグネスタキオン、光を超える素粒子の名を冠するウマ娘はどう出るか!」 「…まさに好位追走だな」 アグネスタキオンは中団、先行バとして理想的な位置からレースを進めていた。彼女にはおそらく勝利の可能性が眩いほどに見えている。 「…彼女の見る景色とは、どのようなものなのでしょうね。確実に勝てるとさえ言われ、その重圧をも跳ね除ける」 本物のスターダム。星より疾い超光速の景色が、彼女の眼前に。 「…君にだって、見える」 「私には見えませんよ」 君が、連れて行ってくれなければ。 「…アグネスタキオン抜けた!アグネスタキオン一着!アグネスタキオン、まず一冠です!」 やはり、彼女は勝った。これを見せてどうなると言うのか。彼女は走れて、私は走れない。その現実を突きつけたかったのか。 その疑問は、すぐさま明らかになった。
6 <a href="mailto:こんかいはおわりです">21/07/12(月)17:32:55</a> [こんかいはおわりです] No.822792333
「私はダービーには出走しない。未来の三冠ウマ娘のインタビューが聞きたかった諸兄は残念だが、これはもう決めたことだ」 「…なん、で」 耳を疑う。そんなこと一言も言っていなかったではないか。彼女が扱っていた硝子細工は、彼女自身だったとでも言うのだろうか。 「…きっとこれを見てくれている彼女に、Bプランを託す。追って詳細は発表しよう。では」 騒然となる会場を後に、アグネスタキオンは去っていった。…ライブにすら彼女は現れなかった。脚に異常があったということだろう。でもそれ以上の覚悟が、彼女の語気には込められていた気がした。 「Bプラン」 その詳細は不明だが、その託す先はわかる。 「…トレーナーさん」 私にまだ走る理由が、走らなければいけない理由が生まれた。 「…あなたがなんと言おうと、私はまた走ります。協力して貰えますか」 そして、そのためには。 「…わかった」 君がいてくれなくてはいけない。 ここより始まるのは、最初の約束を忘れたかのような一方的な契約。その形は歪んでいて、壊れている。でも、私を見ていてくれるなら。私は、それでいい。 失楽園の漆黒は、閉ざされし闇を喰らう。
7 21/07/12(月)17:43:25 No.822795059
待ってたぞ初期カフェ怪文書…
8 21/07/12(月)17:43:56 No.822795190
シリアスなタキカフェいい…
9 21/07/12(月)17:44:50 No.822795480
fu155597.jpg 初期カフェ大全集です
10 21/07/12(月)17:49:02 No.822796677
びちょびちょになりつつある…
11 21/07/12(月)17:55:44 No.822798790
桂ぁ!今何ネイチャ!?
12 21/07/12(月)17:57:25 No.822799307
トレーナーさんに一途すぎるって設定なんだからこんくらいないとな!
13 21/07/12(月)17:59:28 No.822799924
>桂ぁ!今何ネイチャ!? ビチャア
14 21/07/12(月)18:00:57 No.822800353
これトレーナーの方も大概一途だよね… 弥生賞から皐月賞までずっとカフェのこと待ってたんでしょ? これは…破れ鍋に綴じ蓋…
15 21/07/12(月)18:03:20 No.822801034
こういうのでいいんだよをお出しされるといいよね…しか言えないんだよな
16 21/07/12(月)18:07:30 No.822802211
筆早いな
17 21/07/12(月)18:09:57 No.822802948
>こういうのでいいんだよをお出しされるといいよね…しか言えないんだよな いいよね…コメントとそうだねを投げつける! 良作に対するお礼なんてそれでいいんだよ…
18 21/07/12(月)18:19:53 No.822805859
視点の切り替わりがちょっとわかりにくい... でもすごく良いので続きが楽しみ!