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21/05/29(土)20:56:41 前回ま... のスレッド詳細

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21/05/29(土)20:56:41 No.807762436

前回までです su4887275.txt

1 21/05/29(土)20:57:02 No.807762581

結果はあまりにもはっきりとその力量差を示した。 ハルウララ─シンボリルドルフと、並走したウマ娘の最終的な差は12バ身以上にも及んだ。 「はぁ…っ、はぁ…!!」 遅れてゴールしたウマ娘は息を切らし、地面にへたり込む。その身体はわずかに震えていた。 「なんなの…!?あんな走り、見たことない…。私、わたし…。」

2 21/05/29(土)20:57:19 No.807762701

軽く歩きながら、ハルウララが息を整える。すでに拍動は落ちつき、平時のそれにほとんど戻っていた。 (やはりダートは走りづらいな…。それに知識だけあることと実践できることには天と地ほどの差がある。まだ改良の余地があるな。) 自身の走りを反省していると、一緒に並走したウマ娘が地面に座り込んでいるのが見えた。すかさず近寄り、手を差し伸べる。 「一緒に走ってくれてありがとう、私自身も新しい発見があったよ…」 「…っ!やあぁ!!」 ばちん、と乾いた音が響いた。それは、ハルウララの差し伸べた手を振り払った音だった。 「え…?」 「あ…ぇ…その…。」 そのウマ娘がハルウララを見る目は、つい先日キングヘイローが同じように自身に向けたものそのものだった。 異形。異物。理解不能と拒絶反応がないまぜになった目。

3 21/05/29(土)20:57:37 No.807762820

「…ごめん、ウララちゃん。わたし、一人で走るね…。」 そういうと、向こうへ駆けて行ってしまった。 「ちょっ、待ってくれ!私は─」 そこまで言うと、後ろから腕を掴まれた。驚き、咄嗟に振り返ると、授業を担当する教員トレーナーだった。 「君!さっきの走り、あれは誰に習った!?」 「えっ、いや、その…。えっと、生徒会長の、真似、です…。」 つい口を出た嘘。絞り出すような声で言う。 「そうか…いや、君は大した才能がある!確かにあれは、わが学園の生徒会長シンボリルドルフの走りそのものだったぞ! いや、正しく言えばダート向けにもっと踏み込みを深くしたものだったが…」 興奮したような口調で私に詰める。目が血走っていた。まさに才能の原石を見つけた、そんな考えを隠すことなく。

4 21/05/29(土)20:57:49 No.807762908

「君、トゥインクルシリーズに興味はないか!?いや、出てくれないと困る!君のような才能が今我々には必要なんだ!」 胃の底がむかつく。動悸が激しくなり、呼吸が浅くなる。 「君ほどの才能なら、うちのベテラントレーナーによってより一層輝ける!それだけじゃない、将来も確約されたようなものだ!」 食堂が蠕動する。何かが込みあがってくる。だめだ、やめてくれ。 「まさに君は─砂上の皇帝に…!!」 やめろ!!!

5 21/05/29(土)20:58:01 No.807762998

気付けば、トレーナーを突き飛ばし、その場から駆け出していた。そのまま体育館の裏に周り、外のトイレに入る。 「うっ…げぇぇ!!おぐっ…ぶうぇっ…!!」 吐き気が止まらない。トイレに吐瀉する。口の中が胃酸の味で満たされ、またそれが引き金となり胃の中のものを吐き出す。 「うぇっ…っぐうっ、うっ…げぇぇ…おえぇ…」 ただひたすらに吐き出し、昼飯を全て体外へ拒絶してしまった。 「はぁ…はぁ…あの、目…そうだ、私は、本来ここにいてはいけない…」 異物。ハルウララの皮を被り、ハルウララの真似事をする存在。 それがどうだ。一瞬でも自分の走りをすれば、その正体を看破され、恐怖され、拒絶される。

6 21/05/29(土)20:58:12 No.807763083

何が砂上の皇帝だ。やっていることはまだ未熟なウマ娘達を蹂躙し、絶望の底へ落としているだけだ。 しかも、それをハルウララの姿で、ハルウララの声で、やっている。卑劣、下劣。最低最悪。 勝負の世界なればこそ、一度の敗北で心が折れるようでは生きていけないだろう。 そんな言い訳を偽りの身体で口にすることを、シンボリルドルフの精神は許さなかった。 結局は吐き気が収まるまでトイレから一歩も出ることは叶わず、放課後までその場を動くことができなかった。 ようやく収まった嘔吐反射に辟易し、トイレから一歩、また一歩と歩を進める。ジャージは自身の吐瀉物で汚れ、酷い臭いを漂わせていた。 「…なにが、皇帝だ。私は…ただの、誰でもない、異物だ。」 どさり、と地面に座り込む。力が入らない。 そういえば今日は何か約束があったような気がする。でもどうでもいい。もううんざりだ。 どうせ元に戻る方法など存在しない。ならばこの身体で生涯を過ごすわけだ。自分は存在するだけで周りを歪ませる存在なのに? もしこれが夢なら悪夢にも程がある。さっさと覚めてくれ。

7 21/05/29(土)20:58:25 No.807763180

ピンコン、とスマートフォンから通知が鳴る。 何だ。私に何の用だ?いいや、めんどくさい。無視してしまえ。 ピンコン、ピンコン ピンコンピンコンピンコンピンコンピンコンピンコンピンコンピンコン 「っうるさいなぁ!!もう!!」 反射的にスマートフォンを地面に叩きつけようする。 しかし、そこまでだった。最後の腕の一振りがどうしてもできない。 自分を求めている声のような、そんな通知音を無視することが、今のシンボリルドルフには出来なかった。

8 21/05/29(土)20:58:49 No.807763349

メッセージアプリを開く。通知の原因は、もう一人の自分だった。 『きょうはトレーナーにおやすみだっていわれちゃった!おへやからもでるなって!ひまだなぁーっておもったから、にんじんのえをかいてみたよ!』 『これはおおきなにんじん!すっごくおおきくて、2メートルくらいあるんだよ!』 『ねぇみてってば~!』 それからは、スタンプアイコンの連打。かわいらしい猫が『かまって』という文字を抱えているスタンプだった。 「…まったく…こっちは今学校が終わったところなんだぞ…自分勝手だなぁ…」 気付けば、瞳から大粒の涙があふれていた。 「そうだ、諦めてはいけない。私が諦めることは、そのままウララも二度と元に戻れないことを意味する。」 「私には、ハルウララの為に全てを取り戻す責任がある。」 「立て、シンボリルドルフ!お前は今、たった一人のウマ娘を幸せにする責務があるのだ!」

9 21/05/29(土)20:59:02 No.807763456

そうだ。諦めてたまるか。 ハルウララの為に。そして私の為に。そのためだったら何でもやってやる。 ハルウララは、シンボリルドルフへメッセージを返す。 『あぁ、とても上手いな。そのにんじんの絵には、描いた苦労がにじんでるぞ!』 さぁ、まずはどうやって部屋からシンボリルドルフを脱出させるか?考えながら、ハルウララはそのまま寮に向かっていった。

10 21/05/29(土)21:00:07 No.807763928

次回に続きます。 最初の想定以上に進行具合がスローペースになってしまっていますが、ご容赦ください。

11 21/05/29(土)21:12:10 No.807770602

毎回楽しみにしてるよ

12 21/05/29(土)21:14:01 No.807771639

どういう結末になるか楽しみに読んでるよ

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