虹裏img歴史資料館

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21/07/04(日)00:11:45 「本当... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1625325105577.jpg 21/07/04(日)00:11:45 No.819790931

「本当にやるの~?」 躊躇するスペシャルウイークに、エルコンドルパサーは大仰に拳を握りしめ答える。 「当然デース!レースは待っててくれないんデスよ!」 「エルの言う通りよ」 キングヘイローも優雅に髪をかき上げ賛同を示す。 「あと半月もないこの時期に、休んでなんていられないわ」 「でも──……」 スぺは窓を見やる。 まだ昼前だというのに、夕暮れ近くのような淡くぼんやりとしたクリーム色の光。 その輝きに塗りつぶされ景色の判別がつかない。 「話に聞いてたみたいに、ものすごく天気が荒れそうですよ」 かつてない規模の暴風雨の接近により、該当地域には外出自粛の勧告が発令されていた。 それを受け、トレセン学園も臨時休校。生徒達は寮での待機を言い渡されているのだが──……

1 21/07/04(日)00:12:01 No.819791059

「全然大丈夫デース!ちっとも雨なんか降ってないし!」 「そうよ。こうしてる間にも、トレーニングできるはずの時間は削られていくのよ?」 こっそり抜け出して練習場に行こうとエルが言い出し、キングがそれに同調したのだ。 大きなレースが迫っていることもあり、二人とも気が急いてるらしい。 「う~~ん……」 困ったスぺは、判断を委ねるようにグラスワンダーに視線を送る。 それに気付いたグラスは思案するように口元に手を当て、やがて決意の視線を返した。 「本来は学園の判断に従うべきですが……実力ではなく、このような不可抗力が負けにつながれば  その後悔は計り知れないでしょう。時間を定めての案なら賛成です」 「グラスちゃんまで!?…………ううぅ~~~」 躊躇を捨てきれず唸るスぺだったが、元々周囲に合わせがちな気質である。 「……うんっ!みんながやるなら私も!!」 結局は賛同して、力強く頷くのだった。

2 21/07/04(日)00:12:13 No.819791150

「意外とあっさり外に出られましたね~」 寮を出て、小走りに練習場に向かう中でグラスが笑う。 「タイミングがよかったよね~。共用スペースにも玄関にも誰もいないとか」 話題に乗っかったのは、部屋では我関せずと相談を見物していたセイウンスカイ。 「あなたってば、いつの間にか混じって……ちゃっかりしてるわね」 「こんな日のトレーニングは正直勘弁だけど、抜け出しは面白そうだったからさ~♪」 キングの皮肉をも軽くいなすウンスに、スぺとエルも笑う。 色々あっても結局いつものメンバーでまとまったことは、全員の足取りを軽くしていた。 「学園の職員の人も……見回りはしてないみたい」 「きっと嵐を恐れて籠ってるんでしょう。好都合デース!!」 うっかり見つからないかと周囲の様子を全員で確認しながら進み、練習場に到着する。

3 21/07/04(日)00:12:27 No.819791257

「うわ……あ」 スぺが目の前に広がる景色に圧倒されたように立ち尽くし、声を上げた。 空には夜を切り取ったかのような暗雲が一面に広がっている。 しかし時間は日が一番高くなる頃で、雲のかかっていない箇所からは眩い日差しが照り付けていた。 黒と白の強烈なコントラスト。その色彩効果で地面の芝までもが輝いてるように見える。 何もかもがあまりにも鮮やかな景色。一辺倒に塗りつぶされていて、非現実的な違和感を生み出していた。 「雲の色はおぞましいですが……まだ当分は降りそうにないですね。一時間はもつかと」 「ほーらみなさい!キングの判断に間違いはないのよ!」 空模様を見てグラスとキングが安心したように言った、次の瞬間。 猛烈な風が彼方から押し寄せ五人を直撃した。 「わーーーーっっ!?!?」 吹き飛ばされる、と慌て体勢を崩しかけるが、そんな彼女達を押し戻して風は複雑にうねりだす。 四方八方からの風圧を受け、五人は逆にその場に縛りつけられるような状態に陥った。

4 21/07/04(日)00:12:41 No.819791356

「なになにっ!?なんかすっごいことになってるよ、この突風ーーっ!!」 翻弄されるウンスとは裏腹に、 「ハーーーッハッハッハッッ!!!!」 エルは爽快だと言わんばかりに高笑いをあげた。 「見てください、雲が超速で移動していってマース!あれならひょっとして晴れる、か……も──……」 遠くを指さしたエルの言葉が途切れる。 その瞳は大きく見開かれ、口はあんぐりと開けられたまま塞がらない。 「……………………?」 ゆっくりと指の向かう先を追った他四人。そして彼女達も、同じように硬直した。

5 21/07/04(日)00:12:54 No.819791479

『何か』が。途轍もなく巨大な『何か』が、暗雲の中をゆっくりと横切っていた。 球根のような形をした毛むくじゃらの塊。 そこからは節足動物のような細く角張った足──しかし先端には人間のような柔らかな五本指のついた 奇妙な足がこれまたゆっくりと振り下ろされ、大地を踏みしめる。 自身を囲むように生えたその無数の足を水車のごとく縦回転させ、塊は移動していく。 奇妙なことに、これだけの巨体が動いてるのに地鳴りなどは一切聴こえない。 ただ、風のうねりが。嵐の鳴動だけが空間を満たして。 「────────────……」 呆けた顔で五人が見守る中、塊に亀裂が入り七割を占めるほどの巨大な瞳が出現する。 メロンゼリーのような、透明感ある緑色で弾力を感じさせる質感の眼球。 その中にある漆黒の闇を凝縮したような瞳孔が、不規則に流動しながらも五人を捉えていた。

