ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/06/14(月)23:36:17 No.813327992
「ようやく見つけましたあぁーーー!!」 特徴的な甲高く元気に満ちた声をあげ、オレンジに近い茶髪のウマ娘が廊下を駆けてくる。 「あ、噂をすれば。こんにちはーフクキタルさん!」 マヤノトップガンは自分達の前で足を止めた彼女に明るく挨拶を交わす。 「おや、マヤノさん……こんにちは。トレーナーさん、マヤノさんと仲良くお話を?」 「……ああ、まあな」 マヤノと並んで立っていた男──フクキタルのトレーナーは素っ気なく頷いた。 「それは結構なこと──じゃないですよ!放課後の予定をお忘れですか!?」 「何かお前と約束でもしてたか?」 「ガーーーン!!本気で忘れていらっしゃる!!これはショックですよ!!!」 「マヤは知ってるよ~?二人でお出かけするんだよね。つまりデート!」 横から割って入ったマヤに、頭を抱えていた彼女は「ほえっ」と目を丸くする。 「ど、どうしてそれを?」
1 21/06/14(月)23:36:33 No.813328088
「だってお昼休みに中庭で『キテます!恋愛運が急上昇!絶好のお出かけ日和ですっ!!』ってバンザイしてたでしょ」 「あ~……あははは。……してたかもです」 「いいなあ~ラブラブで。二人は正式にお付き合いしてるんでしょ?さっきまでそのことについて話してたの」 そう言うとマヤノは柔らかに目を細め、ほう……と優しい息をつく。 「ホントうらやましいな。マヤちんも自分のトレーナーちゃんとイチャイチャしたーい!!」 「イヤですよ、ラブラブイチャイチャだとか。……その通りですけど♡」 おばちゃん臭い手招きのような仕草で照れ笑いする彼女だったが、すぐ慌てた顔に切り替わった。 「って、話し込んでる場合じゃないですよ!天気が崩れそうなんです、降らないうちにパワースポットへ向かわねば!」 それでは、と手短に形だけの挨拶を残し、トレーナーの手を掴むと勢いよく走り去っていくのだった。
2 21/06/14(月)23:36:45 No.813328163
生い茂る枝に半分隠された土の道をガサガサと掻き分け二人は進んでいく。 一応学園の敷地に分類される広大な森林。その外周部分のうち、民家も全くない奥まった箇所である。 暗雲の立ち込める空の下では、一切手入れのされてない藪の中はうすぼんやりとして既に日の入りの暗さだ。 「おい、どこへ連れて行く気だ?」 「本当はいつものご近所パワースポットに行くつもりでしたが……この前、より強力なスポットを見つけまして!」 振り向かず暗がりを突き進んでいく彼女の返答に辟易した顔をしつつも、トレーナーは手を引かれるままについていく。 と、視界が幾分明るくなり、ほんの少しだが開けた空間が現れた。 「はい到着ですーーーっ♪」 「……こんな何もない場所がパワースポット?」 呆れを隠せないトレーナーのつぶやきに、満面お気楽の笑顔も仏頂面になる。 「むむむ。トレーナーさん、あれにお気付きでないとは」 そう言って指さす先には、周囲に溶け込むようにして作業小屋が建っていた。 かなり年期が入ってるものの、頑丈そうで汚らしさもほとんどない。
3 21/06/14(月)23:36:58 No.813328228
促すように小走りに駆け寄り、小さな手が入り口のドアノブにかかる。 「いや鍵──……」 トレーナーが言い終わらないうちに、スイと軽やかにドアは開いた。 「えっへっへ……初めて見つけた時に、試してみたらかかってないこと判明しちゃって」 どこか得意げに言った後、視線を室内に向ける。 誘導されるようにトレーナーも視線を向けると──その先にはベッドが見えた。 ピンクを基調とした下ろし立てのシーツや枕。明らかに女の子が装飾したと分かる。 ベッド周りだけではあるが、殺風景な室内を温めるほどの華やかさと可愛らしさがそこにはあった。 「えっと。先程マヤノさんが話してた通り、今日の私は恋愛運が絶好調でして……」 胸の前で伸ばした両手の人差し指を合わせて、少女は目線をそこに落とす。 「あれこれ持ち込んでふさわしいようにコーディネートしたし、できる限り掃除もしました。だから……」 そして数秒言い淀んだものの、意を決したように顔を上げトレーナーを見つめた。 「だから今から、私を抱いてくれないでしょうか?」
