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ナリタ... のスレッド詳細

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21/06/10(木)23:40:02 No.811894109

ナリタタイシンのトレーナー室、そこではタイシンと彼女のトレーナーが向かい合って机を囲んでいる。 仕事に一区切りついたのか、トレーナーが背を伸ばして体をほぐすと、タイシンに声をかけた。 「タイシン、明日外泊届出してくれないか?」 「はぁ?明日…って、アタシの誕生日じゃん」 トレーナー室に貼ってあるカレンダーには6月10日の日付に花丸がついている。2人とも忘れっぽいわけではないが、せっかくの誕生日だ、うっかり忘れないようにチェックしてある。 「毎回毎回、別にわざわざ祝ってくれなくてもいいのに」 「いいんだよ。俺が祝いたいんだから」 「はいはい、じゃあ外泊届出しとくね」 「ああ、頼んだ」

1 21/06/10(木)23:40:34 No.811894367

ふと、勉強の手を止め物思いにふけるタイシン。 1年目は出会って間もない頃、ちょうどジュニアメイクデビュー戦の時だ。あの時はまだトレーナーに強い警戒心を持っていて、彼がお祝いしよう!と言ってきてもウザいの一言で断ってしまった。まぁ、プレゼントとしてお菓子はもらったけど。 2年目は日本ダービーの後、あいつからグイグイやってきたから、仕方なしに学園外のファミレスで一緒に夕ご飯を食べた。その時も確かお菓子だったかな。 3年目は天皇賞(春)の後、アタシが無茶して倒れてからあいつに喝を入れてもらってしばらくしてから、その時は外食と花束をもらったっけ。せっかくだから、押し花にして1本だけ残してある。 今年は4年目、URAファイナルズも走りぬき、ようやく自分に自信が持てるようになってきた。今までもこれからも…いつか言った『一生』かけてアイツと寄り添いたいな。 ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・

2 21/06/10(木)23:41:34 No.811894824

そして6月10日、ナリタタイシンの誕生日がやってきた。 学園の正門でタイシンが待っていると、トレーナーが車でやってきた。 「よし、行くかタイシン」 「はいはい、エスコートはしっかりしてね」 シートベルトを締め、車が加速していく。ラジオからはトレーナーが好きな曲が流れている。 移動中、手持無沙汰なタイシンが隣を見ると、偶然トレーナーと目が合った。 「どうしたタイシン?」 「な、なんでもない!ちゃんと前見てなよ」 「ふふっ」 「~~~~~」

3 21/06/10(木)23:42:02 No.811895030

テレ顔のタイシンとトレーナーは海岸近くまで車を走らせる。 目的地はいつもとは違う水族館だ。 「ここ?」 「そ。いつも来てる所とまた違う魚がいるんだとさ」 「ふ~ん」 駐車場に車を止めて入館すると、目の前に広がる深い青。 「わぁ…」 「気に入ってくれたみたいだな」 「う、うん。びっくりした」 「よし、じゃあ行くか」 「うん」

4 21/06/10(木)23:43:37 No.811895619

腕を絡ませたタイシンとトレーナーがゆっくりと進んでいく。 小さな水槽にいる青いエビや間抜けな顔をしたチンアナゴ。ヒトデやイソギンチャクに餌を与えるコーナー、タカアシガニやダイオウグソクムシといった深海生物のコーナーを回って、ついた先は巨大水槽。 マンタ、シュモクザメ、そして世界最大の魚類であるジンベイザメが青い世界を飛び回っていた。 「おっきい…」 「世界最大の魚なんだって」 「へぇ…」 「…」 タイシンは悠々と泳ぐ魚たちに心奪われたようだ。その表情はまだ彼女が年頃の少女であることを思い出させると同時に、夢中になっている彼女にイタズラ心が沸いた。

5 21/06/10(木)23:44:03 No.811895793

「タイシン」 「なンムッ!?」 唇と唇を合わせる単純なキス。顔が離れると、彼女は顔を真っ赤にさせながらポカポカと可愛くトレーナーを叩いた。 「ははは痛っ、痛いぞタイシン」 「バカッ!あんたって本当にーーーバカッ!」 口ではそう言っているが、徐々に叩く手が止まり、トレーナーのおなかに頭をうずめるように彼を抱きしめるタイシン。 今あいつの顔を見れない、こんなだらしない表情を見せたくない。そんな羞恥心からタイシンはより一層両手の力を強める。

6 21/06/10(木)23:44:59 No.811896116

「ちょっ、タイシン、ギブギブギブ」 「あ、ごめん」 思ったより力を籠めすぎていたタイシンが謝ってすぐ、彼らは散策を再開した。たっぷり3時間はいただろうか、そろそろ日が傾きかけてきたころ、2人は再びドライブに勤しんでいた。 「楽しかったなタイシン」 「うん。たまには大きい方に行くのもいいかも」 「ふふっ、そうだな」 「それでトレーナー、次はどこに行くの?」 「山だ」 「山?」 「そ、山。英語で言うとマウンテン」 「山ね…楽しみにしてる」 「おう、期待しといてくれ。でもその前にご飯に行こう」 「うん。おなかペコペコ」

