ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/07/09(金)21:37:21 No.821740354
あれからあたしの日常は気の抜けないものになった。どういう事かというと。 「あ、ネイチャさん。今少し時間」 「~~~ッ!」 「あぁ、待ってっ!?」 彼とのエンカウント率がバグったからである。廊下で、カフェテリアで、グラウンドで。つまり学園の中の至る所で。まるで先読みをする様にあたしの前に現れる彼。勘弁して欲しい。 顔を合わせるのが嫌だ。恥ずかし気も無く恥ずかしい事を言う彼は、赤面し易いと自覚のあるあたしには劇薬だ。またあの恥ずかし責めをされたらたまったものではない。 そしてあの目。熱に浮かされた様な、爛々と輝く目。初めて向けられたそれは、散々見た選抜レース後に他の子を必死にスカウトするトレーナー達と同じ目。 あたしはそんな目を向けられる対象じゃない。平凡で運が悪くて卑屈で僻み屋で、嘘を付いてまで勝負から逃げたあたし。諦めて欲しかった。諦めさせて欲しい。 そんな目であたしを見ないで欲しい。
1 21/07/09(金)21:37:47 No.821740575
「また逃げられてしまいましたね」 「こんにちは~トレーナーさん。今日は惜しかったですね~」 「ネイチャ速いな!!ターボも負けないぞーっ!!」 「こんにちは、3人とも。話だけでも聞いて欲しいんだけどね……」 「あはは~……私達も話ぐらい聞いてみたら?とは言ってるんですけどねぇ……」 「諦めずアタックするべきです。ネイチャさんにはまたとないチャンスですから」 「ネイチャいいな~。トレーナー、ターボはどうっ!?」 「あはは。ターボさんは先ずゲート試験クリアしてからね」 「むぅ~~……」
2 21/07/09(金)21:38:15 No.821740811
「さて、どうすれば話を聞いて貰えるのか……最近じゃ遠目に顔を見かけるだけで逃げてしまうし……何か良い案ないかな?」 「ふむ、先ずはネイチャさんに逃げられない様にしなくてはいけませんね」 「わかった!!ターボがネイチャ捕まえるっ!!どうっ!?どうっ!?」 「むむむ~ん……ネイチャ意外と逃げ足も早いからなぁ~」 「「「うう~ん……」」」「ね~ぇ~、ターボの案は~っ!?」 「むむぅ~……あ、じゃあじゃあ!こういうのはどうですかっ?」 「はい?」「うん?」「ふぇ?」 「え~っとですね、先ずは私達が……それでトレーナーさんが……」 「「「ふむふむ……ほうほう……」」」
3 21/07/09(金)21:38:42 No.821741007
「タンホイザ~。来たよ……って、あれ、早く来すぎたかな……」 放課後。あたしは空き教室の一つに来ていた。何でもタンホイザが先生に荷物の移動を頼まれてしまって、量が多すぎるので手伝って欲しいと泣きつかれてしまった次第だ。 空き教室の中に入れば、夕暮れ間近の茜色に成りかけた斜陽が、誰も居ない教室に差し込んでいた。 後ろ手に引き戸を閉め何気なく教壇に寄り掛かる。空き教室の中は机も椅子も片付けられていて、後ろの方に使っていない予備が纏められているぐらい。そういえば運ぶ荷物って何だろう。 教壇の上から眺める空き教室はがらんとしてて、騒がしい自分のクラスと違ってどこか寂しい雰囲気。オレンジ色に染まる人の気配がしない空間は、長い時の静寂が沈着している様だった。 (……担当トレーナー、かぁ……) このところ1人になると思考せずにいられないのは、ここ最近あたしを追い回すあの人の事。恐らくあたしをスカウトする気の新人トレーナーさん。追い回されているのに何故か憎めない人懐っこい雰囲気のフツメンの彼。
4 21/07/09(金)21:39:16 No.821741250
スカウトは勿論嬉しい。あたしだってトレセン学園のウマ娘。入学した頃から、いやその前から待ち侘びていた絶好のチャンスだ。 でも、今はもう素直に喜ぶ事が出来ない。純粋に喜べなくなる程、あたしは中央の洗礼に揉まれ過ぎた。圧倒的な才能。信じられない程恵まれた家柄。自分の能力を決して疑わない絶対の自信。 自分を普通だと言うタンホイザだって、その努力量は誰にでも出来るような簡単な物ではない。イクノは切れ味鋭い思考と見た目からは想像もつかないタフネスさを持ち合わせている。ターボも幾ら逆噴射しても勝利を疑わない執念を持っている。みんな素晴らしい、誇らしいあたしの友達。 それに比べてあたしはどうだ。才能も実力も運もなく、大事な時に勝ち切れず、『何処か惜しい』という評価が張り付いた平凡そのもの。 そんな自分の実力を分かってしまったウマ娘なんて、デビューしたところで勝てる訳がない。いや、大事な所で勝てないのがあたしなのだから、むしろデビュー戦すら怪しい。 そんなあたしを担当しても無駄。嘘を付いて勝負から逃げ出すウマ娘なんて、トレーナーさんの経歴の汚点になるだけ。だから。だから。
