21/06/29(火)22:37:54 前回ま... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624973874177.png 21/06/29(火)22:37:54 No.818436438
前回までです sp92251.txt
1 21/06/29(火)22:38:48 No.818436793
最後方を走る友の姿が見える。 「シンボリルドルフッ!!がんばれっ!!!」 かりそめの名で声援を送る。 その瞬間─皇帝の身体は地に沈んだ。 『さ、最後方シンボリルドルフ…転倒ッ!!これは大丈夫かっ!?』 どしゃり、と鈍い音を立てて、シンボリルドルフ─ハルウララが前のめりに芝へ転倒する。呻くような声が僅かに漏れた。
2 21/06/29(火)22:39:06 No.818436896
来たな
3 21/06/29(火)22:39:08 No.818436905
「う…ウララああぁ!!!!!!」 ハルウララ─シンボリルドルフの意識が身体を動かす前に、無意識が脚を友の元へ駆け出させていた。観客席とコースを隔てる柵を乗り越え、全速力で駆け出す。 「おい!ウララくん!!」 「う、ウララちゃん!!」 テイエムオペラオーとライスシャワーの声が耳に届くよりも先に、シンボリルドルフの元へ辿り着いた。 「ウララ!ウララッ!!聞こえるか!?ウララッ…!!」 耳元で大声で呼びかける。最悪の結末を嫌でも想像する脳と戦いながら、必死に声を張り上げる 「ウララッ…ウララァッ!!」
4 21/06/29(火)22:40:04 No.818437275
ぴく、とシンボリルドルフの身体が動く。ぷるぷると震える手が芝を掴み、顔を上げた。 「あうう…るどるふちゃ…うぐぅ…」 鼻血と鼻水と涙をぽろぽろと流し、泥土と芝生がくっついた酷い顔でこちらを見た。 「ウララッ!だ、大丈夫か!?動いちゃ駄目だ!そのまま…」 「ウララ…こけちゃった…ううっ…いっちゃくとるねって…やくそくしたのにぃ…」 「何言ってるんだ…!ああ、とにかく意識はある…良かった…」 ハルウララの身体から力が抜ける。地面にへたり込むと、エアグルーヴとナリタブライアンが担架を持ってやってきた。 「会長…ウララは…!?」 「…意識はある。だが、あのスピードで転倒したんだ。油断出来ない。すぐに医務室に連れて行ってくれ。」 「分かりました。ブライアンも手伝え!」 「ああ、任せろ。」 そのまま2人の手によって担架に乗せられたまま、シンボリルドルフはコースをあとにした。
5 21/06/29(火)22:40:53 No.818437572
レースは終わったものの、今や観客の興味はシンボリルドルフの安否についてだった。ざわつく観客の中に一人、観戦用の紙コップを握りしめ、不安そうな目線でシンボリルドルフを見送るウマ娘─トウカイテイオーがいた。 「…カイチョー…そんな…嘘だよ…。」 ~〜〜 「軽く触診して見ましたが、幸い骨は折れてないみたいです。擦り傷と打撲が複数ありますが、そう大きい損傷ではありませんね。とはいえ、精密検査を受けてみないことには何とも…。」 医務室で応急処置を施した保健の先生が包帯を仕舞いながら付き添いのエアグルーヴにそう伝えると、エアグルーヴはほっと胸を撫でおろした。 「ふう…軽い怪我で済んだのが不幸中の幸いか…。」 「ウララいっつもこけるから、じょーずにこけるのなれてるんだよっ!」 余り誇らしくない自慢に苦笑すると、保健の先生が話が続ける。 「まあ一番はまだトップスピードに乗ってない状態だったことね。もしこれがラストスパート中だったら…ちょっと想像したくないわね。そういう意味でも運が良かったわ。」
6 21/06/29(火)22:41:45 No.818437892
ナリタブライアンが適当なパイプ椅子に座ると、シンボリルドルフの方に向き直した。 「まったく…レース中にこけるなんてな。しかし、まぁ…大きな怪我がなくてよかったな。」 「う~ん、そのことなんだけどね…ウララがいっくぞーってちからいっぱいふみだしたら、あしがずるーってすべっちゃったんだぁ…」 「はあ…?今日のレース場は良バ場、特にぬかるみなんて無かったぞ。」 「ううん、ぬかるみじゃなくて…くつがすぽーんってぬげちゃったの。」 「…なんだと?」 ふと見れば、シンボリルドルフの足元には靴が無く裸足の状態であった。 ウマ娘の勝負服はその性質上、身体に合わせた作りであり、特に靴は最も負荷がかかるアクセサリである。そのため、その美麗な外見とは裏腹に誤って靴が外れたり、スパートの踏み込みで壊れない用に極めて強固に作製されている。少なくとも今のシンボリルドルフのスパート程度では間違っても外れる訳がないのだ。”そのような仕掛け”が無い限り。
7 21/06/29(火)22:42:35 No.818438196