4 21/06/14(月)23:37:13 No.813328346
いつもキラキラ眩しい瞳に、かつてないきらめきが宿っていた。 揺らめく水面のように、繊細で複雑。そしてどこか儚さを伴う切ない光。 どこまでも奥深く吸い込まれそうになる瞳は、ただ一心にトレーナーに向けられている。 その瞳から目を逸らさずしっかりと見つめ返した後、トレーナーは答えた。 「──死んでもお断りだ」 「………………え」 絶句する様子も意に介さず、トレーナーは畳みかける。 「絶対にお前なんか抱くか」 「そ、そんな……トレーナー……さ、ん……」 青ざめわななかせていた唇が、それでも懸命に言葉を紡ぐ。 「……ほ、他に……誰か、好きな方でも……?」 「ああ」 「それは、一体誰……です?」 「分かり切ったことを聞いてんじゃないぞ」 トレーナーはまた、吐き捨てるように言った。
5 21/06/14(月)23:37:30 No.813328465
「俺が抱きたい女はマチカネフクキタルだけだ」 「………………………………」 「お前なんかじゃない」 少女──フクキタルに似た『それ』から、悲哀のオーラが瞬時に消失した。 表情がチャンネルを切り替えるように唐突に虚ろな微笑みに変わる。 「最初から気付いてんだよ。どれだけ見た目を似せても、中身がさっぱりじゃバレバレだ。それにな──」 トレーナーはズボンのポケットに手を入れ、華やかな色合いの手のひらに収まるサイズの小物を取り出す。 「フクキタルが俺のために実家から取り寄せてくれた御守りだ。これがチリチリ熱いんだよ。お前が来てからずっと」 「………………………………」 『それ』はただ、微笑んで立っている。 容姿こそフクキタルのままだが、もはや間違いようがないほどの異質さを醸し出していた。 人に似せ精巧に作られてるからこそマネキンに感じるような、強烈な違和感。 通りがかりが今初めて彼女を見たなら、きっと仰け反り距離を置いたことだろう。
6 21/06/14(月)23:37:45 No.813328547
「お前、肝試しの時に出たってやつだな?」 「………………………………」 「どんな目的か知らんが、二度とその姿で現れるな。俺だけじゃない……誰の前にも」 心底不快そうに睨みつけるトレーナー。 ──と。 「……さぁ~……ん……。…………トレーナーさぁ~~ん……」 聞き覚えのある声が藪にこだまする。 反射的にトレーナーが振り返った隙に、『それ』は小屋に滑り込みドアを閉めた。 トレーナーもそれに気付いてはいたが、構わず自分らが来た道に目をやる。 しばらくして確かな足音と共に、フクキタルの姿が暗がりに浮かび上がった。 「トレーナーさん!よかったあ、本当に見つかりましたあ~~!!」 トレーナーの姿を認めると、フクキタルは手に携えた1mはあろう長さの木の棒をブンブンと振り回し喜ぶ。 「なかなか待ち合わせ場所に来ないから心配で探してたんですよ!そしたら、森に入ってくのを見たって子がいたから……」 今度は咎めるように、ツンツンとその棒でトレーナーをつつき始める。
7 21/06/14(月)23:37:59 No.813328635
「なんだその棒?」 「これですか!トレーナーさんを追って森に入ったものの、分かれ道でどっちに進むか迷って動けなかったんです。 そこで目についたこの棒を分かれ道の度に倒して進行方向を決めたところ、見事トレーナーさんを発見できたわけでして! これはきっと、この森随一の霊木の枝に違いありません!!!」 「……そうか」 冷ややかなトレーナーの目にも気付かず、フクキタルは不思議そうに尋ねる。 「それで、約束をすっぽかしてまでなんでこんな森の行き止まりに?」 「……行き止まり…………」 その言葉に背後を振り返る。そこに小屋はなかった。 慎重に歩み寄ってみると、そこは先日の暴風雨でできたのであろう真新しい土砂崩れでできた崖だった。 この辺りの地質なのか、細かくささくれだった岩肌が斜面と崖下に剝き出しになって広がっている。 うっかり足を滑らせようものなら、全身を複雑に負傷して起き上がれなくなっていただろう。 最悪、滑落の衝撃で再び土砂崩れが起こり埋もれ、永遠に発見されずじまいだったかもしれない。
