21/06/27(日)18:35:10 「────... のスレッド詳細
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21/06/27(日)18:35:10 No.817656873
「────レーナーさぁん!!目を────さいよ────」 聴き慣れたやかましい声が、耳を貫く。これっぱかしも可愛くない、半ば奇声や怪鳥音のような悲鳴が、目を開く元気を失ったこちらの脳を、揺さぶり続ける。 学園近くの交差点で、信号待ちをしていたのが最後の記憶だ。けたたましいクラクションの音と、街中だというのに点けっぱなしのハイビームの眩しい光が眼前を包んで、そこで記憶が途絶えている。 多分なんかの事故だろう。自分以外に、被害は出てないだろうか。 耳をつんざくうるさい声の持ち主が、その場にいなかったのが今は嬉しい。 看取らせる事になってしまったのは残念だが、今の彼女なら、それも受け止められるだけの強さがあるだろうか。 薄まる意識の中、最後に残った感触。なんだかすっかり慣れたものになった彼女の手の暖かさだけが残って────俺は、眠りについた。
1 21/06/27(日)18:35:27 No.817656995
どたどたと、騒がしい足音がこちらに向かって来るのが聞こえる。 微かに聞こえる話し声の先は、同級生のスズカだろうか。これ程までによく聞こえるのは、なかなか不思議な体験だ。 よく聞けば、ちりんちりんと小さな鈴の音も聞こえるし、擦れる紙の音からして、紙袋を持っているのも分かる。 そんな声と足音の持ち主が、移動したてのこの個室の前に止まって────扉を開いたと、思ったら。 「トレーナーさん!!目を覚ましたと聞いて────て、て、でぅいやあ゙────!!」 こちらの顔を見るなり、聴き慣れた怪鳥音を出して、尻餅をついた。 「何してるのフクキタル、静かに────えっ、あれ……?」 そんな彼女の背後から現れた、緑の耳覆いもまた、困惑を隠せない表情。 パクパクと金魚よろしく口を開閉させたフクと、やや呆然としたスズカの目線の先。 俺は、鹿毛の長髪が麗しい、ウマ娘になっていた。
2 21/06/27(日)18:35:44 No.817657104
「な、なあフク。とりあえず騒がしいから部屋に入って戸を締めよう」 ひとまずベッド上から宥めるように声をかけると、ゆっくりと腰を起こし、床に落とした紙袋を拾いながらこちらに歩を進める。 ちらりと見えた紙袋の中には、何やら怪しげな紙束やお守りが見え隠れ。彼女らしいといえばらしいが、つい、 「おいフク、お前今度は何持ってきた」 と、口を突いてしまう。 すると、ハッとした表情をした彼女が珍しく、 「さすがに病人に快癒祈願をするくらいは問題ないですよね!?」 と言い返した後、きょとんとした表情を経て、へにゃりと、僅かに涙を滲ませながら笑って。 ぐにゃぐにゃな声で、ぽつりぽつりと語り出す。
3 21/06/27(日)18:36:05 No.817657258
「……ああ、たった一言なのに、それで分かっちゃうのも不思議なものですね、トレーナーさん」 「なんか懐かしい気分だ」 わんわんと泣き出すのを堪えながら涙を流す彼女を受け止める為に、両の手を広げると、紙袋をその場に放り出しながら、小走りでこちらに飛び込んでくる。 癖のある栗毛が胸元に飛び込み、以前には存在しなかった胸の膨らみを、病衣越しに潰していく。 そんな、僅かに耽美さも感じる光景を眺めながらぼんやりと紙袋を抱えていたスズカが、ベッドの足先側に歩んで来て。 「────不思議ですね」 そう、一言だけ。たった一言、呟く。 「……まあ、不思議だな」 「いえ、なんだか……見た時から、胸騒ぎというか、なんというか」
4 21/06/27(日)18:36:24 No.817657399
そう言うスズカの目は、どこか冷ややかで、それはまるで、ターフの上で見た時のよう。 フクをコースに送り出した際に見かけたのと同じ、勝負をするような目。冷たいのに熱い、火のついた目。 「……退院したら、走りませんか?」 「ちょっ、何言ってるんですかスズカさん!?」 胸元に沈んでいた栗毛の頭が、がばりと起き上がって、こちらの代わりにスズカに反論する。 当然といえば当然だ。病み上がりの、元人間の、トレーナーが、現役レーサーにいきなりそんな事を言われたのだから。 しかし、スズカはまるで譲らぬ態度で。 「フクキタルも、実は走りたいんでしょう」 「は!?」 「ちょっと笑ってる」 「それは、トレーナーさんが元気だったからで────」 「フクキタルのトレーナーさんも」
5 21/06/27(日)18:36:41 No.817657508
はたと、口元に手を当てた。 歪な笑み。口角がひどく吊り上がり、犬歯を剥き出すような笑みが、顔を支配している事に気付く。 笑っていた。現役最速クラスのレーサーに、勝負を挑まれて────笑っていた。 思えば、彼女たちが部屋に入ってきた時から、俺は”何かを言いたがっていた”気がする。 その”何か”が、今、分かった気がして。 「────2人まとめてかかってこいよ」 「とっ、トレーナーさん!?」 「ふふっ、嬉しい」 心にもない、心からの叫び。 「……逃げ切りたい気分だ」 そんな、不思議なことを、口にしてしまった。
6 <a href="mailto:s">21/06/27(日)18:37:44</a> [s] No.817657929
売られた喧嘩は買っちゃうタイプだし宣言通りにやっちゃうタイプ
7 21/06/27(日)18:42:45 No.817659783
ウマソウル宿すと闘争心が跳ね上がるのか
8 21/06/27(日)18:43:21 No.817659976
97年日本ダービー来たな…
9 21/06/27(日)18:46:03 No.817660907
>皐月賞以降、大西は「逃げ宣言」を繰り返していた。もし仮に、同じく出走している逃げ馬のサイレンススズカが逃げていれば、同馬がハイペースで飛ばし、これに巻き込まれてしまうことが濃厚だったが、「もし先手を奪いに行っても、サニーブライアンは絶対に退かない。それでは共倒れになると思った。」とレース後にサイレンススズカに騎乗していた上村洋行が答えたように、他馬が逃げを控えたことで、レースではスタートから先頭に立ち、ややスローペースの単騎逃げの体勢を作ることに成功した。
10 21/06/27(日)18:49:00 No.817662006
振り回す方のフクが正気になるレベルの先頭狂が揃ってしまってる…
11 21/06/27(日)19:27:04 No.817677987
偶然と謳われた実力者来たな…