虹裏img歴史資料館

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21/06/08(火)22:07:56 前回ま... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1623157676879.png 21/06/08(火)22:07:56 No.811209555

前回までです fu68640.txt

1 21/06/08(火)22:08:11 No.811209681

なんとか寮に帰ったシンボリルドルフ─ハルウララは、シャワーを浴びて寝る準備をしていた。 「うう…こわかったよぉ…。あのとれーなーにはもうあいたくないなぁ…。」 鞄に明日の用意を詰め込む。ニンジンパン、ぬいぐるみ、お気に入りの鉛筆。と、鞄の底にある者が存在することに気付いた。 「…あ、これ…。もってきちゃった…。」 みっちりと中身の詰まった茶封筒。もう一度中を覗くと、やはり学生が持つには不相応な額の現金が詰まっていた。 「うう…どうしよう…。すてる、のはだめだし…。ぶらいあんちゃんにそうだんしたらまたおこられちゃう…。」 あてもなく部屋をうろうろと歩き回りながら、封筒を握りしめる。シンボリルドルフにとってこの封筒は、まさに悪魔が宿っているように感じた。 「おへやにおいとく…ううん、こわい…。やっぱり、あしたるどるふちゃんにそうだんしてみようっと…。」 鞄の奥底に茶封筒を仕舞うと、その上から視界に入らないように荷物を重ねる。鞄を閉じ、シンボリルドルフはベッドに潜り込んだ。 しかし、その晩はずっと黒服のトレーナーのことを思い出して寝付くことができなかった。

2 21/06/08(火)22:08:26 No.811209809

【翌日】 早朝、トレセン学園の校門でシンボリルドルフとナリタブライアンが並び立つ。生徒会活動の一環である朝のあいさつ呼びかけの為だった。 「ふわ…。」 シンボリルドルフが大きなあくびをする。それを見たナリタブライアンは、呆れたように一瞥した。 「おい、会長の姿で間抜けな顔をするなよ。」 「う、うん…ごめんなさぁい…。」 「…昨日の事か。」 「…うん。けっきょくきのうはぜんぜんねれなかったんだぁ…。」 「まったく…このご時世にほいほい拐かされる奴がいるとは驚きだ。」 「うう…。」 「…仕方ないな。しばらくは一緒に帰ってやるから、さっさと忘れろ。あと、もう知らん奴にはついていくんじゃない。」 「うん…ありがとう…。」 まだ少しだけ肌寒い空気がシンボリルドルフを包む。しかし、冷えた空気が原因ではない謎の悪寒に身体を震わせた。原因は分かっている。早くあの封筒を手放したい、それだけばかりを考えていた。

3 21/06/08(火)22:08:48 No.811209965

~~~ 「昨日はすまなかったね。ウララは大丈夫だっただろうか?」 昼休み、僅かな時間を縫って生徒会を訪れていたハルウララ─シンボリルドルフに、ナリタブライアンは昨日の件について聞き出していた。 「ああ。まあ幸い怪我なんかはなかった。むしろ飯を食わせてもらっていたんだと。間抜けなもんだ。それと、いくらあいつが心配だっていっても不在着信を何十件も入れるな。」 「す、すまなかった…。しかし、そうか。無事だったか…。」 明らかに表情から緊張が抜ける。シンボリルドルフが連れ去られたと聞いてからずっと不安だったに違いなかった。

4 21/06/08(火)22:09:01 No.811210075

「…それで、ウララは今どこに?」 「朝の挨拶運動で仲良くなったウマ娘達と飯を食いに行っている。ずっとあいつに付きっ切りだとどうにかなっちまいそうだ。」 確かに2週間ほど前から比べると、若干やつれているようにも見える。それなりの心労がかかっているのは確かなのだろう。 「しかしブライアン、貴様と会長…ハルウララはなかなかいいコンビだぞ。」 エアグルーヴがにやりとしてそう言うと、ナリタブライアンは返すように睨みつけた。 「おい…いつまで私はあいつのお守りをしなきゃならん?」 「まあ、会長が元に戻るまでだな。」 「んなっ…冗談は休み休み言え!」 エアグルーヴとナリタブライアンが言い争う中、ハルウララはシンボリルドルフの事について考えていた。 (ふむ…一応無事とは分かったが、それでも放課後にでも直接話をしたいな…。)

5 21/06/08(火)22:09:21 No.811210235

~~~ トレセン学園には様々な施設が存在するが、その中でも最も人気が高いのは食堂だろう。 ありとあらゆる料理で、ウマ娘達の舌と胃を魅了するその施設はいつにもまして熱狂していた。その原因は、たった一人のウマ娘だった。 「か、か、会長と一緒に食事なんて…!わたし、感激です!」 「そうそう!最近クラスじゃ会長の話題で持ちきりなんですよ!今までももちろん素敵でしたけど、ここ最近ですっごく可愛くなったって!」 「はわわ…会長のお口周りについた米粒…!う、羨ましすぎるッ…!!」 沢山のウマ娘達が一つの机を囲む。その中央にはシンボリルドルフがいた。 周りのウマ娘達が皆楽しそうに食事をしていたが、当のシンボリルドルフ自身はやや気落ちしていた。今日のご飯である大盛りのニンジン天丼を箸で突いては、ため息をするばかりである。 (ごはん、おいしくない…。ずーっとふうとうのことがきになって…。やっぱりせいとかいしつにいけばよかったかなぁ…?)

