虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/06/16(水)23:24:39 No.813998022

    白いメッシュの入った鹿毛の長髪。頭頂部のウマ耳。腰には自在に動かせる尻尾。 トレーナー室の鏡に映る『俺』の姿はどこからどう見てもスーツを着た一人のウマ娘である。 「……はぁ……」 溜息を吐くと、その気持ちに呼応するように耳がペタンと折れる。 その憂いを帯びた顔は美少女と言っても差し支えなく、胸の膨らみや腰の括れ、丸みを帯びた体型と、鏡に映る全ての要素が今の俺の性別を示している。 当然、『下』には何も付いていない。 つい先日まで俺は一般的なトレーナーで、れっきとした男性だった。 何か手術を受けただとか、アグネスタキオンの薬を飲んだとか、そういうわけじゃない。 それでは何故、どうしてこんな姿になっているのかというと

    1 21/06/16(水)23:25:07 No.813998179

    少し前に、俺は不治の病を患い命を落とした。 病気が発覚した時にはもう手遅れで、徐々に身体の自由が効かなくなり、ベッドから起き上がるのも難しくなって。最後には目も開かなくなった。 だが、それでも。最後まで悪くない人生だと思えたのは、彼女がいたからだ。 俺がトレーナーとしての役割を果たすのが難しくなっても彼女は側にいてくれたし、車椅子生活になった時は俺を担いで色んなところに連れて行ってくれた。 「……アタシと出会えて、アンタの人生面白くなっただろ?」 最期の彼女からの問いに、ちゃんと発声して答えられたかは自信がない。 でも、楽しかったのは間違いなくて。 ああ、もう少しゴールドシップと一緒の旅路を歩みたかったな──なんて、そんな事を最期に考えて、俺は意識を失った──

    2 21/06/16(水)23:25:28 No.813998303

    ──筈だった。 気が付けば周りには何も無い真っ白な空間に立っていた。今際の際に見る幻覚か。それならば愛バとの走マ灯の方が良かったのに、などと思ったがどうやら違うらしい。 「貴殿に問う」 いつの間にか目の前には謎の四足歩行の生物。ウマ娘によく似た耳と尻尾のような物が生えている。 「どのような姿となっても、生きたいか」 それは悪魔か、死神か、それとも妖精の類か。理解が追い付かずに答えられないでいると、その生き物は、ヒヒィィンと、奇妙な鳴き声のようなものを上げた。 「──質問を変えよう。貴殿は、まだ我が友──ゴールドシップと共に歩みたいと、望むか」 その言葉を聞いた瞬間、考えるよりも先に頷いていた。目の前の生き物が何者かなどという事はどうでもいい。まだまだ彼女と一緒に楽しいことをしたい! 「良かろう。であれば──」 そして、その生き物は俺に向かって勢いよく飛び掛かって──

    3 21/06/16(水)23:26:01 No.813998526

    目が、覚めた。 目の前には見慣れた病室の天井。 起き上がって周りを確認すると、ゴールドシップやマックイーン、担当医が信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開いてこちらを見ている。 「……トレーナー……か?」 死者が蘇ったのだ、無理は無いとその時は思った。目覚めた時は身体がとても軽く、身体を蝕んでいた病魔の気配はすっかり消えていた。 奇跡でも何でもいい、兎に角俺は生き返る事ができたのだ、これからもまだまだゴールドシップと一緒に走れる──そう思って、俺は、 「ただいま、ゴールドシップ……ん、あ、あれ……?」 そう口に出して、違和感に気付いた。 声が、高い。喉に手を当てると喉仏の感覚が無い。そして何かがおかしいと、ふと頭に手を当てると、フサフサとした毛に覆われた『耳』の感覚が指に触れて。 「……なぁゴールドシップ、俺……今、どうなってる……?」 その後、見せられた手鏡に映った姿に──俺は、再び意識を失った。

