21/07/11(日)23:40:04 「担当... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1626014404473.jpg 21/07/11(日)23:40:04 No.822591211
「担当との適切な距離感を保て」 トレセン学園に入った時に先輩トレーナー達に耳にタコが出来るほど聞いた言葉である。 曰く、担当たるウマ娘との適切な距離感がある。 曰く、トレーナーとウマ娘の組み合わせごとにそれぞれ違うものである。 曰く、上手く行ったらそれが適切な距離感であるとも言える。 曰く、ゴシップ記者には気をつけろ。 曰く、互いに初めてだとかなり危険。 曰く、息子のメンコは常備しとけ 以下長々と役に立つんだか立たないんだかよく分からん言葉が続いていくが要は社会人たる指導者として未成年の学生たる彼女らと深い仲になるな節度を守れと言う事である。 しかしここはトレセン学園そんなこったぁ知ったことないと言わんばかりに担当と恋仲になるトレーナーが後を絶たない。同じ目標に向かって日進月歩、日夜彼女達をサポートするのである。初心なウマ娘達を落とした罪作りなトレーナー達の担当とのエピソードときたら男の自分でもそりゃ惚れるわな、という男前な言動がポコシャカと湧き出てくる。自分1人に対してここまで入れ込んでくれる異性に惚れるな等と到底無理な話である。
1 21/07/11(日)23:40:31 No.822591403
未成年に手を出すのはいくら何でもどうなんだ?と社会的に至極真っ当当然の意見も常に出てくるが、あいや待たれよ我々が目指すはトゥインクル・シリーズ。URAファイナルの勝利こそが何よりの至上の目的。恋仲になることなどささやかな問題であり寧ろ恋仲になったから我々は勝ち抜きこうして今があるのだと主張する者達が世間の冷たい視線と担当ウマ娘からの熱い期待の眼差しの間に割って入ってそれもそうだわじゃあ良いんじゃね?となんとか空気をぬるくする事に成功しどうせ世間からは隔離されてるし外では節度を守れば良いんじゃないか?という雰囲気も流れてるのが実状である。 そんな彼ら彼女らだが担当が卒業してから付き合い始める者もいれば在籍時から付き合い卒業後にゴールインする者はまだ良い方で彼女達の稼ぎと貯金額と情に訴えられそのまま学園を後にするトレーナーも多くはないが珍しくもない。
2 21/07/11(日)23:40:49 No.822591533
所がどっこいそれでは困ると「遺憾!」と言い放ったのは我らが理事長。折角ウマ娘ひいては業界の為に悩みに悩みこれだ!と決めたトレーナー達に辞められて人材不足に頭を悩ませる事も多くなりたづなさんと対策せんと動いたのだが誰よりもウマ娘の幸せを願う彼女だからこそ直接理事長を訪ねたウマ娘達の涙に絆され結局甘くなってしまいまぁゴシップだけには気をつけろ、こちらにバレるなあとちゃんと然るべき年齢になったら責任を取れと事実上の黙認の姿勢をとることとなった。
3 21/07/11(日)23:41:10 No.822591678
「なんやねん、トレセン学園は合コン会場ちゃうで。ウチがもしそうなったら桜に埋めてもらっても構わんわ。ナーハッハッハ!」と高笑いした芦毛のウマ娘はその後同期のサクラ達に羞恥に耐えながら祝福の言葉と桜の花びらを浴びせられる事になった。 「飛び級なんだから合法だろ!」と言葉の前後が全く繋がらない主張を声高にした者は流石にコイツをヤバいのでは?とほかのトレーナー達に簀巻きにされて普通に埋められそうになったが担当による「トレーナーさんを許してあげてください!」という風の谷の少女もかくやという訴えに下手人達も涙を滂沱と流しとりあえず顔だけだして埋められた。
4 21/07/11(日)23:41:27 No.822591818
つらつらと御託をならべていったがさてお前はどうなのだと問われると 「トレーナー。今度2人でさ…。休日にどこかに出掛けないかい?」 いつもの彼女より熱っぽく潤んだ瞳、普段通りの余裕の笑みの裏側に緊張を隠すように聞いてくる。 出会った頃からはや数年、これだけ長く担当していれば鈍い自分でも流石に分かってしまう。恐らく彼女、フジキセキは俺に惚れてるらしい。
