虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/06/01(火)22:46:04 No.808865339

    前回までです sp91540.txt

    1 21/06/01(火)22:46:32 No.808865537

    ─目の前に垂れ下がった救いの蜘蛛の糸。 喜んで掴んだそれは、あまりにも脆く。 既に外は暗く、肌寒い木枯らしが吹いていた。その夜道をとぼり、とぼりと、その身の丈を超えるような大きなズタ袋を背負い、一人のウマ娘─ハルウララが歩いていた。 そうして、美浦寮へと辿り着くと、裏手に周り茂みに隠れた。人気が無いことを確認すると、袋をひっくり返した。 途端に袋の中から幾つもの小さな砂袋と、砂まみれのウマ娘─シンボリルドルフが転がり出てきた。

    2 21/06/01(火)22:46:44 No.808865607

    「うへぇ…またすなまみれだよぉ~…」 シンボリルドルフは不満げに言うものの、目線はもう1人のウマ娘に向けられていた。 「…るどるふちゃん、だいじょーぶ?さっきのたきおんちゃんのはなし、きいてからずっとおちこんでるよね…?」 ハルウララ─シンボリルドルフは、傍から見ても憔悴し切っていた。目には微かの光もなく、濁った瞳が右へ左へと寄る辺なく動く。 「…あぁ…いや…そうだな…。」 肯定とも否定ともつかぬ返事にやきもきするが、シンボリルドルフ─ハルウララから返事を催促することは到底出来なかった。 「…そっか…。」

    3 21/06/01(火)22:46:57 No.808865674

    来た時と同じように、シンボリルドルフの部屋と外を縄で繋ぐ。 目立たぬように緩く閉めていた窓に、これまた見えないように括りつけた長いミシン糸。それを引っ張って、窓を開く。 長縄の先にフックを結び、カウボーイの容量で窓辺に引っ掛けた。 「…さぁ、これを登るんだ。私の……いや、"シンボリルドルフ"のトレーナーが戻ってくる前に…。」 シンボリルドルフは、はじめはそわそわとハルウララの方を見るばかりだったが、しばらくすると観念したようにロープを伝い部屋まで登っていった。 窓辺を乗り越えると、フックを外し外へ投げる。ぼさり、と茂みに落ちたロープの先を、ハルウララはたぐってまとめ、塊になったロープを鞄につっこんだ。 「…それじゃあ…。」 その先の言葉は無く、ハルウララは俯いたままその場を去っていった。 「…るどるふちゃん…。ううぅ…。」 シンボリルドルフは部屋に戻り、ベッドに潜り込んだ。暖かいはずの布団の中は、なぜだかとても冷たく感じた。

    4 21/06/01(火)22:47:31 No.808865888

    栗東寮の寮長であるフジキセキは、寮の前で一人のウマ娘を待っていた。 「授業を途中で抜けて、そのまま戻ってこないなんて…何も無ければいいけど…。」 ハルウララが日中起こした事件─授業中に教員トレーナーを突き飛ばし、そのままどこかへ行ってしまったことは、フジキセキの耳にも入っていた。 「ポニーちゃんたちのメンタルケアも寮長の役目とはいえ…今までそんな兆候は見えなかったんだけどね?」 そう言いながら寮の前をうろついてると、とっ、とっ、と小さな足跡と共に、小柄なウマ娘の影が迫ってきたのが見えた。 「こら、ハルウララちゃん?授業中に抜け出すなんて、なにか悩み…で、も…。」 そこまで言うと、フジキセキはぎょっとして動けなくなった。目は虚ろに、歩き方も重心が定まらないような歩調で今にも倒れてしまいそうだった。 だが、何よりもハルウララの身体から溢れる誰も寄せつけまいとする拒絶のオーラが、フジキセキを近寄らせるのはおろか話しかけさえすることも躊躇させていた。

    5 21/06/01(火)22:47:47 No.808865973

    結局、一言も交わすことなく寮の中に入り、階段を昇っていくまでフジキセキはその場を動くことは出来なかった。 「あんな明るい子が…一体どうしたっていうんだ…?」 自室に戻り、暗闇のまま部屋に入る。今はいっその事電気をつけない方が、ハルウララには都合がよかった。 「……う、うわあああぁああああ!!!!!!!!!」 自分の中にやっと押さえ込んでいた感情が爆ぜて飛び散る。近くにあった花瓶を掴んで思い切り床に投げつけた。 ガシャアンと音を立てて粉々になる花瓶を思い切り踏みつける。 「わ、ああああ!!!あああああぁ!!!なんで!!!!なんでなんだ!!!!どうして!!!!」 何度も何度も踏みつけ、足に破片が食い込み出血が止まらくなる。 すかさず机の上にある写真立てや小物入れ、教科書や予備の蹄鉄を腕で薙ぎ払い、派手な音を立てながら床に撒き散らす。

    6 21/06/01(火)22:49:32 No.808866625

    「どうして!!!!どうにもならないじゃないか!!!!!!!!ななじゅっ、75年も!!!!75年なんて、死ぬまでこのまんまってことじゃないかあああああ!!!!!!!! 」 涙が止まらない。嗚咽が混じり、段々と叫び声も意味の通らない獣の慟哭と化していく。 「あああああ!!!!あああああぁ!!!!わだっ、ぢは!!!!うあああああああ!!!!ぐぎっ!!!うぐあああぁぁぁぁ!!!!!!!!」 歯を食いしばりすぎて、口の端に血の混じった泡が吹き上がる。唸るような咆哮は、瞬く間に寮中を包み込んだ。 「一体どうしたんだ!」 フジキセキが部屋まで走ってくると、凄惨な光景を見て一気に顔が青ざめた。 「なっ…何をやってるんだ!バカな真似はよすんだ!!」 すぐさまハルウララを羽交い締めにし、止めようとする。しかし。 (な、なんなんだこの力…!これが中等部の子のパワーなのか!?) フジキセキの必死な押さえ込みも虚しく、無理やり振りほどかれる。

