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ごぽり... のスレッド詳細

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21/06/07(月)22:12:45 No.810883748

ごぽりと口から出ていく気泡の群れを追って、空を見上げた。 頭上には月明かりを受けた水面が、キラキラと輝き揺れている。 (あぁ、中々いい眺めじゃねぇか……) 水底から眺める夜の屋内プールは、最期に見る景色としちゃ風情がある。 それにプールの水底は、案外気持ちが良い。 最初は苦しかったが、酸素不足の今は頭がぼーっとして悪くない。 二度とトレちゃん……トレーナーとスズカがキスをしている場面を見ずに済む。 懇ろに肩を寄せ合い、オレにだけ見せていた笑顔を他の女へ向けるヒトを。 やっと気が狂いそうになる胸の痛みと眠れない夜から解放される。 それを思えば命なんて安い物に思えた。

1 21/06/07(月)22:15:21 No.810884910

(このオレがトレーナーを失ったショックで、身投げするなんてな……) 勝負服が冷たいプールの水を吸いながら、視界の端を揺蕩う。 昔トレちゃんが綺麗だと褒めてくれた黒金色も、喪服にゃ誂え向きだ。 重い蹄鉄入りのシューズが水底に身体を固定し、華のように揺れる。 まだ浅い場所だが、背のないオレを沈めきるには十分な水深だ。 もう肺に空気は残ってない、上に逃れる気力も体力も、意思すらも。 思考に霞がかかってくる。 週明けには何処かのウマ娘が、オレを見つけるだろう。 みんなはオレを失恋で死んだ間抜けだと、笑ってくれるだろうか? 威張り屋で素直じゃない嫌な奴が死んでくれて清々したと。

2 21/06/07(月)22:15:57 No.810885175

……いや、こんな死に方だと、ゴルシ達も色々と言われるだろう。 間違いなくオレ専属のトレちゃんは周囲から責められる。 遺書は残してない、流石に女々し過ぎると思ったから。 けど逆にそれが弁解の余地を失わせてしまうかもしれない。 理由も分からないまま、監督責任を問われるトレちゃんの姿は。 いやにハッキリと想像できてしまう。 責める輪の中に、怒り心頭なフェスタ達も何故か居た。 (あぁごめんな、トレちゃん……オレ、最期まで迷惑、かけちまった) 今頃になって過ちに気付くが、もう遅い。 最期まで自分の事ばかりな失望を抱えながら、オレは目を閉じた。

3 21/06/07(月)22:16:29 No.810885415

「リョテェエェェェ――――ッ!!」 .

4 21/06/07(月)22:17:50 No.810885961

朦朧とする意識を醒ます、派手な水音と聞き慣れた男の声。 瞑っていた目を開けば、オレの目に飛び込んできたのは…… (バッ!? なんでトレちゃんが居んだよ!?) 胸中の疑問を他所に、トレちゃんはオレの身体を抱きかかえた。 そのまま引っ張り上げようとするも、出来る訳がない。 こっちの両足にはトレーニング用の蹄鉄がついている。 人間の力で持ちあがる筈もない。 普通に考えりゃ分かる事だ、諦めて見捨てればいいのに。 (それなのに、なんでお前は……ッ!!) 必死になってるバカ野郎を睨みつける。 けど全く気付かず、オレを助けようとし腐りやがって。

5 21/06/07(月)22:19:20 No.810886620

ビクともしない異常事態に、やっと蹄鉄に気付いたのだろう。 海月のように浮かぶスカートの下に飛び込み、靴紐を一瞬で解かれた。 普通、レース用のシューズは特注で簡単に脱げない仕組みだ。 これがもし他の奴なら、水中で紐解くなんて無理だったろう。 けど今この場に居てくれたのは、 「――――ぶはぁッ! はぁ……はぁ……大丈夫かリョテイ!?」 「ゲホッ、ゲホッ……ぉ、ぉぅ」 水面から顔を出し、新鮮な空気に二人して咽る。 そのままトレちゃんに曳航され、マグロみてぇに床へ引っ張り上げられた。 もう抵抗する気力も体力もなく、成すがままにされる絵面は間抜けすぎる。 せめて顔を背けようとするも、肩を捕まれた。

