虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/07/09(金)09:03:10 No.821550482

    「ねえ、早く連れて行って」 マンハッタンカフェと初めて会った時、何処へでもなく彼女が呟いたのを覚えている。祈るように、待ち構えるように。飢えた獣が懇願するのは、その渇きを満たすことのみ。 女優としても活躍していた彼女のことはトレーナーを志す前から知っていた。レース以外に華々しい舞台を持つ彼女は、走らなくても満たされているのだと思っていた。そもそも自分にとっては関係のない世界の人物で、決して交わらない平民と貴族のような。だから、彼女がトレーナーを探しているという噂が立った時は驚いた。マンハッタンカフェは度々選抜レース場に出没し、走らずに帰っていく。それも大勢のトレーナー候補が押し掛けるので、俺のような新人には姿を見ることすら叶わなかったのだ。 目を疑った。学園からの帰り道、闇に紛れるように歩く彼女を見た。帽子を深く被り、ロングコートでシルエットを隠したマンハッタンカフェは、いつもテレビで見るような姿ではなかったけれど。

    1 21/07/09(金)09:03:29 No.821550527

    安っぽい言葉で言えば、オーラがあった。確かに彼女はそこにいた。闇に紛れるようにか細く、けれど夜に光るようにしっかりと。分かってしまった。彼女に今、声をかけねばならないと。まるで本能が叫ぶように、俺はマンハッタンカフェに話しかけた。 「なあ、きみ…」 その時。その時に、彼女は一言。静かに叫んだ。 「ねえ、早く連れて行って」 何処へ連れていくのか。そもそも俺に向けた言葉なのか。こちらに気付いていたかもわからなかったのに、俺は焦るように言葉を繋げる。 「わかった」 「俺が君を連れていく」 手を離したら、何処かへ消えてしまいそうな気がしたから。 返答はなく、彼女はくるりと踵を返す。こちらに近づいてくる。言葉はなく、横を通り過ぎていくのを黙って待ってしまう。…いいやダメだ! 「あの、明日またここで」 そう言った時、わずかに彼女の脚が止まった気がした。

    2 21/07/09(金)09:03:46 No.821550569

    私は物語が好きだ。皆私にない輝かしい人生を語るからだ。幼い頃の私はどうしても彼らのようになりたくて、女優を志した。演じるのではなく、彼女たちに私が"なる"。私は鏡であり、薄い台本の上にあるヒトガタを舞台へ映し出すのだ。その役割の中で、わずかに私は退屈さを忘れられる。たとえば情熱的な恋を間近で見れば全ての景色が色づくように錯覚する。たとえば憎悪に身を焦がす殺人鬼を模せば流れる血がとても綺麗に見える。人生は退屈すぎて、それぐらい一生懸命に何かに打ち込まないと楽しめないのだと思う。きっと、彼も。彼女も。何かにその身を捧げているから幸せに生きている。 私には、それがない。だから私はつまらない。本能から満たされない。 自殺を考えたことはない。いくら生きるのがつまらないといっても、死はもっとつまらないからだ。それは永遠に続くのだから。代わり映えもなく、孤独の中で全てを後悔し続ける空間になる。だから私は生を求める。生き続ける先に、答えがあると信じて。

    3 21/07/09(金)09:04:07 No.821550627

    私にレースの話が舞い込んできたのは、マネージャーの指図だった。あのマンハッタンカフェがデビューすれば大きな話題になると。馬鹿馬鹿しい。私は話題になるために女優をやっているわけじゃない。けれど少しの期待を求めて動いてしまうのは、飢えた獣の性なのだろう。選抜レースを見届けて、彼女たちの見る景色に想いを馳せる。風を切るのはそんなに楽しいだろうか。脚を早く回すのはそんなに興奮するだろうか。わからない。演じるように、自分に彼女たちを映し出す。何かもどかしい感覚があったけれど、それ以上には届かなかった。 いつものように変装して、私は学園を出る。とはいえオフの私を目ざとく見つける人などそういない。私に映された物語には色が付いているけれど、私自身は真っ黒な黒子に等しいのだ。演技がない私には、つまらない人生を送る一人のウマ娘という記号しか残されていない。

