ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/06/24(木)16:10:15 No.816513049
六月二十四日。近所の動物園にUMA──所謂未確認生物がいると部長が宣ったのがその日だった。部とはいっても、我がオカルト部は実際学校の承認を受けていない同好会のようなものなのだが。 そうして件の動物園を毎日毎日二人で見張り、終いには閉園時間になっても立て篭もるようになり。めでたく部長共々出禁を食らったのが、夏休み最後の日のことだった。自分としては特に動物園に関心がないとはいえ、流石に罪悪感やらやるせなさやらが残る。もっとも部長に唆されて犯罪スレスレの行為をした自分が悪いのだが。 そして今日。夏休みの宿題はまっさらで、晴れて毎日の呼び出しは無くなった。なのに、自分はなんのやる気も起きずに寝転がっている。このまま夏休みは延長戦に突入してしまいそうだ。宿題だけが積み重なる休みのない夏休み。思えば動物園につきっきりで、何も夏休みらしいこともしていない。何の成果も得られていない。当然のようにUMAは見つからなかったし、来年は中学三年生でそれなりに忙しい。何でもできたのに、無駄で意味のない時間を過ごしてしまった。部長との夏休みは最後だと思えば、少しは貴重な時間だったかもしれないが。
1 21/06/24(木)16:10:33 No.816513109
そんな時、閃いた。閃いたというほど頭のいい発想ではないかもしれない。ただ動物園に比べれば怒られないと思ったし、馬鹿馬鹿しいけど夏らしくていい思い出になるんじゃないかと、たしかにその時は思ったのだ。 そうして今。夜の九時を回りそうな、夏休み最後の三時間。自分は夜の学校の、フェンスを登って超えた先にいる。なんのことはない。夜のプールで一人、泳いでやろうというだけだ。この町はそこまで人が住んでいる場所ではなく、故にその警備も大したものではない。フェンスを超える姿を捉える監視カメラなども存在しない。中学生一人が忍び込むのはわけもないことだった。電気は付いておらず、青黒い空に光る大三角形の明かりを頼りにプールのある建物へ向かう。彦星と織姫は七夕を超えてもずっと光っているんだから、ロマンチックでもなんでもないな、などとどうでもいいことを考える。 建物には案の定鍵がかかっていたが、プールは屋外だ。誰もいないのだから外で着替えても問題ないだろう。ロマンチックをひけらかす彦星と織姫をよそに、孤独な男の闘いが始まったのだ。
2 21/06/24(木)16:10:53 No.816513174
なんてこともなく、多少踏ん張ればプールサイドの金網を登るのは難しくはない。疲れるのは確かだが、謎の情熱が自分を奮い立たせていた。青春も運命的な出会いもなく、毎日毎日逢引きするのは部長だけ。最後の日にくらい、夏の陽気にあてられたようなことをしてもバチは当たらないだろう。恐る恐るプールサイドへ降り立つ。暗くて周りは見えたもんじゃない。これは危険だ、泳ぎ甲斐がある。乱雑に上だけを脱いで、プールに飛び込む。どぼん、と水の跳ねる音がして、冷たい温度が肌を包む。別に泳ぐのは得意ではないけれど、それでも夜のプールというのは気持ちが高揚する。さあここは自分の独壇場、そう意気込み顔を水につけようとした時だった。 水面に影が映っていた。自分のものとは違う、影が。近づいてくる、影が。目を擦り、見間違いではないと確認する。誰か別の人間がいるのか?いやいやそんなわけはない。そんな常識を再認識するために俺は顔を上げて、 「あっ」 硬直した。
3 21/06/24(木)16:11:09 No.816513222
そこには確かに人影がいた。長い髪の毛の先端を水に浸け、薄い笑みを浮かべて空を見上げる女の子。そして身体から伸びる何かが、水面で揺れている。その姿にしばし見惚れてしまったのは、否定できない。 徐々に暗闇とこの状況に慣れてきてから、俺は女の子に声をかけた。女の子は水泳帽とスクール水着を着ていて、恐らくうちの生徒だろうと思われた。ならば共犯者だ。お互いの存在に驚くよりは、二人で仲良く捕まらない方を選ぶべきだろう。 「あの、」 そうして声をかける。思えばあまりにも浅はかだったかもしれない。あるいはこの出会いが運命的な何かではないかと期待して、下心混じりだったかもしれない。相手は誰かも、どんな人物かもわからないのに。何よりも、急に話しかければ驚かせてしまうのに。 「きゃっ」 パシャリと水面を叩く音がして、目の前に水飛沫が飛んでくる。まさか攻撃されるとは思っていなかった。面食らってバランスを崩し、水の中に沈み込む。浅瀬だったが、それ故に尻餅をついてしまう。ぶくぶくと泡を吐き、水を食いながら顔を浮かび上がらせる。