7 21/06/10(木)23:45:32 No.811896310

・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 「で、なんで焼肉なの?」 「ん?嫌いか?」 「嫌いじゃないけど…」 トレーナーがタイシンを連れてきたのは少しお高い焼肉屋だ。せっかくだからと奮発したのだ。

8 21/06/10(木)23:45:45 No.811896376

「さすがに水族館いった後に寿司屋行くわけにはいかないだろ?」 「…まぁ、そうだけどさ」 「焼けてきたぞ。ほら、食べろ食べろ」 「…うん、いただきます」 「いただきます」 「うん、美味い。やっぱり肉はいいな」 「あんまりがつがつ食べないでよ?消化に悪いんだから」 「あーそうだな。日ごろから言ってるもんな」 「まったく、それであんたが倒れたら世話ないでしょ」 「ははは、それにしてもタイシンは昔と比べて変わったな」 「ふふっ、あんたは全然変わらないね」

9 21/06/10(木)23:49:18 No.811897748

カルビにタン、豚バラやトリモモに舌鼓を打ちながら、2人の思い出を語る。 出会った当初はタイシンはトレーナーを信用していなかった。 正確には自分を信じれなかった故の行動だが、それでもトレーナーはタイシンを信じていた。 そこからビワハヤヒデ、ウイニングチケットの2人と一緒に様々なレースに出走し、ついには『BNW』と呼ばれるまでになった。

10 21/06/10(木)23:49:34 No.811897859

そして彼女の中で一番心に残っているのは菊華賞での出来事だ。 レースに勝つことができたものの、そのころはどんどん強くなっていくハヤヒデとチケットに焦りを感じ、無理な練習が祟って医者からは菊華賞の出走を取り下げるよう宣告されていたのだ。 そんな状態の中、彼女は走り切った、いや、『走り切ってしまった』。 結果、菊華賞は取れたものの、彼女の中では鬱屈した感情が爆発し、しばらくトレーニングに出なかったほどだ。

11 21/06/10(木)23:49:49 No.811897974

それでもトレーナーは彼女が戻ってきてくれることを信じて待った、何日も。 そして彼は賭けに勝ち、再び彼女がトレーニング場に現れたときは売り言葉に買い言葉ではあるが、彼女を一生信じると宣言したのだ。 この頃からタイシンも徐々にトレーナーに心を開いてくれるようになり、 URAファイナルズが開催される時期になると、ほぼパートナーと言ってもいいほど親密になっていた。

12 21/06/10(木)23:50:06 No.811898072

「いやぁ食べた食べた」 「ちょっと食べすぎじゃない?」 「そういうタイシンだって、最近食が太くなってきたんじゃないか?」 「そう?もう少し成長できるかな」 「俺は今のタイシンも好きだぞ」 「バカ、今そういうこと言わなくていいから」 「ははは。よし、じゃあ行くか」 「うん」 ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・

13 21/06/10(木)23:50:34 No.811898271

少し都会を離れた小高い山の展望台、そこに2人は立っていた。 辺りはもう暗く、空には満天の星が煌めいていた。 手を伸ばせばその煌めきを取れそうなほど近く、星が瞬いていた。 「わぁ…」 「ふふっ、水族館とおんなじ反応してるぞ」 「い、いいじゃんすごいんだから」 「ああ、すごいよな…。おっ、もう夏の大三角形が見えるのか」 「え?どこらへん?」 「ほら、あの――」 見渡す限りの星々を見ながら、あれがさそり座、あそこにヘラクレス座、とトレーナーが星座を指さしてタイシンが感嘆の声を上げる。 静かな夜の山には木々のささやきの他は2人の声だけが響いていた。

14 21/06/10(木)23:51:58 No.811898809

「ありがとう、トレーナー、ここに連れてきてくれて」 「満足してくれた?」 「うん。大満足。今までで一番の誕生日になった」 「そっか、それじゃあ、これを」 「プレゼント?」 トレーナーが渡したのは可愛くラッピングされた小包だった。 タイシンがその中から取り出したのは、アメジストがはめ込まれた銀のブレスレットだった。

15 21/06/10(木)23:52:28 No.811899013

「わぁ…きれい…」 「そのさ、もう今年で18になるだろ?」 「う、うん」 真剣な眼差しでタイシンを見つめるトレーナー、その表情につられてか、タイシンも姿勢を正しくした。 「タイシンはこれからも走るだろうし、俺もそれに付き添っていきたいんだ、もちろんその後も、一生かけて。 でも、現役時代でいる間は結婚はしないで、ウマ娘とそのトレーナーの関係でいたいんだ。 それまで待たせてしまうから、これを贈りたいんだ」

16 21/06/10(木)23:53:37 No.811899445

「…トレーナー、そんなキャラじゃないでしょ?」 「うっ、し、仕方ないだろう。こういう経験がないんだから」 「あははは。うん、そうだよね。あんたはいつも熱血だし、大声で話すし。でも、そんなあんただからこそ、アタシも一生かけて一緒にいたいよ」 「タイシン…受け取ってくれるか?」 「もちろん。ね、つけてよ」 「ああ。…タイシン、俺のお嫁さんになってくれるか?」 「…はい、不束者だけど、幸せにしてね」 タイシンの細い手首にゴツゴツシテいるトレーナーの手が重なる。 そっとタイシンの手首にはめられたブレスレットは星の輝きを受けて白く、紫色に、輝いていた。