虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/06/26(土)21:51:59 No.817322346

    (前回までのあらすじ:突如として女神像を入り口としたワームホールから出現したマスク・ド・七冠バを名乗る謎のウマ娘により、多次元ウマ娘バースから集められた速さに憑りつかれたダークウマ娘がトレセン学園を襲う。トレーナー達の魂を吸収し強大な力を持ったダークウマ娘に徐々にスピード因子を奪われていくトレセン学園のウマ娘たち。そんな中、ハルウララの前にダークキングヘイローが襲来、走るためのキラキラを賭けたレースは否応なく開かれ、ついに大きく差が付けられたまま終盤へと突入した!) ダークキングヘイロー、正しくはウマ娘アース333から連れてこられたキングヘイローは幼いころから上っ面だけのウマ娘だと自身を認識していた。上っ面だけの愛情を注ぐ母親、上っ面だけ仲良くしてくる友人、そして上っ面だけですぐに底が見える自身の才能。

    1 21/06/26(土)21:52:35 No.817322634

    トレセン学園はまさに天才ひしめく魔窟、そんなところに入学できたのは母の七光りがあったからであり、そんな自分が入ってもすぐに母のイメージだけで固められたメッキは剥がれていくのは予想できたことだった。 貴方は頑張ったわよと上っ面だけで電話越しに興味の無さを隠そうともしない母親、次は勝てるよと上っ面だけで自分がいない所では陰口で盛り上がる友人、そして自分はこんなものか、と諦め慣れて上っ面だけ母の威厳を飾った自分。 そんな時だった、マスク・ド・七冠バがキングヘイローの前に現れたのは。 「(諦めなさい…!)」 昼とも夜ともつかぬ黄昏の日と地面ごと空中に浮かんでいる異次元レース場で、ダークキングは大逃げの形で第四コーナーを抜けた。五バ身離れてウララも続く。 ダークキングはこの体になって多くの時空のウマ娘のスピード因子を奪う中で逃げの走り方を好むようになっていた、決して近づけない遠い背中、それに諦めてスピードを落とし敗北するウマ娘たちを見るのが好きだった。

    2 21/06/26(土)21:53:01 No.817322855

    「(ここまでねウララさん、貴方は情報によればこのアースのトレセン学園の中では最も低い実力といっていい娘…追い付けはしない。さぁ、縮まらない距離に、速さに、絶望しなさい! 涙を浮かべ、息も絶えた、諦めの表情を私に見せなさい!)」 マスク・ド・七冠バによって増幅された負の心がダークキングの頭をいびつに支配していき、想像通りのウララの顔を見るために大きく減速をしようとも先頭のウマ娘は体を大きく逸らして後ろを見た。 「えっ…?」 そしてハルウララの顔を見た。開いた目に輝く眼、引き締まった顔に食いしばる歯、ダークキングの背中を必死に追いかける泥だらけの脚、しかし時々耐え切れないようにほころんで笑顔を見せている。 「どっ、どうしてっ…!? どうして、諦めていないの!? 貴方の実力じゃ此処から逆転なんて無理に決まっているのに…! やせ我慢? そう、やせ我慢ね! 諦めなければ勝てる、奇跡が起こるなんてそう思っているのでしょう! そんなもの、ありっこないのに!」

    3 21/06/26(土)21:53:43 No.817323263

    もうすでに直線に入っている、残り2ハロン、このままさらに差を付けて大差で絶望の淵に叩きこんであげる。体を揺るがす動揺を抑え込み、前を向いてダークキングは足にさらに力を籠めた。 しかし、あり得ない音が彼女の耳に入ってきて、彼女の心臓はさらに高鳴り、走っているというのに背筋が凍っていく。足音、足音だ、誰の? 考えなくても分かる、コースには二人しか走っていない、だがそんなのあり得ない…! だが、視線を後ろにやってみれば…。 「こ、こんなこと…!?」 「はぁ…っ!はぁ…っ!」 すぐ後ろに彼女、ハルウララがいる。五バ身の差はすでに二バ身、一バ身と縮んで彼女の荒い息がもう聞こえる距離までになって、大きくなってくる背中を見つめてきている。 「(どっ、どうして…!? どうして、此処まで…なぜ差が縮んでいるの!? ありえない、スピード因子をもった私に…追い付けっこないはずなのに…!?)」

    4 21/06/26(土)21:54:13 No.817323525

    残り200でついにハルウララは抜け出しにかかるようにダークキングのすぐ斜め左後ろへと飛び出した。差しウマとはいえ、追い付くためにかなりのスタミナの消費をしているのだろう、もはや息は荒く目も焦点が合わさってないように見える。しかしながらその足だけは前に前にとさらに回転を上げて、芝を抉り、土を後ろまで跳ね飛ばす。 「(もう、もう限界でしょうあなた! 私を抜くほどのスタミナはもうないはず! こんなに頑張ったって無駄なのよ、諦めなさい、諦めなさい! 諦めてよ!)」 「(諦めないよ!)」 ダークキングの心の中にハルウララの声が聞こえてきて、ふとすれば上も下も星の光が満天に広がる空間に二人はいた。このねじれた時空におけるウマソウルの共鳴反応がそうさせたのだ。同時に彼女たちの色んな思いが相互に伝わっていき、一瞬が何秒にも引き伸ばして感じられていく。 「なんで…そこまで…あなたは走るの…」通じ合った心の中でダークキングの震えた声が響いた。 「だって勝ちたいんだもん!」 「勝ちたい…それだけ?」