    4 21/07/09(金)09:04:31 No.821550697

    ああ、いっそ。何か罪を犯す殺人鬼の気持ちがわかればな。一人、その心をシミュレートしてみる。たとえば私は世界の全てが憎たらしい。誰でもいいから人の命を台無しにしてみたい。だって羨ましいから。手が届かないから。そうして殺人を達成した後、私は一躍時の人になる。今度は誰もが理解できない、埒外の人間に躍り出る。誰からも相手にされない無欲の人は、誰からも憎まれる全ての敵になる。うん、悪くない。そうして最後、断頭台へ連行されることが決まった時。私はうっとりと呟くのだ。 「ねえ、早く連れて行って」 そこまで思考を巻いた時、誰かの声が聞こえた。最初は私に声をかけているなどとは思わなかったし、私の心は宙に浮いていた。けれど。 「俺が君を連れていく」 こちらの台詞に反応したのだろうか。独り言に対して会話しようとは殊勝な人だと思った。ゆっくりと声のする方を見る。…思えばその時にはもう。私の命は、始まりを告げていたのかもしれない。

    5 21/07/09(金)09:05:03 No.821550779

    言葉はなかった。聞き間違いだったかもしれない。私を断頭台へ連れていってくれる人などいない。そこはある種のゴールで、物語が幕を閉じる場所だけれど。私にはゴールがない。そういうことなのだろう。 その男の人はどこかで会っただろうか。もし知り合いだったなら、礼儀作法は通さなければ。芸能界の付き合いに興味はないけれど、無理に嫌われる筋合いもない。そう、ゆっくりと近づいて。通り過ぎようとした時に、彼の言葉がナイフのように突き刺さった。 「あの、明日またここで」 その時。明確に。心臓が止まるような感覚があった。血が流れ出すような幻覚があった。脚を進められなくなる錯覚があった。私は確かに殺された。そんなふうに思った。けれどそれは一瞬。すぐにつまらない人生が戻ってくる。だけど。色鮮やかな血染めの世界を、その一瞬私は垣間見た。 そんなふうに昨夜のことを思い出しながら、今日の予定を確認する。…夜は、空いている。なら。 もう一度行ってみようか。そうして、もう一度。今度はしっかり乞うてみようか。 ねえ、早く連れて行って。 楽園への道筋は、未だ方角すら見えず。

    6 21/07/09(金)09:05:20 No.821550824

    対峙する。何度も相見える。決闘のように、逢引きのように。夜にただ二人、人気のない道先で会うのが私たちの日課になっていた。姿を見せて、立ち止まって。君がまた明日と言う。それだけの関係。その先には至らない。永遠に至れないとしたら、それはまた退屈なはずなのに。私は今日もここに来ている。 ねえ、早く連れて行って。 「あっ…」 彼は私を目ざとく見つける。変装している私に気づく人間など一握りだ。女優のベールを外せば、私と言う存在は虚空に等しい。それなのに。 「こんばんは、カフェ」 「…こんばんは。毎日飽きませんね」 こうして僅かな会話を交わすようになるまで、それなりの日をかけた。本当によく飽きないものだ。私というつまらない存在に、君は何を見ているのだろう。

    7 21/07/09(金)09:05:34 No.821550861

    「…なあ、」 「…では、さようなら」 それで終わり。いつものことだ。わざわざこの会話をするために、彼は何分待っていたのだろう。 「また明日」 「…はい」 そうして私は。何度向かうのだろう。 「明日も夜は空けておいて下さい。では」 マネージャーに何度目かの連絡をしてベッドに入る。灯りのない暗い闇の中に私はいて、それは本当に退屈な世界だ。私は誰も顧みないし、誰からも顧みられない。たとえば主役となる登場人物には、何かしらの深い人間関係が欠かせない。私にはそれがない。どれもがきっと薄っぺらくて、女優の仕事は私を物語を語るための道具として使うのみだ。 飢えるような感覚。明日が待ち遠しいと、自然に思ってしまう。ねえ、早く。時間が早く進んで欲しいと乞い願う。時間の流れは永遠ではなく、どこかにゴールがあるのだと。そんな、あり得ないモノを幻視する。…まずは眠ろう。眠れば、明日は来るのだから。