6 21/06/07(月)22:20:26 No.810887050

今まで見た中で一番マジな目で、オレを正面から睨みつけている。 瞳の端を濡らしてんのは、プールの水だけじゃない。なんだよ、お前……。 「何やってんだ! あんなの履いてたら死ぬ「……んでだよ」……へ?」 戸惑うトレちゃんを無視し、濡れたシャツの襟を締め上げる。 鼻の奥がつんとする、唇が震える、それでも言わずにはいられない。 「なんで、なんでいつもオレを助けに来んだよぉ……」 お前、今バカの巻き添えで死ぬところだったんだぞ。 何回、オレの溺れた振りに騙されてきたんだ。 いい加減学習して、見捨ててもいい頃合いじゃないか。 嗚咽混じりにトレちゃんを詰り、胸を叩く。

7 21/06/07(月)22:20:57 No.810887269

溺れた所為もあり、ほとんど力は入らない。 取り押さえることも出来ただろうに、トレちゃんはしなかった。 無抵抗のままオレの声が掠れて、ただの呻きになるまで聞き届け、 「俺がお前を助けるのは、トレーナーだからだ」 「……今はスズカの、だろうがよ」 吐き捨ててやるが、トレちゃんは『なんでスズカ?』と首を傾げていた。 気付かれていないとでも思ってんのか、察し悪すぎだろこのバカは。 気勢を削がれ、ついでに鼻で嗤ってやる。 「そもそもお前は目の前で困ってる奴がいたら誰だって助けるだろ」 「……ん、まぁ否定はしないよ」 バツが悪そうに視線を逸らし、頬を掻く。

8 21/06/07(月)22:22:01 No.810887688

でもすぐに真面目な表情でオレの顔を見つめる。 「でも俺はキンイロリョテイに惚れこんだ、そんなトレーナーなんだ」 ――――オレに惚れた。 そんな一言に背筋とウマ耳が跳ね上がる。 絶対にそういういう意図じゃない、それは理解してる。 でも頬が熱くなり、冷えた胸が脈動するのを止められない。 動揺するオレに気付かぬまま、トレちゃんは続ける。 「リョテイは……猫だ、選抜レースを一目見た時にそう感じた」 「なんだそれ」 意味が分からない。気まぐれで、我儘とでも言いたいのか?

9 21/06/07(月)22:23:08 No.810888180

訝しむオレに、トレちゃんは違うと首を振りつつ苦笑した。 「初めて会った選抜レースのこと、憶えてるか」 「……んな昔の事、とっくに忘れちまったよ」 「そうか。けど俺はバカだけど、今でもハッキリ憶えてるよ」  ・ ・ ⏰ ・ ・ 芝、二四〇〇。 先頭集団が第三コーナーの坂を抑えて下る。 トップを走るウマ娘達の後ろで、お前はダラダラとキープしてたよな。 大外から捲って来た子や後続が溜めた脚を爆発させても何処吹く風。 むしろ面倒臭そう顔をしてたよ。 というかラチに寄って、手を抜こうとしてたろ。外で見てたら分かるぞ、アレ。

10 21/06/07(月)22:24:26 No.810888736

そのままじりじりと続いて、第四コーナーに差し掛かった。 けど二番争いしてた子らが少し隙を見せた瞬間、目の色が変わったな。 ずっと残してた余力をちょいと吐き出して、すっと猫のようにすり抜ける。 なぁ大外から一気にトップへ立ったウマ娘に気を取られるの狙ってたろ? 意表を突かれてペースを乱された彼女達を尻目に、お前は躍り出た。 結果は惜しくも二着。 なのにお前は少しだけ笑って、すぐ真面目な顔で悠々と場を後にした。  ・ ・ ⏰ ・ ・ 「運命の出会いを、俺は感じたよ」 「…………」