6 21/07/04(日)00:13:10 No.819791624

後日。 エルコンドルパサーは「観光に行くデース!!」と旅立ち、 マチュピチュ付近の自然洞窟に入っていく姿を目撃されたのを最後に消息を絶った。 スペシャルウイークは自主退学をし、北海道へと戻った。 実家を継ぐのかと思いきや、ミステリーサークルのような奇妙な巨大図形を牧場に描き続けているらしい。 セイウンスカイも同時期に自主退学し音信不通だ。

7 21/07/04(日)00:13:24 No.819791730

グラスワンダーは部屋に引きこもり続け、やつれきって倒れてるところを病院に搬送された。 驚くべきことに、その姿は髪も肌も白を通り越して透明といえるほどに色を失っていた。 強制入院させられた彼女は、生きているのが不思議だと驚く医師に笑って返した。 「死になどしませんよ。私達は……見初められたのです。招かれるその日まで、私は禊を続けるだけ」

8 21/07/04(日)00:13:37 No.819791820

キングヘイローだけは今でも走り続けている。 むしろ今までよりも遥かにめざましい結果を残しながら。 ただ──その様子は、これまでとは一変してしまっていた。 走る時以外は常に上の空で、ほっておけば何時間であろうとぼんやり佇んでいる。 話しかけても返答はまるで要領を得ない。 15バ身という驚異的な差をつけ有馬記念で勝利した際も、記者達の質問に答えず あらぬ方向を見つめ「風が……」とつぶやいただけだった。

9 21/07/04(日)00:13:50 No.819791889

ある日、ニシノフラワーのスマホが着信を告げた。 誰からだろう、と画面を覗きこんだニシノは目を丸くする。 そこに表示されていたのはセイウンスカイの名前だったからだ。 「スカイさん!?スカイさんなんですかっ!?!?」 「…………ひさしぶり」 「よかった、お元気だったんですね!あの、今はどこで何を?」 「……逃げてるよ」 「え?」 「ずっと逃げ続けてる……」 電話越しのウンスの声は、消え入るようにか細く震えている。

10 21/07/04(日)00:14:25 No.819792136

「閉め切った部屋でもダメなんだ……空気が流れると、そこから……」 「スカイさん……?あの、言ってる意味が──」 「あ……やだ…………風が…………イヤだああぁああああぁぁーーーー!!!!!!」 「スカイさん!?スカイさんっっ!?」 唐突な絶叫と共に、電話は切れた。 それから二か月ほど経った頃、ニシノの元に小包が届いた。 差出人はウンス。聞き覚えが全くない中東の国からの配送だった。 中身は、長旅のためかすっかりと表紙がくたびれた手帳。 きっとそれにはウンスの身に何が起きたのかが書かれているのだろう。 しかし、ニシノは未だにそのページをめくる勇気を持てずにいる。 <完>

11 21/07/04(日)00:15:05 No.819792445

これもしかしてシアエ...

12 21/07/04(日)00:15:06 No.819792458

こえーよ!!なんだよこれ!!眠れねえよ!

13 21/07/04(日)00:16:54 No.819793223

なんなのだこれは!どういうことなのだ!?

14 21/07/04(日)00:17:47 No.819793610

ウワーッ!?永久的狂気!

15 21/07/04(日)00:22:10 No.819795480

>空には夜を切り取ったかのような暗雲が一面に広がっている。 >しかし時間は日が一番高くなる頃で、雲のかかっていない箇所からは眩い日差しが照り付けていた。 >黒と白の強烈なコントラスト。その色彩効果で地面の芝までもが輝いてるように見える。 イロモノのようで情景描写凝ってていいねぇ正直こういうの結構すき

16 21/07/04(日)00:22:29 No.819795622

SANチェック失敗したか…

17 21/07/04(日)00:23:53 No.819796192

発狂した探索者お決まりの不気味な手記きたな…

18 21/07/04(日)00:29:36 No.819798542

ヤマツカミかなと思ってたら旧きものだった

19 21/07/04(日)00:30:40 No.819799048

失敗!

20 21/07/04(日)00:33:23 No.819800327

グラスちゃんがこれギリ判定成功レベルですよね…?

21 21/07/04(日)00:45:18 No.819805453

スレ画のテキストってそういう…

22 21/07/04(日)00:48:19 No.819806738

ニシノフラワーは絶対その手帳読むべきではない

23 21/07/04(日)00:51:43 No.819808341

ダメだと言われてるのに出たりするから…

24 21/07/04(日)00:56:15 No.819810491

ミスカトニック辺りに送った方がいい代物だな…

25 21/07/04(日)00:57:48 No.819811212

スパゲティーモンスターかと…

26 21/07/04(日)01:00:30 No.819812283

ウンス怪文書が多すぎる…

27 21/07/04(日)01:04:47 No.819813930

>ウンス怪文書が多すぎる… これは方向性が違うくないかい!?

28 21/07/04(日)01:07:21 No.819814930

>「閉め切った部屋でもダメなんだ……空気が流れると、そこから……」 >「スカイさん……?あの、言ってる意味が──」 >「あ……やだ…………風が…………イヤだああぁああああぁぁーーーー!!!!!!」 ティンダロスの猟犬みたいなのかな…風属性なのか

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