虹裏img歴史資料館

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21/06/13(日)02:21:45 「悪い... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1623518505026.jpg 21/06/13(日)02:21:45 No.812646595

「悪いな、セイ。休暇中だってのに手伝わせちゃって」 「んーじゃあ終わったらご飯食べに行こーよ、奢りで」 「……それが目的だったな?手伝って貰ってるわけだから、いいけどさ」 「にゃはは。流石トレーナーさんはお見通しですな~」 春。URAファイナルズを優勝で終えた私ことセイウンスカイとそのトレーナーは次なる進路を定める期間として長めの休みを取っていた。トゥインクルシリーズに留まるか、ドリームシリーズに進むか、それとも引退か。そんなある日に私が手伝っているのはトレーナー室の大掃除だ。 「トレーナーさん、ポットはどうしますか~?トレーナーさんが持ち込んだのでしたよねー」 「セイ、まだここたまり場にするだろ?そのままでいいよ」 「じゃあありがたく…こっちはこれで最後かな」 「こっちも今終わった。お疲れさん、飯食いに行こうか」 春。出会いと別れの季節。トレーナーさんは。 「一緒に飯食うのも今日で最後になるなあ…」 トレーナーさんは、トレセン学園を去る。 私を、置いて。

1 21/06/13(日)02:22:26 No.812646736

それはトレーナーさんの家で一緒にくつろいでいる時のことだった。 今日はトレーナーさんのどこを枕にしてやろうかと画策していたのだがトレーナーさんは何やら机に並べた資料と睨めっこしていたのだ。 「なにこれ?」 「ああ、トレセン学園とは別の…ウマ娘の学校のパンフとか、そういうの」 へえ、と思って彼の背に回って肩に顎を乗せて一緒に見ることにした。見てみるとふむ、流石にトレセン学園ほどの規模や設備はないようだったけど、いいんじゃないかと思えた。周囲に川や山も多いようで、サボりスポットも多そうだし。 「あれ?でもなんでそんなの見てるの?」 ふと、思い立った疑問。子どもがいるなんて話を聞いたこともない。年齢的にも中等部から高等部に入るような子どもが実はいました!なんてこともないはずだ。そもそもいたら折角の休暇まで私のような小娘と一緒に過ごすこともないはずだ。 何故だが焦りと言いようのしれない気持ち悪さに襲われる最中、トレーナーさんから答えが告げられる。

2 21/06/13(日)02:23:36 No.812646968

「そこの理事長が、俺に是非我が校のウマ娘達を導いて欲しいって熱烈にアプローチを受けててさ。いわゆる引き抜きってやつ」 え? 「まあまだ俺も実務経験三年しかもまだ一人しか見ていないトレーナーだから。経験不足だとは思うんだけどな?」 私は、どんな道を選んでも、何故か、ずっと、一緒にいられると、思い込んでいて。 「セイは自分で才能無いって言ったり──確かにデビュー前や直後は評価もあまりよくなかったけど。俺はずっとセイが一番だって信じてたからな」 目の前にいる彼が遠くにいるように思える。起きているのに意識が遠ざかる感覚。頭が熱くなって、痛くなる。彼の言葉が、聞こえているけど届いていない。 「とはいえ世間的には才能が一流には届かぬウマ娘と共に結果を遺せたのなら──向こうの理事長さんもそういう所を買ってくれたんだと思う。……ってわけで返答をどうするか今資料見ながら考えてたわけなんだけどさ。……セイ?大丈夫か?」 トレーナーさんが何か言った。多分、表情からして私を気遣うこと。今の私はそんなにひどい顔をしているのだろうか。彼の部屋に鏡がなくてよかった。

3 21/06/13(日)02:24:33 No.812647186

「さっすが私のトレーナーさん!栄転ってぇやつなんじゃあないですか~?私もトレーナーさんのサボる暇もない鬼のようなトレーニングについて行った甲斐があるというものですよ~」 にぱっと顔に笑顔を張り付ける。大丈夫。自分を偽るなんてこと、それこそ私はずっとしてきた。今までよりもずっとずっと、心が痛かったけど。 「そんな厳しいトレーニングは課した覚えないしサボりも結構してただろセイ……根詰めすぎてもよくないだろうからって認めてたけど」 「そうでしたっけ?セイちゃん覚えてませんなあ」 「……まあ頑張ったからURA優勝出来たわけだし、今更お小言も言わないが。それとよりさっきから顔色悪「そ・れ・よ・りー!」……何だよ」 「招聘されるなんて凄いじゃあないですか、これはトレーナーさん一番のウマ娘としては盛大に送り出さないと行けませんな~」

