21/06/26(土)00:23:51 風は強... のスレッド詳細
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21/06/26(土)00:23:51 No.817024081
風は強く、見上げた空に浮かぶちぎれ雲ははっきりと分かる速度で進んでいく。 目で追っていくと流れる雲はそのまま果てなく広がる青い海に出て、遠く小さくなった。 「おお~……」 煽られる髪を抑えながらネイチャは感嘆の声を漏らしそれを見送る。 「いや~なんて爽やかな。いろんな悩みも消えてくみたいにスカッとするじゃん?」 同意を求めるように振られて、トレーナーも笑顔で頷く。 「ホントだな。仕事の疲れも全部遠くに運んで行ってくれそうだ」 背の低い草で覆われた岬の先端に並んで立つ二人を越えて、いくつもの雲が海原へ消えていく。 「うん、来てよかった」 「楽しんでもらえてるなら。何よりだよ」 「大がかりな旅行もいいけど、アタシにはこれくらいが性に合うかな」 そう言って振り返る先には、ここまで乗ってきた観光バスが小さく見えた。
1 21/06/26(土)00:24:05 No.817024167
なかなかまとまった休暇が作れない二人が選んだ日帰り旅行。 それは利用客の激減に悩むバス会社が企画した、海沿いを走りつつ各岬に停車するツアーだった。 近場かつささやかなプランだが意外と利用客は多く、今も二人の周囲には家族連れや老夫婦、 中年主婦のグループ等が景色を眺めたり写真を撮ったりしている。 その賑やかさと初夏の鮮やかな情景と相まって、旅行気分はしっかりと感じられるのだった。 「皆さん、そろそろ移動しまーす!バスまでお戻りくださーい!!」 バスガイドのお姉さんの声が風に乗って届く。 「……ちょっと忙しなさがあるけどね」 肩をすくめおどけるネイチャにトレーナーは苦笑しつつ「そうかも」と頷く。 けども二人とも、足取り軽くバスまで戻るのであった。
2 21/06/26(土)00:24:20 No.817024249
「それにしても、ちょっと進んだだけで景色が変わるもんだねー海辺って」 いくつかの岬を渡った後でネイチャは感心したように言う。 実際、海のすぐそばまで山が伸びる日本の地形ではそれによって環境の隔たりが生まれやすい。 地質や地形がガラリと変わるため、赴く岬も実に様々で。 なだらかで展望台として整えられ商店もある岬も、砂利の目立つ手つかずの崖に花が咲き乱れる岬もあった。 そして今立つところは、一面ゴツゴツした岩石で成り立つ断崖絶壁である。 海面は遥か下で、覗き込もうとした子供が母親に叱られる声が先程から聞こえている。 「うひゃあ~!ホントにたっかい……」 ネイチャもトレーナーにしがみつきながら、岩壁にぶつかり白い泡に変わる波を覗き足をすくませる。 そのすぐ側を一人の青年が横切った。 「あ……」
3 21/06/26(土)00:24:35 No.817024335
同じバスのツアー客だとネイチャは気付く。 ただ一人同伴者もなく、一番後ろの席にポツンと座っていた人。 どの停車場所でもバスから降りもせずにいたので逆に印象強かったのだ。 その青年が初めて、こうして外に出てきた。その右手には花束が握られている。 青年はしばらく、水平線をジッと見つめていたが──大きく振りかぶり、花束を放り投げた。 僅かな時間だけ放物線を描いた花束は、やがて視界の届かない崖下へと消える。 きっと波に巻かれて花は散り散りに飲み込まれたことだろう。 ──青年はその場から動かない。 あの花束は誰のためのものなのか。青年は今、何に想いを馳せているのか。 そんなことは分かるはずもなかったが、 「……………………」 ネイチャも集合の呼び声がかかるまで、ずっと青年の背中を見つめるのだった。
4 21/06/26(土)00:24:50 No.817024402
夕刻になると、昼間の青さを全く残さずに海は茜色に染まる。 帰りのバスの中は、さすがに客それぞれ疲労が出たのか行きよりもずっと静かだった。 ネイチャとトレーナーも言葉少なに、追いかけてくる夕日を眺める。 「楽しかったな、今日は」 「うん……」 半ば独り言のようなトレーナーの呟きに、ネイチャは夕日に目をやったまま頷く。 「でも、ちょっと嫌かな……」 「え、何が……?」 「今日のことが、ただの思い出になっちゃうこと。二度と戻らない日になるのが──怖いかも」 昼間見た青年の背中をネイチャは思い起こす。 過ぎ去ったもの、取り戻せないものを断ち切ろうとしていたような姿を。