11 21/06/07(月)22:24:54 No.810888951

「負けず嫌いで、レースセンスはバツグン。スタミナも完璧な逸材だって」 それに目を奪われて一着の子を忘れた、とトレちゃんは苦笑した。 ついそいつの名前を言いかけて、口を噤む。 忘れる訳ないだろ、このオレが。 あの頃、上の連中から、やる気のなさを理由に退学をチラつかされてた。 でも適当に流してたオレのとこに駆け寄って来るや否や、 『君に合わせるから、俺と組もう!』 目ん玉キラキラさせるバカに、呆れた。 何処に指導方針をウマ娘に丸投げする奴がいる。 でも都合の良い、騙しやすそうな腰掛だと、そう思って組んだ。

12 21/06/07(月)22:25:14 No.810889114

……そう、ただの利用道具。 気に食わなきゃ、いつでも捨てられるって、そう思ってたのに。 こっちの気も知らず、ふっと息を抜いてトレちゃんは笑った。 「で、組んでみたら、やっぱり思った通りだった」 「性格が悪くて、すぐトレーニングをサボろうとする困ったウマ娘って?」 違うよと首を振り、じっとオレの目を見据えた。 「タフで、気位が高くて、仲間には優しい猫みたいな奴ってことさ」 「お前、今までオレの何を見てきたんだ? 全然違うだろ」 怒りを通り越して呆れる。見当違いも、ここまで来れば才能だろう。 オレのは負けず嫌いで、サボり屋で、威張り腐ってるだけだ。 そう目で訴えても、首を振って取り合わねぇ。

13 21/06/07(月)22:26:54 No.810889852

「リョテイはさ、芯が強いから本当にしんどい時ほど無理をする奴だ」 「…………」 「誰にも弱い所を見せずに、一人で解決するタフなウマ娘」 そこで言葉を切り、トレちゃんはヘラっと笑った。 まるで胸に収まるオレを安心させるかのように。 「そんなリョテイとやっていきたいって思ったんだ。だから何回でも飛び込むさ」 「……それで何回騙されて、濡れネズミなったと思ってる」 「百万回騙されたって、百万一回目が本当に助けが要る時かもしれないだろ?」 ――――だったらさ何度だって、リョテイのために飛び込むよ。 そう言って、トレちゃんはオレの頭を乱暴に撫でた。 バカじゃねぇの? こんな性格じゃ、社会に適合できるわけがねぇ。

14 21/06/07(月)22:27:00 No.810889891

いい幻覚だ…

15 21/06/07(月)22:27:56 No.810890341

けど、それよりも更にバカなのは 「――――……ッ!! ぅ、うぅぅぅ……っ!!」 「お、おい」 泣き顔を見せたくなくて、トレちゃんの胸元に強く強く顔を埋める。 真のバカは、言葉通り意地を張って泣きが入った所を助けられた、オレだ。 唇を噛み、泣き声を殺そうとするが、それでもなお嗚咽が漏れる。 「俺はリョテイの助けになるなら、なんだってやるぞ」 無様に震える肩にトレちゃんの手が置かれ、優しく撫でていく。 ひたすら惨めな筈なのに、胸の痛みが抜けていくのが分かった。 顔をぐいと押し付け、鼻から息を吸い込む。

16 21/06/07(月)22:28:36 No.810890616

「……なら、今はこのままで居てくれよ」 左右に顔を振って額を擦り付けながら、くぐもった声で告げる。 軽く背を二度叩かれる、オーケーという事なのだろうか。 冷たいシャツの感触の下に、トレちゃんの体温を感じる。 耳を澄ませば、規則正しい心音が。 背中には子供をあやすような優しい手の感触があった。 離れたくない、傍に居て欲しい。 だからトレちゃんを必死で抱き寄せ、身体に縋る。 「他はどうだ? 何かないのか?」 頭上に降りかかるトレちゃんの声に、つい身を竦ませる。

17 21/06/07(月)22:30:15 No.810891307

声色からは悩みを打ち明けてくれという意図が見えた。 なら応えは簡単だ――――サイレンススズカと別れてくれ。 そして、これからはオレだけを見て欲しい。 そう伝えるだけで、全ての悩みが解決する。 何でもする、そう言ったのはあっちだ。 そして一度口にした事を反故にする様な男じゃない。 確実な勝利が手元に転がり込んだ安堵に、つい頬が緩む。 ゆっくりと顔を上げ、男の顔をじっと見つめる。 こっちの内心なんざ何も知らない、間の抜けた優しい表情。