6 21/06/08(火)22:09:41 No.811210415

「…あの、会長?私たちと食べるご飯…楽しくないですか?」 シンボリルドルフの表情に気付いたウマ娘が、顔を覗き込みながら問いかける。 「えっ、う、ううん!すっごくおいしーよ!ほら、こーんなにたべちゃうよぉー!!」 急いで笑顔を作ると、丼を持ち上げてかきこんだ。 「わぁ~!!会長すっごーい!!」 「食べるだけでカワイイなんて…アッちょっと高まってきたウッ…!」 ギャラリーが食べっぷりに沸いていると、また一人のウマ娘が騒ぎを聞きつけやってきた。 「あれっ、カイチョーじゃん!食堂でご飯なんてめずらし~!!」 声の主─トウカイテイオーが、お盆を持ったままシンボリルドルフに近づき、そのまま隣の席に座った。 「ね、ここボク座ってもいいよね?」 「アッそこはもう会長のお隣なんて恐れ多くて空けていただけなのでハイ全然、というかトウカイテイオーさんも来るなんてこれは眼福ですよォ~!!」 「あ、そう、ハハ…。」

7 21/06/08(火)22:09:54 No.811210504

周りと少しだけ熱量の方向が違うウマ娘から許可をもらうと、トウカイテイオーはお盆を机に置く。盆の上の皿からはまだ湯気が昇っていた。 「ね、カイチョーは今日何を食べているの?天丼かぁ~、僕はねニンジンカレーだよ!これがまた美味しくてさぁ~!」 相変わらず表情をコロコロと変えながら楽しそうにカレーを頬張る。「んん~っ」と美味しい唸りをあげると、トウカイテイオーに笑みがこぼれた。 「わぁ!ていおーちゃんのもおいしそーだねっ!ウララのと、ひとくちこうかんしよーよ!」 「ん、いいよー!カイチョーの天丼も気になっていたんだー!」 テイオーがそう言うと、さっとスプーンを動かして大きめの天ぷらを器用に掬い口に運んだ。さくさくと軽快な衣とじゅわりと染み出る甘いニンジンの味わいに、また唸りをあげた。 「ん~!これすっごくおいしーね!じゃ、カイチョーにもあげる~!はいあーん!」 差し出されたカレーの乗ったスプーンを、シンボリルドルフはそのままぱくりと咥えた。 「んっ…おいひ~!」 「でしょ!このカレー美味しくってさ…。あ、そういえばさ。」 トウカイテイオーがカレーを食べながら話を続ける。

8 21/06/08(火)22:10:10 No.811210623

「昨日の夜、カイチョー誰かと一緒にいたよね?で、ビルの中に入っていってさ、あれ何していたの?」 「っんんううん!!!!!」 余りにも唐突だったため、勢い余って喉に詰まりそうになる。どんどん、と胸を叩いて何とか飲み下すと、水を思い切り飲み干した。 「っはぁー…て、ていおーちゃんなんでしってるの…?」 「なんでって、昨日帰りに見かけただけだけど…カイチョーに話しかけようとしてさ、でも他の人がいたからやめたんだよね~。」 「う…あ、えっと!ご、ごちそーさまでした!!」 そう言って立ち上がると、シンボリルドルフはその場から走り去った。余りにも迅速なその動きに、周りのウマ娘達もしばらくの間何が起きたのか反応できなかった。 唯一トウカイテイオーが去っていったシンボリルドルフの後ろ姿を呆然と眺めていた。 「な…どうしちゃったんだろカイチョー…。」