8 21/06/14(月)23:38:15 No.813328750
「……どこまでも胸糞悪い」 舌打ちをすると、トレーナーはフクキタルの手から棒を奪い取り全力で崖に放り投げた。 「ほんぎゃあぁーーー!!?ラッキーアイテムになんたる仕打ち!持って帰って部屋に飾るつもりだったのにいぃぃ!!!」 「置き場所あるのか?」 「──あ、ないですね」 いつも通りのボケはほおっておき、トレーナーは御守りを取り出す。 「すまん。これ、ダメにしてしまった」 「え?……フギャッ!!ななななな、なんですこれ!?」 手を覗き込んだフクキタルが後ずさる。 御守りは、コールタールを塗りたくったように真っ黒に変色していた。 「雨上がりのダートにでも落としたんですか?」 「……まあ、そんなところだ。迷惑でないなら替えがほしいんだが──」 「分かりました。実家に連絡しときます!」
9 21/06/14(月)23:38:29 No.813328829
お任せをと胸を叩いた後、フクキタルはふいに恥ずかし気な顔になり、鞄をゴソゴソしだす。 「とりあえず今は……これでご利益を繋いでください」 可愛らしくラッピングされた袋がトレーナーに手渡された。バターを含んだ甘い香りがほんのりと漂う。 「……クッキー?」 「はい、調理実習での手作りです。それもおみくじの入りのフォーチュンクッキー!! よければこの場でおひとつ──いえ、おふたつほど」 勧められるままにトレーナーは一つ摘まみだし、割っておみくじを取り出した。 『(私が)大吉。トレーナーさんが、ウマ娘として私を育ててくれるから』 もう一枚取り出し、割ってみる。 『(私が)大吉。トレーナーさんが、一人の女の子として見てくれるから』
10 21/06/14(月)23:38:46 No.813328930
おみくじから顔を上げると、ほんのり朱に染まったえびす顔がそこにあった。 「本当に……いつもありがとうございます。トレーナーさんが、トレーナーとしてだけでなく恋人としても傍にいてくれる。だから私の心は、ずっとずっと大安吉日です!」 「フクキタル……」 ポタリ、とそこに雨粒が降ってくる。 「フンギャロッ!とうとう降り始めました!これではお出かけは無理ですね……だいぶ時間もロスしちゃいましたし」 うなだれるフクキタル。その頭に傘代わりに自分の上着を被せ、トレーナーは囁いた。 「なら、寮の俺の部屋にでも行くか?」 「ふえっ……!?」 瞬間的に硬直した後、その強張りをゆるゆる解きながらフクキタルはトレーナーを上目遣いで見る。 「……あの、今日は恋愛運が急上昇中で……」 「らしいな」 「……期待しても……いいですか?」 頷くかわりにトレーナーは強く肩を抱く。 フクキタルはそっと目を閉じ、されるままに身を委ねた。
11 21/06/14(月)23:38:59 No.813329010
──しっかりと手と繋ぎ二人が消えていった藪を、目に見えない無数の何かが見つめ続けていた。 嫉妬なのか。憤怒なのか。それとも単なる好奇なのか。それは分からない。 ただ、ひしめきながらそれらはひたすら二人の残像を描いて凝視し続ける。 いつまでも、いつまでも。
12 21/06/14(月)23:39:29 [sage] No.813329183
おしまい。 蒸し暑い日が続くので、アニメうまよん10話を参考に作ってみました。
13 21/06/14(月)23:41:22 No.813329875
フクトレは怪奇と甘いのが似合うな…
14 21/06/14(月)23:42:32 No.813330274
いろんなモノが渦巻いてるんだろうな…
15 21/06/14(月)23:43:49 No.813330744
これ取り憑かれてない?
16 21/06/14(月)23:47:48 No.813332121
フクトレは何かに憑かれても何とかしてくれるという謎の信頼がある
17 21/06/14(月)23:50:16 No.813332936
運命の人ってだけあってハッピーエンドは確定だから道中いくらでも取り憑かれても良い
18 21/06/14(月)23:51:27 No.813333334
それはそれとしてこいつらうまぴょいするんだ!
