虹裏img歴史資料館

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21/07/10(土)23:24:03 前回ま... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1625927043716.png 21/07/10(土)23:24:03 No.822167089

前回までです sp92483.txt

1 21/07/10(土)23:24:17 No.822167178

感染という現象は、菌やウイルスのみによってのみ起こるものではない。感情、とりわけ負の心の動きは瞬く間に伝染し拡散する。 感謝祭で起こった事件は、まさに不安、動揺、─そしてその裏にある決定的な悪意が、トレセン学園の生徒の間で蔓延していた。 ~~~ 【模擬レース翌日 夜】 「ね、昨日のレースの事件って…なんかすっごいことになっちゃったね…」 マヤノトップガンがスマートフォンの画面を指でつい、ついと動かしながら呟く。SNSではトレンドに「トレセン学園」「レース不正」などといったワードがトレンドに乗っていた。 「うわあ…動画まである…きゃっ!!」 手のひらで覆った顔で、指の間から画面を見ながら小さな悲鳴を漏らす。数千の拡散回数がその光景をどれだけの人が見たかを物語っていた。

2 21/07/10(土)23:24:36 No.822167310

「ねっ、テイオーちゃんは確かすぐそばで見てたんだよね…テイオーちゃん?」 「……えっ?あ、うん…マヤ、何の話だっけ?」 「もーっ!テイオーちゃん今日ずーっと変だよ!?」 寮の部屋の中、同室のウマ娘─トウカイテイオーが上の空で対応するのを見て、マヤノトップガンがぷうっと頬を膨らました。 「ごめん、マヤ…ちょっと外、歩いてくるね。門限までには戻るから」 そう言い残すと、トウカイテイオーは重い足取りのまま部屋を後にした。 「あっ、テイオーちゃん!…どうしちゃったんだろ…マヤ分かんないよ…。」 同室のウマ娘のあまりにも大きな変化に、マヤノトップガンも動揺を隠せずにいた。

3 21/07/10(土)23:25:03 No.822167528

~~~ 【住宅街 夜】 寮の近く、入り組んだ住宅街を歩き回ると、公園に出る。早春も相まってか、少し肌寒さが残った夜の空気が、トウカイテイオーの半袖の服から露出した腕を撫でまわした。乗り手のいないブランコに腰掛け、地面を蹴りあげる。キイ、と軋んだ鎖の音が、振り子運動に合わせて夜空に響いた。 「…カイチョーの鞄にあった封筒…写真…。なんだろう、すごくもやもやする…」 トウカイテイオーの心をずっと覆う嫌な空気、その原因。自分の知らないシンボリルドルフの姿─現金の詰まった封筒を受け取る姿─が脳内でリフレインする。 本当は嫌な空気の原因はトウカイテイオー自身も分かっていた。ただ、”それ”に目を向ける事をひたすら避けていただけであった。 俯いていると、何かが近づく音が聞こえた。革靴が砂を踏む音が少しずつ向かってくるのを感じると、トウカイテイオーは顔をあげた。 目の前には、全身黒づくめの男性が一人立っていた。目深に被った帽子からわずかに覗いた目が、トウカイテイオーの瞳孔の奥まで見透かすように見えた。

4 21/07/10(土)23:25:44 No.822167812

「トウカイテイオーさん…ですね?私、『週間U-ma』という雑誌のライターなのですが…これから少しお話できますか?」 聞いたこともない雑誌名だった。レース後、各媒体からのインタビューには慣れているとはいえ、完全にオフの日に、しかもこんな時間帯に取材される経験など、トウカイテイオーにはなかった。必然、目の前の男の真意を計ろうと思考を始める。 しかし、その瞬間を見切られていたかのようにまた黒服の男が話始める 「ああっ、これは失礼…唐突にこのようなことを、しかも夜中に見知らぬ男から問われてしまえば身構えるのも当然の事…ホホホ…これ、私の名刺です。 今回、トウカイテイオーさんに聞きたいこととは…昨日レース中でお怪我なされた”皇帝”シンボリルドルフの事に関してなのです…。」 「…ッ!カイチョーのこと…!?」 「ええ…トウカイテイオーさまはシンボリルドルフさまとの深い交友があるとの事で…ここでは何ですから、私の用意した部屋でお話をお聞かせ願いませんでしょうか…?」

5 21/07/10(土)23:26:02 No.822167970

普段ならこんな怪しい話は一も二もなく突っぱねるのが当然だった。 だが、今のトウカイテイオーにとって、シンボリルドルフに関する事と言われれば飛びつかない訳にも行かなかった。 「……分かった。早く行こうよ。」 「ホホホ…それではご案内いたします。こちらへ…」 黒服の男と、その後をついていくトウカイテイオーは闇夜に溶けていった。

6 21/07/10(土)23:26:15 No.822168066

~~~ 【高級ホテル 最上階】 「うわ…すご…」 旧家の令嬢であるトウカイテイオーをして、見た事も無いような豪華絢爛なホテルの部屋に通される。天井から吊るされた豪華なシャンデリアと、大きな窓から見下ろす街並みの光がきらきらと輝いていた。 「ホホホ…こういう漏れたくない話はホテルのスイートルームが一番です。閉店時間も、人の目も気にしないで済みますから。」 そう言うと、黒服のトレーナーがおもむろに椅子に座った。 「さ、トウカイテイオーさんもどうぞ。」 「あ、うん…」 「さて、今回お聞きしたいことがあると言ったのはですね…最近シンボリルドルフさんの周辺で何か怪しい動きがありませんでしたか?」 「怪しい動き…?」

