21/06/25(金)19:58:30 「じゃ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1624618710429.png 21/06/25(金)19:58:30 No.816902138
「じゃあ行ってきます」 「ああ、いつも通り実力を発揮すれば勝てるさ」 勝負服に身を包んだ彼女に地下道で激励を送る。 「えっと……」 「……レース場に警備員を手配してある。何かあればすぐ駆け付けてくれるさ」 会議の結果、というか理事長の鶴の一声で今後しばらくレース場の警備が強化されることになった。 今回はその後初めてのG1レースである。ここで不祥事を出せば学園の威信に関わるので警備員が無能を晒すこともないだろう。 歓声が上がる。灰色の魔法に魅せられた者たちが今日も夢を求めて沢山やってきている。 「あなたはあなたが勝つことを考えればいい」 「……わかってます」 その表情には決意がにじんでいた。これならきっと大丈夫だ。
1 21/06/25(金)19:59:11 No.816902399
地下道は薄暗く、また地上からの光が差し込んで眩しいことがある。 取り分け分かれ道は陰になり、死角になりやすい。 「──────うおああああっ!!!!」 声に反応して彼女の前に出る。セーターの禿未満が手に銀色を握って突進してくる。 3、2、1、距離をみて接触タイミングを測る。ナイフを構えた手をはじいて胴に一発。懲りずに飛んでくるのをいなして今度は顔。 右手を捕まえて極め、そのまま地面へもろともに押さえつける。 「クソが!放しやがれクソアマ!!」 極める力を強めてナイフを落とさせようとするが、手首を振り回して抵抗される。 「おい!何をやっている!!!」 ようやく警備員どもが駆けつけてきた。遅せぇよ。 そのまま3人に後を任せて、すっかり忘れてた彼女の方へと向かう。
2 21/06/25(金)19:59:39 No.816902589
「死ね!死にやがれクソビッチ!!!お前のせいでオグリちゃんが───」 「お前がオグリの名を語るなぁッ!」 びいん、と怒号が地下に共振する。 無能どもに気絶させられた禿が連行されていくのを確認してからパドックの方を振り返った。
3 21/06/25(金)19:59:59 No.816902708
彼女が、腰を抜かして倒れこんでいた。 「っ!大丈夫クリーク!怪我は!」 駆け寄って、無遠慮に震えている体をまさぐるが、特に外傷はないようだ。 だが一向に起き上がる気配はなく、その唇は真っ青でぶるぶると震えていた。 「あ……あっ……ああ……!」 ふるふると首を振りながら後ずさりする彼女は、どうしてかその視線を私の顔に向けていた。
4 21/06/25(金)20:00:58 No.816903075
無意識に手が顔を撫で、───ぬるり、と。 拭った手は、パドックからの光を受けてぬらぬらと妖しい紅を纏っていた。 ハンカチで手と頬をぬぐう。起き上がる助けをしようと彼女に手を差し出す。 「あ……あぁ……!」 「クリーク!?クリーク!──────」 けれどその鉄の匂いが残る手を見て、取るでもなくふらりと彼女は意識を手放してしまった。
5 21/06/25(金)20:01:53 No.816903428
救急に担ぎ込まれたクリークを置いて、件のレースはタマモクロスが制した。 オグリの2回目の敗着は世間に新たな双璧を予感させるものになったが、それは別の話。 頬に大きめの絆創膏を貼ったワタシは花束を片手に彼女の病室を訪れた。 入院しているのはケガではなく精神の療養の面が大きかった。 「クリーク?来たぞー……」 引き戸が滑らかに滑っていくまま入室すると、ぎこちなく彼女がこちらを振り返った。 白いリノリウムを踏むたびに、彼女の血色を欠いた顔がどんどん俯いていく。 「……ぅぅ」 苦しそうに胸を押さえる彼女が落ち着くまでそう時間はかからないだろうことをしばらくの入院生活で把握していた。
6 21/06/25(金)20:02:07 No.816903523
「……加減はどうだ?」 「問題……ありません……」 「そうか、退院は……いや、今はゆっくり休んでくれ」 会話もどこかぎこちない。今のワタシと彼女にはおそらく気持ちにズレがあるのだろう。 おおよそ検討はついているが、さて。 「あの……」 意を決したように彼女が口を開く。 その表情に機を見出し先手を打った。
7 21/06/25(金)20:02:18 No.816903583
「ワタシはあなたのトレーナーを降りるつもりはない」 「どうして……!」 「分かるよ。だってワタシたち」 パートナー、でしょ。と言うと、信じられないような、過去の発言に苦しむような、そんな様子になった。 どうせ優しいこの子のことだ。ワタシが傷ついたのを見て巻き込んだとでも思ったのだろう。 家族愛が強いから自分より身内が傷つけられる方が答えるタイプなんだ、きっと。 だから少しでも遠ざけて、今回みたいなことから離そうとしてくれているのだ。 不甲斐ないなぁ、指一本触れさせないなんて言って。 一番大事なものが傷つくのを、みすみす見逃してしまったんだから。
8 21/06/25(金)20:03:07 No.816903871
「ワタシはあなたの大事な物を守れなかった。ごめんなさい」 「ちがう……そんなじゃ……」 「だけど、もう一度だけ信じてほしい」 彼女の手を取り、目と目を合わせる。 「二度と、っ……二度とあなたをっ!、こんな目にっ……あっ、合わせないから……!」 「……っ、ああ……うああああっ……」 感極まって泣いてしまったワタシに釣られて彼女も泣きだしてしまった。 何事かと駆け付けた看護師さんには少し悪いことをしたかもしれない。 その後彼女が立ち直り、3強時代を築いたのはそのまた別の話。
9 <a href="mailto:女神">21/06/25(金)20:03:37</a> [女神] No.816904055
家族って時として枷よね
10 21/06/25(金)20:07:09 No.816905388
うーn……
11 21/06/25(金)20:40:13 No.816918806
立ち直れて良かった…