虹裏img歴史資料館

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21/06/18(金)00:48:49 千葉県... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1623944929502.jpg 21/06/18(金)00:48:49 No.814344672

千葉県船橋市。中山競バ場。 年末最後の大レース、有マ記念を終え、センターの座を手に入れたマンハッタンカフェ。 その栄光とは裏腹に、彼女の顔は曇天色の鈍い空のごとく、ひどく沈んだものだった。夕暮れなずむ、街の景色とは裏腹に。師走の空に広がる、穏やかな茜色とは対照的に。 トレーナーの車に乗せられ、向かうのは同市内の某総合病院。そこに緊急搬送させられた、ある年老いた男性のためだけに車は走る。夕日の光が少しずつ消え失せ、空の色が静かに濃い藍色に染まっていく。夜の香りを漂わせたその景色が、マンハッタンカフェの瞳に移り、琥珀色の瞳を枯野色に変えようとしているようだった。

1 21/06/18(金)00:49:16 No.814344810

病院についた二人は足早に総合案内に向かい、彼の居場所を尋ねた。 緊急外来に運ばれた彼は、現在治療中との旨を受け、緊急外来室のすぐそばの待合椅子に2人は腰かける。 消毒液の匂いがする建物の中で、2人はただ黙って待ち続けていた。 ロビーに人の姿が疎らになり、総合案内がブラインドを閉める時間帯となっても、2人はそこを動こうとしなかった。 廊下の電気が消え始める。人の気配が薄れていく。 そんな最中だった。 「あの…○○さんの、ご家族の方ですか?」 四角い眼鏡をかけた医師がそう声をかけた。 「…いえ、知り合いの者です」 家族、という言葉に勢いで同意しようとしたトレーナーだったが、寸手のところでそれを飲み込んだ。

2 21/06/18(金)00:49:32 No.814344902

「あの、容体はどうなんでしょう」 と問うトレーナーに対して 「ひとまず容体は落ち着いてはいますが…」 と医師が漏らした言葉に、2人は安堵の息を吐いた。しかし 「まだ小康状態です。…このまま入院されることを強くお勧めします」 と医師は続ける。 「分かりました。お願いします」 とトレーナーは言い、自分の身分を説明する。 状況を理解した医師は、トレーナーをひとまずの身元保証人として認め、入院の手続きと現在の経過を説明するため、診療室に彼を招いた。 「カフェ、少し待っていてくれないか?」 とトレーナーに言われ 「…はい」 と彼女は短く返事をする。 一人残された彼女の足に、鋭い痛みが広がりつつあることに、ようやく彼女自身は気づき始めていた。

3 21/06/18(金)00:49:57 No.814345034

医師による説明と入院の手続きを経て、それが全て終わるころにはすっかり夜遅くとなっていた。 「帰ろう」 とトレーナーに促され、マンハッタンカフェは黙って彼の車に乗り込んだ。 首都高速に乗り、府中市までの道を走る、赤いエクストレイル。 トレーナーは何も話さず、マンハッタンカフェも何も言わなかった。 40分ほど走るともう府中市にたどり着く。 まっすぐにトレセン学園 美穂寮に向かうと思いきや、車はコンビニに一旦入った。 ギアをパーキングに入れ、トレーナーはハンドルにもたれかかるようにうつむく。 その様子を黙って見ているマンハッタンカフェ。 どのくらいの時間がたったのだろう、車内に沈黙がひたすら流れ、そして 「悪性の、腫瘍だって」 ぽつり、とトレーナーが、力ない声で言葉を吐き出した。

4 21/06/18(金)00:50:12 No.814345110

「随分前から、あったんだって。医者が言ってた」 マンハッタンカフェは何も話さずその言葉を聞いていた。 何も話せず、その言葉を聞くしかなかった。 車内にすすり泣く若い男の声がする。エンジンの音だけが車内に木霊する。 「先生は…」 マンハッタンカフェが問いかける。 「先生は…大丈夫なん、…ですよね……?」 低い声で彼女は言葉を紡ぐ。縋るように、希望をたぐりよせるように。 しばらく沈黙が続いた。トレーナーは何も言えずうつむいたままだった。 だが枯れいる声で、絞り出したように、彼は言葉を遂に口に出す。 「そんなに、先は長くないって」 短い言葉。希望の光を打ち消す言葉。それが語られたとき、彼は車のハンドルを思いっきり叩いた。 静かな夜闇に響いたのは、絶望の足音だった。

5 21/06/18(金)00:50:44 No.814345282

翌日。 マンハッタンカフェを連れて、トレーナーは病院に向かう。 病人は先生だけではない。彼の教え子も重大な傷を負っていることに彼は気づいていた。 「裂傷がひどいですね、しばらくは安静になさってください」 そう医師に告げられたマンハッタンカフェ。 有マ記念での猛々しい走りと、華やかな大勝利の裏で、彼女の足もかなりの痛手を被っていた。 「通院いただくのも勿論お勧めしますが、自宅での療養も大切です。薬を出しますから、必ず毎日ケアを続けてください」 医師からそう告げられ、処方箋をもらい、薬局に向かう。 薬をもらって2人は車に乗り込み、美穂寮まで帰ろうとした。 「あの…」 と車に乗り込む直前、マンハッタンカフェが問いかける。 「どうした?」 と問うトレーナーに 「先生の所には…今日は行かないんですか?」 と疑問をぶつける彼女。

6 21/06/18(金)00:51:03 No.814345364

力なくトレーナーは笑い 「勿論行くさ」 と答えた。 マンハッタンカフェは視線をそらしがちに話しかける。 「あの…」 「ん?」 「私も…連れて行ってもらえませんか……?」 その言葉に頭を少し振ると 「…わかったよ」 とトレーナーは返したのだった。

7 21/06/18(金)00:51:25 No.814345469

病院に行ったところで、2人に出来ることは何もなかった。 面会謝絶の上で治療が続けられており、ただ医師にやんわりと帰されるのが関の山だった。 何もすることができないまま、医師に追い返されるように病院を出た2人は、力なく車に乗り込む。 そのまま府中市に戻るかと思われたが 「ちょっと、時間をくれないか、カフェ」 とトレーナーが話しかけてきた。 理由が分からないまま、彼女が車に揺られ、ついたのは不動産屋だった。 「先生の容体が落ち着くまでの間、トレーナー寮を出たいと思う」 そうトレーナーは彼女に告げた。 「正直、短期契約のアパートって高いんだけどな…。やれることはやりたいんだ」

8 21/06/18(金)00:54:21 No.814346385

不動産屋の前でそう話す彼に 「あの…」 とマンハッタンカフェが話しかける。 「どうした?」 「その……」 少し迷っている様子のマンハッタンカフェだったが 「私も…ご一緒したいです……」 意を決したように、しかしどこかためらいがちな様子で、彼女はそう告げた。 トレーナーは少し驚いたように目を見開いたが、彼女の頭に手を乗せて 「トレセン学園の許可が得られたらな」 と、やさしく告げたのだった。

9 21/06/18(金)00:54:33 No.814346449

日経賞まで書くつもりが力尽きたのでこれにて失礼する 明日中に日経賞を書ききります fu91125.txt

10 21/06/18(金)00:56:17 No.814346996

先生ガンかぁ…つらい…

11 21/06/18(金)00:59:47 No.814347960

いいシナリオ過ぎて実装された時のシナリオがうすあじに感じてしまう可能性ががが

12 21/06/18(金)01:08:50 No.814350159

少しずつやりたいことを言えるようになってるのが好き

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