4 21/06/13(日)02:24:46 No.812647225

「…………いいよ、そんな」 「いやいや、そういうわけにも行きませんってえ。恩知らずのセイちゃんだなんて呼ばせませんからね!」 一度喋り出すとスラスラと舌が踊った。彼の顔を見ないようにしてまくし立てる。だから気付かなかった。 「お祝いもしないといけませんねえセイちゃん準備をしなくては!でわでわ~」 逃げるように彼の部屋を出る。彼に何も言わせないために、何も聞かないために。 「…………ああ、頑張るよ」 彼が、悲しい顔をしているのに。私は気付かなかった。

5 21/06/13(日)02:25:28 No.812647381

それからの日々は一瞬だった。キング達を巻き込んでお祝いをして、チームを持っている中堅トレーナーの面倒になることが決まって、そして私はトゥインクルシリーズに留まることにした。新しいトレーナーはドリームシリーズに行くことを勧めて来たけど、何故だが嫌だった。 そしてトレーナー室の整理をしたのが昨日の事。今日、彼は新天地へと飛び立つ。

6 21/06/13(日)02:26:13 No.812647548

主を失ったトレーナー室は、恐ろしくがらんとしていて、妙に寒々しかった。3年前と同じ風景に戻っただけなのに、ずっと寝床にしていたソファに身を沈めても何故だかちっとも眠くならなかった。 眠れぬまま目を閉じて体をゴロゴロ動かして眠りに落ちるのを待っていてもいつまで経っても落ちられる気配はなかった。観念して目を開いて掛けられた時計に目を向けると、まだ彼が乗る電車の出発時刻前だった。 ため息を一つ吐いて起き上がるとポットが目に入った。そう言えば残しておいてくれたんだった。眠れないんだしお茶でも飲もう、ティーバックはまだ残してあったかな。そう思いながら棚を開けて、息を吞んだ。 彼とお揃いで買った猫柄のマグカップそれが二つとも、残っていた。一つは私の分で一つは彼の分だから、置いて行かれた──いや、違う。ここを見てたのは私だから、これは私が確認を怠っていただけだ。 ……彼の物だし、まだまだ使えるんだから、使っていて欲しい。そう思った。でももう電車の出発時刻は近づいて来てる。今からタクシーを探して急いで貰っても──間に合うかどうか。

7 21/06/13(日)02:27:06 No.812647735

「いや!」 気付けば声は出ていた。初め、自分の声だとは思わずにキョロキョロと周りに視線を這わせたが当然誰のものでもないトレーナー室に忍び込む輩など私以外にいない。 「やだぁ……置いてかないで……」 言葉と共に涙がぽろぽろと零れ落ちた。あぁ、私はなんてバカなんだろう。たった一言が言えなかった。言って、拒否されてしまうのを恐れて、彼を行かせようとした。 「行かなきゃ……」 ふらふらとマグカップをぎゅっと抱えて立ち上がる。行かなきゃ……まだ私は何も言っていないのに、まだ彼から何も聞いていないのに!

8 21/06/13(日)02:27:31 No.812647817

1歩目からフルスロットル。廊下を走るなだなんて知ったことか。道路は速度制限がだなんて知ったことか。私はURAファイナルズ優勝者だ誰にも私に追いつけはしない。 走れ、走れ、間に合え、間に合え。ああ、そういえば追いつくためのレースなんて初めてかもしれない。彼の提案で差しをやったことはあれど、全て模擬レースでの話だ。あの時は本当にそうとは思ってなかったけど──なるほど確かに、差しも悪くない。打診してみるのもありだろうか。 走って、走って。そして彼を捕まえたら、今度こそ言おう。私の本心を。だから、どうか、お願いします。間に合って。 私だけのトレーナーさん、置いてなんて行かないで。ずっとずっと、一緒にいて欲しいんです。

9 21/06/13(日)02:27:52 No.812647873

あなたのことが──好きだから。

10 <a href="mailto:s">21/06/13(日)02:29:18</a> [s] No.812648140

この後各方面にめちゃくちゃ二人で謝罪して回った

11 21/06/13(日)02:29:57 No.812648257

一緒になれたんか!!

