虹裏img歴史資料館

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21/05/29(土)12:21:48 (この靴... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1622258508515.jpg 21/05/29(土)12:21:48 No.807601447

(この靴を履くのも久しぶりだな……) トゥインクル時代に使っていた愛用のシューズの紐をしっかり締め、足首や肩をほぐしていく。もう二度と使わないと思っていたそのシューズは嫌になる程足に馴染んでいた。 ふと隣を見ると対戦相手のウマ娘が柔軟をしていた。 足には自分も使っているあのシューズ。よく似た体質の彼女にはうってつけの装備だ。 対戦相手、ミスターシービーは昔戦ってみたいと思っていたウマ娘の一人だ。 ______まさか、こんな形で実現するなんて。 何故、私ディープインパクトがミスターシービーと走る事になったのか。 それは今から30分程前に遡る。

1 21/05/29(土)12:23:10 No.807601839

一人のウマ娘がグラウンドを見ている。 かつて英雄と呼ばれていた彼女の周りには誰もおらず、まるで結界でも張られているかの様に周囲から遠ざけられていた。 皇帝に次ぐ七冠ウマ娘、本来ならば称賛され多くの取り巻きが出来ていても不思議ではない存在だが、ある事件のせいで彼女は避けられる様になっていた。 日本での功績を認められ凱旋門賞に挑戦する事を認められた彼女を日本中が応援していた。ワイドショーや新聞でも取り上げられて既に勝利が決まったかの様に言う者もいた。 しかし、直前に体調を崩した際に飲んだ風薬が抜けきっておらず、それによって凱旋門は出走取消。 世間ではドーピングをしたと流れてしまい。多くのバッシング記事が書かれた。 それに伴い応援してくれていた人々は手のひらを返し「薬で勝とうとする卑怯者」「周りが弱かっただけ」「七冠取ったのも薬を使ったから」と言われる様になってしまった。

2 21/05/29(土)12:24:08 No.807602146

その後、理事長や会長が騒ぎを収める為に人力してくれたお陰で、少なくとも学園内で色々言われる事は無くなった。 ただ、私も周りもどう接して良いのか分からず今の様に距離を取られてしまっている。 少し前までよく話し掛けてくれた会長やウララちゃんは近ごろは多忙な為か会う機会が減っている。 ウララちゃんはよく分からないが会長が多忙な理由は生徒会の仕事は勿論、ドーリムトロフィーリーグへ挑戦する為に色々と調整する為らしい。 トゥインクルで様々な功績を残したウマ娘達が挑戦権を得られるリーグだ。 私も、挑戦するか問われたが、直ぐに首を立てに振る事は出来なかった。 勿論挑戦したい。しかし、どうしてもトゥインクル時代の経験を頭がをよぎってしまい、走る気力を失ってしまう。

3 21/05/29(土)12:27:15 No.807603072

「羨ましいって顔してるな」 ふと、隣から聞こえてきた声に振り向くといつの間にか一人のウマ娘がベンチに座っていた。 (ミスターシービー……) 私と同じ三冠を取ったウマ娘。 今まで資料やビデオでしか見たことが無かった存在が突然あらわれた事に私は少し混乱していた。 「は、はじめまして。私は……」 「あー大丈夫。どうせお互い名前とかは知ってるだろうし」 まあトレセン学園でシービー先輩の名前を知らないウマ娘やトレーナーはまず居ないが。 「鬼の末脚」ミスターシービーは体質的に私と似てる部分も多かった事から特に注目していた先輩であり、前に一度、先輩の走り方を真似してみた事もある。 ざっくり言えばファンだ。

4 21/05/29(土)12:29:11 No.807603652

「もっと走りたい。けれど面倒な感情が邪魔して踏み出せないと言った所か」 「……違います。私は」 「違うなら何でさっきも自主連なんてしてたんだ?」 「…………!」 走る気力が湧かない。けれどいつ走れても良い様に日々のトレーニングは怠らず。今も休憩の為にベンチで休んでいた私に先輩が問い掛ける。 しかし何も返せなかった。 図星だから、どう返して良いのか分からなかった。 レースに嫌気が差しているのに、いまだにしがみつこうとしている。 私は何がしたいのか。 「…………よし、立て後輩」 「え?」 「今からアタシと走るぞ」 「えええええええっ!?」

5 21/05/29(土)12:33:20 No.807604876

結局、また走る事になってしまった。 内心ワクワクしている自分が嫌になる。 「せっかく脚が良くなったからちょっと使ってみたくなってな。ルナはなかなか捕まらないし暇そうなのが居て良かったよ」 隣に立っている先輩が言う。 先輩の足は私と同様に生まれつき問題を抱えていた。 私の場合は改善出来る技術があったから良かったものの、先輩は殆ど治療しないまま走っていた聞いている。 特に会長と戦った時の状態はとても酷く、常に激痛に耐えながら走っていたらしい。 けれど、今の彼女は違う。 足を改善したシービー先輩に死角は無い。 間違いなく会長と走った時。いや、あの菊花賞よりもずっと強くなっている筈だ。

