21/06/29(火)22:01:12 ――「残... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624971672560.png 21/06/29(火)22:01:12 No.818422289
――「残り400mに差し掛かるところ!セイウンスカイが先頭だ!しかし後続も来ています!」 アナウンスがそう告げると、会場のボルテージは一気に上がる。それもそのはず、1年の休養を経た6番人気のウマ娘が未だに直線を張っているからだ。だが、会場の誰しもはこう思うだろう。 「逃げ切れるわけがない。そろそろ失速するだろう。」と。 ただ私にはまだ分かる。足はまだ残している。後ろからの猛追だってものともせずに走り切れる。そのためにスローペースで走っているんだ。私は、絶対に負けられない。 ――「残り300mを切りました!セイウンスカイが粘っています!後方から一気にテイエムオペラオー!」 …覇王だかなんだか知らないけどさ。私にだって黄金世代のプライドはあるんだ。そう思って足をもう一度踏み込み、加速する。風を切る音しか耳に入ってこないほどの集中で、200m先のゴール版を目指す。時たま入るぐしゅりという雑音に耐えながら、歯を食いしばって足を前に出す。
1 21/06/29(火)22:01:25 No.818422376
――「残り100m!テイエムオペラオー届かないか!」 アナウンサーの声で現実に引き戻される。オペラオーは後方1バ身離れたところまで上がってきていたが、私の足にはついてこれていない様子だった。勝てる、そう思ってさらに足を前に出す。それがいけなかった。出した途端、先ほどまで感じていたぐしゅりという雑音が現実となって足に襲い掛かる。ぐちゅ、という鈍い肉の音が足の神経を渡って脳へ届き、情報を処理する。そりゃ普段しない走り方をしたらこうもなるよね、という冷静な意識とは裏腹に残酷にも体は前へと向く。 ――「1着はセイウンスカイ!怪我からの休養明けで見事春の栄光を手にしました!2着は惜しくも届かずオペラオー!」 そんなアナウンスに観客の感情はマックスを迎える。耳をつんざくほどのどっとした歓声が広がったのと同時に、私はその場に倒れ伏した。最後に視界に映ったのは、観客席を超えてこちらに走ってくるトレーナーさんと、一緒に走っていた面々。薄れる意識の中、トレーナーさんの「スカイ!」という声に不思議と安心してしまい、そのまま意識を手放した。
2 21/06/29(火)22:01:38 No.818422466
目が覚めると見知らぬ天井が迎えてくれた。傍には隈をびっしりと作ったトレーナーさんと、天井に吊られた私の足。左のテーブルには見舞い品らしきものがある程度並んでいた。動くようなそぶりを見せると、トレーナーさんがぴくりと動いてこちらを見る。 「…スカイ!…良かった…ちょっと待っててくれ、医者さん呼んでくる」 そういって、私の手を優しく握った後急いで病室を出た。すぐに駆けつけてきた医師がバイタルチェックを行い、それが終わるとバインダーに書き留めていく。医師の顔は私の怪我の深刻さを物語っているようで、病状などは聞き逃してしまった。 「…ともかく、これ以上のレース出走は無理でしょう。残念ではありますが、この様子でしたらすぐにでも快方に向かうかと思われます。」 「…そう、ですか。」
3 21/06/29(火)22:01:48 No.818422517
病院の椅子に力なく座り込むトレーナーさんが、酷く悲しそうな姿に見えた。普段あれだけ私に振り回されても尚向き合ってくれていた、あの頃の顔ではなくなっていた。 「それでは私どもはこれで。」 そういって医師は去っていく。看護師の人たちが色々と処置を施したのち、トレーナーさんと私を置いて病室を出た。 「…すまない、スカイ。怪我の状態を見誤っていた俺のせいだ。」 そういって力なく頭を垂れる。そうじゃない、私が無理に出走したからだ、と言い返そうにも言葉が詰まり話すことが出来ない。 「この怪我の責任は必ず取る。だから今は、ゆっくり休んでてくれ。」 そういって、私の目をじっと見つめてから病室を出る。一人になった私は、その言葉の意味をゆっくりと模索するしかなかった。
4 21/06/29(火)22:01:58 No.818422583