7 21/07/10(土)23:26:28 No.822168174

「ええ、実はこれはまだ何処にも流れていない情報なのですが…昨日のレースでシンボリルドルフが八百長を行ったのではないか、という疑惑があるのです。」 「やっ、八百長…!?そ、そんなことカイチョーがするもんか!!」 「ええ、私も最初はそう思いました。ですが、その筋から仕入れた話だと感謝祭前にシンボリルドルフが何度か地方トレーナーと接触しているとの話がありましてね。」 男が懐から一枚の写真を取り出す。それは、トウカイテイオーの靴箱に仕込まれていたあの写真と同じものだった。 「ッ…!こ、これ…!!」 「あいにくこの写真では男の顔もよく見えませんが、シンボリルドルフに封筒を渡しているのはしっかりと写されているわけです。そして、恐らく…これは八百長という無理を通すための賄賂なのではなかろうか、というのが私の見解なのです。」 「あ、う…。」 トウカイテイオーがずっと想像していた最悪の仮説が、頭の中で現実味を帯びて顕現し始める。

8 21/07/10(土)23:27:04 No.822168480

「しかし肝心の封筒が見つからない。まぁこのままでは私の戯言は戯言のままです。」 「…………でも、それじゃおかしいじゃん。なんで、カイチョーが怪我をするようなことになってんのさ。ただ負けるだけなら幾らでも…。」 「いい所に目を付けますね。まさにそこが今回の話のミソなのです。 …よく考えてください。あのレースでシンボリルドルフに仕掛けられていた仕掛けは、一歩間違えれば競走バ生命を奪うような悪辣非道なものでした。しかし、当のシンボリルドルフはただの軽傷で済んでいます。これがどういうことか…お分かりですか?」

9 21/07/10(土)23:27:19 No.822168595

「……何が、言いたいの。」 「私の仮説はこうです。シンボリルドルフは感謝祭のレースで八百長をして地方のウマ娘を勝たせる約束をする。しかし、その後でこう考える訳です。『なぜ、私が地方の駄バなんぞにわざとでも負けなければならぬ?しかし金は受け取った。ならば、この責任をその地方のウマ娘に擦り付けてしまえ』と。 そして、自前で用意した千切れる靴を履き、レースに何食わぬ顔で出場する。そうして、まだスピードが十分乗っていない所で力を入れて靴を破壊する。そうすれば端から見れば靴に仕掛けをされた悲運の皇帝が一丁あがりということです。」 黒服の男の口から語られる皇帝の黒い計画が、トウカイテイオーの頭に染み入った。 瞬間、半ば反射的に椅子から飛び跳ねた。 「なっ…なんだよ!!カイチョーがそっ、そんなことするわけない!!いい加減な事言うな!!!」

10 21/07/10(土)23:27:43 No.822168767

「ではなぜあのタイミングで靴が切れたのです?怪我を最小限に留めるためでしょう?なぜシンボリルドルフの靴そっくりの、仕掛けを仕込んだ靴が用意できたのです?シンボリルドルフ本人が用意したからでしょう?」 「うっ、ぐ…」 「さあ、もう一度お聞きします。最近、シンボリルドルフの周りで怪しい動き、もの、なにかありませんでしたか?さあ、さあ!!」 黒服の男の声の調子が強くなる。トウカイテイオーの頭の中で、シンボリルドルフへの信頼と憧憬と、疑問と不安がごちゃ混ぜになっていくのを感じた。 「うそだ…嘘だッ!!信じない!!信じない!!!!ボクもう帰る!!!!」 自らに言い聞かせるように叫んだあと、席を立ち扉に向かう。

11 21/07/10(土)23:27:56 No.822168867

「あっ、お待ちください…まだお話が…!」 「うるさいっ!!!もう話しかけないで!!!」 「いえここに忘れ物が…」 「えっ…?」 トウカイテイオーが咄嗟に振り向く瞬間、閃光がトウカイテイオーに浴びせられた。 「ぎゃっ…!!あ、う…」 その瞬間、力が抜けて地面にへたり込んだ。立とうとしても、重力に自分の身体が勝てないまま床に這いつくばることしかできない。

12 21/07/10(土)23:28:14 No.822168996

(なに、これ…?か、身体中に力が入らない…!頭もぼやぼやするし、何をされたの…? ) 「ったく、面倒な事させやがってクソガキが…。しかし距離が遠かったか、まだ意識があるな。」 近づく黒服の男の袖から、細い銃口のようなものが飛びだしていた。それの先端は少し広くなっており、銃口の穴になる部分にガラスが嵌め込まれていた・ 「ま、こっちの方が俺好みのやり方だけどな。さあ、ガキは眠る時間だぜ。」 再び銃口のようなものを向けられ閃光が瞬くと、トウカイテイオーの意識は闇に消えた。

13 21/07/10(土)23:29:19 No.822169505

不穏過ぎる…

14 <a href="mailto:s">21/07/10(土)23:30:32</a> [s] No.822170084

次回に続く 今回で累計10万字を超えてしまいました。いつも感想ありがとうございます。 pixivにも投稿しているので、話毎に読みたい方はこちらもどうぞ →https://www.pixiv.net/novel/series/7374129

15 21/07/10(土)23:33:31 No.822171598

お辛い展開が続くな… 早くみんな笑顔になってほしい

16 21/07/10(土)23:44:29 No.822177023

みんな不用心に怪しいやつについて行き過ぎる… まあウマ娘世界って悪意ある人間少なそうだけど

17 21/07/10(土)23:47:01 No.822178137

渋にも投稿してくれてるのありがたい…

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