5 21/07/09(金)21:39:27 No.821741318
ガラリ、と扉の開く音に思考を中断される。マチカネた友達がようやくやって来た様だ。 「……もう、遅いよタンホイ」 「……やぁ」 「んぎゃあっ!?」 扉を開けたのは、今の今まで脳裏に浮かべていた、どこか済まなそうな顔をした彼だった。
6 21/07/09(金)21:39:59 No.821741579
「な、ななな何で此処に……っ!?」 「此処に来れば、君が居ると聞いてね」 「~~~ッ!!」 騙したな!タンホイザ!裏切り者!あたしは即座に彼が入って来た扉とは逆の後ろの扉に駆け寄り取っ手に手を掛けて。 「ッ!?開かない!?」 (うむむむむ~~~んっ!!ふぁ、ふぁいとぉ~~~っ!!) 鍵が掛かっているのか開きそうもない。瞬時に状況判断したあたしは、あたしと彼が入ってきた前の扉に飛び付き取っ手を力一杯引く。 「ッ、何でっ!?さっき開いたじゃん!?」 (ターボ、さんっ、もっとしっかり!押さえてくだ、さいっ!)(うぬあぁ~~~っ!!ネイチャ力強い~~~っ!!) 何故か入ってきたはずの扉は頑なに開こうとしなかった。
7 21/07/09(金)21:40:25 No.821741789
「ッ!アンタ、鍵閉めて……っ!!」 「俺は何もしてない。内鍵は閉まってないはずだ」 「……ッ……」 彼の言う通り内鍵は開いていた。あたしはよく分からないまま密室に閉じ込められた。彼と、2人きり。状況は最悪。コイツ、スカウトするとかじゃなくて、あたしの事、狙ってて。 「……アンタ、あたしを閉じ込めて、一体何を」 「え、あ、ちち違う違う!勘違いしないで!話を聞いて欲しいだけなんだ……!」 慌てて両手を振る彼。不穏な気配はしないが、何かしてきたら思いっ切り蹴り上げてやる。ウマ娘舐めるな。 「……話って何」 「……ありがとう」 諦めて話を聞く気になったあたしの様子に、彼は安堵した様だ。
8 21/07/09(金)21:40:50 No.821741980
「……先ず、選抜レースについて聞きたい。具合が悪かったっていうのは」 「……ッ……アンタ、気付いて……ッ」 「……その反応だと、やはり、そうなんだね」 「……何、チクろうとでも思ってるの……」 もしくは、それをネタにあたしに付け入ろう、とか。警戒心をマックスに彼の言葉を待つ。返答次第では。 「違う。俺は、出なかった事を責めようとしているんじゃない。出ない事にした理由を知りたいんだ」 「……理由……?」 彼の返事は、予想もしてないものだった。
9 21/07/09(金)21:41:12 No.821742152
「あの選抜レースの時、君は言っていたよね。頑張るだけじゃどうにようもならない事がある、って」 「……………」 「圧倒的な才能を前にして分かってしまう子は多い、とも」 「……やめて」 やめて、やめて、やめて。 「もしかして、君は」 あたしを、暴かないで。 「君は、分かってしまったのかい?圧倒的な才能には勝てないと」 そして彼は、いとも簡単にあたしの防壁を突き破った。
10 21/07/09(金)21:41:35 No.821742340
「~~~ッ!アンタには、関係ない!やめて、放っておいてよ!」 弱い所を突かれたあたしは逆上する。暴きやがった怒りと、暴かれた悲しみがあたしを突き動かす。アンタなんかに。アンタなんかに。 「関係なくない。君はウマ娘で、俺はトレーナーだ」 「なにっ!?一体、それがあたしに何の関係が……ッ」 「俺は君をスカウトしたい」 「え……っ!?」 「聞かせてくれ。君は、走るのを諦めてしまったのか?」 分かっていた事だ。彼があたしをスカウトしようとしている事は。でも、いざ言われるとそれは思う以上にあたしを打ち据えて。あたしの怒りは呆気なく霧散した。残ったのは、悲しみだけ。
11 21/07/09(金)21:42:01 No.821742540