    7 21/06/01(火)22:49:49 No.808866733

    「ううっ、は、はなぜっ!!!ううううううううう!!!!」 そのままフジキセキは突き飛ばされ、思い切り壁に身体を打ちつけた。バンっと鈍い音が部屋に響き渡る 「~~~ッ!!…これは…結構キクね…!!」 すぐに背中と肩を触り、身体中を触診する。 「なんとか骨は折れてなさそうだけど…これは困った…!私じゃ抑えきれない…!」 この騒ぎに他の部屋の子も続々と集まってくる。その中の一人、スペシャルウィークは部屋を覗き、短い悲鳴をあげた。 「ふ、フジキセキさん!大丈夫ですか!?」 「あー、まぁ…ギリギリ、かな?」 ギリギリどころではない。骨は折れてないが全身強打している。痛みで立ち上がれないどころか、這って動くのも正直厳しかった。 「とりあえず、皆…ここから離れるんだ!いつそっちまで被害が及ぶか…!」 言うが早いか、扉に向かってドレッサーの椅子が飛んで行った。

    8 21/06/01(火)22:50:05 No.808866814

    「ひゃあっ!!」 急いでドアを閉めるスペシャルウィーク、しかし無常にも椅子は扉を突き破り外に飛び出した。 「早く!!逃げるんだ!!!」 フジキセキが叫ぶと同時に、野次馬達は一斉に叫びながら逃げ出した。 (くそっ…こんな事ならスマートフォンを部屋に置いてくるんじゃなかったよ…!) フジキセキが過去の自分を呪いながら、目の前のハルウララに必死で声をかける。 「おい!何があったんだ!?君はこんなことする子じゃないだろう!私が話を聞く!なんでもいいから話してくれないか!?」 「うっ、うるっさあああぁぁああああい!!!!!!!!!!!!」 ベッドのマットレスを引きちぎり、そのままベッドを担ぎあげる。 「おいおい…まさか…」 ふーっ、ふーっと息を荒らげながらフジキセキに近づいてくる。─頭上にベッドを持ち上げながら。 「わだぢにはっ!もっ、もうどうすればいいぎぐっ、わかんやいんだぁっ!!!!!」 「や、やめろ!!」 そのまま振り上げたベッドを、フジキセキの頭上に振り下ろした。

    9 21/06/01(火)22:50:43 No.808867025

    「ウララさんっ!!!!」 ブンッ、と空を切るベッドがフジキセキの頭上3cmで止まった。 「…その…声は…」 そっと声のした方を向く。そこには今帰ってきたのであろうキングヘイローがいた。 「あ…あなた、それ、なにやってるの…っ!?」 震えながら呼びかけるキングヘイローに対し、ハルウララはなおも息を荒く泣き叫んだ。 「もうっ、わだぢなんでっ!!!いぎでるいみなんでないんだよっ!!!!まうどうすればいいのがわがんないよっ!!!!!」

    10 21/06/01(火)22:53:10 No.808867954

    その瞬間、パンッと乾いた音がした。 その音は、キングヘイローがハルウララの頬を叩いた音だった。 「あなたねっ!いい加減なさいよ!こんなに部屋を荒らして、暴れて!その上フジキセキ先輩まで巻き込んで!!自分が何してるか分かってるの!?」 「う、ぐっ、でも!!」 「でももヘチマもないわよっ!あなた、こんなことする人じゃないでしょ!?何があったの!?このキングに話してみなさいよっ!!!」 「…っ!う、あっ…うわああああぁぁぁっ…!!!」 ハルウララは担ぎ上げていたベッドを手放し、キングヘイローの胸の中に飛び込んだ。 ズシン、とベッドが床に音を立てて転がる。 「ううっ、うっ、うあああっ…!!」 震える身体を押さえ込みながら、キングヘイローはハルウララを抱きしめた。 「もう…!ウララさんってば…!」 「あー、キングさん…?良ければ先生達に電話してくれないかな?」 命からがら、危機を脱出したフジキセキが手を振りながら言った。

    11 21/06/01(火)22:54:12 No.808868349

    次回に続きます。 会長は実は追い込まれるとメンタル激弱のイメージでした。

    12 21/06/01(火)22:56:57 No.808869334

    おつらい…

    13 21/06/01(火)22:57:23 No.808869509

    普段頼れる人もいなけりゃそうもなる

    14 21/06/01(火)22:57:28 No.808869534

    取り乱した会長とはなかなか貴ー重ーですな

    15 21/06/01(火)23:02:32 No.808871347

    かわいそうな会長がかわいい

    16 21/06/01(火)23:03:17 No.808871642

    みんなに相談したらあっさり解決しそう

    17 21/06/01(火)23:05:25 No.808872513

    しょんぼりルドルフどころじゃないな

    18 21/06/01(火)23:07:02 No.808873111

    足の裏は敏感だから花瓶踏んだら痛いよ

    19 21/06/01(火)23:07:09 No.808873154

    暴れすぎでどうするかなこれ…

    20 21/06/01(火)23:15:21 No.808876252

    可哀想は可愛い