12 21/06/13(日)02:29:59 No.812648269

よかった…まさよししなかった…

13 21/06/13(日)02:30:30 No.812648361

よかったハッピーエンドで…!

14 21/06/13(日)02:34:04 No.812649048

いつでもさーがしているよ~♪

15 21/06/13(日)02:34:14 No.812649079

ハッピーエンドでよかったし物語だから仕方ないところあるけど 移籍先の学校の人の立場で考えると土壇場で引き留めるのはやめてほしいよね...

16 21/06/13(日)02:37:32 No.812649675

>よかった…まさよししなかった… でもまさよししちゃうウンス似合うと思うんです

17 21/06/13(日)02:40:27 No.812650185

「置いてかないでほしい」だからトレーナーを引き止めるんじゃなくウンスが辞めて嫁としてついていけば事務的なゴタゴタは最小限で済むかな…

18 21/06/13(日)02:40:59 No.812650281

嫁でなくとも転校でいいんでは

19 21/06/13(日)02:46:09 No.812651214

ここまでしといていざとなったら尻込みして嫁にならないのはらしいっちゃらしいが…

20 21/06/13(日)02:54:09 No.812652609

走りながらメインテーマとともに回想シーンが流れてるやつだ…

21 画像ファイル名:1623520542921.png 21/06/13(日)02:55:42 No.812652881

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

22 21/06/13(日)02:58:17 No.812653340

まさよしとは…?

23 21/06/13(日)02:58:26 No.812653362

嘘つきで本心を隠しがちな子を追い詰めたいという欲望を感じる

24 21/06/13(日)03:00:05 No.812653669

旅立つあの人の元へ走るのは青春映画の間違いないクライマックスだからな…

25 <a href="mailto:s">21/06/13(日)03:00:14</a> [s] No.812653693

>No.812652881 ウワーっ!絵だーっ!ありがとうございます! >嘘つきで本心を隠しがちな子を追い詰めたいという欲望を感じる 違うんです本当はイチャイチャしてる甘ったるいの書きたいのに気付けば手が曇らせてるだけなんです

26 21/06/13(日)03:02:31 No.812654060

トレーナーが電車に乗り込む直前になんとか間に合って駅のホームで大声で告白しちゃうんでしょ!大勢の前で!汗だくで!息も絶え絶えに!

27 21/06/13(日)03:04:13 No.812654347

まあ確かに空が晴れるにはその前に一度雲がかかって雨が降る必要はあるけども

28 21/06/13(日)03:04:20 No.812654364

>気付けば手が曇らせてるだけなんです 欲望に素直なやつめ…いいのよ

29 <a href="mailto:s">21/06/13(日)03:14:00</a> [s] No.812655885

「んふ」 抑えようとしてもつい口の端から笑みが漏れてしまう 「んふふふふ」 まだ18歳じゃないからと、人前でつけるのは止めてくれよと釘を刺されてしまったから。 「幸せだなあ…ふふっ」 「……それだけ喜んでくれるなら贈った甲斐があるよ」 「ねーえー、あなたは付けてくれないの?」 「仕事中だ…家に帰るまで待ってくれ」 はあ、融通の利かない人だ。トレーナー室にめったに来客なんて来ないのにさ。 「マグカップちゃんもお揃いにしろーって言ってるよー?」 「ダメなもんはダメだって。堂々とつけたいなら籍入れた後だ」 ケチ―なんて言いながらも私の頬は崩れたままだった。 左手の薬指には、きらりとダイヤの指輪が輝いている。

30 21/06/13(日)03:21:33 No.812657018

ウワーッ婚約!

31 21/06/13(日)03:30:04 No.812658225

だだ甘ハッピーエンドいい…

32 21/06/13(日)03:33:25 No.812658702

最高の後日談

33 21/06/13(日)03:34:20 No.812658812

いい…すごくいい…

34 21/06/13(日)03:41:47 No.812659861

乙女の顔してるウンスは脳が再生する

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