「……ッ……だって……だって、仕方ないじゃん……っ、あんな、あんな才能、見せつけられちゃったらさ……っ」 「……それは、この前のトウカイテイオーの事かい?」 「っ、そうだよ……テイオー、テイオー、テイオー……ッ!みんな、テイオーの事ばっかり……あたしには、見向きもしないでさ……っ」 トレセン学園に入学してからずっと感じていた、誰にも言えなかった不安は、溢れ出した弱音は、もう止まらなかった。 「そりゃそうだよねっ……あんだけ速くて才能に溢れてて、自信たっぷりで、あのテイオーに比べたらあたしなんて……っ、運も悪くてっ、才能もない、良いとこ止まりのあたしはっ……じゃあ、一体、一体どうすればいいのさっ……!」 「君は、勝ちたいんだね」 「……え……?」 また彼の言葉があたしを打ち据える。でもこの言葉は、予想だにしない方向からの、あたしとは真逆に位置する言葉だった。
12 21/07/09(金)21:42:24 No.821742754
「……あたしが、勝ちたいって……そんな訳……」 「圧倒的な才能を見せつけられて、君は悔しくて悔しくて仕方なかった。それこそ逃げ出したくなるくらいに。それは、レースに勝ちたいって気持ちがあるからこその悔しさだ」 「……そう、なの、かな……」 「自分の本音には、人間案外気付けないものだよ」 「あたしの、本音……」 「君はまだ諦めていない。君のその勝利への渇望は、きっと力になる。負けたくないって気持ちは、何物にも変え難い、君の才能だ」 「…………ッ!」 「俺は、君のその気持ちを支えたい。勝利をその手に掴ませてあげたい。俺に君を、ナイスネイチャを担当させて欲しい」 「~~~ッ!!」 彼の顔は真剣そのもの。 その顔に、あたしは鷲掴みにされた気分になった。
13 21/07/09(金)21:42:49 No.821742959
「……ダメ、か?」 「……わたっ、わたしはっ……!運もなくて、才能もなくて、良いとこ止まりが精々の、残念なウマ娘ですよっ?……諦め癖がついてて、卑屈で面倒くさくて、きっと逃げ出したくなるし、アンタにもいっぱい迷惑かけると思う……!」 「……また、繰り返し言わなきゃダメかい?」 真剣な顔から一転、眉尻を下げて困った様に笑う彼。その顔にあたしの卑屈は引っ込まざるをえなかった。 「……そんなっ、そんなあたしで、いいのっ……?」 「君がいいんだ。誰よりも悔しい思いをして、それでも負けたくないって強く願える、そんな君がいいんだ」 「……後で、後悔したって、遅いんだからね……っ!」 「あぁ、後悔しないよう、二人で努力しよう。よろしく、ナイスネイチャ」 「……うんっ、よろしくね、トレーナーさんっ!」 ようやく、あたしは心の底から笑えた気がした。
14 21/07/09(金)21:43:21 No.821743214
「うあ゛あ゛ぁ~~ん!ネ゛イヂャぁ~~!」「あ、タンホイザさん!」「ネ゛イヂャぁ~~~!!」「ターボさんまで!」 「あ、アンタ達っ!?もしかして聞いてっ……!おふぅ゛っ!?」 ガラリと扉が突然開いてあたしに飛び付いてきたのはタンホイザとターボ。後ろにはしまった、って顔のイクノ。 「……アンタ達。よくもあたしをハメてくれたね……」 「……彼女達は不甲斐ない俺に協力してくれただけだよ」 だから許してあげて欲しい、と済まなそうな顔をする彼。 「うお゛お゛ぉ~~ん!よ゛がったね゛ぇ~~!」「ネ゛イヂャぁ~~~!!」「全く、計画が台無しです……」 ずびずびな顔であたしに抱き付くタンホイザとターボ。後ろでイクノがやれやれ、とばかりに顔に手を当てている。 本気で心配してくれて本気で安心している様子の友達に、怒る気力はしゅるしゅると萎えていく。
15 21/07/09(金)21:43:51 No.821743467
「……ふふっ、まぁ、アンタに免じて許してあげようかな」 「……ありがとう」 「その代わり、アンタにはしっかり責任取って貰うからね」 「……手加減、お願いします」 「い~やで~す~っ」 「あたしが勝てるまで、許してあげないんだからっ」 「「ネ゛イヂャぁ~~~!!」」 「いい加減離れんかいっ!鼻水が、って、あぁ!?タンホイザ、鼻血、鼻血!!」
16 21/07/09(金)21:44:13 No.821743624
終わり。 初期案ネイチャのキャラスト3話妄想。ネイチャを暴くってえっちですね。4話はテイオーとの直接対決、かも。
17 21/07/09(金)21:44:37 No.821743844
前回まで。 fu147965.txt
18 21/07/09(金)21:46:08 No.821744597
距離感バグってる…また有能トレーナーが消える…
19 21/07/09(金)21:46:58 No.821745008
いい話だも~~ん!!