9 21/06/08(火)22:10:27 No.811210756

~~~ 少しずつ昼と夜の境が長くなっていくからだろうか、シンボリルドルフにはいつもより夕陽がゆっくりと動いているように見えた。 放課後、待ち合わせ場所の校舎裏で待っていると、果たして相手が現れた。 「ウララ、待たせたかな。」 小さな体躯が視界の下側でぴょこぴょこと動く。ハルウララが、少し息を切らしながらやってきた。 「あ…違うぞ、これは廊下で走った訳じゃなくて、競歩という奴さ。」 まだ何も言っていないのに、汗の理由について弁を立てるハルウララに、シンボリルドルフはつい笑った。 「ふふっ…わかってるよ。るどるふちゃん、そんなことしないもんね。」 「はは…ウララに言われると面目ないな…。」 恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻く。

10 21/06/08(火)22:10:41 No.811210879

「そうだ…今日は何の用かな。と言っても、実は私も近いうちに話がしたかったんだ。」 「…それって、やっぱりきのうのことで?」 「ああ。…正直ウララが居なくなったと聞いたとき、気が気でなかった。私の身体がどうにかなるのではないかという不安ではなく、君という友の身に危険が降りかかっていないか、心配だった。」 「…るどるふちゃん…。」 「だから、こうして何事もなく戻ってきてくれたことに何より安心しているんだ。」 ふふ、と微笑みながら、裏口のドアにつながるコンクリートの会談に腰掛けた。釣られて、シンボリルドルフも同じようにハルウララの隣に座る。 「どうか、身の危険を感じたら直ぐに逃げてほしい。周りの人に助けを求めてもいい。だから、無茶だけは…しないでくれ。以前の私のようには、ね。」 ハルウララが真剣な眼差しでシンボリルドルフを見た。その深い瞳孔に吸い込まれそうな感覚になった。

11 21/06/08(火)22:10:52 No.811210962

「…あのね、るどるふちゃん。じつはそうだんがあって…。」 シンボリルドルフがそう言った瞬間、ハルウララのスマートフォンが鳴る。ハルウララはすぐさま電話に出た。 「…私だ。ああ。…分かった、すぐ戻る。」 短い通話の後、電話を切るとふうっとため息をついた。 「…すまない。至急の用事が出来てしまった。一方的に話してで申し訳ないが、今日はもう戻らなければならない。相談は明日でも大丈夫だろうか…?」 「………うん。わかった。じゃあ、あしたまた、ほうかごに…。」 「…すまない。じゃあ、また明日。」 ハルウララは駆け出し、生徒会室へと戻っていってしまった。

12 21/06/08(火)22:11:04 No.811211045

~~~ 「うら~…うらら~…。」 ナリタブライアンと共に帰るため、そのまま校舎裏で地面に石で落書きしながら時間をつぶしていた。 この身体で学園内を歩き回ると生徒に声を沢山かけられてしまう。普段ならそれも歓迎だが、今日ばかりは鞄の中身がそういう気持ちにさせはしなかった。 「けっきょくだれにもいえなかったなぁ…。」 大きなニンジンを描きながら呟いた。と、その時、シンボリルドルフのスマートフォンが鳴り響いた。 「…!? だれからだろう…。」 非通知での電話。応答のボタンを押し、耳に押し当てる。 「…はい。」 『どうも、昨日ぶりでございます。昨晩お食事させて頂いた者ですが。』 聞いたことのある声。あまりの衝撃にスマートフォンを落としそうになる。

13 21/06/08(火)22:11:16 No.811211134

「な…なんであなたがでんわばんごうしってるのっ!?」 『ホホホ…私の人脈ですよ。貴方ほどの有名人なら比較的容易に電話番号を手に入れられますから。』 「…ウララ、ぜったいわざとまけたりなんてしないから…!」 『ああ、その件はもうよろしいですよ。貴方も中々強情なのは昨日よく分かりましたから。今日お電話差し上げたのは別件ですよ。』 「べっけん…?」 『貴方、昨日封筒を持ったまま逃げ出したでしょう?アレを返していただきたいのですよ。貴方にとっても厄介でしょう?学生が不相応の現金を持っているなんて、見つかれば面倒なことになりますから。それとも、受け取ったからにはやはり負けていただけるので?』 「そ、そんなことないもん…!」 『でしょうね?ですから、明日指定した時間と場所に合わせて、封筒を持ってきていただきたいのですよ。なに、返してさえいただければもうお電話もしません。どうですか?』 シンボリルドルフはぐるぐるとその場を周り考える。どうすれば解決するのか一生懸命模索するも、やはりこの慇懃無礼な男の言う通りにする他なかった。

14 21/06/08(火)22:11:38 No.811211297

「…わかった。そのかわり、もうにどとでんわしないで…!」 『ホホホ、随分嫌われてしまいましたね?よろしい、では今から言う場所と時刻に持ってきてくださいね。場所は─』 シンボリルドルフは、持っていた石でそのまま地面に場所と時刻をメモする。 『それでは明日、約束通りに。お待ちしておりますよ。』 それだけ言うと、ブツリと電話が切られてしまった。 ~~~ 「さて…これで仕込みは完了、と。」 暗い部屋の中、デスクトップのPCのモニターの光が、黒服のトレーナーの顔を照らしていた。 「それじゃあ次は…こいつか。」 おもむろにダーツの矢を取り、壁に投げる。ドスリ、鈍い音を立てて刺さった先には、トウカイテイオーの大阪杯でのウイニングライブの写真があった。 「ま、当初の計画からは少しずれるが、むしろ好都合だ。この帝王サマには、せいぜい俺の駒になってもらうか。」 くっくっく、と怪しく笑う声が、部屋の中に響き渡っていた。

15 21/06/08(火)22:12:37 No.811211704

テイオーにもかわいそうなことをするので?

16 21/06/08(火)22:13:01 No.811211862

次回に続きます。 モブAグネスDジタルの描写って難しいですね。

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