4 21/06/24(木)16:11:29 No.816513298
「けほっけほっ」 全く酷い目にあった。と言いたいところだが、これは自分の落ち度だ、仕方ない。謝ろう。そう思って顔を上げると、そこにあったのは空ではなかった。 少女の身体と顔が、そこにあった。 「すみません、大丈夫ですか?」 恐る恐る彼女は聞く。目を疑った。女の子の水着姿を近くで見たのが初めてだったからとかそういうことではない。彼女の姿を間近で見て、水滴が頬をなぞる顔立ちに見惚れたからでもない。ダイヤモンドのような瞳の輝きに、心奪われたからでもない。 彼女の身体の後ろ。そこに紛れもない"尾"が生えていたこと。明確に生きて動く、人ならざる証がついていたこと。それは馬のしっぽのようでもあったが、とにかく人についていることはあり得ない。ならば。 「UMAだ…」 呟く。六月二十四日から始まったUMA捜索は、まだ終わっていない。UMAの夏は、これから始まるのだ。
5 21/06/24(木)16:12:00 No.816513378
「ゆーま?」 彼女はキョトンとした口調で、 「私は、ゆーま、ではなく、ダイヤ、と申しますが」 今度は俺がキョトンとする番で、 「だいや?」 ダイヤモンドだろうか?それは人の名前ではない気がする。外国人でもそんな名前はつけないだろう。やはり宇宙人などその類か、いや宇宙なら日本語を話しているはずがない、いやいや。 まるで訳がわからない。目の前の存在は、明らかに尋常ではない。けれどその態度はおっとりしていて、プールに無断で侵入するような悪さすら考えられないようにすら思えた。 そうだ、何故プールにいるんだろう。そう思って、 「えっと、だいやさん?はどうしてここに?」 答えるまでに少し間が空いて、 「いつか帰れるのでしょうか、そう思って」 意味深な返答が返ってきた。人里に降りてくるはずのない存在、やはりUMAなのではないか。ありもしない妄想を必死で拭い去る。 「ここの生徒じゃないのかな」 推理して、聞いてみる。 「ダイヤは、まだ学園には」
6 21/06/24(木)16:12:26 No.816513465
学園。学校のことだろうか。ともすれば彼女はまだ小学生なのかもしれない。つまり、中学校に通っていないけれど、通うのに憧れて。帰れるでしょうか、の意味は通らないけど。 「とりあえず、ダイヤさん。せっかくだし泳ごうよ」 なにがせっかくなのかは自分でも分からないが、プールが泳ぐ場所なのは確かだ。水深の深いところへ移動して、ゆっくりと身体を水に沈める。整った顔立ちでスタイルのいい少女と、夜のプールで二人きり。そのことを意識しそうになり、慌てて水で頭を冷やす。彼女はもしかしたらUMAのお嬢様かもしれない。無礼は許されない。その思考も大概だが、彼女の尾の存在がこれは異常事態だと告げる。けれど、逃げるべきとも思えず。目の前の少女は暫定小学生で、そんな子を置き去りにしていくわけにはいかないだろう。そう納得する。 じゃばり、ざぷん。水を掻いて、波を立てて。ダイヤのしっぽは楽しそうに揺れ動く。
7 21/06/24(木)16:12:50 No.816513538
「うふふ、久しぶり、です」 彼女はまた意味深な言葉を吐く。久しぶりに楽しいという意味だろうか。それなら良かった。 暫く泳いで、一時間が経った頃。自分は泳ぎ疲れていたが、ダイヤはまるでそんな素振りを見せなかった。どんどん調子が上がっているようにすら見えた。ゆらゆらと水面で浮かぶ俺を、引っ張りながら泳いでいる。こうして見るとやはり子供なのかもしれない。無邪気なその姿は、尾さえ生えていなければどこにでもいる女の子だ。むしろ、見間違いだったかもしれない。そうとさえ思いそうになった時だった。 「時間、です」 ダイヤは唐突にそう呟き、プールサイドへと上がる。そうして近くに置いてあった服に着替えようと───って、 「ちょっと待った!ダイヤ、女の子が男の子の前で着替えるのはまずい!」 「え、そうなのですか?」 彼女は今にも水着を脱ごうとしていた。危ない危ない。 「では、このまま出て行くしか」 「それもまずい!」
8 21/06/24(木)16:13:03 No.816513580
世間知らずなのだろうか、それとも本当にUMAなのだろうか。すると彼女は更にとんでもないことを口にする。 「ダイヤは人間ではないから、こちらでは常識を常識と思わないほうがいいとお聞きしたのですが」 なんだって?自分から自分は人間ではないと言ったので、いよいよダイヤは人間ではないことになった。しかしその言い方では、彼女は常識を知らないというより違う常識を持っているのだろうか。そのまま思考を巡らせようとした時、彼女が水泳帽を外す。そこに隠されていたものを目の当たりにして、いよいよ言葉を失った。 耳が生えていた。尾、耳。作り物ではない。それは、その動きでわかる。動物園に張り込んでいたおかげで、生物的特徴のある動きというものは勉強できた。紛れもなく、それだ。 「…どうしました?」 ぴょこりと耳が動く。彼女は自分は人間では無いと知っていながら、その差異がどういうものかいまいち把握していないようにさえ思えた。奇異の目に晒されることには慣れていないのだろうか。彼女はどのような世界からやってきたというのだろうか。