    8 21/07/09(金)09:05:48 No.821550896

    「ねえ、カフェさん。今夜お茶しませんか」 「…先約があるので。失礼します」 次の日、ルーティンと化した仕事を終える。社交辞令を切り払い、またいつもの場所へ一人で向かう。足早に、振り向くこともなく。君を迎えに私は征く。こつ、こつ。己の靴音だけが耳の中に残る。他は全て雑音で、あの空間での会話だけが価値を持つ。ねえ、早く。 「…おや」 その日、いくら待っても。君は来なかった。

    9 21/07/09(金)09:06:02 No.821550923

    マンハッタンカフェというウマ娘がいる。女優としても名高く、けれどプライベート等について多くを語らない。彼女は言う。私はただの鏡だと。物語を映しとる鏡。それ以外に価値はないと言わんばかりの口ぶりが、ひどく印象に残っていた。 「なあ、」 俺の担当ウマ娘にならないか。その一言が言えない。彼女はやはり俺にとっては高嶺の花で、どうしても合わないと思ってしまう。けれど彼女に会い続けているのは、最初の会話があるから。 ねえ、早く連れて行って。 彼女は確か、そう独り言のように言っていた。祈るようなその言葉は、彼女に妙に噛み合っていた。もちろんマンハッタンカフェからすればただの演技の練習だったかもしれない。その真意はわからない。だけど、真意というのは得てして本人の預かり知らぬところにあるものだ。自身にもわからない本当の気持ちが、どこかで顔を出すかもしれない。なんとなく彼女から目を離せずに、そんなことを思っていた。 「…っ」 その日、俺は熱を出し。望まずして彼女との約束を破った。

    10 21/07/09(金)09:06:18 No.821550955

    「昨日は連絡遅かったですね、どこに行っていたんですか?」 「…別に」 「…今日も夜、予定は入れてないですよ」 「…ありがとう」 「そろそろトレーナーさんが見つかるといいですけどね!」 マネージャーは私がトレーナー探しのために毎晩出歩いているのだと思っているらしい。とんだ勘違いだ、と思ったが。もしかしたら彼はトレーナーかもしれないのか。あの時の言葉。彼は、私の言葉に対してこう返した。 俺が君を連れていく。 ともすればスカウトのようにも聞こえる言葉だ。自分は彼のことを何も知らない。同じように、彼も私のことを何も知らない。それなのに、毎日のように会っていた。…昨日で、その連続記録は途切れたのだが。今日も私は行くのだろうか。今までは毎日約束をしていた。それがないのだから、会う理由もないのではないか。そうして永遠に、再び会うことはない。それでいいはずだ。

    11 21/07/09(金)09:06:31 No.821550983

    ぽつり。雨が降ってきて、ますます会える可能性は低くなる。君はまだ来ていない。まだ、来ていない。永遠ではないと信じる。だって、そうでなければ。退屈すぎるのだから。 傘を持っていなかったので、いつのまにかコートがずぶ濡れになっていた。これでは風邪をひいてしまうかも。それでも、待つ。待つことは渇くが如し。されど、渇くは求めるが故に。どうしても得られなかったものを、私はようやく得られるのだ。 「…はぁ、はぁ」 いくら待ったかは忘れてしまった。その姿を見てからの時間の方が、圧倒的に長く感じられた。自分でも自分の行動が理解できなかった。声のする方へ、獰猛な猟犬のように飛びかかる。抱き締めて、離さない。 「…ちょっ、カフェ…!」 「…ああ、よかった」 また会えた。それだけのことが、ひどく幸せ。

