虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/06/04(金)01:42:15 No.809550160

     まだまだ続く休憩の時間。下らない雑談を交えながら私たちは浜辺で遊んでいる。私は水着だから良いとして、付き合わせたトレーナーの方を見てみよう。 「あはは、トレーナーびしょびしょだ」 「君がやったんじゃないか、笑いおってからに! まあ……いいや。日差しもすごいし、どうせ乾くっしょ」  聞き覚えのある独特の語尾に、私の耳がぴくんと跳ねた。 「あれ、トレーナーって北海道出身だったの?」 「ん、そうだけどどうして?」 「なになに~っしょ、って言ってたからさ~」 「スカイって北海道にゆかりあったっけ?」 「んー? どうだろね~?」 「いやいや、渋るような箇所かい」 「女の子には秘密があった方が良いって思わない?」 「なるほどね。確かに男の子には要らん気もするな」 「んじゃさ、トレーナーのシャツが乾くまで……トレーナーのこと聞かせてよ?」 「んじゃさって、なんかおサボりムーブに誘導されてるような気がするんだけど」 「あはは、気にしない、気にしない」

    1 21/06/04(金)01:43:01 No.809550315

     寄せては返す波のコーラスをBGMに、彼の話を聞く。面白くない訳じゃないんだけど、あまりに真面目な語り口なもんだから。 「……あふ」  勝手にあくびが漏れてしまって、トレーナーはちょっとばかし不満そうに口を尖らせた。あちゃ、やっちゃった。茶目っ気ついでに舌を出して謝る。 「ごめんね、でちゃった」 「ねえスカイ、ひどくない?」 「だってあんまり劇的じゃないんだもん」 「うるせ。大抵のひとはそんなもんでしょ。君から聞いてきたんだから興味をもって聞きなさいよ」 「にゃはは、ごめ……わっ……!」  海の向こうから吹いてきた強い風が、私の麦わら帽子を拐おうとする。 「おっと」  ぱふ、と帽子の上に何かが乗っかる。たぶん、トレーナーの手のひらだ。 「せっかく君のために作ったのに、どっか飛んでったら普通に悲しいからね」  帽子の上の重みが無くなって、視界の縁に彼の指先が映り込む。やっぱりあってた、閉じてた唇がふわふわしてきて、思わずにやけてしまいそうになる。 「ん、ありがと」

    2 21/06/04(金)01:44:05 No.809550489

    「あと、さ」 「なあに、トレーナー」  これ、着ないか。私の行く手を通せんぼするみたいに、ずい。やたらぶっきらぼうに突き出された彼の腕には、うすみずいろの布切れ、じゃなくてカーディガンが握られていた。 「もしかして、日焼け気にしてくれてるの?」 「や……その、なんだ」 「なあに、言いづらいことなのかな~?」 「……目のやり場に、困るから」  そういえばトレーナーは合宿でのトレーニングが始まってからずっと、妙にそわそわしていたのを思い出した。なるほど、そう言うことだったのか。本当にむっつりというか、なんというか。 「わー、んふふ……」 「何、そのいやーな笑い。怖いんだけど……」 「そんな目で見てたんだなあって思って」 「そ、そういう訳ではないんだけど」 「すけべ」 「すみません……」 「にゃはは。ま、仕方ありませんなあ。羽織ってあげましょ」

    3 21/06/04(金)01:44:30 No.809550563

     やっぱりトレーナーはだめなひとだ。女の子に向かってこんなこと言えるなんて、ずれてるとしか思えない。恥ずかしさが頬をのぼっておでこも通りすぎて、耳の先にまで到達して、顔が熱くて仕方ない。  まったく、困ったひとだなあ。手渡されたカーディガンを肩に掛けるようにして羽織る。袖を通すまではしない。本当に暑いし、それにたぶん。  「……こーいう着方すきだったよね~?」 「……もー! 何回からかえば気が済むんだよ!」 「にゃはは、怒っちゃだめだよトレーナー、」 「じゃあ拗ねるけどいいのか?!」 「それも困るなあ……んふふ、ごめんってば」  トレーナーをからかうのは楽しい。照れさせられた私のきもちも彼を弄れば自然と落ち着く。彼の脇腹を指先でつつく。こちょばしそうに身をよじる姿に、小さい頃に見た、理想の風景が重なる。夢が、叶ってるのかな。そう思うと、もっと要求したくなってしまって、私のからだは勝手に動く。

    4 21/06/04(金)01:45:14 No.809550700

    「ん」 「はいはい」  ほとんど無言で差し出した私の左手が、ぎゅっと握り締められる。やっぱり、私はずるい子だ。察してくれることを期待してトレーナーに甘えてるんだから。それに応えるトレーナーもトレーナーだ。たまにはビシッと叱ってくれないと、しなだれかかるのが癖になってしまう。 「トレーナーってどの女の子にもこんなことしてるの?」 「そんな不埒なマネ出来るわけないでしょ、俺は小心者だぞ」 「え~? 本当かねえ~?」  「もう少し歩いたらトレーニング再開するぞ」 「やだやだ、もうちょっと休憩していこうよ」 「駄々捏ねないの。休憩スタートの時に押したストップウォッチのカウント、見たいかい?」 「ちぇ~、はいはい分かりましたよ~」  しぶしぶな感じを演出すると、呆れたような微笑みと吐息がトレーナーの口から漏れた。 「じゃ、もうちょっとだけ歩こうか」

    5 21/06/04(金)01:45:41 No.809550778

     トレーナーの素敵な誘いに私はこくんと頷いて、エメラルドブルーにきらめく真夏の海岸線を、手を繋いだままゆっくり歩く。こんな休憩の時間が、束の間の一時がこんなにも楽しいなんて、きっと昔の私は思わなかっただろう。麦わら帽子を押さえながら、空の向こう、水平線の遥か先を見た。 「きれいだね」 「そう、だな」 「また、きたいね」 「連れてくるさ、また」  来年な、と彼は笑いながら呟く。  じゃあさ、私も笑いながら答える。 「このまま、連れていってね」  私をもっと、もっと遠いところまで。 「ああ、もちろん」  トレーナーは自信満々に頷く。澄んだ瞳で嬉しそうに私を見つめる。なんでだろう、そんな仕草にひどく安心して、自然と口元が緩んだ。

    6 21/06/04(金)01:46:01 No.809550849

     いつか、抱き寄せてくれるかな。海は何も答えてくれないから、ちらりトレーナーの横顔を見た。私をスカウトしてくれたあのときと、ひとつも変わらない真面目な顔。ほんのり汗ばんだ手から伝わる、骨っぽさとゆるやかな温もり。それだけで、不思議なくらい幸せに思えて、嬉しくなって。これまでよりもっと、来年の夏が楽しみに思えた。 「なあ、スカイ。どこまで歩きたい?」 「そだねえ……」  ずっと遠くまでいきたいな。  本当はそう言いたかったけど、告白みたいで恥ずかしいから言うのはやめた。  今はまだ、そこの岩場のあたりまででいいや。  それだけで、割と幸せだから。

    7 21/06/04(金)01:48:37 [s] No.809551354

    重たい幻覚ばかり浮かんできてしんどくなったのでround tableの潮騒を聞いたら見えた幻覚を出力 毎回被ってごめんね

    8 21/06/04(金)01:49:30 No.809551465

    スカイ供給ありがたい…

    9 21/06/04(金)01:50:55 No.809551719

    いい湿度だ…

    10 21/06/04(金)01:52:03 No.809551934

    幻覚もっと見てください