    4 21/06/16(水)23:26:24 No.813998646

    と、そんな事があったのが少し前の出来事。 俺の最期を看取ったゴールドシップと、その後に病室に訪れたマックイーンや担当医の証言によれば、突如として俺の身体が光りだし、光が収まったかと思えばこの姿になっていたという。 生き返った……というより、生まれ変わったと言った方が正しいのかもしれない。 発光と突然の肉体の変化からアグネスタキオンの関与が疑われたが、俺と彼女にはあまり交流がなく、怪しげな薬を投与された記憶もない……この事を知られてからは度々データを摂らせてくれと迫られているが。 とにかく、元に戻る方法は未だ見付からず、精密検査を受けても『ウマ娘としては』至って正常な肉体との事しか分からないのが現状だ。 理事長やたづなさんの協力もあって何とかトレーナーとして復帰する事は出来たが、それでもまだまだ正常な日常生活を送れているとは言い難い。

    5 21/06/16(水)23:27:11 No.813998926

    「トレーナーさん! 頼まれてた資料お持ちしましたぁ!」 溜息は尽きないが、トレーナー室への来訪者で意識を切り替える。 「あぁ……ありがとう、デジタル」 この姿になって、良かった事と悪い事がある。 良かった事は単純に生き返る事が出来たこと。そしてアグネスデジタル、彼女がうちのチームに加入した事。 『ウマ娘ちゃんからの指導が受けられるなんてぇ~……!』と非常に感極まった様子で用紙に判を押してくれた。その後彼女が吹き出した鼻血によりもう一枚用意するハメになったが。 そして、悪い事は女子としての生活に未だ慣れていないということと── 「あ、オグリキャップさんとタマモクロスさんが模擬レースしてましゅーっ!!!」 「むっ」

    6 21/06/16(水)23:27:28 No.813999040

    窓の外を覗くと、彼女の言葉の通りオグリキャップとタマモクロスが芝生の上で鎬を削っていた。 バチバチに火花を散らす彼女達の姿は何とも美しく……。 「あ!あっちではビワハヤヒデさんがバナナを……!」 「むっ」 口いっぱいにバナナを頬張るその姿は実に絵になり……。 「あ!あっちではセイウンスカイさんが担当トレーナーさんに耳掻きしてもらってましゅ……っ!」 「むむっ」 信頼できるものに身体を預ける彼女の姿はまさに芸術品のようで……。 「あ!あっちではカレンチャンさんがぁっ……!」 「むむむっ」 「オイ」

    7 21/06/16(水)23:27:57 No.813999210

    お 芦 誰

    8 21/06/16(水)23:28:06 No.813999259

    ジャスタウェイくん!!!!

    9 21/06/16(水)23:28:07 No.813999268

    いきなり割り込んできたゴールドシップの声で割に戻る。 「あ、ゴールドシップ……いつから……?」 「ほーん? どうやらオマエは目ん玉をカンブリア紀に置いてきちまったみてぇだな?」 マズイ、ゴールドシップは非常にご立腹だ。 この身体になってからというものの、芦毛のウマ娘を見ると条件反射的に意識がそちらに移ってしまう。そして彼女は、それが酷く気に食わないようで。 「オマエ、芦毛なら誰でもいいのかよ」 ゴールドシップがヘッドロックを仕掛けてくる。 「なぁ……?」 「ひぃ……っ」 そしてそのまま、耳を甘噛みされた。ゾクゾクとした感覚が背筋を迸り力が抜ける。

    10 21/06/16(水)23:28:47 No.813999487

    この姿になってから、ゴールドシップからのスキンシップが以前よりも増えた。 それは同性故の気安さなのか、それとも一度死に別れを経験したからなのかは分からない。 「アタシよりも……アイツらの方が面白いってか?」 ただ一つ確実な事は、彼女は意外と独占欲と嫉妬心が強いという事で。 「……確かめさせてやろうか?」 このままでは、食われる。 助けを求めてデジタルに視線を向けるが── 「■■■■■■■■■■ーーー!ー!!ー!ー……っ!!!!!!」 どうやら、絶体絶命というヤツらしかった。 ゴールドシップの体温と重みを感じ、俺と彼女の身体がソファに沈む中──何処か遠くで、聞き覚えのある、満足げな鳴き声のようなものが聞こえた気がした。