    12 21/07/09(金)09:06:51 [おわりです] No.821551029

    なんとなく、予感がした。俺と彼女は住む世界が違うと思っていたけれど。この予想が当たっていたら、案外俺たちは同じ思考を持てているのかもしれない。だから、もしまた会えるなら。今度はしっかり、伝えよう。 「…なあ、カフェ」 「…はい」 「…俺が、君を連れて行くよ」 「…はい」 「…俺の担当ウマ娘になってくれないか」 「…はい」 その返答はとても不器用で。スターダムにいる少女とは思えなかった。声の代わりに、身体を締め付ける力が強く強くなる。…柔らかいものが上半身に当たって、こそばゆい。でも離れてくれとは言えなかった。今度こそ、離してはいけない気がしたから。 「…それでは、マネージャーに連絡いたしますので。今日からよろしくお願いします…トレーナーさん?」 力を一気に抜いて解放した後、事もなげに彼女は言う。返答は一つだ。 「よろしく、マンハッタンカフェ」 契約は成立した。楽園への道筋は、遂に方角を定める。黒い光条が今、飛び立つ。

    13 21/07/09(金)09:16:24 No.821552504

    原案カフェ尖りすぎててダメだった

    14 21/07/09(金)09:21:16 No.821553250

    fu146676.jpg 旧カフェマーケティングです

    15 21/07/09(金)09:24:07 No.821553683

    黒い衣服がしっとり濡れて光さえ吸い込む黒さになるのいい…

    16 21/07/09(金)09:38:02 No.821555801

    スタゲ12に入ってるカフェのキャラソンは歌詞からして実質的に旧カフェのキャラソンで おそらくここでしか公式の旧カフェはお目にかかれないので聞いてください…!

    17 21/07/09(金)09:41:17 No.821556309

    どの媒体でも印象違うのはなんか面白いよね fu146698.jpg

    18 21/07/09(金)09:44:30 No.821556802

    >スタゲ12に入ってるカフェのキャラソンは歌詞からして実質的に旧カフェのキャラソンで >おそらくここでしか公式の旧カフェはお目にかかれないので聞いてください…! ありがとう…買ってくるよ…

    19 21/07/09(金)09:49:02 No.821557500

    >fu146676.jpg >旧カフェマーケティングです アークナイツに出る方のカフェ

    20 21/07/09(金)09:54:09 No.821558365

    >fu146698.jpg 目が明るい…

    21 21/07/09(金)10:03:23 No.821559960

    まさに「お前を殺す」って殺し文句のような…良い…

    22 21/07/09(金)10:09:06 No.821560894

    女優設定残して...して...

    23 21/07/09(金)10:10:31 No.821561124

    アスリートとの両立無理そうだしなあ女優業

    24 21/07/09(金)10:14:09 No.821561723

    幽霊要素は盛りすぎか

    25 21/07/09(金)10:19:20 No.821562598

    旧カフェの性格はそっくりさんなお友達要素も入ってそうなんだよな…

    26 21/07/09(金)10:23:10 No.821563225

    旧カフェは良くも悪くも原案イラストに引っ張られすぎて設定考えた感が強い そっちの方が好みだけど

    27 21/07/09(金)10:31:40 No.821564560

    血に飢えた猟犬でバスト81で女優でトレーナーに一途すぎる依存性格で人生退屈すぎて犯罪者になりそうでレースの先にある何かに自分を連れて行って欲しい方のカフェ

    28 21/07/09(金)10:44:57 No.821566847

    >血に飢えた猟犬でバスト81で女優でトレーナーに一途すぎる依存性格で人生退屈すぎて犯罪者になりそうでレースの先にある何かに自分を連れて行って欲しい方のカフェ 盛りすぎ でもバストは減らさなくとも…

    29 21/07/09(金)10:49:04 No.821567602

    うまよんでがお~…してるの好き

    30 21/07/09(金)10:51:17 No.821568003

    原案イラストがイケメンすぎる…