5 21/07/11(日)23:41:53 No.822592028
「適切な距離感を保つことに失敗したんですけどどうすれば良いでしょうか?」 トレセン学園の近所、トレーナー御用達の居酒屋で先輩トレーナー達にズバリ切り出す。 先輩方は顔を見合せ 「諦めたら?」 「良いじゃんフジキセキ」 「勝負服はお前の趣味?」 「財布にメンコは入れておけよ」 「夜はスプリンター?それともステイヤー?」 とそれぞれ酔っ払いらしく好き勝手言い始める。 「いや、あくまで俺はアイツとトレーナーと担当っていう距離感を保ちたいというか」 えぇーと声を合わせて怪訝な顔を各々浮かべる。
6 21/07/11(日)23:42:12 No.822592180
「まぁ、惚れられたからって惚れるとは限らないしなぁ」 「恋人関係、あるいはそれに近しいからって上手くいくとも限らんし」 「なんならサッパリ色恋が絡まん方が順調な奴らもいるよなー」 「まー俺たちは適切な距離感を間違ったというかある意味正解だったというか」 「そもそも、何で俺たちに相談する事にしたんだ?勿論可愛い後輩の為だから相談には乗ってやるが俺達はお前からしたらその適切な距離感を失敗した連中だぞ?」 先輩達全員の左手の薬指には元担当、現在は伴侶となっている歴戦の猛者たるウマ娘達の稼いだ賞金の文字通り結晶が嵌っていた。デザインや石はそれぞれ違うが目立つようカットされていたり大きな石が使われているという事は共通しており『うちの旦那に手を出すなよ小娘共』という強い意思がその輝きに宿っているように見える。
7 21/07/11(日)23:42:29 No.822592308
「いやぁ、賢者は愚者に学ぶと言いますし上手く距離感を保っている人達よりも失敗した皆さんに聞いた方が参考になるかなーと…」 「「「「「何だとこの野郎!!!!!」」」」」 綺麗にハモった。 「半分冗談です。本当はそれだけ先輩方は担当に対して真摯に向き合ったって事なのかなーって思った訳でして…」 「俺もアイツには真摯には向き合いたいんですが…」 と添えると 「半分かよ。でも何も言い返せねぇ」 「あー、けどよぉ。惚れられてるのってのはそれだけ練習やレースのモチベーション上がるから正直そこだけ見ると悪くねぇんだよな」 「告白されてものらりくらりと躱して最後まで何とかモチベーション保ったままやり遂げたら後は御苦労はいサヨウナラとあっさり振る奴もいると聞いた事がある」 「なんだよソイツ。人の風上にも置けんな」 「ま、俺たちが立ったのは風上どころか人生の瀬戸際だったんですけどね!」 ドッと今度は揃って笑いだしたと思ったら酔っ払いらしく緩急つけてパッと真剣な面持ちを浮かべてそれぞれ喋りだす。
8 21/07/11(日)23:42:50 No.822592467
「ただ、俺はそんだけ真剣に担当に向き合うことは良いことだと思う」 「そうそう。少なくとも彼女を子ども扱いしないでレースを勝ち抜いていく対等な相棒として見てるんだから」 「けどさっきも言ったが今後の事を考えると惚れられてるって状況は有利だしなぁ」 「告白されてもその気が無いのに先送りにして最後にアッサリ振るのは流石にどうかと思うが現状告白されてないんだったら今の状態を維持すれば良い訳だし」 「お前とフジキセキがこの学園に在籍している以上レースで結果を出すってのはどうしても付き纏うからな…。最終的にはやっぱお前次第だ」 とそれぞれ含蓄めいた事を言った後に「まー俺達はどうせ失敗したんですけどね!」と再び声とジョッキを合わせて声を上げて笑い始めた。 そんな声をどこか遠くに聞きながらジョッキの水面に映る自分と向かい合いながらどうしようかと自問自答する。
9 21/07/11(日)23:43:06 No.822592623
