しとり... のスレッド詳細
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21/07/12(月)00:08:12 No.822603350
しとりしとり。夏の暑さと梅雨の蒸し暑さが相まって最悪のコンディションとなっている今日。トレーニングのやる気も起きず、トレーナーさんが来るまで部屋のソファで寝ていることにしていた。 …まぁ、それは建前で。本当は、寝ている時ですら気を付けないといけない足のケガにあるのだが。 春の天皇賞を惨敗した後判明した、足の甚大な骨折。お医者さんからはもう走ることはできないでしょう、なんて言われて。トレーナーさんは必死になんとかしようとしてくれたけど、どうにもならず。勉学に励んではいるけど、自分をごまかしているようで心に枷がかかる。そういう理由で、最近はトレーニングをサボりがちだ。 そんなことを考えながら寝ていると、トレーナーさんがぱたんとドアを開けて入ってくる。私を視認して、急いで駆け寄ってくる。 「スカイッ!…良かった、ここにいたか。」 安堵したように椅子に座りこんで、ぽふりという間抜けな音が部屋に響く。私はそれにこたえることはなく、不貞腐れた子供のように狸寝入りを続けた。
1 21/07/12(月)00:08:29 No.822603456
「…どうしても、トレーニングする気にはならないか。」 そう問いかけるトレーナーさんの声色は、物悲し気だった。誤魔化すように練習をして、また怪我をしたら、今度はもうこのようにはいかない。そういう確信があって、私はその道を選べずにいた。ずるずるとこの関係を続けるのは良くないとわかりつつも、心はそうもいかない。我ながらめんどくさい心になったものだな、と自分を評価する。 そうしていると、トレーナーさんがこう言った。 「…スカイにこんなことをさせたのは、俺が悪い。」 違う。私が、私自身が選んだ道だ。トレーナーさんは、関係ない。 「だから、俺は償わなきゃいけないんだと思う。」 そんなこと言わないで。私の意思を、私の決意を、揺らがせないで。 「…だから、言いたいことがあるなら、はっきりと伝えてほしい。」 そう願うように突き出された言葉は、私の感情を激昂させるのに十分な熱を帯びていた。
2 21/07/12(月)00:08:50 No.822603594
「…っ!私だって、わたし、だって…!まだまだ走りたかった、まだ戦いたかった…けど、体はもう無理だから。…私の体はもう、衰えてるから。あの時、スぺちゃんたちを欺いたような走りも、もう…! わたし、は、トレーナーさんの、期待には、もう、応えられない…!ファンのみんなや、おじいちゃんの、期待に、だって。応えたくても、応えられない…!…だから、私のことを。自分のせい、だなんて、言わないで。…言わないで、ください。」 途中からあふれるように流れる涙をぬぐいながら、思いのたけをぶつける。こんなことをしても、意味がないというのは痛いほどわかっている。けど、心の中の吹き溜まりを吐き出さないとだめになりそうで、どうしようもなかった。 「…そうか。ありがとう、教えてくれて。…それと、気づけなくてすまなかった。」 そういって抱き寄せてきたトレーナーさんは、暖かかった。その熱にほだされて、胸の中で泣き腫らす。止まることのない涙と共に、雨脚はさらに強まっていった。 涙が枯れて、もう何もでなくなる。そうすると、トレーナーさんが頭を優しく撫でてくれた。
3 21/07/12(月)00:09:11 No.822603735
「…スカイ。確かに、もうこの先走ることはできないかもしれない。俺はまたできる、って信じてるけど。…それでも、ダメだったら。どれだけ手を尽くしても、不可能だったら。…俺が、責任を取るよ。」 その言葉の真意は分からなかった。から、その真意を確かめるために言葉を紡ぐ。 「…私のこと、貰ってくれる、とでも?」 「ああ。スカイがそれでいいなら、だけど。」 やさしく私の心を溶かしていくそれは、雪解けのように緩やかに甘美に流れていく。これ以上にない感情の起伏に悩まされながら、少し意地悪に言葉を吐き出す。 「…もう、走れない。期待にも、応えられない。トレーナーさんを、ダメにしちゃうかもしれない。」 「それを一緒に、たくさん乗り越えてきたろ。大丈夫、俺たちならまた…そう、また。復活できる日が、来るはずだよ。」 私の意地悪すらものともしない、素直で真っすぐな言葉に。私は、その毒を飲むしかなくなる。私のような存在を、一人のウマ娘として、女性として見てくれるその優しい目が。どこか狂った歯車が、ちゃんと戻るような感覚になって。根拠もないのに、それにどうしようもなく安心して。体重を、トレーナーさんに預ける。
4 21/07/12(月)00:09:35 No.822603861