    5 21/06/26(土)21:54:41 No.817323733

    「うん! だって勝ったらトレーナーもみんなも喜んでくれるし、キングちゃんだって喜んでくれるもん! でも、それ以上にぶるぶるーって体が震えてどっかーん爆発しそうなくらい嬉しいの! だから走るんだ!」 「そんなことだけで…」 「キングちゃんはそうじゃないの?」 「私は…」 どこかに忘れようとしてしまい込んでいた、懐かしい気持ちがハルウララの太陽のように煌めく心と共に引き出されていく。いつからだろうか、勝てなくてもいいやと諦めたのは、相手が悔しがる顔だけしか頭になくなったのは。 「あぁぁーー!」 ダークキングの絶叫が二人の心を現実世界へと戻す。ついにウララは三秒以内にゴールへとたどり着く距離でキングに並んだ。ウマ娘の決着は一秒以内、さらに0.1秒以下での判定さえも珍しくない、三秒という数字は並んだウマ娘にとってはまだまだ絶望には程遠い時間だ。

    6 21/06/26(土)21:54:50 No.817323835

    ウマ娘バースしてる…

    7 21/06/26(土)21:55:13 No.817324060

    「わああああー!」 ハルウララも最後の息を絶叫に変えて地面を蹴る。前へ、前へ、ハルウララの頭の中にはもう勝利しか頭になかった。 対するダークキングはまた負けたくないという心がそこにあった。 そのわずかな心の違いが、ゴールを通り過ぎる最後の一秒で姿勢にも違いをもたらした。 写真判定も必要ない、天が決めた順位が空に浮かぶ掲示板に表示され、転がりながら倒れた二人の目に入った。同時にダークキングの胸がガラスのようにひび割れて、そこから蛍の光のように儚いスピード因子が空に浮かび四方に散らばった。 同時に光の粒が彼女の隣に集まり、こちらの世界のキングヘイローのトレーナーの姿が出来上がっていく。ダークキングの敗北により、トレーナーが解放されたのだ。 「私の…負けね…」

    8 21/06/26(土)21:55:42 No.817324307

    ダークキングが疲れ果てて動けなくなっているウララの姿を見て、呟き、自分を見下ろしているトレーナーを見上げた。 「最後の最後に…また、私は諦めてしまった…私はどうしようもない、ただの上っ面だけのウマ娘ね…貴方を取り込んでいた時に、貴方の記憶を見たの…私とは全然違う私を…私もあんなに強かったら…」 「違う!」 キングトレーナーの声が言葉を遮って、ダークキングは少しだけ驚いたように彼を見た。 「君だって立派にキングヘイローだ。俺だって君の記憶を見た、君は無駄だと思いながらも練習をしてレースに出ていた。何度も、何度も、諦めきれなかったんだろ、諦めたくなかったんだろ? 次こそは、もしかしたらって…世界でたった一人だと感じながら…それはキングなんだよ、俺が知っている一流のキングなんだ!」 ぽつんとキングの頬を涙が濡らした。キングのものじゃなく、それはトレーナーの涙だった。 「ごめんよ…向こうの俺は何をやっているんだ…君を一人にするなんて…」 「なんで貴方が泣くのよ…おバカ…」

    9 21/06/26(土)21:57:04 No.817324903

    そっとキングがトレーナーの涙を拭うと、その手の先から塵となって体が消えうせていく。スピード因子無き敗者はこの世界にとどまることは許されない。 「キング…!」 「大丈夫、帰るだけよ…元の世界に帰るだけ…死ぬわけじゃないわ…すべて元に戻るだけ…ウララさんに伝えてくれる…ありがとうって」 「もちろんだ、絶対伝えるよ」 「感謝するわ…貴方がトレーナーなら私もあぁならなかったのかしら…」 「今だって遅くないさ。あっちに帰ったら探して、いや必ず君を見つけようとしている俺がいる! 何故なら俺たちはどんな世界でも一流のパートナーなんだから!」 「ふふ、なによそれ。うれしい…」

    10 21/06/26(土)21:57:21 No.817325047

    最後に美しく微笑みながら、別世界のキングヘイローは全て塵となって風に包まれどこかへと去っていった。違う世界に来て初めて生まれてきてよかった、なんて思うなんて笑っちゃう、そう安らぎと共に思いながら。 トレーナーはそれを見送ると、ハルウララを背中に乗せて他の皆がまつ場所へと歩いて行った。もう涙は流さなかった、一流のトレーナーはいつまでもうじうじと泣かないのだ。 (諦めの諦め#3終、天変地異#1へとつづく)

    11 21/06/26(土)21:58:02 [s] No.817325373

    最初は緩い感じで行こうとしたのに幻覚剤のせいで…

    12 21/06/26(土)22:00:59 No.817326901

    劇場版ウマ娘プリティーダービー来たな…

    13 21/06/26(土)22:04:23 No.817328686

    諦めたキングと諦めないウララの対比はいいよね…