9 21/06/24(木)16:13:27 No.816513652
「いや、ちょっと耳にびっくりしちゃって。いやほら、人間には耳は生えてないからさ。…その耳、普段は隠してるの?」 「人間には生えていない、そう言われればそうですね。…ダイヤは普段外に出ないので、わかりません。なにがおかしくて、何がおかしくないのか」 それは卑下するように聞こえて、 「おかしくは、ないよ。とっても可愛い」 そんな言葉が口を突いて出てしまう。 「かわいい…?」 「あっそんな、口説くつもりじゃなくて。ただ、珍しいけど。素敵というか、ありのままでいいというか」 「…ありがとう、ございます」 そんなことを言われたのは初めてだ、と言わんばかりにダイヤはぎこちなく返事をする。 「じゃあ、俺が先に出るから。ゆっくり着替えなよ、ダイヤ」 服を上から着て、またフェンスに足をかけて。ダイヤに向けて、別れの挨拶をする。UMAを見つけたらとっ捕まえて連絡しろと言われていたのにこんな終わり方で、部長に知られたら怒られそうだ。けれど、彼女は普通の女の子としか思えなかった。だから自分たちの好奇の目に晒すべきではない。このままどこかの星か何かに帰ってもらおう。 「…あの」
10 21/06/24(木)16:13:44 No.816513706
フェンスを半分ほど登った時だった。ダイヤが声を上げる。 「また、会いたいです」 「早く元のところに帰りたいんだったよね?会わない方がいいよ。住むところが違う生命体が出会って交流を深めても、碌なことにならない。本で読んだからわかる」 「そう、ですか…」 耳がしゅんとなる。そんなところで感情がわかりやすいのはずるい。慌ててフォローする。 「あーでも、俺はこの学校に通ってるから。また連絡でもしてくれたらなんでもするよ」 耳がぴょこぴょこ揺れる。 「初めて、だったので。その、こっちで遊んでもらえたのは。よければ、また」 また。謎めいた少女の正体も、また会えば徐々にわかるだろうか。フェンスを超えて、すぐに背中を向ける。そうしないとフェンス越しに話し続けてしまいそうだ。
11 21/06/24(木)16:13:57 No.816513763
「じゃ!」 「はい、じゃあ」 走って、走って。夏の終わりは、こうして訪れた。学校から連絡が来なかったということは、きっと俺もダイヤも見つからなかったのだろう。もしかしたらダイヤを見たのは気のせいだったのかもしれない。冷静になれば、あれはあまりに非現実的な光景だったのだから。そう思い、自転車に乗る。今日から二学期だ。 けれどまだ暑い。考えてみれば当然だった。夏休みの終わりは、夏の終わりではない。 夏は、まだ続くのだ。 UMAの夏は、まだ始まったばかり。
12 21/06/24(木)16:18:23 No.816514646
こんなところで瑞っ子がいるとは思わなんだ
13 21/06/24(木)16:21:12 No.816515190
サトちゃんどころかサトちゃんの担当声優ですら知らないくらい昔のラノベだろうに
14 21/06/24(木)16:22:48 No.816515500
今日は六月二十四日なのでイリヤの空を読んでください…!
15 21/06/24(木)16:23:07 No.816515580
10年前くらいか…
16 21/06/24(木)16:24:13 No.816515804
元ネタが…元ネタがわからん…!
17 21/06/24(木)16:24:16 No.816515822
いいですねこんな出会い >整った顔立ちでスタイルのいい少女 >小学生 ロリサトちゃんとトレセンサトちゃんの中間くらいのえっちなサトちゃんも好き
18 21/06/24(木)16:27:06 No.816516374
>元ネタが…元ネタがわからん…! イリヤの空UFOの夏!全四巻今日は無料! そのマーケティングがしたくて書いた怪文書と言っても間違いはないです
19 21/06/24(木)16:30:12 No.816517006
まあ作品としてはわりと古典だもんねこれ…
20 21/06/24(木)16:30:14 No.816517012
>全四巻今日は無料! https://ln-news.com/articles/111630 これかな?