「…まさか。」 ナリタブライアンが駆け出し医務室を出ていく。目指した先は先程までシンボリルドルフが走っていたレース場であった。パドックに通じる道を抜け、転倒した場所まで向かう。そこには、先程の騒ぎに取り残された出走ウマ娘たちが残っていた。 「靴は…おい、お前たち!会長の靴を見なかったか!?」 周りを見渡し呼び掛けるも、ウマ娘達は首を横に振る。足から脱げ落ちた靴はまだ残っているはずだった。それにも関わらずいつの間にか消えている。いよいよナリタブライアンの中に抱える疑惑は確信に移り変わっていく。 「チッ…私たちも舐められたもんだな。絶対に見つけ出してやる…!」 と、ふとナリタブライアンの思考が止まる。 「…待てよ。会長の靴はトレーナーが待合室に持ってきて、履いて出ていったのは…レース直前のはずだ。となれば、靴に仕掛けを施す隙なんて無かったはず…いや…。」 レース前まで記憶を遡上すると、ある一人のウマ娘─わざわざレース直前に待合室までやってきて、わざとらしくサインをねだったウマ娘を思い出した。レース前にシンボリルドルフの靴に接触できるウマ娘は彼女の他に存在しなかった。
8 21/06/29(火)22:43:09 No.818438410
「あいつか…!この落とし前はきっちりつけてもらうぞ…!!」 両手がわなわなと震える。一歩間違えれば命に関わる悪意の罠を仕掛けた犯人を逃がすわけにはいかなかった。ナリタブライアンは握りしめた拳のままに走り出した。 ~~~ シンボリルドルフが簡易ベッドに寝ころぶ医務室にノックの音が響く。エアグルーヴが扉を開けると、そこにはハルウララがいた。 「ウララッ…大丈夫か!?」 泣きそうな目でシンボリルドルフのベッドへ駆け寄る。よく見れば目元が少し腫れていて、頬には薄い涙の跡が残っていた。 「うんっ!ほねはおれてないって!たくさんばんそーこーはってもらったけど…えへへ…」 「…そうか…。よかった…本当に…。」 ようやく顔に安堵が戻る。ほっと胸を撫でおろしていると、その後ろからナリタブライアンの声が響いた。 「…会長。安心しているところ悪いが…これは思ったよりでかい事件かもしれない。」 ブライアンの目に宿る尋常ではない怒りの焔を感じ取ったのか、エアグルーヴの耳が跳ねる。
9 21/06/29(火)22:43:59 No.818438674
「ブライアン、どこに行って…いや、それより今の『事件』とは…」 「証拠はない。しかし、考えれば考えるほどそうとしか思えない。」 そうして、ナリタブライアンはエアグルーヴとハルウララ、そしてシンボリルドルフに自分の考え─何者かによってシンボリルドルフの靴に仕掛けが施され、それによって意図的に転倒を引き起こされたのではないか、そしてそれが可能だったのは待合室に来たあの地方のウマ娘だったのではないか─を話した。 「…まさか、このトレセン学園でそんな事を…。」 「フン。こんな屈辱を受けたのは初めてだ。よりによって会長…ウララを狙うとはな。顔は私が見ている。これから直ぐに会場を探してくる。こんな卑怯なことをする奴らの事だ、いつ逃げ出していてもおかしくない。」 ドスのきいた声のナリタブライアンと、動揺するエアグルーヴ。突如学園に現れた鋭利な”悪意”に心を乱されているようだった。 しかし、その2人の心を鎮めたのは─やはり”皇帝”であった
10 21/06/29(火)22:44:23 No.818438819
「…ブライアン。私も行こう。学園中を探し回るのなら人手は多い方がいい。ただし、他の生徒会員や一般の生徒には何も言わないように。無暗にパニックを起こしたくない。それと、エアグルーヴはここでウララと待機だ。また犯人がウララを襲わないとも限らないからな。」 「…分かった。行くぞ。」 「…了解しました、会長。ウララの事は私にお任せください。」 ナリタブライアンとハルウララが共に医務室を出ていくと、エアグルーヴは扉に鍵をかける。そのままパイプ椅子に座り、シンボリルドルフの近くに寄り添った。 「…ウララ、災難だったが…会長とブライアンが犯人を探している。何、すぐ見つかるさ。」 たわいのない励まししか出てこなかったが、言わずに居られなかった。シンボリルドルフの顔は真っ青になり、口を固く結んでいた。 「そんな…あのこが…ウララのくつに…そんなのうそだよ…ううう…」 うずくまり、ベッドの毛布を頭から被る。天真爛漫で素直なシンボリルドルフが、恐らく人生で初めて真正面からぶつけられた”悪意”に対して抵抗を持っていなかったのは道理であった。
11 21/06/29(火)22:45:02 No.818439075