病院を退院する日になり、トレーナーさんが持っている車椅子にゆっくりと腰掛ける。様々な手続きを終えたのち、トレーナーさんがそれを押しながらゆっくりとトレセン学園まで戻っていく。 「…奇麗だろう、スカイ。桜も紅葉も散っちゃったけど、冬の空にしては晴れている。」 「…そうですね、トレーナーさん。」 そういった会話がぽつぽつと続く。トレーナーさんは終始私の足を見ては苦そうな顔をし、涙を絞るように抑え込む。 「…スカイ。何かやりたいこととかはあるか。」 トレーナーさんが何度目かの会話の時にそういった。何かやりたいこと…ウマ娘として、走れないというのは拷問に近い。本能を一つ封じ込まれるようなものだからだ。だから入院中は、ほとんど何もやりたいとは思えてなかった。…それが訪れるまでは。
5 21/06/29(火)22:02:10 No.818422651
「そうですね~…トレーナーさんと一緒なら、どこでも?なんてね☆」 いつものように、しかしながら力なく返す。こうしているときだけ、怪我をしているということを忘れてしまう。昔に戻りたい、なんて言っても時間は不可逆。出来た傷は二度と癒えることはない。 「…スカイが、それでいいなら。」 そういって、車いすを止める。なんだろう、という鈍い思考が神経を走るも、その後に何が起こるかは予想もしていなかった。 「…俺と、結婚しよう。スカイ。」 そういって出されたのは、煌びやかに光る小さな宝石と、リング状の鉄製品。俗にいう、婚約指輪だ。宝石は私の目と同じ青色で、なんだか不思議な気分に浸る。そういう鈍い思考は、そのあとにやってきた煩わしい気持ちにかき消された。
6 21/06/29(火)22:02:21 No.818422711
「…いい、んですか。」 どうしても、はいと素直に言えない。それもそのはず、怪我のせいでトレーナーさんはひどく落ち込んでいたし、心に傷が出来てしまっていたはず。私のせいで、トレーナーさんの人生を縛ってしまったかもしれないから。だから、どうしても素直に頷くことはできなかった。 「…もちろんだ。この怪我を利用してしまっている、と言われるのは心外だが、君を愛している気持ちは以前からずっと変わらないよ。」 その真っすぐな気持ちに、私の心の氷は解け、封印は破られていく。ぱちん、ぱちん。空に羽ばたけるのではないか、という爽やかな気持ちが心を支配する。 「…うれしい、です。こんな私でよければ、是非…!」 目から大粒の涙がこぼれる。これまでの出来事が走マ灯のように蘇り、私の古傷を埋めていく。涙をぬぐった彼の手が、私の左手を優しく掬い上げる。
7 21/06/29(火)22:02:34 No.818422785
「…やはり、ぴったりだ。良かった。」 左手に輝く私の勲章は、冬晴れの空に溶けていく。風が頬を撫で、彼の唇が近づいてくる。精一杯、気持ちを込めて、口を伸ばす。二人の時間は、ああ永遠に続いていく。残酷にも訪れた悲劇は、喜劇へと変わっていった。 「トレーナーさん、これあの子たちの資料ね。今年もいい子いっぱいいるよ~、指導しがいがありそう」 「お前はサボりの指導しかしないだろ。ありがとう、あとで目を通しておくよ。」 そういってトレーナーさんは資料をまとめたバインダーを机に置く。私にソファに座るように指示して、私はそれに従う。足を出してくれ、と言っていつもの検診が始まる。 「…よし、異常はないな。痛いところはないか?」 「も~、大丈夫だってば。毎日のように点検してるからどこも痛くありませーん」 飄々と、そしてけらけらと笑いを飛ばす。そうか、という言葉と共にいそいそと足を戻し、私に手を指し出す。きらりと光るその指輪が、私たちのつながりを示す。 「…愛してるよ、スカイ。」 「…私も、です。にゃはは」 紆余曲折ありましたが、私たちは幸せです。
8 <a href="mailto:s おわり">21/06/29(火)22:02:57</a> [s おわり] No.818422935
負け負けセイちゃんもいいですが王道セイちゃんもいいと思います
9 21/06/29(火)22:11:02 No.818425974
よい……………………
10 21/06/29(火)22:15:34 No.818427823
またこいつら結婚してる…
11 21/06/29(火)22:19:47 No.818429487
この後オペラオーが世紀末覇王になるけど 「ボクは常に挑戦者さ…碧天が超えられなくてね」とか言い出すシナリオはまだですか
12 21/06/29(火)22:34:51 No.818435325
>この後オペラオーが世紀末覇王になるけど >「ボクは常に挑戦者さ…碧天が超えられなくてね」とか言い出すシナリオはまだですか お 書