それから数日後、以前の誘いを了承し2人で休日に出かける。大人びた彼女に似合う洒落た服を身に包み自分に腕を絡ませて水族館やお洒落なレストランど昼食をとったりするなどと恐らく世間一般でデートと呼ばれるような一日を過ごす。 トレセン学園への帰り道、川沿いの道を2人でゆっくりと落ちゆく夕陽に向かうよう歩いていた。 楽しかった。嘘偽りなくそれだけは胸を張って言える。けど…。 ご機嫌なフジキセキの顔を見ているとどうしようかと逡巡してしまう。楽しかったのは本当じゃないか。このままこの関係を保ったまま行けばきっと彼女の、俺たちの目標であるURAファイナルまで勝ち抜く事にだって繋がるはすだ。その後関係をハッキリさせてしまえば良い。後輩達の目の前では見せない年頃女の子らしい顔をしている彼女を泣かせる事が果たして担当として大人として正しいのかと思考がグルグル駆け巡る。 けど、どうしても、どれだけ言葉を重ねて言い繕うが、子どもっぽいと言われようが誤魔化す事が何よりも嫌で 「なぁ、フジ」 立ち止まる。
10 21/07/11(日)23:43:26 No.822592786
「どうしたいんだい?トレーナー」 俺に合わせて彼女も歩を止めてこちらと向き合う。 「俺は…」 期待に満ちた表情。裏切るのか?まだ間に合うぞと押しとどめる声を振り払いそのまま 「お前の気持ちには…答える事は出来ない…」 弱々しくならないよう、震えないように、大人として、ケジメとして、出来るだけ振り絞って腹から声を出したつもりだったがどうだったろうか。 キョトンと驚いた表情を彼女が見せる。 しかし直ぐに寂しげに微笑んで 「そっか…」 とポツリ呟いた。 本当は俺の勘違いで何を言うかと思えばと彼女に笑い飛ばして欲しかったがそれは叶わぬ願いとなったようだ。 「あのさ」 「うん」 「どうして…。わざわざ今、私を袖にしたんだい?URAファイナルを勝ち抜くまで恋にのぼせ上がって調子づいている馬鹿な小娘をそのままにした方が良いとは考えなかったのかい?」
11 21/07/11(日)23:43:52 No.822592986
「それは…」 言葉に一瞬詰まるが答えは本音をそのままハッキリしている。 「お前に…フジにそんな真似絶対出来ないから…。するもんか」 「ハハッ」 彼女が笑い飛ばす。 「トレーナーもさ、本当に真面目だね」 「あぁ、担当であるお前に誤魔化したりなんて俺には出来ないよ」 「生き辛くない?」 「フジに対して嘘をつく方がよっぽど辛いよ」 「そっか…」 彼女が俯く。 「ただ、俺はお前とトゥインクル・シリーズを絶対勝ち抜きたい。」 さっきの言葉より力強くハッキリと喋れる。
12 21/07/11(日)23:44:18 No.822593164
「フジキセキが誰よりも最強のウマ娘なんだって証明したい」 だからこのまま誤魔化してなあなあなんかに出来なくて 「俺に惚れても惚れていなくてもフジなら絶対証明出来る」 だから… 「もう…良いよ」 顔をあげる。涙を堪えているのかぎこちない笑顔のまま答える。 「ズルいな…。泣き脅してでも何でもしてやろうと思ったのにそこまで言われたら大人しく振られるしかないじゃないか…」 済まないと反射的に謝ろうとしたがその言葉を口にするには自分は相応しくないと思い止まる。 「良し!帰ろう!そして明日からもトレーニングもレースもまた頑張ろう!」 無理矢理彼女が明るく振る舞う。 「だからさ、振った方がそんな泣きそうな顔をするのはやめてほしい」 「あぁ」 自覚は無かったが酷い表情をしていたらしい。 「帰ろうよ」 いつの間にか夕日は落ちていた。今度は腕を組む事もなく、優しく覆う夜の帳にそれぞれ気持ちを隠したまま2人で歩き出した。
13 21/07/11(日)23:44:43 No.822593332