「ウララ…。」 エアグルーヴが為す術を無くしていると、コンコンとノック音が部屋に響いた。びくりと跳ね上がる心臓を抑えるように胸に手を当てながら振り向き、声を出した。 「…誰だ?今は会長の調子が芳しくない。」 「エアグルーヴ…ボクだよ、トウカイテイオー…。」 聴き慣れた、しかし暗い声を聞いて、僅かに警戒心を解く。 「テイオーか…。すまんが後にしてくれ。さっきも言ったが会長の調子が良くないんだ…。」 「そんなに悪いの…?まさか、もう…。」 「か、勘違いするな!多少擦り傷を負っているだけだ…ただ、その…とにかく今は駄目だ!」 扉の向こう側がしんと静まった。そうして少し時間が経つとまたトウカイテイオーの声がした。 「ボク…カイチョーがこけたの見て…カイチョーが心配で…何か出来ること無いかなって…」 「…そうか。なら一つ頼み事があるんだ。会長の待合室に置いてある鞄を持ってきてくれないか?私は今手が離せないんだ。」 相手はシンボリルドルフの勝負服まで手をかけてきた。私物にも何かしら仕込む可能性はあった。となれば、鞄を放置する訳にも行かず、かといってこの場を離れる訳にも行かなかった。
12 21/06/29(火)22:45:43 No.818439332
「これが会長の部屋の鍵だ。頼んだぞ。」 扉を僅かに開け、トウカイテイオーに鍵を手渡す。 「分かった、すぐ取ってくる!」 トウカイテイオーの足音が離れる音を聞きながら、エアグルーヴはふう、と一息ついた。 「…それにしても参ったな。これからどうする…。」 〜〜〜 パドックまで到る通路をトウカイテイオーが跳ねるように駆け抜ける。似たような待合室の扉の前に差し込まれた名前を見ながら、シンボリルドルフの部屋を探していた。 「う〜ん…どこだろ…うゎっ!?」 中々見つからないままかけていくと、何かにぶつかる衝撃が走った。反動の勢いで後ろに転ぶ。 「いったっ…。」 「あ、ああっ…ご、ごめんなさい…!!」 見上げると、そこには紙袋を抱えた見知らぬウマ娘がいた。恐らくはトレセン学園の生徒ではないように見えた。
13 21/06/29(火)22:46:53 No.818439715
「あ、ボクの方こそごめんなさい…余所見して走ってたから…」 「え、えっと…わたしは大丈夫だから!じ、じゃあね!」 ウマ娘は酷く慌てたような様子で、そのまま駆け出して行ってしまった。 「…なんなの、あの子…?まあいいか、それより早くカイチョーの部屋を探さないと…」 再び駆け出して少しすると、シンボリルドルフの名前がついた扉を発見する。 鍵を差し込みドアノブを回すと、鉄製の分厚い扉が軋みながら開いた。 「カイチョーの鞄、鞄っと…。」 部屋を見渡すと、奥の方にそれらしきものを見つける。 「あれかな…?」 近づき、よく確認する。とはいえ、学園支給の鞄は見てくれは全て同じであり、特別にキーホルダーなどを付けていなければ見分けはつかなかった。 「…確認のためだし。ちょっとだけ中を見てもいいよね。うん。」 バックルを外し鞄を開ける。中には着替えとキーチェーン、それと筆箱などが入っていた。 「うん、これはカイチョーのやつだ。さっさと持って…ん…?なんだろう、これ…。」 鞄の奥に見慣れぬものを見つける。取り出すと、それはみっちりと中身が詰まった茶封筒だった。
14 21/06/29(火)22:47:27 No.818439913
「…これって。」 ポケットの中をまさぐり、写真を取り出す。突然下駄箱に入れられていた写真で、そこには見知らぬ人と封筒を手渡ししているシンボリルドルフが写っていた。 「…この封筒、だよね。写ってるの。」 写真から確認できるくらいの分厚さの茶封筒は、まさに目の前にあるものとそっくりだった。シンボリルドルフが受け取っているようにも見えるそれが、シンボリルドルフの鞄の中にあった。もはや同一のものであるのは決定的に思えた。 「中になにが…入ってるんだろ?」 あまりにもぎっしりと詰まった封筒は、中のものを取り出すのも一苦労だった。薄い紙のようなものの端をつまみ、どうにか引っ張り出した。
15 21/06/29(火)22:47:56 No.818440090
「とれたっ!…え、なに、これ。」 封筒から出てきた紙─それは紙幣だった。しかも、最も桁の多い、1万の札だった。 「これって…もしかして…お金?なんで?カイチョーがなんでお金を受け取ってるの?」 不穏な予感がトウカイテイオーの背後を這いずり上がるような気がした。思わず封筒と引っ張り出した紙幣を鞄に突っ込んで閉めてしまった。 「………。」 ふるふると頭を振ったトウカイテイオーは、そのままシンボリルドルフの待合室を後にした。
16 <a href="mailto:s">21/06/29(火)22:48:13</a> [s] No.818440213
次回に続く
17 21/06/29(火)22:49:28 No.818440688
次回はいつ頃?
18 <a href="mailto:s">21/06/29(火)22:53:08</a> [s] No.818442120
>次回はいつ頃? 今週の金曜か土曜の夜辺りになりそうです