ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/07/04(日)20:01:42 No.820089412
最近はトレーナー達の間で、凝ったトロフィーを作って担当に贈る事が流行っているらしい。 思い思いに数寄を凝らしたトロフィーを作る事には、担当が喜ぶかは別にして独特の楽しさがある。噂に聞くところでは、トロフィーに変形合体機能を付けて少年漫画めいた趣味のある娘たちには喜ばれたものの、肝心の担当には呆然とされたらしい。男の工作とは得てしてそういうものだが、私のトロフィーは、さて。どうだろう… 「此頃学園ニハヤル物…という奴でね。私も触発されて作ってしまったよ」 グラスにそれを手渡すと、目を輝かせて喜んでくれた。 「まぁ、日本ダービーのトロフィーを押絵(おしえ)にしたものですね」
1 21/07/04(日)20:02:01 No.820089541
「ああ、和物の布で綿を包んで立体感を持たせ、下絵を描いた台紙に貼り付けた日本の伝統的な貼り絵でな、亡くなった祖母が得意だったのを思い出して、手すさびに作ってみた。まだまだ改善の余地はあるが、もし気に入ったら持って行ってくれ」 「…あら?このトロフィーの黄色…いえ、金色の部分は…?友禅染めではありませんか?」 「おや、分かってくれたか。古道具屋で箔押しの端切れがずいぶんと手に入ってね、ほら、折角だからトロフィーの金を再現しようとすっかり熱を上げてしまったよ」 「それに、トロフィーの背景に敷かれた芝生を表すのは、緑の緞子、ですね?」 「おお、そこまで分かってくれるとは作者冥利に尽きるな。緑の台紙にしようとも思ったが、折角なら草花紋をターフに見立てたくて、わざわざ名物裂(めいぶつぎれ)を再現した帛紗を通販で購入してしまったよ。」 だが、材料自慢、腕自慢に陥ってしまった感は否めない。変形トロフィーを作ったトレーナーを、私は笑えない。 「いやはや、贈る相手の気持ちも考えずにこだわりを有線させてしまう辺り、私もまだまだもてなしの心が足りないな…」己の至らなさに、肩をすくめる。
2 21/07/04(日)20:02:26 No.820089744
「いいえ、トレーナーさんのお心遣いと真心は、痛いほど分かります。その上で風雅に仕上げて下さったのですから、私には十分すぎるほどの立派なトロフィーです。ありがとうございます」 「そう言って貰えると、私もあれこれ工夫を凝らした甲斐があるというものだ」 「ところで、トレーナーさん。ひとつ、質問よろしいでしょうか」 「なんだい、グラス」 「お祖母様が押絵が得意だった、と仰いましたが、押絵の作成を家業になさっていたのですか?」 「いや、うちは江戸時代から続くバ術指南役の家系でね、曽祖父の曽祖父の頃までは某藩に仕官していたそうだ。武家の女性は、針仕事のかたわら、布の端切れを元に手慰みに押絵を作っていたらしくて、既製服が一般化する母の代までは祖母は衣服を仕立てる傍ら、端切れで押絵を手掛けていたそうだ。うちに嫁入りする前。実家の曽祖母…つまり祖母の母から、嫁入り修行の一貫、女性の嗜みとして仕込まれていたらしい。伝統工芸の羽子板なんかに使われる押絵とは、成り立ちが異なるね」
3 21/07/04(日)20:02:43 No.820089863
「まあ、では武家の末裔、特にバ術に関わる御家系のお宅には、このような押絵が残されている可能性が高いのでしょうか?」 「そうだね、私の実家にも先祖代々の押絵が結構残っているし、祖母や曽祖母の手作りだからという事で残っている可能性はあるかもしれない。流石に、豪商や大名家、公家の押絵は高価な反物を用いていることから、既に博物館やコレクターの手に渡っていると思うけれどね」 「まあ、それは素敵な事を聞きました。今度、理事長にお願いしたい事がありますので、理事長にこの押絵を見せても構いませんでしょうか?」 「? ああ、構わないが…」
4 21/07/04(日)20:02:57 No.820089972
20XX年。トレセン学園付属ミュージアムの一つに、グラスワンダー記念押絵美術館が建っている。URAファイナルズ優勝後も、多くの業績を打ち立てたグラスワンダーとそのトレーナーの尽力により設立されたこの美術館は、その名の通り押絵コレクションとしては日本トップクラスの規模を誇る。そのコレクション最大の特徴は、ウマ廻級…つまり江戸中期以降の中級・高級武家の女性が作成した押絵の収集に特化しており、特に古流バ術の伝播した地域を中心に、 江戸後期から明治大正期に掛けての全国を網羅するコレクションとなっている事が特徴である。時代の流れと共に失われようとしていた武家押絵の収集に努めたグラスワンダーと、全国での指導や講演を通じて寄贈を呼びかけたグラスワンダーのトレーナーが尽力し、北は松前藩から南は薩摩藩までを網羅しており、材料となる布の流通や作風の時代様式を追う事も出来ることから、服飾史の観点からも高い評価を受けている。
5 21/07/04(日)20:03:21 No.820090149
毎年2月18日、グラスワンダーの誕生日限定で公開されるのが、グラスワンダーのトレーナーが作成した手作りの日本ダービートロフィー押絵である。府中市指定文化財としても指定を受けているこの作品を見に、クラシック三冠を目指す多くのウマ娘たちが日本ダービートロフィー押絵を見に押しかける。 おしまい
6 21/07/04(日)20:05:05 [s] No.820090887
グラスにもトロフィーを作ろうとするグラストレを構想していたら…筆が…勝手に…
7 21/07/04(日)20:06:17 No.820091397
なんか…えらいことになってるな…
8 21/07/04(日)20:06:44 No.820091585
これはなんとも趣のある怪文書ですな…
9 21/07/04(日)20:09:00 No.820092524
乙だな…
10 21/07/04(日)20:11:47 No.820093672
もう走るの関係なくなってる…
11 21/07/04(日)20:12:40 No.820094018
なんだこれ…
12 21/07/04(日)20:15:44 No.820095319
ララバイを歌うトロフィーもあれば押絵のトロフィーもある
13 21/07/04(日)20:17:50 [s] No.820096223
◆学芸員のイチオシ! ウマ娘悪竜退治図押絵 松前藩 19世紀 大陸との交易で得た蝦夷錦の龍を大胆に使った大作の押絵で、作者は松前藩バ術指南役の正室。長男の嫁に迎えたウマ娘が大病を患った事から、蝦夷錦の背中に刺繍された龍の部分を切り取り、和装のウマ娘が組み伏せ退治した様を押絵とする事で病魔退散の祈りを込めていると思われる。なお、同家の記録によれば作者長男の嫁は二女一男を儲けて五十七歳で没しており、この押絵に込めた祈りは聞き届けられたと思われる。
14 21/07/04(日)20:18:43 No.820096638
良い道楽だ
15 21/07/04(日)20:20:35 No.820097524
なんか…えらいことになってるな
16 21/07/04(日)20:21:16 No.820097838
トロフィー概念が拡散してる…
17 21/07/04(日)20:21:50 No.820098120
結局トロフィーってなんなんだよ!!
18 21/07/04(日)20:25:43 No.820099808
>結局トロフィーってなんなんだよ!! トロフィーは遍在する トレーナーの数だけ