19 21/06/14(月)23:52:10 No.813333568
理事長!育成中のうまぴょいは良いんですか!?
20 21/06/14(月)23:53:31 No.813333993
>理事長!育成中のうまぴょいは良いんですか!? 要避妊ッ!
21 21/06/14(月)23:53:53 No.813334117
>要妊ッ!
22 21/06/14(月)23:54:36 No.813334338
ちょっと怖いがカッコイイな…
23 21/06/14(月)23:56:25 No.813334904
フクトレが怪異に強すぎる
24 21/06/14(月)23:56:35 No.813334971
直球のエロかと思ったらホラーだったと思ったらうまぴょいだった 実質恋のキューピッドでは…?
25 21/06/14(月)23:57:45 No.813335367
あの…お守りが一発でアウトになるってそれ相当…
26 21/06/15(火)00:03:58 No.813337525
寺生まれのトレーナーさん
27 21/06/15(火)00:05:42 No.813338086
幻覚までは中和できてないから大人しくついて行ったのは危なかったな…
28 21/06/15(火)00:06:29 No.813338340
フクのトレーナーたる者怪異くらい一眼で見破れないとダメなんだな
29 21/06/15(火)00:06:57 No.813338487
こういう目に遭うの似合いすぎる…
30 21/06/15(火)00:10:16 No.813339591
逆にフクは加護のせいか直接被害には会わなさそう
31 21/06/15(火)00:10:45 No.813339753
今日は二つもフクのえっちな怪文書が見れて息子も喜んでます
32 21/06/15(火)00:11:31 No.813339983
正式にお付き合い公言してるの何気に強すぎない?
33 21/06/15(火)00:12:13 No.813340204
>いろんなモノが渦巻いてるんだろうな… あの世界って明確な悪意を持った異形がしっかり存在してるよね
34 21/06/15(火)00:13:17 No.813340599
だけぇ… だけぇ…
35 21/06/15(火)00:14:33 No.813340999
結界をきちんとしないと怪異にうまぴょい覗かれるんだ…
36 21/06/15(火)00:18:36 No.813342350
フクトレは伝奇作品なら魔眼持ちだろうな…
37 21/06/15(火)00:20:47 No.813343123
数あるウマ娘トレーナーの中でもフクトレはジャンルの毛並みが違いすぎる…
38 21/06/15(火)00:22:21 No.813343652
実際に怨霊出てくるからなフクキタルのストーリー……
39 21/06/15(火)00:23:16 No.813343955
いるところにフクキタルが突っ込むのかフクトレが寄せ付けてるのか
40 21/06/15(火)00:23:54 No.813344189
何回か死にかけたことありそうな肝の太さ
41 21/06/15(火)00:25:44 No.813344843
>いるところにフクキタルが突っ込むのかフクトレが寄せ付けてるのか 両方かな…フクは霊感ないけど呼ぶタイプ感
42 21/06/15(火)00:27:06 No.813345259
>何回か死にかけたことありそうな肝の太さ 死にかけて見えるようなったのか…
43 21/06/15(火)00:27:24 No.813345363
神社の娘なら親が悪霊から恨み買ってそうだ
44 21/06/15(火)00:27:36 No.813345417
>何回か死にかけたことありそうな肝の太さ 悪霊見えてるのにあからさまに怪しい電話に堂々と出てみたら?ってけしかける図々しさはなるほどフクキタルのトレーナーだなってなる
45 21/06/15(火)00:28:47 No.813345795
偽者のことは一度もフクキタルって書いてないし トレーナーの受け答えは最初から偽者って分かってるものだこれ
46 21/06/15(火)00:30:05 No.813346234
>偽者のことは一度もフクキタルって書いてないし >トレーナーの受け答えは最初から偽者って分かってるものだこれ ほんとだ細かいな…
47 21/06/15(火)00:31:14 No.813346609
トレーナーが霊感あって占いジャンキーのフクが霊感無いんだよね
48 21/06/15(火)00:33:06 No.813347177
だからシラオキ様?が話しかけるのはフクトレだけという
49 21/06/15(火)00:34:22 No.813347584
現実では無理でも夢だと多少干渉できてるんだっけ おねえちゃ…シラオキ様?って