6 21/05/29(土)12:35:57 No.807605614

周りを見ると多くのギャラリーが集まっていた。中には私が倒して来たウマ娘達もいる。 三冠同士の一騎討ちに興味を持つ者は多いだろう。 「んじゃ、行くか」 先輩の声を聞いて私も体勢を整える。 少々不本意ではあるがレースはレース。やるからには全力を尽くそう。 距離は2000m。天気は晴天、芝の状態は良好。走るのにはうってつけだ。 「では二人とも準備は良いですね?」 たずなさんの声で辺りに緊張が走る。 「______いちについて」 腰を落とし、地面をしっかり踏みしめる。 「______よーい」 深く息を吐き、不必要な力を抜いていく。 いつでも大丈夫だ。 「スタート!!」 地面を強く蹴り、コースへと駆け出した。

7 21/05/29(土)12:38:19 No.807606286

向かい風を浴びながら芝の上を駆け抜けていく。 まだ力は抑える。先輩も温存している様だ。 ______楽しい、楽しい、楽しい。 ずっと避けていたが、やっぱり私は走るのが好きだ。この流れる景色を見るのが大好きだ。 けれど、また前と同じように______ 最終コーナー、そして直線。 いよいよ温存していた力を出す時だ。脚に力を込め、一気に加速する。 隣で轟音が鳴り響く。 先輩も、ラストスパートに入ったらしい。 どんどん速度を上げていく。 ______速い!少しでも気を抜いたら一気に離される! 先程まで浮かんでいた考えは消え失せた。 全身全霊を込めて前へ前へと進む。 けれど、隣に居た先輩が少しずつ前へ抜け出して行く。

8 21/05/29(土)12:39:23 No.807606615

私と先輩は足の他にも似た特徴がある。 それは、身体が非常に柔らかいと言う事だ。 私は飛ぶように、そして先輩は跳ねる様に駆け抜けて行く。 全身をバネの様に使って、大地を弾んで行く。速いが、その分脚に負担が掛かる走り方だ。 けれど、今の先輩にその心配は無い。全力でコースを駆け抜ける。 私も追いすがるが、後一歩足りない。 後少し、けれど抜かせない。 ______そしてそのまま、私はついに先輩を差しきる事が出来ず、1バ身差で敗北した。

9 21/05/29(土)12:40:48 No.807607000

走り終わった私は呼吸を整える。 久しぶりに全力疾走したから少し手間取っていた。 ______負けた。彼女以来の敗北だ。 「お前がドーリムに挑戦しない理由ってさ、また勝ってしまうからって思ってたからだろ?」 先輩の言葉の通りだ。 私は傲慢にも挑戦する前から勝った気になってやる気を失っていた。そしてその結果がコレだ。 「ドーリムトロフィーリーグは中央でもトップクラスのウマ娘達が集う大会だ。皆、トゥインクル時代よりもレベルは上がっている。少なくとも、こんな所で燻ってる奴に送れを取るウマ娘は居ないぞ」 「…………」 「で?今の気持ちは?」 私の気持ち、そんなのは決まっている。 「…………悔しいです」 久しぶりに走れた事より、負けてしまった事への悔しさが頭を支配していた。 頭をかきむしりたい。どこかに当たり散らしたい。 悔しくて、悔しくて、おかしくなりそうだった。

10 21/05/29(土)12:42:47 No.807607555

「やっぱりな、楽しめた様で良かったよ」 「え?」 「だってお前、凄く楽しそうな顔してるぞ」 「!?」 思わず自分の顔を触る。 どちらかと言うと表情の変化に乏しい私だが、そんな変わっているのだろうか。 「参加すれば、お前はもっと楽しむ事が出来る。歴代の先輩達やお前が戦いたかったあのウマ娘ともまた走る事が出来る」 あのウマ娘……まさか…… 「喉の調子が良くなったらしくてな、大会に参加する為に今もトレーニングに励んでるぞ」 また走れる。 今度こそ、彼女と______ハーツクライさんと決着を付ける事が出来る。 胸の鼓動がどんどん加速する。全身が燃える様に熱くなっていく。

11 21/05/29(土)12:44:06 No.807607928

「その感じだと、答えは決まってるみたいだな」 「…………!」 「ようこそ、ディープインパクト。ドリームトロフィーリーグへ」 そう言って先輩が手を差し出す。 瞬間、風が吹いた。後ろから、まるで私の背中を押すように。 「……はい!」 そして私は、先輩の手を強く、強く握り返した。 「痛たたたただだだだだだだだだだ」 シービー先輩の握力めっちゃ強かった。

12 21/05/29(土)12:45:50 No.807608378

ドリームトロフィーリーグ、それは文字通り夢の舞台。 「あのウマ娘と走りたい」と言う夢を。 「あのウマ娘に勝ちたい」と言う夢を。 「もっと速く駆け抜けたい」と言う夢を。 「自分の限界の先を見たい」と言う夢を。 様々な夢を持ったウマ娘達が挑戦していく。 そしてここにも、新たな夢を持ったウマ娘が一人。 その名はディープインパクト。 彼女の夢への挑戦は、ここから始まる。

13 21/05/29(土)12:47:10 No.807608730

また存在しないライバルの夢見てる…

14 <a href="mailto:s">21/05/29(土)12:49:11</a> [s] No.807609278

以上プイプイ&シービー先輩でした 最近は曇らせが流行っている様ですがたまにはこう言うのも良いかなと思って書いてみました 後悔はしてません

15 21/05/29(土)12:50:19 No.807609592

数少ないシービー供給ありがとうございます

16 21/05/29(土)13:01:32 No.807612897

来たらどんなキャラになるんだろシービー

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