20 21/07/09(金)21:48:47 No.821745835
>「……そんなっ、そんなあたしで、いいのっ……?」 >「君がいいんだ。誰よりも悔しい思いをして、それでも負けたくないって強く願える、そんな君がいいんだ」 >「……後で、後悔したって、遅いんだからね……っ!」 >「あぁ、後悔しないよう、二人で努力しよう。よろしく、ナイスネイチャ」 >「……うんっ、よろしくね、トレーナーさんっ!」 ここまるで薬指に入る指輪を渡す時のやり取り…
21 21/07/09(金)21:49:25 No.821746131
マ マ マ マ マ マ
22 21/07/09(金)21:49:30 No.821746169
ネイチャのトレーナーは責任取らなきゃいけない言動しなきゃいけない決まりでもあるんですか?
23 21/07/09(金)21:50:24 No.821746566
プロポーズだこれ!
24 21/07/09(金)21:52:25 No.821747437
一瞬アイコンが旧ネイチャだったからフクロスかと思って超身構えたことを懺悔する
25 21/07/09(金)21:52:46 No.821747577
こんなん惚れてしまう…
26 21/07/09(金)21:53:46 No.821747989
>ここまるで薬指に入る指輪を渡す時のやり取り… きっとこの2人は何度も同じやり取りする
27 21/07/09(金)21:56:09 No.821749086
チョロい…
28 21/07/09(金)21:58:14 No.821750028
>チョロい… いやこんなん生娘なら誰でも…
29 21/07/09(金)22:00:03 No.821750859
>チョロい… ネイチャと同じ立場にあってトレーナーの勧誘を跳ね除けられるものだけが彼女に石を投げなさい ……俺には無理だ……
30 21/07/09(金)22:01:06 No.821751292
自分のコンプレックスに真っ正面から向き合ってきて気持ちも全部吐き出したのにそれでも最後まで支えることを約束してくれる冴えないフツメン お嫌いですか?
31 21/07/09(金)22:09:14 No.821755576
このめんどくさガールはチョロイと対極にいないかな…
32 21/07/09(金)22:09:28 No.821755687
……すき…なんて言えるわけないじゃん
33 21/07/09(金)22:11:53 No.821756868
>……すき…なんて言えるわけないじゃん ネイチャのレス
34 21/07/09(金)22:17:12 No.821759424
うるせえとっとと同じ布団でイチャイチャしろ 3日目くらいでメイクデビューしろ
35 21/07/09(金)22:23:15 No.821762201
>一瞬アイコンが旧ネイチャだったからフクロスかと思って超身構えたことを懺悔する あの地獄(とニトリ)に脳を焼かれてこの初期案ネイチャを書く気になったのでフクロスにはリスペクトしかないです
36 21/07/09(金)22:24:06 No.821762591
>うるせえとっとと同じ布団でイチャイチャしろ >3日目くらいでメイクデビューしろ そんなに早くメイクデビューしたんか!?
37 21/07/09(金)22:24:08 No.821762615
だから メイクデビューは 隠語じゃ ねえって
38 21/07/09(金)22:25:10 No.821763042
こちとら勝たせに来てるのにやる前から諦められたらお手上げじゃいってなるのが普通のトレーナーだと思うのでかなりの変態を吊り上げてしまった形だと思う
39 21/07/09(金)22:25:45 No.821763307
>だから >メイクデビューは >隠語じゃ >ねえって でもメイクデビューなら桜花賞とかオークスとか菊花賞みたいによそに迷惑かけてないし…
40 21/07/09(金)22:25:58 No.821763430
頬をなぞったり首筋にキスしたりするしっとりした触れ合いが好きそう
41 21/07/09(金)22:26:57 No.821763856
ここからネイチャの男性観が完全に破壊されます