次の日ヒシアマゾンには「あの後大変だったんだからな!」と軽く蹴られ「けど、男らしいなアンタ。カッコイイよ」とその場で蹴りのお詫びとしてクッキーを貰った。先輩トレーナー達からは 「不器用すぎる…」 「まさか本当に白黒ハッキリさせるとは…」 「良いじゃねぇかお前らしい」 「後で奢ってやる」 「フォローは任せろ」 と慰められた。 フジが別に言い触らした訳ではないがやはり女の子何かおかしいと勘づいたようで他のウマ娘達からは「あのフジ先輩を振るなんて」と噂され針のむしろのうな視線に晒されたがその一方で「ハッキリと断るなんてそれはそれで潔くて誠実よね」と好感をもった娘もいたらしい。
14 21/07/11(日)23:44:56 No.822593433
フジはこちらが思っていた以上に態度を以前と変わらぬままトレーニングに来てくれた。寧ろこちらが気を使おうとした事を咎めたくらいだ。振った相手に指摘された自分を情けなく思ったが直ぐに気持ちを切り替えトレーニングに励み、レースに挑んだ。 その後は特に何事も無く担当とトレーナーという距離感のまま駆け抜けURAファイナルを優勝し俺たちの3年間を終えた。2人で泣いて喜んだがその後にじゃあ付き合おうかなんてそんな浮ついた話も上がることなく彼女は卒業していき、チームを任される事になり月日は流れていく。
15 21/07/11(日)23:45:18 No.822593574
トレーナー室がノックされた。 「どうぞ」 「失礼するよ」 入ってきたのは担当チームのウマ娘ではなかった。 「フジか」 「なんだいその態度は。元担当が尋ねてきたんだ。もっと嬉しそうにしても良いんだよ?」 在籍していたよりも少し髪が伸びより美しくなった彼女が微笑む。 「だって頻繁に来てるじゃんお前」 卒業した後もフジはちょこちょこ学園に、俺や俺が担当しているチームに会いに顔を出していた。 「尚更、こんな美人が頻繁に訪ねくるだなんて男冥利につきるんじゃないか?」 「お陰で俺とお前は結局卒業した後に付き合いだしたって噂されてるんだぞ」 今のチームの娘達は「フジキセキ先輩に憧れて!」という娘や「あのフジキセキ先輩に靡かなかったのは信頼出来る!」という娘が多いが、ある時「トレーナーさーんカッコイイー!」と囃されたのに対し「俺に惚れるなよ?」と冗談を返したら「え?惚れるも何もフジキセキ先輩と付き合ってるんですよね?」「先輩が学生の内は気持ちに応える事は出来ない」「けど卒業したら付き合おうって男らしく告白したって聞きましたよ」と言われて初めて知ったのだ。
16 21/07/11(日)23:45:54 No.822593849
「何か不都合でも?」 「不都合も何も…事実とは違うし…」 「じゃあさ、真実にしてしまえば良い」 フジが距離感を詰める。 「隙あり」 顔を俺の顔に近づけてきたが 「隙なし」 ヒョイと避けた。 「意地悪」 子どものように彼女が拗ねる。 「いくらでも言うが良いさ」 「やれやれ。これだけ可愛い女の子に健気に思いを寄せられているにも関わらず雑に扱うだなんて。そんなんじゃいつまでたっても恋人なんて出来ないだろうね」 「余計なお世話だ」 「今日も袖にされた事だしこの傷心をヒシアマゾンにでも慰めて貰うことにするよ」 ではまたとトレーナー室をキザな仕草で後にする。
17 21/07/11(日)23:46:15 No.822594005
お茶でも飲んでけという間もなくあっさりと出ていったフジキセキを不思議に思いながらふと胸ポケットに紙片が入っていたのに気付いた。 恐らくさっきキスしようとした時にしれっと入れたのであろう。流石マジシャンである。 開いて見ると日時と店の名前。トレセン学園から近いお洒落なイタリアンバル。 更にそこに記されている日付は何よりも忘れられない数字の羅列。その日で彼女が成人となる記念すべき日。 「覚えていないと思ったか…」 机の引き出しを開き準備していた彼女へのプレゼントを手に取る。 「卒業してもお前は俺の担当だぞ?」 プレゼントに語りかけた言葉は1人だけの部屋で響くことなく壁に消えていく。 その後、敢えて多くを語らないが紆余曲折を経て先輩トレーナー達から「「「「「ようこそこちら側へ!」」」」」と歓待を受ける事になった。 あと「担当との適切な距離感もあるが適切な時間もあるらしい」などという文句が追加されたらしいが全くもって余計なお世話である。