21 21/06/24(木)16:31:30 No.816517291
>10年前くらいか… 1巻が20年前なんだ
22 21/06/24(木)16:32:15 No.816517424
大丈夫?読みきれる?
23 21/06/24(木)16:34:33 No.816517889
イラストがこつえーってことしか知らない
24 21/06/24(木)16:35:21 No.816518058
ハルヒの後輩じゃなかったっけ…?
25 21/06/24(木)16:35:42 No.816518120
ただただ無力感に包まれる悲しい話だったのを覚えている 救いはないんですか あれだけが救いだというんですか
26 21/06/24(木)16:35:58 No.816518170
>イラストがこつえーってことしか知らない そし んら ほしのゆめみ……
27 21/06/24(木)16:42:29 No.816519521
最終兵器彼女とイリヤの空UFOの夏とほしのこえでセカイ系と言われるくらいだそうだ 自分は知らないけど天気の子が好きな人はイリヤの空UFOの夏も好きになるらしい
28 21/06/24(木)16:43:32 No.816519756
めちゃくちゃイリヤっぽいと思ったら正しくセカイ系だったわ…
29 21/06/24(木)16:45:41 No.816520215
>まあ作品としてはわりと古典だもんねこれ… わりと…?
30 21/06/24(木)16:46:09 No.816520324
あとウマ娘のボーイミーツガールあんまり見ないな…と思ったのもあります
31 21/06/24(木)16:46:44 No.816520461
書き込みをした人によって削除されました
32 21/06/24(木)16:47:09 No.816520544
>あとウマ娘のボーイミーツガールあんまり見ないな…と思ったのもあります NTRは少なくないけど好かれてるかと言うと微妙だ
33 21/06/24(木)16:48:19 No.816520801
>あとウマ娘のボーイミーツガールあんまり見ないな…と思ったのもあります まあトレーナーの年齢考えればNTRだしな…
34 21/06/24(木)16:49:06 No.816520979
なんで急にNTRの話が…?
35 21/06/24(木)16:49:32 No.816521067
かわいい女の子と子犬のお話だよ 本当だよ
36 21/06/24(木)16:50:06 No.816521213
>なんで急にNTRの話が…? まずトレーナーがボーイという歳ではないからな
37 21/06/24(木)16:51:06 No.816521412
神秘的な出会いの描写が好き >UMAの夏は、まだ始まったばかり。 もし気が向いたら続きも見てみたい
38 21/06/24(木)16:51:49 No.816521597
>かわいい女の子と子犬のお話だよ >本当だよ そうだね 子犬を人質にとる話だね
39 21/06/24(木)16:52:43 No.816521785
イリヤの空無料公開に便乗して書いたけどもしかしたら続きます
40 21/06/24(木)16:53:05 No.816521853
担当になる前日譚を長々やる作品でもないからなウマ娘 ボーイ主役じゃ無理がある
41 21/06/24(木)16:53:14 No.816521888
>イリヤの空無料公開に便乗して書いたけどもしかしたら続きます 待ってる
42 21/06/24(木)16:55:09 No.816522326
マチタンの幼馴染が専属トレーナーになるやつはあったけど年齢とか考えるとなかなか難しいよね
43 21/06/24(木)16:56:56 No.816522707
学生でトレーナーになってもいいんだ トレセン学園は自由だ
44 21/06/24(木)16:58:23 No.816522998
>学生でトレーナーになってもいいんだ >トレセン学園は自由だ 学生でライセンス試験通るのは天才児すぎる…
45 21/06/24(木)16:59:08 No.816523149
飛び級天才少女なウマ娘がいるんだ 飛び級天才トレーナーだっていていいだろう
46 21/06/24(木)17:02:05 No.816523792
明確に天才トレーナーって設定はあまり取り扱ってるの見ないのでそれはそれで楽しみ
47 21/06/24(木)17:06:40 No.816524760
しかし懐かしいタイトルだ…
48 21/06/24(木)17:09:30 No.816525384
カサマツの三流トレーナー程度じゃ通らないだけで試験なんか難しくねえだろきっと
49 21/06/24(木)17:12:05 No.816525979
書き込みをした人によって削除されました
50 21/06/24(木)17:13:10 No.816526192
ウララを面接入学させるような学校だから理事長にサトちゃんが頼み込めば資格なし学生をサトちゃん専属トレーナーにねじ込めてもいいだろう あとはトレーナーというだけがウマ娘との関わり方でもないだろう あるいはトレセンに入る前でもレース教室みたいな環境はあるのでそこでというのもあるだろう いずれにしても続きを楽しみにしてる