5 21/06/26(土)00:25:04 No.817024491
「分かってるんだけどね。いつか終わりがくるのは当たり前なんだし」 そう言って話題を終わらせようとしたネイチャの肩に、大きな手がそっと置かれる。 「また来よう。遠い記憶にならないように、くり返せばいい」 「来年もまた連れてってくれる?」 「そうじゃない。この先ずっとだよ」 「え……」 振り向いた先にあったトレーナーの顔が真っ赤に染まっているのは、夕陽に染まっているから。 けども、その微笑みが照れ笑いであることがネイチャにははっきり分かった。 「いいの?相手がアタシで……」 「俺もネイチャをただの思い出になんてしたくない」
6 21/06/26(土)00:25:23 No.817024594
しばらく見つめ合った後、ネイチャはふいと視線を外した。 「……なら、楽しみにさせてもらいますか」 「来年を?」 「ううん。──これからの未来を」 その顔は夕陽のせいだとごまかせない赤さで染まっていた。 バスはゆったりと走っていく。それぞれの『今日』を乗せながら。
7 21/06/26(土)00:25:39 No.817024679
曇らせればいいと思ってない?
8 <a href="mailto:s">21/06/26(土)00:26:10</a> [s] No.817024855
おしまい。ネイチャには昭和の歌謡曲がよく似合う…… https://www.youtube.com/watch?v=jaS6IZDUHJA
9 21/06/26(土)00:29:10 No.817025840
これは理想のスパダリトレーナー
10 21/06/26(土)00:31:13 No.817026540
いい…
11 21/06/26(土)00:34:25 No.817027616
うまく言葉にできないけど雰囲気が好き
12 21/06/26(土)00:45:46 No.817031206
素晴らしい雰囲気だ... 文章もすき
13 21/06/26(土)00:53:21 No.817033504
ここちよいしっとり感 まるでカントリーマアムの様だ
14 21/06/26(土)00:55:52 No.817034197
悲しみ深く胸に沈めたらこの旅終えて街に帰ろう 青年も立ち直れるといいね
15 <a href="mailto:s">21/06/26(土)01:00:23</a> [s] No.817035472
すみません、自分で言う事じゃないかもですが どなたか「」ッチーで怪文書タグ付加お願いします。 登録はできたけどホスト規制とかでタグ付けできない…
16 21/06/26(土)01:03:02 No.817036185
家族連れや熟年夫婦に混じって新婚夫婦みたいに見られてるんだろうな…学園へ帰ったら思いっきり冷やかされてほしい
17 <a href="mailto:s">21/06/26(土)01:04:40</a> [s] No.817036659
タグ付加してくれた方に感謝!そして感想レスにも。 元ネタの曲の雰囲気を少しでも文章に感じ取ってもらえたようでうれしい…
18 21/06/26(土)01:07:43 No.817037609
自分もなにか昭和歌謡ネイチャを書こうと思いましたがまず出てきたのが別れ歌と昭和枯れすすきでした…曇らせはいやだ…
19 21/06/26(土)01:16:35 No.817040195
>曇らせればいいと思ってない? どこに曇り要素が…?
20 21/06/26(土)01:19:19 No.817041063
>自分もなにか昭和歌謡ネイチャを書こうと思いましたが >まず出てきたのが別れ歌と昭和枯れすすきでした…曇らせはいやだ… この怪文書みたいに当事者は別にする形式にすれば!
21 21/06/26(土)01:27:19 No.817043310
よかった
22 21/06/26(土)01:27:33 No.817043371
>。 は怪文書以外でやめたほうがいいかも…