18 21/06/07(月)22:30:40 No.810891478

レースには降着ってのもあるんだぜ? 知らなかったか、スズカ。 心のつぶやきをおくびにも出さず、唇を舐めた。 塩素とトレちゃんの匂いが満ちる。 小さく息を吐き、意を決して口を開いた。 「オレの願いは――――」

19 21/06/07(月)22:33:58 [3000/10000] No.810892845

三女神がこうしろと囁いた、許せ 何度騙されても必ず飛び込むバカ こんなリョテトレが解釈違いかもしれないので失礼する

20 21/06/07(月)22:34:34 No.810893095

分量増やしてんじゃねーよ!!!!

21 21/06/07(月)22:34:37 No.810893113

残弾数が増えてる…

22 21/06/07(月)22:34:38 No.810893120

それでも別れてくれとは言えないんだ……

23 21/06/07(月)22:35:35 No.810893588

遠距離適正が上がりすぎでは?

24 21/06/07(月)22:35:57 No.810893750

絶対言えないやつやんけ~~~~~

25 21/06/07(月)22:36:02 No.810893781

>何度騙されても必ず飛び込むバカ リョテイの心を傷付け続けてるのにね!

26 21/06/07(月)22:36:29 No.810893967

失礼するな

27 21/06/07(月)22:37:02 No.810894200

書き込みをした人によって削除されました

28 21/06/07(月)22:38:32 No.810894827

残り7000を出してから失礼しろ

29 21/06/07(月)22:39:34 No.810895242

まだ終わってねえぞ!

30 21/06/07(月)22:41:24 No.810895973

オヤジ!リアクション的に本当に見間違えだったんじゃないかオヤジ!

31 21/06/07(月)22:41:48 No.810896133

おい待てェこの前は9000だったじゃねェか

32 21/06/07(月)22:41:52 [s] No.810896169

>分量増やしてんじゃねーよ!!!! ごめん後は3000字だけなんだ 増えたのはトレちゃんがリョテイに惚れこむ説得力補強のレース場面だ

33 21/06/07(月)22:42:57 No.810896599

言えー! 言えー!

34 21/06/07(月)22:44:05 No.810897037

抱けー! 抱けー!

35 21/06/07(月)22:44:57 No.810897405

>>何度騙されても必ず飛び込むバカ >リョテイの心を傷付け続けてるのにね! どうしてさっさと告白しなかったのかしらね? 不思議よねスぺちゃん

36 21/06/07(月)22:48:52 No.810898880

スズカさんのせいじゃないんですか?!

37 21/06/07(月)22:52:06 No.810900137

とても好きだから次も待ってる…

38 21/06/07(月)22:52:23 No.810900256

失ってから気づくものもありますしそこから巻き返せるのはすごいと思いますよ…

39 21/06/07(月)22:52:49 No.810900448

ウソでしょ…知らないところで当て馬にされてる…ウマだけに…

40 21/06/07(月)22:55:16 [マスクド三冠バ] No.810901370

普通オヤジの男に手を出すウマ娘が居るとは思わないっス

41 21/06/07(月)22:56:46 No.810901999

>普通オヤジの男に手を出すウマ娘が居るとは思わないっス スズカ位なもんだよな

42 21/06/07(月)22:57:01 No.810902115

まあなんというか 告白して付き合うのが終わりって訳じゃないんだからその後何がおころうとも不思議ではないけども…

43 21/06/07(月)22:57:41 No.810902366

続きがめちゃくちゃ気になるやんけ~~~~

44 21/06/07(月)22:59:37 No.810903081

付き合い始めてから本番だよな

45 21/06/07(月)23:05:43 No.810905548

まあ冷静に考えたら担当が一人立ちしてないのに教え子のライバルと付き合うとか常識が無いなんてレベルじゃないから普通に勘違いだろうか

46 21/06/07(月)23:05:43 No.810905549

付きっきりで介護されるリョテイとデートでキスしたスズカ! ある意味付き合っているのでは?