「…私の事、ちゃんと、捕まえてください、ね。どこかに、逃げちゃう前に。」 「…この手は、絶対に離さない。逃がすつもりも、毛頭ないよ。」 より一層ぎゅ、と強くなるその腕に慰められて、枯れたはずの涙がまたあふれる。ただ一つ違うのは、泣き止むころに見た空。その空は、私の心の不安が取り除かれたように、爽やかに晴れ渡っていった。 それから数年後。二人三脚で踏ん張って、宝塚記念では掲示板にすら入れなかったもののもう一度走ることが出来た。それを最後に、私は現役を引退。その手に光る指輪と、トレーナーさんにつけてもらった右耳の銀の誓いを撫でつけて、ちょっと凝った結婚式を開く。小さな孤島に、友人たちを集めてひっそりと。おじいちゃんは泣きながら私とトレーナーさんの旅立ちを見送ってくれて、同期の友達たちは素直にそれを祝福してくれて。多幸感に包まれて、ベールをはがしたトレーナーさんと目を合わせる。
5 21/07/12(月)00:09:54 No.822604002
「…これからも、幸せにしてくださいね。トレーナーさん。」 「当たり前だとも。これからも、ずっと。愛しているよ、スカイ。」 その言葉を最後にして、優しく唇を触れ合わせる。上がる歓声と拍手を尻目に、これからのスタートを互いに約束する。これから楽しいことばかりじゃないのは分かっているし、それで折れてしまうこともあるかもしれない。けど、トレーナーさんが。彼が、私の隣で支えてくれるなら。私たちはなんだって乗り越えられるし、なんだって立ち向かえられる。投げたブーケを見送ってから、互いに手を組んで笑い合う。これもまた、幸せの一つの形だ。潮の風に、少し伸びた髪をはためかせて地平線を眺める。空を通る飛行機が雲を作って、徐々に空へ拡散していく。 私たちは、幸せです。
6 <a href="mailto:s">21/07/12(月)00:10:06</a> [s] No.822604073
セイちゃん可愛いね
7 21/07/12(月)00:14:07 No.822605698
正統派のきれいな怪文書だった…おめでとうセイちゃん!
8 21/07/12(月)00:14:20 No.822605792
セイちゃんは曇り空の後から出てくる青空が似合うね…
9 21/07/12(月)00:19:06 No.822607706
いい…
10 21/07/12(月)00:23:23 No.822609452
こういうのを待ってた
11 21/07/12(月)00:25:30 No.822610342
セイちゃんはちゃんと新しい空を探せる人
12 21/07/12(月)00:26:16 No.822610629
正統派な晴れ間いい…
13 21/07/12(月)00:39:47 No.822616401
実質婚約してからも数年間は健全な付き合いをしてそうだけどその間に同期はどんどんくっついてそうだな…
14 21/07/12(月)00:41:29 No.822617179
セイちゃんはこうやって理不尽な運命でレースを諦めるのが似合う それはそれとして別の部分で幸せになってもらう
15 21/07/12(月)00:42:41 No.822617688
>セイちゃんはこうやって理不尽な運命でレースを諦めるのが似合う >それはそれとして別の部分で幸せになってもらう 後半は全面的に同意だが前半部分はもうちょっとこう手心というものをだね…
16 21/07/12(月)00:44:33 No.822618382
原作がね…
17 21/07/12(月)00:45:19 No.822618654
衰えをごまかすよりも向き合ってレースに付き合うのもいいと思うんだ… それはそれとして幸せにはなってもらう
18 21/07/12(月)00:46:14 No.822619090
セイちゃんは公式のシナリオからしてああこの2人はこのまま添い遂げるんだろうなって感じがある
19 21/07/12(月)00:46:44 No.822619250
>それから数年後。二人三脚で踏ん張って、宝塚記念では掲示板にすら入れなかったもののもう一度走ることが出来た。それを最後に、私は現役を引退。 残念な結果になったけど走らずに諦めるくらいに折れてなくてちょっとホッとした じっとりイチャイチャもいいけど大前提としてセイちゃんも走りたい子だからね…
20 21/07/12(月)00:48:31 No.822619901
ラストランの後トレーナーさんの胸で大泣きしてると私性合
21 21/07/12(月)00:48:41 No.822619961
>セイちゃんはこうやって理不尽な運命でレースを諦めるのが似合う >それはそれとして別の部分で幸せになってもらう うるせぇ原作なんて知るか! ウマ娘の世界は原作IFで幸せになれるかもしれない世界なんだ!